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貴方も私も人じゃない52

「…?」
城の中庭に敵兵を集め、その数を数えていた三成は、ふ、と城の方を振り返った。近くの豊臣兵が不思議そうに三成を見る。
「如何なされました、石田様」
「…今、何か聞こえなかったか」
「?音、でございますか…」
三成がそう呟いた時、ちょうど家康が敵兵を思い切り投げ飛ばし、敵兵が障子を突き破って転がり落ちてきた。三成他豊臣兵はぎょっとしたようにそれを見たが、いちはやく三成が動いた。
「家康!」
だんっ、と勢い良く地面を蹴り、跳躍する。落ちている途中の敵兵を器用に足場にして更に跳躍し、三成はひと跳びで家康がいる階層まで到達した。
着地の衝撃でメキャリと派手に割れた手すりに、敵兵だけでなく囲まれていた家康さえも驚いたように三成を見る。
三成はそうした家康の様子に素早く腰元で刀を構え、割って入った。
「何事だ家康!」
「見たとおり、交渉決裂だ!っと!」
「何……?!……、半兵衛様はッ!」
「鎮流殿と一緒に先に行った!三成、お前はそっちに行ってくれ!」
「言われるまでもない!」
三成は家康の言葉にそう返すと、道を塞ぐように立ちふさがる敵兵を刹那の間に切り捨て、半兵衛達が向かったであろう方向へと走り出した。家康は追い縋ろうとした敵兵の足を引っ掛けて転ばせ、それを邪魔する。
「任せたぞ三成…!」


「ぃやあっ!!」
同じ頃、鎮流と半兵衛はまだ潜んでいたらしい敵兵に囲まれていた。鎮流は撃ち終えた片方の拳銃はホルスターに、もう片方はいざという時のために半兵衛に渡して、近付いてきた敵兵を四方投げの要領で転ばせては刀を奪い、引き抜けないほど床に突き刺していた。
半兵衛は渡された拳銃と鎮流が奪った刀をそれぞれ持って、ゆったりと敵兵を見据えていた。
「大丈夫?鎮流君」
「は、はいっ!」
「でやぁぁぁあああ!!」
「うるさいな」
半兵衛は声を上げながら斬りかかってきた敵兵に心底鬱陶しそうにそう言いながら、刀で相手の攻撃を受け、くるりと刀を回して相手の体を流した。
ずべしゃ、とそのまま転んだ男の足に、半兵衛は手の中で回転させて坂手に持った刀を深々と突き刺した。
「ッ…」
じわじわと畳に染みていく血と男があげた悲鳴に、鎮流は僅かに眉間を寄せた。半兵衛は気にすることなく刀を引き抜く。刀を引き抜くと、その抜いた軌跡に従うかのように勢い良く血が吹き出した。
じり、と僅かに後ずさる敵兵を横目に、半兵衛は、ふぅ、と息をつく。
「そろそろかな…」
「え?」
ぽとり、と半兵衛が呟いた言葉に鎮流がそう聞き返すと、ヒュヒュン、と風を切る音がした。
直後、敵兵が二人を閉じ込めるために閉めた後ろの襖が、微塵になって散った。
「!」
「半兵衛様!」
ぎょっとする敵兵の後ろから顔を見せた三成は、そう叫ぶと同時にぐっ、と腰を落とし、体を捻るようにして後ろに構えていた刀の柄に手を触れさせた。

貴方も私も人じゃない51

三人は驚いたように鎮流を見る。半兵衛はすぐに楽しそうな表情に変わったが、将は不愉快そうに顔を歪めた。
「そもそもなぜ女が」
「優秀な子でね、僕の弟子なんだ。ところで鎮流君、今断定したのは何でだい?」
「…このお方は嘘を仰っておいでのようなので」
「なに…ッ」
ぴくり、と将の体が跳ねる。家康は慌てたように鎮流と将とを見やる。
鎮流は目を細め、将を見据えた。
「…お気づきではないようですが、貴方様、嘘を仰る時に瞼が痙攣なさっています」
「なっ?」
将は鎮流の言葉に思わず目もとに手を触れた。鎮流は、ふっ、と小さく笑う。
「…というのは冗談ですが、そう触れたということは嘘をついたという自覚があるととってよろしいでしょうか?」
「ふふっ、」
「あっ…」
「ッ!!この野郎ッ!」
嵌められた事に気が付いた将はかっ、となったように勢い良く立ち上がった。半兵衛もそれに合わせるように立ち上がる。
「残念だよ、本当に」
半兵衛はそう言うと将に背を向け、部屋から出ていこうとした。控えていた敵兵達が即座に刀や槍を構えるものだから、家康は半兵衛の背を守るように立って拳を構え、鎮流も装填済みの拳銃をホルスターから取り出し両手で構えた。
家康はお、と小さく声をあげた。
「それがあなたの武器か?」
「はい。まだ慣れていませんので、急所を外すだとかの器用な真似は出来ませんが」
「この部屋はワシ一人で十分だ、あなたは半兵衛殿を!」
「…、はい!」
わっ、と襲いかかってきた敵兵から鎮流をも庇うように立ち、そう言って先に行くように促した。鎮流は驚いたように家康を見たが、すぐに踵を返し半兵衛の方へと向かった。
「よし来い!」
家康は鎮流が行ったのを確認すると、にっ、と笑って対峙した。

「半兵衛様!」
「家康君はいいのかい?」
早足に歩いていた半兵衛は、鎮流の言葉に歩きながら鎮流の方を振り返った。鎮流は顔元で拳銃を構えながら、半兵衛の斜め後ろについた。
「はい、家康様は半兵衛様の方をと」
「そう。それにしても、一旦は彼らとは交渉決裂だ。君ならどうする?」
「…、まずは石田様が纏められたこの城の雑兵たちのもとへ。あの者達が交渉を破るというのは、交渉をしていると思っている下の者への裏切り…」
「…それを彼らに伝えるかい?」
「はい」
「ふ、はははっ!君は、戦略よりこうしたどちらかというと政治的な攻略の方が得意なようだ。僕もそう考えていたよ」
「…」
「さ、家康君が食い止めておいてくれている間にさっさとこの城から出よう」
「はい、お供致します!」
二人は後ろの方から飛び出してきた敵兵を確認すると、床をけって走り出した。

貴方も私も人じゃない50

「すっ、すまない!すっかり失念していて…」
「い、いえ、問題ありません」
家康はそう謝りながら慌てて体の目立つところについた返り血を拭った。鎮流はそう言いながらも、視線を僅かに家康から逸らした。
半兵衛は、ふぅ、とため息をつく。
「敵と交渉すると分かっているんだから、少しは身なりに気を使ってくれたまえ。全く君はそういうところが疎くて困るよ」
「はは…申し訳ない」
「鎮流君も、無理することはないよ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「…ふふ。じゃあ行くよ、二人とも」
半兵衛はふ、と笑うと、城へと足を踏み入れていった。


「豊臣軍軍師、竹中半兵衛だ。今回の降伏の申し入れ、感謝するよ」
通された一室で半兵衛を前に、鎮流と家康がそれぞれ後ろに控える形で、敵将と対峙していた。敵将の方は装いこそ整えていたが、流石に疲弊している様子だった。
「…はい」
「じゃあ早々に交渉と行こうか。一応、もうこちらには攻撃の意思はない。君達次第だけれどね」
「……それは、どういう……」
「隣の部屋で殺気も隠さず待機してる子たち。下がらせてくれないかな?」
「…!…………」
「こちらも彼女には武装させているし、君に刀を隠し持つなとは言わない。だけど、こうも囲まれている状況だと君達の真意を疑わざるをえないんだ。分かるだろう?」
「………下がらせろ」
「しっ、しかし…!」
「いいからさっさとしろ!全滅してぇのか!」
「…そこまで気が付かなかった…」
半兵衛の言葉にバタバタと慌てる敵兵に、鎮流はぽつり、と呟いた。その声が聞こえたらしい家康は苦笑を浮かべる。
「気配を探るというのは早々できる事じゃないからなぁ」
「…ということは家康様も気付いていらっしゃった?」
「まぁ…。こういうことはよくあるから…」
「…なるほど」
「……下がらせたぞ」
「うん、ありがとう」
半兵衛は隣室に待機していた兵を下がらせたと報告する将に、にっこりと笑ってみせた。ぶるり、と将の体が震える。
「…さて、そちらの大将の首は確かもう三成君が取っちゃっていたね」
「…あぁ。それで足りないならば他の首も差し出そう」
「まず、そちらの残兵の規模を教えてくれるかな?」
「中隊5、小隊12…自分は第一中隊の隊長だった」
「…間違いないかな?」
「……あぁ」
「…、家康君、三成君に確認してきて」
「ッ!」
将は半兵衛の言葉に僅かに息を呑んだ。家康も驚いたように半兵衛を見る。
鎮流はじ、と将の顔を見つめていた。
「半兵衛殿、」
「念のためだよ、早く」
家康は半兵衛にそう急かされても渋い顔をしていた。将の方も、不愉快そうに顔を歪めていて、ゆったりと腕を組んだ。
「信用していただけないか?」
「んー…「はい」
信用できないのかと威圧する将に、半兵衛がどう答えようかと小さく唸ると、不意にそれを遮るように鎮流が肯定の言葉を口にした。

貴方も私も人じゃない49

「うん、悪くないね。あとは実際にそれをやる時にどうすればいいか、だ」
「はい」
「ところで、君。まだ日は浅いけど、家康君や三成君、大谷君、官兵衛君…彼らの中で、誰が一番当主に向いていると思った?」
「当主に…でございますか」
「うん」
城に向かって歩きながら不意に半兵衛が口にした問に、鎮流はわずかに驚いたように半兵衛を見たあと、僅かに考え込んだ。
官兵衛君、というのはちらりと見かけた、腕に枷をつけられた男、黒田官兵衛のことだろう。彼含め、四人の中でといわれたら。
「……今までの見解で申し上げれば、家康様でしょうか」
「…、そう」
「石田様や大谷様はあまり一番手には向かないお方に見えましたので…どちらも、そう。二番手にあると輝く方」
「この短い間でよく分かったねぇ。あぁでも、あのふたりは分かり易いかな?」
「…どちらかといえば」
「官兵衛君は?」
「黒田官兵衛様は…あの、何故手枷をつけているかにもよります…」
「あはは、そう言えばそうだった」
半兵衛が鎮流の言葉に楽しそうにからからと笑った時、城から家康と三成が出てくるのが見えた。
家康は鎮流を見ると驚いたように目を見開いたが、すぐにふわりとした笑みを浮かべ、軽く手を振った。鎮流もそんな家康の所作に2人に少し遅れて気が付きーーーぎょっとしたように目を見開いた。
「…………」
「?どうかした?」
「ッ!い、いえ」
「半兵衛様!敵大将討ち取りましてございますッ!」
「半兵衛殿、あちらから降伏の申し入れがあった」
「そう来ると思ったよ、その交渉には僕と鎮流君で…ああいや、家康君もおいで。三成君は兵たちに指示して相手の兵たちを一箇所に纏めておいて、抵抗した場合は好きにしていいから」
「承知いたしました!小隊長!」
三成は半兵衛の言葉にそう返答するとすぐに踵を返し、きびきびと指示を飛ばし始めた。家康は三成を見送った後、不思議そうに半兵衛を見た。
「なぁ、なんでワシもなんだ?鎮流殿は分かるが…」
「今回の戦、僕は直接参加していないからね。戦況を見ていた君がいた方が話が早い」
「あぁ…そういうことか」
「あぁそれから家康君」
「?なんだ?」
家康に理由を話した後に歩き出した半兵衛だったが、すぐに思い出したように足を止めた。不思議そうに首を傾げる家康に、半兵衛は呆れたようにため息をつき、懐から出した手ぬぐいを家康に投げつけるように渡した。
「君、返り血ひどいよ?鎮流君の目にはまだ毒だから、さっさと拭いて」
「え、あっ!!」
家康ははっ、と気が付いたように自分の体を見下ろし、慌てて鎮流の方を見た。びくり、と僅かに鎮流の体が跳ねた。

貴方も私も人じゃない48

半兵衛の言うとおり、火の手が上がる頃には戦はほぼ終わりを見せていた。家康は三成と共に城内へ進行していた。共に、といっても三成が先行しているため、傍から見れば家康が三成の後方を援護しているように見えた。
叫びながら斬りかかってきた男の刀を腕の防具で受け止め、弾くと同時に反対の拳を相手の胴体に叩き込む。
めきゃ、と鈍い音がして鎧が砕け、その男は力なくどさりと倒れた。家康はぶるんと腕を軽く振ると、流れるように敵兵を斬り捨てていく三成の後を追うように地面を蹴った。
ー見慣れぬ私には、全て同じに見えますが
昨日の夜、鎮流に言われた言葉が思い出される。家康は僅かに目を細めた。
「…部外者の立場からすれば…ワシも何も同じか」
「…?家康、何を言っている、集中しろ!」
「…、あぁ、っ」
部屋から飛び出してきた敵を殴り飛ばしながら、家康は三成にそう返し後を追った。
三成は走り敵兵を斬り捨てながらも家康を振り返った。
「…今日の貴様は、昨日と違うな」
「?そうか?」
「昨日までの何処か不抜けた貴様に比べるとはるかにマシだ」
「ふぬっ…酷いなぁ」
「フン。この先がこの状況でまだ引きこもっている大将の所だ、気を引締めろ」
「…確かに、この状況でまだ来ないというのは、ちょっとな…分かっているさ、お前も気をつけろよ?」
「貴様に言われるまでもない」
三成はそう言うと家康に視線を合わせ、すぐに地面を蹴った。家康もそれに合わせるようにすぐに地面を蹴る。
「はぁぁぁぁああっ!!」
「うおぉぉぉぉおっ!!」
二人は咆哮を上げながら、いわば本陣といえる敵大将が立てこもる部屋へと突入していった。


「…、血なまぐさい」
「これは仕方ないな」
それから少しして、半兵衛と鎮流は戦場にいた。鎮流は拳で鼻を少しの間隠した。
ほぼ戦闘が終わり、万一の奇襲に備えている兵士の間を通り抜ける。
「…普段、半兵衛様は戦の時には戦闘に参加されていらっしゃるのでございますか」
「うん、まぁね。戦場にいた方が臨機応変に対応しやすいし、僕も出た方が早いし」
「………」
「君は戦闘経験もないし少し鍛えたくらいじゃそう強くもない。さて、君ならどうする?」
「………力が足りないならば別の力を」
「…そうだ」
半兵衛は鎮流の言葉に薄く笑んだ。
「戦場での目は伝令などの力を借りるしかないかと。下手に私が戦場に出たところで、足手まといなだけかと」
「うん、悪くないね」
「後は…考えられる可能性をすべて、石田様などの立場を全て伝えておくこと、でしょうか」
鎮流の言葉に、半兵衛はふふ、と小さく声をあげて笑った。
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