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見えないはずの右目が20

一人前でも多かったがなんとか食べ終えるとまたささっ、と片してしまった。みかけと互い、行動が早い

じっと見つめていたせいか、小十郎が不意に口を開いた。
「…どうかしましたか?」
「…お前は一体なんなんだ?何故俺に付き纏う」
「付き纏っている訳では…」
困ったような表情で一旦言葉を区切ったがまたすぐに口を開く。
「付き纏っている訳ではありませぬが、梵天丸様から離れぬ理由は二つ程あります故」
「…二つ?」
「一つは、御館様より賜った任務である事。己の身勝手から止めることなど許されませぬ。そしてもう一つは、私的に離れない方がよいと思ったからでございます」

「余計な世話だ!」

叫び声が口から飛び出す。小十郎は細い目を真ん丸にして固まっていた。梵天丸は自分の顔にかぁっ、と血が上るのが分かった。

わたしてきに、離れない方がいいと思った?

そんなの、嘘だ。そうだ全部嘘なんだ。

信用しちゃダメなんだ。裏切られた時、余計辛くなるから。

でも

「お前だってどうせ…っ」
「……どうせ、なんでございますか」
小十郎の顔を見上げれば目は再び細められていて、返された言葉から怒りは感じられなかった。

ああ、どうして

どうしてお前は優しいんだ。



そう思うと、余計に突き放したくなり、突き放したくなくなる。

「…お前もどうせ、今までの奴らと同じだ!」
優しいこの男を突き放すよい言葉が思い浮かばない。その上、
「同じではありませぬ!」
即座に叫ぶように発せられた否定の言葉。どうしてここまで断言出来るのだ?
「うるさい!お前なんか嫌いだ!出てけ!」
「…昨日申し上げたはず。梵天丸様が私を嫌いであろうとも出ていかぬと」
「出てけ!お前の顔なんか見たくない!」
それでも、その優しさに縋るのは恐ろしすぎて。

今まで味わってきた苦しみを味わうくらいなら、一人でいたくて。

大嫌いな訳じゃない。でもそう叫んでいた。
すると突然小十郎が静かに立ち上がった。梵天丸は肩を跳ねさせる。

怒られるのか、それとも見捨てられるのか。

出ていけと叫んでおきながら、思ったのはそんな事だった。

「では、私めは部屋の外におります故、何かありましたら申し付けくだされ」
小十郎は怒りなど微塵も感じていないような優しい声でそう言うと部屋を出ていってしまった。そして障子のすぐ傍に座った。

その小十郎の優しさに、梵天丸は呆然とした。

見えないはずの右目が19

「…何の用だ?」
ささっ、という擬音語があいそうな程手際よく着替えさせられた。着替えさせた張本人の小十郎はまた手際よく、今度は布団を畳んでいる。朝から一体何なのだろう。こんな朝早くから来たのは初めてだ。
「はっ?」
きょとんとした顔で振り返る小十郎。ぱちぱちと瞬きを繰り返す男に笑いそうになる。が、表情は変えずにもう一度、何の用だ?、と繰り返した。
ややあって小十郎は口を開いた。「…朝になりました故。朝餉の支度もできておりますよ」
「………いらない…食欲ない」

こんな朝早くに、普通は朝餉を取るのか。

信じられない、と梵天丸はややげんなりした口調だ。小十郎はそんな梵天丸に目を見開いていたが
「…いえ、それでも少しは召し上がってくだされ」
「いらない」
寧ろ食べれない!と言いそうになるがあまりに子供っぽいので耐える。
「…ならばせめて茶漬け程度を」
「………」
茶漬け。
朝から茶漬けは食べたことはないが、片倉がいうなら食べてもいいのだろう

梵天丸はしぶしぶと頷いた。

見えないはずの右目が18

夜も更け、小十郎が戻った後、梵天丸は布団の中でぼんやりと天井を見つめ昼間のことを思い返していた。あの、仏頂面の、だが優しい男を。

優しい…優しい男だ。
こんな俺を気味悪い、と思わずに、あまつさえ俺が嫌がろうとも離れないと言い出した。

どうしてころりと、俺のほしい言葉をくれるんだ?

母親に憎まれた、気味悪い目を持つ力ない子供を、どうしてそこまで思ってくれる?

「………そうか」
俺の右目を、

俺のこの見えない右目を、見ていないからだ。

だから、平気なのか。

「………絶対に、見せられない」
梵天丸は小さく呟くと寝返りを打った。


翌朝は驚愕と共に目覚めた。
「失礼いたします!!」
「うわぁっ!?」
微睡みの中で、突然すぱーん!と勢い音が響き渡ったために梵天丸は飛び起きた。
「かかかか片倉!?」
「おはようございます」
けろっと挨拶をしたのは昨日守役になった小十郎だった。
「おはよう…?」
「お目覚めの時間でありますから」
「…早い。まだ寝る……」
いままでに起きたことのない刻限であるため、とにかく眠い。
再び寝返りを打ち、布団に潜り込んだが…。
「…失礼いたします!」
「狽、わぁぁぁぁぁっ!」
ぐんっ、と勢い良く上に持ち上げられてしまった。びっくりして目を開ければ目の前に揺れる黒い髪。そして、足に感じる襟。
「おおおっ降ろせっ離せぇっ!」
「お目覚めになられましたかな?」
「…起きた」
驚きにすっかり目が覚めてしまった梵天丸は、ぶすっ、としたようにいった。

でも、なんだか朝から

朝からこんなに楽しい気分になったのは、初めてだった。

見えないはずの右目が17

 「片倉………小十郎?」
「はっ」
梵天丸は小十郎がやってきた日のことを不意に思い出した。
 あの日、新たな世話役を父上が連れてきた。19…くらいだろうか。今まで来た奴等と違って愛想笑いもない無愛想な男だった。おまけに強面…。それが、小十郎に対する最初の思い。
「そうじゃ。今日よりお前の守役になる」
「………」
興味もない、今まで来た奴等とどうせ同じなのだろう。
そう思ったから、ぷいと梵天丸は顔を反らした。
「…片倉小十郎と申します。以後お見知り置きを」
表情を変えぬまま挨拶をする小十郎に梵天丸もそっけなく
「…梵天丸」
と返した。だが
「存じ上げております」
と返されてしまった。今までされた事のない返答に言葉が詰まった。
「………」
「………」
「(なんか話さないのかこいつはご機嫌麗しゅうだのなんだの。変な奴…)」
梵天丸には父親が小十郎を選んだ理由がイマイチ分からなかった。
とにかく、今までの奴等とはどこか頭が違うのは確かだ、と心の中で呟いた。
「梵、そうつんけんするでない」
「………」
「では頼んだぞ片倉」
「狽ヘ、ははっ」
逃げられた。そう小十郎の顔には書いてあった。
所詮はただの部下なんだな、と梵天丸は少しだけ消沈した。
「…あー……」
「………嫌なら出ていけばいい」
「…はいっ?」
目をうろうろと動かしていた小十郎は驚いたように梵天丸を見た。どうやら梵天丸の考えと小十郎考えていたのは別な事だったらしい。
「…主より止めるよう命を受けたら従いまするが…主から賜った大切な仕事、己が下らない理由で降りる事など滅相もない」
「…今まで来たのは帰ってった」
「小十郎が仕事は梵天丸様の世話でございます。梵天丸様が私めを嫌いであろうとも私は帰りませぬよ」
「…!?」

変な、男。

「…後、最初に申し上げておきますが」
「?」
「正直な所、子供に好まれず子供の世話に手慣れておりませぬ故ご機嫌を損ねる事があると思います。ご了承くださいませ」
「…その顔では子供に好まれぬのは当然だな……」
「煤cは」
軽く衝撃を受けたようだったが顔には出さず静かに頭を下げた。
「本日より、よろしくお願いいたします」

見えないはずの右目が16

「かっ、かた…っ!」
「お怪我はありませぬか!?」
しゃがんだ小十郎にしがみつき、震えながら泣きじゃくっている梵天丸を優しく抱擁する。見たかぎりでは怪我がなさそうなので小十郎は安堵の息をついた。
「ご、ごめんなさいっごめんな…っ!」
「梵天丸様は悪くありませぬ。大丈夫でございますか?」
背中を撫でてやりながら尋ねるが、梵天丸は謝罪を繰り返すばかり。
小十郎は収まった義姫への怒りが、また沸々と沸き上がるのを感じた。
「何があったのでございますか?」
「…………っ!」
震えながら泣く梵天丸に泣き止む気配はない。小十郎は梵天丸が泣き止むまで梵天丸をやりたいようにさせておいた。
しばらくして、梵天丸が泣き止んだ。ちいさな目は真っ赤に腫れてしまっている。小十郎は手拭いを濡らした物を目に当ててやった。
「…大丈夫でございますか?」
「……ごめんなさい」
泣き止んだ後も梵天丸は謝罪を止めなかった。
「何があったのでございますか?」
「…母上が…」
「はい」
続きを促そうとしたが、梵天丸はその時よほど恐ろしかったのか、再び目に涙を浮かべた。
「狽ああ、言いたくないのなら構いません」
慌てたようにそう言うと梵天丸は黙ったまま頷いた。小十郎は再び手拭いを目に当て、乱れている着物を直してやる。
「……片倉…お前は、こ、殺されるのか…?」
「………分かりませぬ」
違う、と言いきれない小十郎は正直に答えた。梵天丸の顔がさっと青ざめる。
「殺されるかもしれませぬし、暇を出されるかもしれません」
「…片倉…」
「申し訳ございませぬ、後先考えず」
小十郎は唇を固く噛み、頭を下げた。そんな小十郎に梵天丸は抱きつく。
「…今度は、俺が…」
梵天丸が小さく耳元で呟いた。小さくみなまでは聞こえなかった。
「…ありがとうございます」
小十郎は何かに必死になっている梵天丸に、小さく礼を言った。
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