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葱と牛蒡とツインテール45

「…!」
肩口に感じた冷たさに、しきははっ、となる。だがしきはなにも言わず、ただ体に回した腕に力を込めた。
小十郎はなにも言わない。しきもなにも言わない。外で、梟の鳴く声がする。
「…小十郎さま」
「…………」
「小十郎さまのせいではないです。…それに三成は、強い」
「…分かってる」
「……小十郎さま」
「うるせぇ黙ってろ…」
「………、はい」
しきはふ、と薄く笑うと、小十郎を強く抱きして背中をとんとんと叩いた。小さな子どもをあやすように、とんとんと、背中を叩いた。

 「…悪い」
「大丈夫…ですか?」
「あぁ」
少しして小十郎はしきから離れた。ぐい、と目元を拳で拭った仕草は、見なかったことにした。
「…ご飯冷めちゃいましたね」
「気にしねぇよ、さっさと食う」
「…小十郎さま、徹夜とかしないでくださいね」
「………それが、お前らに心配かけさせる事になんならやらねぇよ」
「…すいません」
「謝るようなことじゃねぇだろ」
小十郎はあっという間に食事を平らげると、ぱん、と小さく音をたてて手をあわせた。
「…馳走になった」
「はい。…、小十郎さま、何か…やっておくこととかありますか、その…まだ私素人ですけど、債務の事とか」
「…、ねぇよ。悪いな」
「っ、いや……」
「…ありがとな」
小十郎は、わしゃ、としきの頭をなで、部屋を出ていった。残されたしきは少しの間ぽかんとした後、頭に手を当て、顔を真っ赤にさせたのだった。



 それから数日がたって、政宗は意識を取り戻した。だがそれと同時に、日ノ本を震撼させる、「凶王三成」の噂が奥州にも届くようになった。
各地の村村を襲い、見せしめのように自軍の旗を残しているのだという。女子供にも容赦しないやり口に、凶王、と呼ばれるようになったのだ。
ある日、しきが庭掃除をしていると、風を切る音が聞こえた。なんの音だろう、とそちらへ行くと、政宗が刀を振っていた。
「政宗様!まだ刀を振るには、」
「Ah?なんだてめぇか」
政宗は刀を振る手を止め、しきを振り返った。そして、Hum、と何かを思い出したように顎に手を当てて首をかしげた。
「…あの日、小十郎をけしかけたのはお前だよな?」
「け、けしかけるつもりは…!」
「お前、この先の事知ってんだろ。…石田がこうした動きを起こすことも、知ってたのか」
「!」
不機嫌な空気をまとう政宗に、しきはむ、となる。
小十郎に忠告し、向かわせたくらいなら、何故この事も言わなかったのか。
なんとなく、そう言いたいのだろうとしきは察した。
「…、……知ってましたよ。でも、政宗様が三成に喧嘩を売らなくても、こうなっていたとは思います」
「あン?」
「先の事話そうとすると口切れるんで言えないですけど…三成、いや、豊臣の生き残りは一人じゃないってことです。そして…普通の人も、いない」
「……。…だが、俺がきっかけであることには違いねぇだろ」
「………」
「政宗様!」
政宗の言葉にうまい返事が思い付かず、しきが黙ってしまったところへ、小十郎が姿を見せた。
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