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聖なる夜のハプニング66

「何を笑う…!」
「家康がああ言うもの分かるってもんだぜ…!」
長曾我部はそう言いながら石田を弾いた。石田は空中でくるりと回転して勢いを殺し、着地と同時に空いた距離を詰めた。
がんっ、と再び二人がぶつかる。ぎちぎちと刀と碇槍とが嫌な音を立てる。二人の腕も競り合いの勢いにぶるぶると震える。
「アンタ、目が変わってるぜ。いい目になった」
「黙れ!貴様が私を語るな!」
「……だけどな、大谷は許せねぇ!」
「…ッ」
ガィン、と鈍い音をさせて再び二人が離れた。石田はチン、と音をさせて刀を納め、腰の位置に構えたままわずかに移動して大谷と長曾我部の間にたった。
長曾我部は僅かに眉間を寄せる。
「アンタ、裏切りを一番憎んでるんだろ。どうして大谷を許す?」
「簡単な話だ。刑部の罪は私の罪だ、奴を許しているわけでも、まして自分を許しているわけでもない」
「だけどよ、」
「貴様の論理など関係ない!貴様は私を責めればそれでいい!」
「石田!」
石田はダンっ、と勢い良く地面を蹴って一瞬のうちに間を詰めて斬りかかった。一瞬遅れて碇槍でそれを受け、ぎり、と長曾我部は歯を鳴らす。石田はすぐに刀を引くと体当たりするようにさらに斬りかかった。その勢いの良さに、刃同士がぶつかり火花がちる。
「ふざけんな!どうするかは俺が決める!」
「………ッ」
「だからそこをどけ石田!俺が望むもんを聞いただろう?!」
「……ッ!」
「三成!!」
石田が長曾我部の言葉に詰まり、ぎり、と歯を鳴らした時、焦ったような大谷の声がし、二人の間に上から割り込んで数珠を開散させた。
カッ、と浅黒いオーラが三人を包んだと同時に大きな衝撃が襲った。
「ぬぉっ!」
「ぐぅっ!?」
「うぉっ?!」
三者三様の悲鳴をあげ、数珠の力で緩和された衝撃に三人は地面に叩きつけられた。大谷はその勢いで輿からも落ちた。
「!What?!」
「むぅっ!?」
その衝撃は伊達と真田も襲い、二人は軽く飛ばされた。ごろりと転がって膝立ちで衝撃が来た方へ各々武器を構える。
「!刑部!」
ぶるっ、と頭を振って衝撃に揺れた頭を戻した石田は大谷の様子に気がつき、すぐさま駆け寄った。長曾我部も衝撃にくらくらとする頭を緩く振って衝撃の来た上空を見上げた。
「……なんだァあの絡繰は………」
音を立てて空を飛んでいたのは、戦闘機だった。キーン、と鋭い音を立てながら三人の上空を飛んで行った。少し離れたところでは、バラバラと音を立てて何かが飛んでいる。
石田は大谷を抱えおこしながら、それを見上げた。
「……あれは…」
「元親、三成、刑部!大丈夫か!?」
「おい、なんだありゃ」
わらわらと徳川や伊達たちも三人の所に自然と集まった。大量に増えていた野次馬も、ざわざわと騒ぎその戦闘機にスマホやら何やら向けていた。
伊達は目を細めて顔をしかめると、左耳に手を当てた。
「…おい、俺だ。空飛んでる変なの出てきたぞ」
『見てる見てる!!空自じゃねぇかよマジかよ!!』
伊達は小さなイヤホンマイクを髪で隠すようにつけており、それで政宗と常に連絡できるようにしていたのだ。
イヤホンからは、政宗の焦った声が聞こえた。

聖なる夜のハプニング65

「三成があんなに変わったんだ、なんか言われたに決まっとる」
「…………」
「お前さんだってそれで何かに気付いたんだろ?だから三成に話した。そういう気持ちで話したから、アイツもお前さんの本音を見通した」
「官兵衛…」
「……生きよと申されたのよ」
大谷は黒田の言葉に、ぽつり、とそう答えた。黒田は予想していたのか、納得したように小さく目を細め、徳川は驚いたように大谷を見た。
大谷はどこか気が抜けたように、長曾我部と戦う石田を見ていた。
「……アイツが死に急いでるのは目に見えて分かるからな」
「…黙りや」
「………刑部」
「権現、お前さんが口出しはすんな」
意外な黒田の言葉に徳川はおどろいたように黒田を見た。黒田の前髪の間から、徳川を見据える目が覗く。
「………そうだな。官兵衛、お前は…」
「慣れたもんさ。お前さんはちと黙っててくれんかね」
「………分かったよ」


 「ぅらぁぁあっ!!」
「はぁぁぁあっ!!」
ガィン、と鈍い音がして碇槍と刀がぶつかる。ぎちぎちと競り合えば音が立つ。
戦いが長引くに連れ、長曾我部の顔からは余裕が消えていった。石田はそんな長曾我部の表情に、わずかに目を細めた。
「……長曾我部元親」
「んだよ」
「………すまないことをした」
「!!!」
長曾我部は石田の言葉に、驚愕して目を見開いた。競り合いが一旦崩れたが、すぐにまた拮抗する。
石田は自分より僅かに上にある長曾我部の目を見た。
「私は貴様を裏切った。西軍にいろとは言える筈がない。………家康の元へ行け」
「…!」
「そうして戦場で私を殺しに来い」
「……どうしてアンタが謝る?!アンタは知らなかったんだろう!?」
「それが言い訳になるか!!」
「ッ、」
石田はそう言うと同時に長曾我部を弾いた。不意のことに長曾我部はわずかにバランスを崩したが、後ろに下がってすぐに体勢を持ち直した。
石田はぎり、と音がするほど刀の鞘を握り締めた。
「…刑部は私のために貴様を嵌めた。貴様を嵌めたのは私だ!」
「だけどよ!!」
「黙れ!貴様の憎しみはそんな同情で消していいのか!!」
「!……それも、悪くはねぇ!」
「なっ!?」
長曾我部は僅かに視線を落としたが、すぐに上げると、ニッ、と笑って地面を蹴った。平静を保っていた石田も、この長曾我部の発言には目を見開き、戸惑った様子を見せた。
僅かに反応が遅れながらも、長曾我部の斬撃をなんとか刀でしのぐ。
「要するに大谷は、アンタに味方を、家康に敵を作るために俺を嵌めたってことだろ?……大谷は許せやしねぇが……だからといってアンタに怒ることもできねぇ」
「…何を考えている……!」
「石田!アンタは大谷を庇ってんだろうが……」
「庇ってなどいない!」
「……アンタどんだけ不器用なんだよ」
長曾我部はそう言いながら、ふ、と困ったように小さく笑った。

聖なる夜のハプニング64

「…聞いたって……」
「四国急襲、その事実だ」
「……んでそんな涼しい顔してやがる…!」
がんっ、と長曾我部は碇槍を地面に突き刺す。石田は刀を構えないまま長曾我部を見つめていて、大谷はゆっくりと三成の後ろに降りてきた。
「…刑部は貴様に自分と同じ不幸を与えたかったなどと言うが…何故貴様を選んだのか、そして何故西軍に入るように画策したのかを考えると、奴を私は責められない。責めるのならば、原因となった私を責めろ」
「!!三成、」
「!」
「なんだと…?ふざけんな!」
「ふざけてなどいない。だから貴様が望むものを聞いた」
「物で償えるもんじゃねぇ!」
「物に限ってはいない」
「………ならテメェの命をよこせといえばよこすのか?」
「………命はやれん」
石田は薄く目を細めると、静かに刀を構えた。長曾我部は石田を睨んでいたが、自分を見た石田の目に驚いたように表情を変えた。
石田は真っ直ぐに、長曾我部を見据えていた。
「私はここでは死ねない!」
「……石田……」
「私の命を望むというのならば…貴様の気が済むまで相手になる」
「……そうかよ…!だったらこの後悔を…嵐のように、アンタの刃で連れ去ってくれい!」
長曾我部はそう言うとどこか泣きそうな表情に顔を歪めながら地面を蹴った。石田もそれに合わせて地面を蹴る。中央で二人がぶつかり、また大きな衝撃が走った。
伊達や徳川は、呆然としたように二人の話を聞いていた。
「…どういう事だ。どうして大谷が白状する?!」
「…そうか……てっきりワシは、刑部がワシ憎さに起こしたものと思っていたが……三成の仲間を作りたかったんだな、あいつは…」
「それよりも石田だ。なんで奴はあんなに落ち着いてる?自分が裏切りに加担してたんだぞ?それに…」
「…死ねない、とは……あの方より、さような言葉が出るとは、正直、思いもよらなんだでござりまする」
「確かに…。……三成は、ここの秀吉公の所に行っていた。きっと、それが三成と刑部を変えたんだろう」
徳川はそういいながら、ぎゅ、と拳を握り締めた。真田と伊達は思わず顔を見合わせる。
「…見事なもんだぜ」
「………どう、なるのでござろうか…」
「こっから先は石田と西海の問題だ。俺らが首を突っ込むべきことじゃねぇ。続きと行こうぜ、真田ァ!」
「!!望むところ!!」
伊達はふっ、と小さく笑うと真田に向き直り、刀を構えた。真田は少しばかり驚いたように伊達を見たが、ニッ、と笑うと槍を構え、戦いを再開した。
それを確認した徳川は、二人のそばから離れると呆然としている大谷とぽかんとしている黒田のところへと向かった。
「刑部……」
「…、………」
大谷は徳川に名を呼ばれはっと我に返ったが、徳川の方を向くことはなかった。
ぽかんとしていた黒田も徳川の登場で我に返り、はぁ、とため息をついて鉄球に腰をおろした。
「…全く、なんで三成に話したんだ?お前さん。墓場まで持ってくもんだと思ってたけどな。心のうちもアイツにバレてるようだが?」
「黙りや」
「いいや黙らんさ、小生も関係者なんでね。……話しちまったら、わざわざお前さんが暗躍した意味が無くなっちまうだろうが」
「…………」
「刑部、お前は」
「黙りや!主に語ることなど何もない」
大谷はぎゃん、と数珠を振り回し、歩み寄ろうとしてきた徳川を遠ざけた。
「……秀吉に何言われたんだ?」
その直後、静かに黒田が発した言葉に、大谷はピクリと体を揺らした。

聖なる夜のハプニング63

「…真田ァ」
「…なんでござろう」
「あっち見ろよ」
どんっ、と勢い良くぶつかりあった伊達と真田だったが、伊達はぎちぎちと鍔迫り合いをしながら真田にそういい、横目で黒田と長曾我部の方を見た。真田も鍔迫り合いに応えながら、視線をそちらにやった。
視線の先で黒田と長曾我部は伊達と真田に劣らずの戦いを繰り広げていた。近くにいた野次馬達も二組の戦いの勢いにもだいぶ距離を置いており、ネットに書き込まれでもしたのか空にちらちらとヘリコプターが見えるようになってきた。
「…くそみてぇに寒々しいとは思わねぇか?」
「某との戦いの最中だというのに…」
「…!Sorry,確かに無粋だった、な!」
「っ、と!…されど、隣でああも冷えられてはどうにも滾るに滾れぬのも事実」
思わぬ真田の言葉に嬉しそうに頬を緩めながらも、伊達は鍔迫り合いから真田を弾いた。真田はくるんと宙で回転して勢いを消して着地し、槍を下ろした。伊達も小さく頷き、刀を下ろしてそちらを見た。
その様子に一人たっていた徳川もすぐに気がつき、二人に駆け寄った。
「独眼竜、真田……」
「川中島より寒い空気となっちゃ、どうにもなァ」
「大谷殿より何となくの事は伺っておりまするが…」
「………………」
「…黒田の野郎は西海がどんな道を選んでも受け入れるような気はするな」
ぎゅ、と徳川は拳を握り締めた。
「……今の戦いはただの元親の八つ当たりだ…官兵衛はきっと負い目を感じているんだろう、だから諌めることはしないんだ」
「…どす黒い策略に絡むには、いい人間過ぎたんだろ、奴が」
「されど、八つ当たりならば放っておいては」
「…アンタが首を突っ込むわけには行かねぇわな、家康」
「…………成程」
「かといって、俺やアンタの言葉を聞くかどうか」
伊達は疲れたように肩をすくめ、肩に刀を持った手を担いだ。真田は二人の方に向き直り、むぅ、と顔をしかめたが、ふと顔を空へと向けた。
「…!政宗殿、」
「…!チッ、このtimingでか…!」
石田と大谷が合流したのだ。が、如何せん状況がよろしくない、伊達は眉間を寄せた。真田は伊達の方を振り返った。
「いかがいたす政宗殿」
「騒ぎは起こしても殺傷沙汰は裂けろ…か。癪だが間に入って騒ぎに降格させるしかねぇ、行くぞ」
「待て!!」
長曾我部と黒田の戦いに割って入ろうとした伊達と真田を、二人に遅れて空を見上げていた徳川が慌てて止めた。二人は不可解そうに徳川を振り返る。
「んだよ!」
「…三成の様子がおかしい」
「え?」
「行く前と雰囲気が違う…割って入るのはちょっと待ってくれ」
「…………」
徳川の言葉に二人は顔を見合わせたが、大人しく動きを止めた。


 「!」
がぃん、と鈍い音をさせて二人が離れた時、間に割って入るように石田が二人の間に降り立った。黒田は意外そうに、長曾我部は驚いたように石田を見た。石田は刀を構えないまま、長曾我部に向き合った。
「長曾我部元親。……事実は刑部から聞いた」
「!!」
「……知らなかった事とはいえ、罪は罪だ。貴様は何を望む、長曾我部」
石田は事実を聞いたという割には、ひどく静かにそう尋ねた。

聖なる夜のハプニング62

黒田はジャラリ、と鎖を鳴らした。表情は前髪で隠されて見えない。
長曾我部は悔しげに眉根を寄せた。
「……その髪は隠すためかよ」
「こら、顔の話はやめんか」
「顔の話じゃねぇよ。……、なら、ならせめてこれは答えろよ。アンタは望んで四国を…」
「それを答えてなんになるんじゃ」
「はぐらかすんじゃねぇ!」
のらりくらりと答えない黒田に長曾我部はそう怒鳴り、地面を蹴って黒田に迫った。黒田は、はぁ、と小さくため息をつくと、ぶんっ、と腕を振り上げた。
ワンテンポ遅れて黒田の足元にあった鉄球が黒田の動きについていくように勢い良く宙を切り、ジャストタイミングで長曾我部に衝突した。長曾我部は自分の破槍でそれを受けたが、その衝撃を受け切る事は出来ず、そのまま横殴りに吹っ飛ばされた。
「くっ」
「元親、」
「…意外と食えねぇ奴だな、アンタ……」
飛ばされた空中で体勢を整えて着地し、長曾我部はぐっ、と破槍を肩に担いで、じろ、と黒田を睨むように見据えた。黒田がゆるく腕を動かしたことで、鉄球は黒田の体の前にすとんと落ちた。
「障害になるはずのその鉄球を武器にしちまう所といい、利用されてるはずだってのに絶対に口にしねぇ所といい…前者はともかく、後者はなんでそこまでする?大谷に弱みでも握られてんのか」
「弱み?まっ、あいつがこの枷の鍵を持ってるのは確かだけどな。別にそんなんじゃないさ」
「じゃあなんでだっ!」
長曾我部は言い切ると同時に再び地面を蹴った。黒田は軽く鉄球を引いて浮かせると蹴り上げ、鎖を掴んで長曾我部の攻撃を鉄球で受けた。そのまま剣撃に持ち込まれる。
ガンガンと鉄球と破槍がぶつかり鈍い音を立てる。黒田はその応酬をしながら口を開いた。
「小生はお前さんが望んでるような答えは持っちゃいない。脅されたとか弱みを握られてるとか、そういう程度の話じゃない」
「じゃあなんだってんだよ!」
「人に話すつもりはないんでね」
「どうしてそこまで大谷の肩を持つ?!特別仲がいいわけでもねぇだろう!?」
「なんでだろう、なぁっ」
「どわっ!」
剣撃の最中に黒田は隙を見て鎖から手を離し鉄球を長曾我部目掛けて両足で蹴り飛ばした。不意をつかれた長曾我部はもろにくらい、後ろへと吹っ飛ばされた。
両足を使って鉄球を蹴った黒田も、ごろりと受身をとって転がり、すぐに立ち上がった。長曾我部もごろごろと転がって衝撃の勢いを殺し、転がる勢いで体を起こした。
「………ま、若いお前さんにひとつ答えてやるとすりゃ、望んでやった訳ではないってことか」
「!!」
「それを言い訳にするつもりもないけどな」
「……………」
「ほれ、知らない方がよかったんじゃないのか?」
「……ッ」
黒田は長曾我部の表情の変化を見て、肩をすくめながらそう言った。長曾我部は黒田の言葉に、チッ、と小さく舌打ちし、武器を構えた。黒田は唯一覗く口元で小さく笑う。
「お前さんの目指す仇は目の前だ。何を躊躇することがある」
「………本当に食えねぇ男だなアンタ…!」
「言っただろ?…答えてなんになるんだってな」
そう言うと、黒田は腰を落とし、地面を蹴った。長曾我部はちっ、と舌打ちして破槍を一振りすると、黒田に相対すべく地面を蹴った。
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