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葱と牛蒡とツインテール52


場所は変わって、妻女山山頂では、伊達軍と武田軍が鉢合わせていた。
政宗は装いが僅かに変わっていて、先頭にたつライバル、真田幸村の姿に目を細める。
「Long time no see…血相変えてどこへ行きやがる、真田幸村」
「久しゅうござる。某今より、徳川家康殿のもとへ参るところ」
政宗は幸村の答えににっ、と笑った。
「Fum、義憤に駆られるとはアンタらしいな。相当手強くなってるってウワサだ、せいぜい気を付けろよ」
「…!いや、そうではなくー」
「俺はこれから石田三成を蹴散らしに行く」
政宗は幸村の言葉を遮るように言葉を続ける。幸村は慌てたように政宗を見やる。
「取って返すつもりだったが、そういうことなら家康はアンタに任せるぜ」
「政宗殿、」
「アンタ、虎のオッサンの跡を継いだんだってな?」
慌てていた幸村だったが、政宗の言葉にはっとした様子を見せ、いずまいをただした。
「…いかにも」
「上出来だ。お互い用事が済んだら、祝いがてら決着のPartyといこうぜ?」
幸村は政宗の言葉に曖昧に笑いながら、わずかに俯いた。
「…貴殿との決着は望むところ。なれど此度某は、家康殿を討ちに参るのではござらぬ」
「um?」
「確かめに参るのでござる。石田軍を模倣するかの如く他国を蹂躙し、武将たちを半ば脅して関ヶ原の地へ集わせようとしておるのがら家康殿ではないこを」
「…関ヶ原だと…?」
聞き覚えのない話に政宗は僅かに眉間を寄せる。そして、幸村の言葉に、ふっ、とあるものを思い出した。
ずっと気にかかっていた、透き通った三成の、目。
「…俺も、石田と会って確かめたいことがある」
「?」
幸村が僅かに不思議そうに政宗を見る。幸村は三成を知らないのだから、無理はあるまい。
「……、どっちにしろ殺り合うことに変わりはねぇがな…」
政宗は僅かに目を伏せそう言うと、軽く馬の腹を蹴って前に進ませた。小十郎はその後に続く。 幸村も、少し間をおいて同じように馬を進めた。

二人がすれ違う。
「また会おうぜ。真田幸村」
お互いに何も言わず、馬の足を進める。
通りすぎて少しして、政宗が馬を止めた。不思議そうな伊達軍をよそに、一人小十郎はどことなく察した表情を浮かべていた。
「そういやぁ…ここは俺とアンタが初めて戦り合った場所だよな」
「……そうでござるな…」
「どうだい、今決着を付けるってのは?」
政宗は振り返りながらそう言った。幸村は驚いたように政宗を振り返る。
「何を申される…」
途中で、はっとしたように言葉を止める。政宗の表情は、幸村を前にしている割には固い。
「政宗様!」
分かっていたように、だがそれでも小十郎が政宗を呼ぶ。政宗は困ったように笑った。
「こんな所で会っちまわなけりゃあ、我慢も出来たんだがな…」
ぼやくように言いながら、馬の足を進める。
「アイツとの勝負には、CoolもHotもねぇ…」
「…」
幸村は首だけ振り向いたまま、まだ、背を向けていた。政宗の馬の足が僅かに速くなる。
「どちらかが勝ち、どちらかが死ぬ。憎悪に塗れたデスマッチだ。Had no choice.だから今、アンタとやりあっえおきてぇんだ、真田幸村ッ!」
「……政宗殿…?!」
幸村はその時、政宗の心境を察し、僅かに目を見開いた。

葱と牛蒡とツインテール51

「流されるままに生きる。それを悪いなんて言えないし、私だって流されて生きていた所はあった。でもだからこそ…文句言っちゃだめなんですよ」
ーお前が前にいた世界を生きられなかったのは、生き方が曖昧だったからだ
ー別に目的がねぇことは恥じゃねぇ。だが、強く生きてぇ、そう思うなら、それなりの対価ってもんが必要なもんだ
小十郎に言われた言葉が思い出される。
「流されて生きると逃げたのも自分。…もし現状に不満があるなら、自分が動かなきゃダメなんですよ。誰かのせいに、戦のせいにするのは、ただの逃げですから」
「……なるほどねぇ、道理で手厳しい訳だ。だけど、皆が皆、そう思える訳じゃないだろ?」
「そうは言っても、自分が理解しようとしないのに、相手に理解を求めるのは最低なことだと思います」
「…………」
慶次はふ、と僅かに目を細める。しきは視線を城の外へと向けた。
「確かに、武将の中には民のことを顧みない人はいたかもしれない。だけど、民が大将を理解しようとしたかと言えば、したといえる民はもっといないと思いませんか」
「……、けど」
「人が人と分かりあおうとしないしない限り、戦を減らすことは出来ませんよ。それは、武将同士の話ですむ問題じゃない」
「……民は無力だ、とは思わないのかい」
「強くなろうとしない、それもまた逃げです。なろうと思えばなれるはずです。武将も民も、元は同じ人間じゃないですか」
「…!」
慶次は僅かに驚いたようにしきを見た後、にっ、と笑った。どこかそれは、楽しげな笑みにもみえた。
「なるほどねぇ!なんだ、存外あんた面白い人だ」
「はっ?!」
「いやぁーついつい長話しちまったね!早いとこ独眼竜追うとしようか!」
「、あ、そうだった!!」
慶次の言葉に四人ははっと我に帰り、慌てて馬の用意を始めた。
慶次はしきを振り返る。
「あんたの言いたいこと、何となく分かったよ。きっとあんた、どこかでは諦めてるんだろう?現状に抗うことに」
「……………」
「多分あんた半兵衛みたいにちょっと頭いいんだろうなぁ。だから、俺みたいに馬鹿に突っ走れないし、俺にいらっとするんだろ?」
「…そう、かもしれませんね」
しきは慶次の言葉にふい、と目をそらす。慶次はへへっ、と笑った。
「俺は馬鹿でいいよ。打算的になるくらいだったら。ただ、ひとつ約束するよ、竜の右目に、変なことは言わないよ」
「!」
「まぁ、あの人が俺の言葉で揺るぐとも思えないんだけどね。…この戦が終わったら、またあんたと話したいな。構わないかい?」
しきは少しばかり驚いていた。さっきまであんなに険悪なムードで怒鳴りあっていたというのに、もう慶次は落ち着いている。
しきはちっ、と舌を打った。暑くなった自分が馬鹿に思えた。
「…あなたのそういうところ、苦手です」
「えぇっ?!」
「もしもの話はしたくないです、話したかったら勝手にしてください」
「!…へへっ、じゃあそうするよ。またな、奥さん!」
慶次は馬にまたがりそう言うと、先に駆け出していた四人を追って姿を消した。
しきはぎゅ、と拳を握りしめる。
「………苦労人のくせして、それを苦と思ってない。…あぁ、私にはそんな生き方できないわ」
腹立つ。
しきは、だがそう言いながらも口元には笑みを浮かべ、城内へと足を戻した。

葱と牛蒡とツインテール50

「なぁ。なんであんたが秀吉との事まで知ってんだい」
「け、慶次さん!奥方様も!」
「…そんな事はどうでもいいわ。あなたはいい人だよ、だけど、あなたは沢山の命の上に立つ人間の心を理解できてない」
「分かりたくないねぇ、手前の目的のために戦を起こす奴の気持ちなんか!」
「馬鹿を言うな!!」
不意にしきが出した大声に、慶次は一瞬怯んだように顔を引いた。しきの体はぷるぷると震えている。
ー後悔なんかしちゃいねぇさ
そう言った時の、小十郎の表情が過る。その時の、揺るぎない瞳を。
「相手のことを分かろうともしない人間に!何を変えられるってんです!!」
「!」
「何も知らないで、綺麗なことばかり口にして!あなたの言ってることは綺麗事だけど確かに正しいわ!だから政宗様も耳を傾ける…だけど!尚のこと私はあなたが憎いわ!」
「お、奥方様!」
四人は慌てたようにしきと慶次をみやっている。
しきは止まらない。しきは確かに慶次が嫌いではなかった。どちらかというと好きな方だった。
だが、実際に、ゲームでは分からない世界を見てしまうと、簡単な気持ちで、彼のように自分の意見を言うことなどできなかった。

そう言えるほど、しきは、自分を強く持つことなど、出来ていなかった。

「小十郎さまや政宗様や、秀吉や半兵衛がどれだけの覚悟を背負っているのか、背負っていたのか、少しは考えてから物言いなさいよ!!」
「ならあんた、自分の力のために自分が好いてた人間を殺すのは正しいって言うのかよ!」
「絶対的な正義なんて存在しないわ!誰もが秀吉を悪とみなしても、三成にとっては秀吉を討った政宗様が悪であるように!…そして、秀吉にとってそれは必要な犠牲だったのよ」
「必要だったら殺してもいいのかよ?!」
「いいか悪いか、どうしてあなたに決められるの?!そもそもあなたはねねが好きだったからそこまで怒ってるだけでしょ!」
「ッ!そんなことは、」
慶次の顔がわずかに歪む。
触れていいことじゃない。そうは分かっていた。それこそしきは、よく知らないのだから。
それでも、止まれなかった。自制できなかった。
「そうじゃないと言うなら、あなたにとっては政宗様も元親も家康も前田夫婦も全員悪よ!みんな目的のために戦で人を殺してる!泰平のために必要だから!!」
「!!」
「何かを悪とみなすのはそういうことでしょ!?皆殺したなりの枷は背負ってるのよ、あなたに見えていないだけで!」
「ならあんたには見えんのかい!」
「私にも見えないわ…でも背負っていること程度なら分かる!…私は小十郎さまが好きですから」
「……ッ、あぁもう、困ったねぇ」
慶次はふるふると頭をふると、額に手をあて空をあおいだ。しきはぐ、と唇を噛む。
四人ははらはらと二人を見ている。
「…俺はさ。誰にも後悔してほしくないんだよ」
「……今のところ誰も後悔してないと思いますけど?」
「なぁ。あんたは平気なのかい?竜の右目が死んでも、戦を恨まねぇのか」
慶次の問いに、しきはわずかに目を細めた。今のしきに、絶対に恨まないかと言われたら、断言はできない。
それでも、しきも決めている覚悟があった。
「…殺されたくないなら、何をしてでも戦にいかせなければいいんです。それをしなかった私に、戦を恨む権利なんてないですよ」
「権利って、」
「よく、罪なき民とか、言いますけど…。戦を止めようと行動しなかった、それも十分罪だとは思いませんか」
「………」
慶次は黙ったまま、しきの言葉を待った。

葱と牛蒡とツインテール49




そして、その日。政宗は軍を率いて、西へと出陣していった。

しきは他の守衛の兵や女中達とそれを見送った。きゅ、と拳を握りしめる。
「…私はここで、私がやれることを、しなきゃ」
しきはそう呟くと、仕事をするべく袖を捲って括った。他の女中もしきに続いて仕事に戻り、兵達は自分の配置へと向かった。
しきは小さく拳を握った。シナリオ通りに話が進むことを、心のどこかで願いながら。
 午後のことだ。あとから本隊に合流するという四人が、ばたばたと城に戻ってきた。馬の用意を頼まれていたしきはそちらを振り返る。
と、そこに一人、別な人物が混じっていた。しきは僅かに目を見開く。
「前田慶次…!」
長い髪と刀が目につく、大柄な男。名前を叫ばれた慶次はしきを驚いたように見た。
「へぇー別嬪さんだねぇ!初めて見る顔だと思ったんだけどな!」
「お世辞は結構です、なんで伊達領にニートが」
「??にぃと?」
思わずいつもの調子で言ってしまったしきは、慌てて何でもないです、と手を横に振る。慶次はきょとんとしていた。
「戻る途中で会ったんです、たまたま」
「すいやせん、奥方様に馬の用意なんか…」
「奥方?!!?!じゃあ、独眼竜結婚したのかい?!」
「ご冗談を!年下を旦那にしたいとは思いません」
「へっ?」
「あ、この人は片倉様の…」
「えぇぇっ?!」
慶次は大層驚いたようで、じろじろとしきを遠慮なく見た。しきはむ、とした表情を浮かべる。
じろじろと見られるのは流石に気分がよくない。
「…何か?」
「えっあっいやぁ、あの人に出来るってちょっと意外で…どこの娘さんなんだい?」
「け、慶次さん…」
「遠慮しない人ですね、不躾な」
「う、えと、す、すんません…」
ぎろり、と精一杯睨んでみせれば、慶次は慌てたようにそう謝った。その時しきは、良直が文を持っているのに気がついた。
「…その手紙」
「あぁ、徳川から筆頭に…」
「でも絶対家康じゃない。あいつはこんなことしない」
「勝手に読んだんですか、ほとほと不躾な人ですね。親の顔が見てみたいですよ」
「うっ…さすが竜の右目の奥さんだ、手厳しい…」
しきはおどけたように萎縮する慶次にふん、と鼻を鳴らし、目をほそめた。
「…絆の力…近くにいる友人一人理解できないのに、何を語るんだか…」
「!あんた、」
「家康は嫌いじゃない。でも…自分を愛していない人に人を愛することなんて出来ないんだから、家康の語る絆なんて、いかほどの強さなのかしらね」
「……あんた、家康が自分を愛してないって、言いたいのかい?」
しきが呟いた言葉に、慶次も目を細めてしきを睨むように見る。しきはその目を見返した。
「…彼の言う絆の力で三成の心を癒せていたら、こんな大事にはならなかったはずよ」
「……随分と、今の状況に精通してるんだね」
「お、奥方様…?」
「人はどれだけ綺麗事を口にしてもその程度しか他人を見ていないのよ。あなたが、最後まで豊臣秀吉を理解できなかったみたいに」
「!なんで秀吉のこと、」
「お節介を焼くのはあんたの勝手だけど、政宗様や小十郎さまの邪魔はしないでくださいね」
慶次はしきの言葉にしばし呆然とした後、がし、としきの腕をつかんだ。

葱と牛蒡とツインテール48

翌朝。
珍しくしきは小十郎より早く目覚めた。正確には、小十郎が起きる時間よりも早く目覚めた。
「……あつい」
その理由は、いつの間にか抱き締められていて暑くなったから、であるようだ。
しきは少し戸惑いながらも、腕の中から小十郎の顔を見上げた。すーすー、と小さく寝息をたてて寝ている。
「…小十郎の、寝顔。………可愛い」
しきは思わずかっ、と目を見開いて凝視してしまった。普段先に起きられてしまうから、寝顔を見るのは初めてだった。しきは、ふふ、と笑うと、小十郎を起こさないようにそっと腕を上にあげた。
指先で、頬の傷をなぞる。
「…あ、意外と深い傷だこれ……」
「ん……?」
「あ、」
ふにふに、と傷を触っていたら、くすぐったかったらしい、小十郎が眉間を寄せ、目を開いた。
小十郎は寝たときよりも近くにあるしきの顔に、きょとんとした顔をした。
しきは思わず、ぶっ、と吹き出し顔をそらした。
「ダメだ可愛すぎるこの人……!」
「?…あ、悪いな。息苦しかったか?」
しきの言葉の意味は分からなかったらしい。
小十郎は自分がしきを抱き締めていたことに気が付くと、慌てて腕を解こうとした。
逆にしきは小十郎に抱きつく。小十郎は驚いたように動きを止め、しきを見下ろした。しきは、すり、と小十郎の胸元に頬を寄せる。
「…おはようございます、小十郎さま」
「…、おう、おはよう…」
小十郎は僅かに顔を赤らめ、そう返した。
「…な、なんだ、しき」
「もうじき戦でしょう?だから今のうちに充電してるんです」
「じゅう…?……よく分からねぇが、ようは今のうちに、ってことか」
小十郎は苦笑いのような笑みを浮かべると、しきをきゅ、と抱き締め頭を撫でた。
しきは抱きついたまま小十郎を見上げる。
「…貯めとくだけです。いつかは切れます」
「?」
「…だから、絶対帰ってきてくださいね、小十郎さま」
「………、あぁ」
小十郎はふ、と目をほそめ、抱き締める腕に力を込めた。
 それから少しして、二人は起き上がり、畑に向かった。
「小十郎さまーこれもういいですか?」
「あぁ」
朝の畑の作業をしきも手伝っているのだ。日はまだあまり昇っていない。
いくつか収穫した野菜を、朝餉につかうのだ。
「ごはん作るの手伝ってもいいですか?」
「あ?別に構わねぇが…」
「実は昨日の内に生嶋さんには許可もらってます、えへへ」
「変なやつだな」
小十郎はふ、と笑うと収穫したものをいれたかごを背負った。
 炊事場にはちらほらと他の物の姿もあった。
「…そういえば、ここの料理は煮るか焼くか蒸すかですよね……」
「?他に何かあるか?」
「うーん…炒める、とか、揚げる、とか」
「いためる…あげる?」
小十郎の目が点になる。聞いたことがないのだから、当然だろう。
「炒めるは、油を鍋に薄く引いて野菜とかもろもろ焼くんです。直火焼きじゃないですよ。揚げるは、大量の油に衣をつけてやるんです」
「…色々あんだな。うちには食すのに向いてる油はねぇぞ」
「ふーん…菜種油とかかなぁ…どっかで手に入れられたらつくってみせますよ!」
「ふ、楽しみにしとくぞ」
小十郎はくすり、と笑うと鍋の蓋を取った。
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