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過去のあなたに恋してる?41

装飾がプラスチックで出来たものが多かったせいか当たりどころが悪かったせいか、派手な音をさせてベニヤが倒れた。おまけに他のベニヤと重なって掛けられていた装飾もあったため、隣接しておいてあったベニヤも倒れ、おまけに反対側にあったベニヤもそれに巻き添えを食って倒れ、二人は一見どこに下敷きになったか分からない状態になってしまった。おまけに教室は暗い。政宗があげた叫び声が教室内の他の生徒にも聞こえたらしい、にわかに教室内が騒がしくなった。
「政宗様お怪我はっ……!?」
なんとか政宗を庇うのに間に合い押しつぶさないで済んだ小十郎は、ベニヤの重みに腕がぷるぷると震えるのを耐えながら慌てて政宗の方を見、はっとしたように我に返った。

小十郎は、政宗のことをまともに名前で呼んだことはなかった。どう呼べばいいか分からず、どうしても名前を呼ぶ必要があるときは他人行儀に名字で呼んでいた。

だが、とっさのことにそう呼んでしまった。ランタンの灯りで僅かに見えた政宗は、驚きで目を見開いて小十郎を見ていた。
しまった。
小十郎はそう思い、口元を抑えたくなったが、装飾でそれなりに重いベニヤを片腕で支えるには政宗を押しつぶさないように浮かせている今の姿勢は維持できない。
誤魔化すしかない、そう判断した小十郎は何事もなかったかのように振舞うことに決めた。今ならばまだ間に合う。演技に入り込みすぎていた、そうすればいい。そう思ったのだ。
「くっそ、もうちょい土台ちゃんとさせとけよ裏方…ッ」
「おい小十郎、おまえ、」
「申し訳ありません、少しお待ちを、」
「小十郎!!」
政宗が不意に怒鳴った。びくっ、と肩を跳ねさせ、小十郎はわずかに驚いたようにベニヤに向けていた視線を政宗に戻した。
政宗は小十郎が自分を見たことを確認するとがしりと小十郎の頭を両手で挟むように掴んだ。結果、そのせいで何かあっても顔を逸らせなくなってしまった。
小十郎は内心かなり焦ったが、大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。
「(ただでさえ普段から敬語使ってんだ、今さら様つけて呼んだくらいで、しかも敬語キャラ風な役やってたんだから言い訳はきく、何もそんなに変な話じゃねぇ……!落ち着け!!)」
そう自分に言い聞かせ、落ち着こうとしていた小十郎に対し政宗は小十郎の予想を裏切る行動を起こした。
「………小十郎」
じっと見つめた後、静かにそう名前を呼ぶ。小十郎を見る政宗は、どこか信じ難いものを見るような、どこか懐かしいものを見るような、それでいてどこか嬉しそうな、そんな一言では形容し難い目をしているように見えた。そしてそのまま、小十郎の唇に触れた。
「…?なにを…」

「kiss me」

政宗が言い放ったのは、かつては毎日のように聞かされた言葉。小十郎は思わず目を見開いた。
思わず政宗と目を合わせれば、政宗もじっと小十郎の目を見ていた。僅かにその瞳は揺れている。

至近距離で近くに人目はない。
何故、まさか、そんなことを考える前に、小十郎は請われるままに政宗の唇に自分のそれを重ねていた。

過去のあなたに恋してる?40

その頃、教室の外では。
「……政宗叫ばねぇな」
「政宗殿はあまり声が出ぬ質でござるからな」
「?なんだそれ」
「某はすぐ叫んでしまうのでござるが、政宗殿は恐怖すると声が出ぬのだと、前に聞いたことが」
「へぇ…そんなことあるもんなのか?」
「有り得るのではないでござろうか。あるいは、それほど政宗殿には怖くはないのか…」
「アンタがあれだけ絶叫してたのに??」
「某は元々暗闇は苦手なのでござる」
「じゃあなんで入ったんだよアンタ」


「…びっ………くりした………」
外であれこれ幸村と元親が好き勝手に言っていたが、政宗はそれなりに恐怖していた。基本的に突然現れる系統のものが多く、政宗はそうしたドッキリ系には強くはあったがやはり怖いものは怖かった。
そして入口の女生徒に念を押されるだけあって、驚かし役の生徒があの手この手で石を奪い取ろうとしてくるのもなかなか斬新だった。
「…さっきの野郎石を最後まで持ってくのは嘘だとか言ってたけどどっちだよ……」
政宗はちら、とたった今突破してきた方を見ながら、小さくため息をついた。
今悩んでもどうしようもないので、先に進むことにした。狭い教室を長くするためか、ややこしくなっているルートをランタンの灯りを頼りに進む。
「……こんな暗い場所を、この程度の灯りで進ってのは、どうにも昔を思い出すな…」
政宗はぽつり、と小さく呟いた。小さすぎるそのつぶやきは、誰の耳に入ることもなかった。

それから何人かの生徒に驚かされつつも、出口付近までやってきた。光が僅かに漏れている出口までついて、ふと気がつく。
「そういや小十郎はー」
どこにいた、と言おうとした時、不意にぐいと後ろに引っ張られた。
驚き振り返る前に、ぐ、と喉元に何かを押し付けられた。
「おいででしたか」
「!小十郎?!」
「こういう役なのでご容赦を」
政宗をひっぱったのは小十郎だった。どうやら小十郎が最後の驚かせ役のようだ。
小十郎は後ろから、政宗の耳元に顔を寄せた。
「石は、お持ちになりましたでしょうな、御客人」
「……あぁ、持ってるぜ」
「では、私にお渡しくださいませ」
小十郎はそう言いながら政宗を抑えていた手を離した。小十郎を振り返り、首元に添えられていた方の手を見下ろせば、レトロなデザインの小さなナイフのようなものを持っていた。
政宗は、ふっ、と小さく笑った。
「こいつは怖ぇな。…もし石を持ってなかったらどうなるんだ?」
「それは道中で渡してしまった者によって変わります」
「ヘェ…例えば?」
「そうですねーー」
小十郎が政宗の問に苦笑混じりに答えようとした時。
ぐらり、と教室が揺れた。
「!地震か、」
「おわっ!!」
「!」
さして大きな地震ではなかったが、大道具を設置する際に地震のことまで考慮していなかったのだろう、通路の区切りに置かれていたベニヤ板が装飾もろとも政宗の方へ倒れてきた。
小十郎は咄嗟に政宗をかばおうと飛び出た。

「政宗様ッ!!」
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過去のあなたに恋してる?39

「…一人ずつではないと行けぬようでござるよ?」
「えー!じゃあ俺無理!ぜってー無理!」
「あはは、さっきもそう言って逃げてった男の子いたけど、そんな怖くないよ!」
「…島だな、ぜってー……」
「どうする?入る?」
受付の女子は、楽しげに3人を見ている。元親がばっ、と二人から離れ、柱の影からやだやだと首を横に振るものだから、政宗と幸村は思わず顔を見合わせ、くすりと笑った。
「某と政宗殿は入りまする!」
「オッケ!どちらさんがお先に入る?」
「どうする?」
もぐもぐと口に含んでいたものを飲み込むと、幸村はニッ、と笑って拳を突き出した。
「ここは潔く、ジャンケンで決めましょうぞ!」
「潔いのかそれ…?まぁいい、ジャンケン、」
「ほいっ。…某からですな!政宗殿、菓子を頼みまする」
「はーい、男のコ1名いっくよー!」
「食べんでくだされよ!!」
「食わねぇよ!」
幸村は荷物になる菓子類を政宗に預け、ついでに食べないようにとの念を押しながら、悠々とお化け屋敷に入っていった。政宗は念を押してきた幸村に僅かに呆れたようにため息をつき、その頃には離れていた元親も戻ってきた。
「あーやだやだ……真田ってそんなに怖いの好きな奴だっけ?」
「Ah …お化け屋敷は本物じゃねぇって分かってるから怖くねぇみたいなことは前言ってたな。あいつ怪談話そのものには結構弱いぜ」
「えー分かってても怖ぇだろ……」
「まァこの小ささならそこま「ぎゃあああああああお館さぶぁぁぁぁあえああああ!!」…………」
そこまで大したことはないだろう、と言いかけた政宗の言葉を遮るように、教室の中から幸村の叫び声がした。その声は廊下にガンガンと響き、一般来場していた子供たちの中には泣き出すものもいた。
受付の3年生は腹を抱えて笑っており、政宗と元親も思わず顔を見合わせて肩をすくめた。
「…ダメだありゃ。どんな叫びだよおい」
「でも、つまりめっちゃ怖いってことだろこれ」
「……ha!面白くなってきたぜ」
「政宗、お前やる気いれんのはいいが結構汗やべぇぞ」
「ぎゃあああああああうおおおおおああああああ」
そんな風に話しているうちに、入口と反対側の扉から幸村が全力で飛び出してきた。なぜそこまで息が上がったのか、ふらふらと壁沿いまで歩いていって、壁に手をついて乱れた息を整えていた。
「おいおい真田ァ、Are you ok? 」
「はっ……はぁっ……確かにこれは怖いでござる………っ!」
「こんなちっせぇとこで、何が怖いんだよ」
「役者のくおりてえが凄いでござるよ!!」
「くおりてえってなんだよ落ち着けよアンタ」
はぁはぁと息を荒げながら、何故かぴっと親指を立ててそう言い切った幸村に元親は半分笑いつつもそう言った。
政宗は僅かに嫌そうに教室を振り返った。
「…小十郎も確か役者っつってたな…」
「あぁ、ネタバレになるので詳細は言いはしませぬが、片倉殿が一番やばいでござる」
「げ、まじかよ………」
「ふふ、どうする?そちらさんはやっぱりやめる?」
「……いや、入ります」
政宗は楽しそうにこちらを見る受付に今更引き下がることもできず、幸村に菓子類を返すと教室の中に足を踏み入れた。

 「はい、このランタン持って進んでくださいねー」
「く、くらっ…」
入って直ぐに扉は閉められ、暗幕で窓が塞がれた教室内で唯一の光源は渡された小さなランタンだけだった。これはなかなか雰囲気がある。
ランタンを渡してきた女生徒は魔女の格好に扮していた。彼女はにこりと笑って、小さな石も差し出した。
「その石は出口まで大切に持っていてくださいね。いいですか?出口まで、ですよ?」
「…わ、分かったっす…」
その笑顔が何ともいえない怖さを帯びていて、政宗は曖昧にそう返事をすると足を踏み出した。

過去のあなたに恋してる?38

「同じなのはたまたま?それとも…」
「ははっ、たまたまではない、と言っておこうか。とはいってもどちらかがどちらかに合わせたわけではないよ。たまたま希望する学部が同じだっただけだ」
「……たまたま?」
「あぁ、たまたまだ」
「…ネタにする気かお前……」
「へへっ、ネタは多ければ多いほどいいからね?」
「全く君という男は…」
呆れたような小十郎の言葉にそう返した佐助に、半兵衛はくすくすと楽しそうに笑った。佐助は笑う半兵衛を意外そうに見たが、すぐにへへっ、と佐助も笑った。
「それじゃ、僕は失礼するよ。またね、猿飛くん、片倉くん?」
「じゃねー」
「……おう」
ふ、と僅かに意味深な笑みを浮かべた半兵衛に小十郎は僅かに目を細め、困ったように笑いながら教室に向かう半兵衛を見送った。
「…ったく、羨ましいもんだぜ、くそが……」
「?なんか言った?」
「いいや、何も」
「げっ、そういや俺様今日日直だった。またね、旦那!」
佐助はそう言うと慌てたように職員室に走っていった。小十郎は、半兵衛が入った教室をちらりと見やる。半兵衛はすでに来ていたらしい秀吉と、楽しげに話していた。

僕はまだ、これからも秀吉と共にすすめる。羨ましいだろう?
先ほどの半兵衛の笑みはそう語っていたものだから、小十郎は僅かにむっとした。だが同時に、彼らしからぬ行動を、半兵衛がそうした笑みを自分に向けた理由も、なんとなく分かる気がして小十郎はそこまで苛立ちを感じることはなかった。

「…テメェとは相入れねぇが……テメェの気持ち、分からねぇでもねぇからな」

過去では自分と違い、時間に追われて生きていた半兵衛。友である秀吉のために、自身の思いに蓋をするしかなかったことがあったことを、過去それなりに長生きした小十郎は気がついていた。
半兵衛は過去、豊臣に小十郎を勧誘しようとした事があった。その時はいつものように涼しい顔をしていたものだが、後後になって思えば、彼なりに葛藤があったのではないかと気がついた。
事実がどうかなどは分からない。小十郎の私感でしかない。

「…せいぜい長生きしろよ、竹中半兵衛」
小十郎は小さく口元に笑みを浮かべながらそう呟き、自身の教室へと足を向けた。
「……俺も、政宗様に一歩進めりゃ……いや、俺は竹中とは違う。……あの政宗様に、こんな想いぶつけるわけにはいかねぇ…」
小十郎の呟きは、わいわいと騒がしい廊下の喧騒に消えた。



そして、文化祭の日がやってきた。
小十郎は今までの練習通り、暗闇の中で客が来るのを待つ。
「…こいつが終わったら、いよいよ高校生活も終わりになるってもんだな…」
小十郎はそう思いながらも、暗闇になれた目でぼんやり見えた来場客を驚かすべく、腰をあげた。

「ここか、小十郎のお化け屋敷」
「クオリティたっか!!こっわ!!俺無理!」
「何言ってんだ元親」
それから少しして、政宗が元親、幸村と共に小十郎の教室の前にやって来ていた。クオリティ高く作り上げられたお化け屋敷に元親は震え、幸村は道中に買い漁った菓子をもぐもぐと頬張っていた。

過去のあなたに恋してる?37

翌日、2年の教室では。
「…は?」
「だから、半兵衛が」
「誰だよ半兵衛って」
政宗が慶次に話し掛けられていた。話の内容は、昨日の小十郎と半兵衛の事のようだ、どうやら慶次は目撃していたらしい。
わずかに興奮したように語る慶次に、政宗はぽかんとした顔をそちらに向け、呆れたように返事をした。
慶次はむっとしたように政宗を見る。
「竹中半兵衛!3年の生徒会の!」
「はぁ…それと小十郎が何なんだよ、3年なら別に話してても不思議ではねぇだろ」
「腕引っ張って全力疾走だぜ?!普通じゃないだろ!」
「でも、なにを話してたかは知らねぇんだろ?」
「……まぁ、そうだけど……」
政宗は慶次の反応にはぁ、と小さくため息をついた。呼び止められていたために持ったままになっていた鞄を机に置いた。
「ったく、朝っぱらから付き合ってらんねーぜ」
「で、でもよー…」
「春も変な事言い出すし、お前と関わるとろくな事ねぇな」
「ひっでぇ!」
「ていうか俺に報告してねぇで本人に聞けっての」
「……分かったよ、ごめんな!」
慶次は政宗のつれない言葉に眉間を寄せ、ぷいとそっぽを向いて教室を出ていった。
「…何逆ギレしてんだあいつ」
政宗は怒りを見せた慶次にきょとんとしながら、さして気にせず席についた。隣の席になった元親が、二人のやりとりにケラケラと笑う。
「女子の話ならともかく、右目の兄さんのことで揉めるなんてなぁ」
「ha-ha、揉めちゃいねぇよ。だけど、あいつはやけに小十郎に興味あるみたいだな」
「何それホモ?」
「やめろよそれはねぇって、ははは」
政宗は元親の言葉にからからと笑いながらも、視線は廊下へと向けていた。

気に食わない。
政宗の顔にはそう書いてあった。




「だーんなっ」
「佐助か」
同じ頃、小十郎は佐助に会っていた。同時に、半兵衛にも会っていた。
「やぁ、おはよう」
「…よぅ」
「!生徒会の竹中さんじゃん。休学終わったの?」
「君は確か新聞部の…あぁ、お陰様でね」
「へぇ、よかったじゃん、今度書かせてよー」
「構わないけど…君まだ部活続けてるのかい?」
「まっ、大した活動じゃないしねー」
佐助と半兵衛は一応互いに知ってはいるらしく、そんな会話を交わしていた。小十郎は会話にははいらず、じ、と半兵衛を見た。
顔色の悪くない半兵衛が小十郎には少し新鮮だった。
「へぇ!あこ受けんの?さすがだねぇ」
「そうでもないさ」
「たしかそこ、豊臣秀吉も受けるよね?」
「ふふ、流石に情報が早いね」
気がつけば、二人は受験する大学の話をしていた。
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