2014-4-27 22:29
「…一人ずつではないと行けぬようでござるよ?」
「えー!じゃあ俺無理!ぜってー無理!」
「あはは、さっきもそう言って逃げてった男の子いたけど、そんな怖くないよ!」
「…島だな、ぜってー……」
「どうする?入る?」
受付の女子は、楽しげに3人を見ている。元親がばっ、と二人から離れ、柱の影からやだやだと首を横に振るものだから、政宗と幸村は思わず顔を見合わせ、くすりと笑った。
「某と政宗殿は入りまする!」
「オッケ!どちらさんがお先に入る?」
「どうする?」
もぐもぐと口に含んでいたものを飲み込むと、幸村はニッ、と笑って拳を突き出した。
「ここは潔く、ジャンケンで決めましょうぞ!」
「潔いのかそれ…?まぁいい、ジャンケン、」
「ほいっ。…某からですな!政宗殿、菓子を頼みまする」
「はーい、男のコ1名いっくよー!」
「食べんでくだされよ!!」
「食わねぇよ!」
幸村は荷物になる菓子類を政宗に預け、ついでに食べないようにとの念を押しながら、悠々とお化け屋敷に入っていった。政宗は念を押してきた幸村に僅かに呆れたようにため息をつき、その頃には離れていた元親も戻ってきた。
「あーやだやだ……真田ってそんなに怖いの好きな奴だっけ?」
「Ah …お化け屋敷は本物じゃねぇって分かってるから怖くねぇみたいなことは前言ってたな。あいつ怪談話そのものには結構弱いぜ」
「えー分かってても怖ぇだろ……」
「まァこの小ささならそこま「ぎゃあああああああお館さぶぁぁぁぁあえああああ!!」…………」
そこまで大したことはないだろう、と言いかけた政宗の言葉を遮るように、教室の中から幸村の叫び声がした。その声は廊下にガンガンと響き、一般来場していた子供たちの中には泣き出すものもいた。
受付の3年生は腹を抱えて笑っており、政宗と元親も思わず顔を見合わせて肩をすくめた。
「…ダメだありゃ。どんな叫びだよおい」
「でも、つまりめっちゃ怖いってことだろこれ」
「……ha!面白くなってきたぜ」
「政宗、お前やる気いれんのはいいが結構汗やべぇぞ」
「ぎゃあああああああうおおおおおああああああ」
そんな風に話しているうちに、入口と反対側の扉から幸村が全力で飛び出してきた。なぜそこまで息が上がったのか、ふらふらと壁沿いまで歩いていって、壁に手をついて乱れた息を整えていた。
「おいおい真田ァ、Are you ok? 」
「はっ……はぁっ……確かにこれは怖いでござる………っ!」
「こんなちっせぇとこで、何が怖いんだよ」
「役者のくおりてえが凄いでござるよ!!」
「くおりてえってなんだよ落ち着けよアンタ」
はぁはぁと息を荒げながら、何故かぴっと親指を立ててそう言い切った幸村に元親は半分笑いつつもそう言った。
政宗は僅かに嫌そうに教室を振り返った。
「…小十郎も確か役者っつってたな…」
「あぁ、ネタバレになるので詳細は言いはしませぬが、片倉殿が一番やばいでござる」
「げ、まじかよ………」
「ふふ、どうする?そちらさんはやっぱりやめる?」
「……いや、入ります」
政宗は楽しそうにこちらを見る受付に今更引き下がることもできず、幸村に菓子類を返すと教室の中に足を踏み入れた。
「はい、このランタン持って進んでくださいねー」
「く、くらっ…」
入って直ぐに扉は閉められ、暗幕で窓が塞がれた教室内で唯一の光源は渡された小さなランタンだけだった。これはなかなか雰囲気がある。
ランタンを渡してきた女生徒は魔女の格好に扮していた。彼女はにこりと笑って、小さな石も差し出した。
「その石は出口まで大切に持っていてくださいね。いいですか?出口まで、ですよ?」
「…わ、分かったっす…」
その笑顔が何ともいえない怖さを帯びていて、政宗は曖昧にそう返事をすると足を踏み出した。