スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

オカントリオの奇妙な旅路8

「独眼竜には何か気になることはないのか?」
「いいや、ねぇ。ここんとこ特に変わりなかったからな」
「そうか…。……実はな、独眼竜。さっき知らせがあってな」
「?」
家康は眉間を寄せ、少し考える様子を見せたあと、政宗を手招きした。少し離れた所に座っていた政宗は、その行動を若干不思議に思いながらも家康ににじりよった。
家康はひそひそ話でもするように政宗に顔を寄せた。
「…真田が三成の元に使者を出していたんだ。話では、どうも真田の忍が突然消えたらしい」
「What?確かなのか、それ」
「いいや…あくまで"らしい"という話だ。だけど、片倉殿がいなくなったのと時期が被る。それに、これもまた"らしい"の話だが、その使者を出したのが忍が刑部と共に動いているから真意を確かめるために、なんだそうだ」
「刑部……ってぇのは、向こうの軍師ってェ話の野郎か」
「あぁ」
政宗は家康の話に眉間を寄せる。少し考え込む様子をみせ、不愉快そうな表情で家康を見た。
「…軍師のpositionの野郎が三人も行方をくらませた、って事か」
「"らしい"の話を事実と仮定すると、そういうことになるな」
「…そういや、小十郎の畑につまみ食いした形跡があったな……」
「ん、んん?」
不意に政宗が呟いた言葉に、家康は目をぱちくりとさせて混乱したように聞き返す。
政宗は小十郎からの文を見つける前に小十郎を探しに畑にいっており、真新しい手入れの痕跡がないのに不自然に野菜が無くなっていることに気がついていた。
「…ひょっとすると、その三人、今一緒のところにいるかもしれねぇな」
「!」
家康は政宗が出した仮説に僅かに目を見開いた。



 その夜。
京の三人は無事宿を見つけ、十分に体を休め、吉継が一人情報収集に出掛けていた。
宿に残された小十郎と佐助は各々勝手に時間を過ごしていた。
「…真田の大将馬鹿なマネしてないといいんだけどなァ」
「政宗様もいくらじき出立の予定だったとはいえ、馬鹿な真似をなさらなければいいんだが」
「ねぇ右目の旦那ァ。旦那は今回のこと、自然現象だと思ってる?それとも人為的な事件?」
佐助の問いかけに刀の手入れをしていた小十郎はその手を止め、考える。
「……さあな。まだなんとも分からねぇ、だが…人為的なものじゃねぇかとは思うな」
「俺様も。だって、妙すぎるもんね、変わり方が」
「お前の言うオカン属性とやらか?認めたくはねぇが」
「まぁね…ていうかオカン属性とかいうなら、立花の旦那も入る気がする…けど、そうじゃなかったんだよね」
「…あの男が犯人だとして、俺とお前だけならまだ分かるんだがな」
「松永久秀……でしょ?」
「あぁ」
二人の脳裏を過ったのは、松永久秀という男。悪い噂はたくさんあり、それでいて伊達や真田にやたらちょっかいをかけてくる実績がある。そして何より、こういった胡散臭いものの類いをよく使うのだ。
だが彼が犯人だとすると、吉継も変えられた理由が二人には思い付かなかったのだ。

オカントリオの奇妙な旅路7

「…悪い」
「……そんなつもりはなかった、とは言わないんだね」
「誤魔化しても意味ねぇだろ」
「ヒヒッ、正直者で何よりよ」
吉継はくすりと笑って目を伏せ肩をすくめた。小十郎は吉継の反応に薄く目を細め、何か言いたげに口を開いたがすぐに閉じた。
佐助はその様子を見て何か考え込む様子を見せたが、何も言わず吉継に向き直った。
「…で、これからどうする?情報を探るにも、こう明るいと知ってそうなのもあまりいないよ」
「そうさな、まずは…拠り所を探すか。夜まで暫し休むが吉であろ」
「そうだな…丸1日歩き通しでここまで来たからな…少し疲れた」
「あ、俺様も…普段ならこれくらい大丈夫なんだけど」
「ならばまずは宿探しよ」
全会一致で宿探しが決まった三人は、その場で手頃な宿を探すことにした。



 その頃三成は。
「真田から文?……刑部の件か」
「いかが返答なされますか」
「分かりかねる。仔細が分かったら伝えると」
「はっ」
幸村からの文が届き、その返答を適当に返していた。今日に出立するために仕事を普段よりこなさなければならず、暇ではなかったのだ。吉継がいないこともそれに拍車をかけていた。
「石田。大谷はどうした」
「刑部は刑部で動いている。刑部に何か用か、毛利」
「どこにおるかは知らぬ、ということか」
「動き回っているからな。正確にどこにいるかは知らん」
「…………」
ばちり、と二人の間に小さく火花が散る。毛利はふん、と鼻を鳴らすと、ならば用はない、と言って背を向け去っていった。
三成も深くは言及せずその背を見送った。その視線は僅かに鋭い。
「石田様、東軍に動きが」
「何?」
そこへ、かた、と小さく音をたてて忍が三成の斜め後ろに降り立った。三成は忍の報告に眉間を寄せた。
「伊達軍が徳川軍に合流した模様」
「…家康が動くのか」
「否、動きはありませぬ。そして、隠す動きがありはしましたが、伊達軍の副将であり軍師である者がいない模様」
「軍師がいない?」
「は。片倉小十郎という男でございます」
「…分かった、下がれ」
忍は三成の指示に音もなく姿を消した。三成は忍の報告に、ただでさえ寄っていた眉間を寄せる。
「…真田の忍は忍でありながら副将だと刑部が言っていたな。誰だか知らんが東軍に属した副将もいない…これは何か関係があるのか?」
三成は小さく呟き、考え込む。
答えを考えたところで、三成には分からなかった。
「…くそっ、忌々しい…!」
三成は考えるのをやめ、さっさと動くべく仕事を片しにきびすを返した。

 「片倉殿がいなくなった?」
「Yes」
同じ頃、政宗は自軍の総大将、徳川家康に事の次第を報告していた。家康はきょとんとしたように政宗の話を聞いて首をかしげる。
「ワシが言うのもなんだが、片倉殿が何も言わずに消えるというのは…」
「あぁ。妙だ、尋常じゃあねぇ」
「身体に異常があるというのも…」
家康はそう言ってふむ、と口元に手をやった。

オカントリオの奇妙な旅路6

「ん、そうなのかい?そりゃあ引きとめっちゃって悪かったね!」
「いやー、こちらこそこーんな無愛想な兄弟子でごめんねーにーさん」
「ほぅ?我のこの笑顔のどこが無愛想よ」
「その笑顔こええってー」
「ははっ、まぁ俺も立ち寄っただけで長居は出来ねぇんだ。ここの祭はいい祭だからさ、楽しんでってくれよな!」
慶次はそう言うとにかっ、と笑い、佐助と小十郎の頭を撫でて去っていった。
小十郎は撫でられて乱れた髪を手櫛で戻し、ふぅと息をついた。
「…俺が言うのも何だが、いかせていいのか、大谷」
「今下手にちょっかいを出せば厄介なことになろ」
吉継は目を閉じ、そう言って慶次が去った方向から目をそらした。佐助は吉継の言葉にはっ、と小さく笑う。
「言うね〜風来坊の旦那は気が付いてなかったみたいだけど、殺気が痛いぜ旦那」
「殺気?ハテ、なんのことやら。アレは雑賀のおまけでついてきたような男よ、興味ないわ」
「ふーん?」
ばちり、と二人の間に火花が飛ぶ。つくづくこの二人は相容れないようだ。
小十郎は小さくため息をつき、佐助の腕を掴んだ。
「…猿飛、今はんなことで揉めてる場合じゃねぇはずだ。テメェにも都合ってもんがあんだろうが、いちいちつっかかんのは止めろ」
「……………」
「テメェがいねぇ真田が、早まった行動を起こさねぇとも限らねぇんだぞ」
「…右目の旦那に言われなくても分かってるよ」
佐助はどこかムッとしたような顔で小十郎を見た後、腕をつかむ小十郎の手を振り払った。吉継はわずかに目を細めた後、くるりと背を向けた。
「このような祭の場には用はない。はよ行くぞ」
「行くってのはいいがどこにだ?」
「こうした繁華街の近くには、裏の道があるのよ」
「あー、それはいえるかもね。忍よりたちの悪い情報屋もゴロゴロ」
佐助もすぐに調子を戻し、歩き出した吉継の後ろについていった。小十郎もそれに続く。
祭の中心地を抜けると、京の町でも一気に静かになった。閑静な長屋の合間を三人の足音が響く。佐助はふ、と思い出したように眉間を寄せた。
「…しっかし、分業できないってのは困ったね。大谷の旦那が若輩者の姿は不便だっての分かった気がするよ」
「確かにな…さっきの事から考えても、こうも子どもの姿だとろくに相手にもされねぇだろうな」
「大谷の旦那頼り、ってわけか…」
「そう落ち込むこともなかろ。我がこのような状況になったと三成に知れるのは困りものゆえな」
忌々しいことにの、と吉継は呟く。佐助はなるほど、とぽんと手を叩いた。
「自動的に俺様と右目の旦那は大谷の旦那の弱みを握ってしまった、てこと?」
「まぁ、こう頼るしかない今は脅そうとも思わねぇけどな」
「お互い様、ってわけね」
佐助は肩をすくめ、両腕を頭の後ろで組んだ。小十郎は目を細めて吉継の後ろ姿を見つめる。
どこをどう見ても、きれいな体だった。吉継の悪い噂は幾度と耳にしていたが、過去をこうして知ってしまうと、どうにも同情的になってしまう。
小十郎のそんな考えが伝わったのか、吉継がちらり、と小十郎を振り返った。
「…同情しているならくびり殺しやるぞ」
「っ、」
「我を最も苛立たせたのその同情よ。くだらん事を考えている余裕があるなら解決策を考えやれ」

オカントリオの奇妙な旅路5

 それぞれの場所でそれぞれ騒ぎがあった翌日、三人は京都に辿り着いた。京の都は祭が近いのか、わいわいと戦が近いとは思えない賑やかさだった。
「やれ、呑気なことよな…」
「あー、俺様あれ食いたーい」
「ガキかテメェは!」
吉継は呆れたような妬ましそうな声で小さく呟き、二人がついてきていないのに気がつかないままさっさと歩みを進めた。
佐助はへらっと笑みを浮かべ両手をあげる。
「子供ですけど?推定年齢俺様8つくらいですけど?右目の旦那も10くらいですけどー?」
「てんめ…ッ!」
「アンタ達、ここいらじゃあ見ない顔だねぇ。遠くから来たのかい?」
小十郎と佐助がぎゃいぎゃい騒いでいるところへ、近くで祭の用意をしていた女が声をかけた。
ぴた、と小十郎と佐助は言い争いをやめる。相当若返っているために自分達が何者であるか知り合いがいたとしても気付かれることはないだろうが、この状況で下手に騒ぎを起こすのも得策ではない。
「…えーっと…」
「アンタ達、親はどうしたんだい。その年で子供たちだけッてのはおかしな話だ。……あ、まさか迷子かい?だったら今ちょうどあっちに…」
次々と捲し立てる女の勢いに二人が目を丸くしてしまっている所へ、事態に気がついた吉継が戻ってきた。
ぽかんとしている二人の後ろに回り、がし、とそれぞれの肩を掴む。
「あいすまぬ、ちと目を離した隙にちょこまかといなくなってしまってなァ、探しておった」
「ん?あんたぁ、この子達の知り合いかい?」
「同じ寺の兄弟子といったところよ。この二人は入ったばかりでなァ、和尚殿が祭りがあるから連れ出してやれと」
「「(よくもまぁぺらぺらと!)」」
さらっと適当なことを並べる吉継に、半ば感嘆しながら小十郎と佐助は思わず互いを見やる。女は吉継の言葉に納得したようで、そうかい頑張るんだよ、と小十郎と佐助にあめ玉を握らせ、準備に戻っていった。
女が視界から消えた所で、吉継は手を離しくすくすと笑った。
「ヒヒッ、よかったなァ」
「…大谷の旦那の饒舌はその頃から健在?」
「…何はともあれ助かった、だがあの女の口ぶり…ひょっとしたらここ…」
「あれー?君たち…見ない顔だねぇ!」
小十郎は女の口ぶりから嫌な予感がしていて、それを言おうとした時被せるように陽気な声がした。
三人してそちらを見やれば、派手な男が一人。吉継はにこ、と人の良さそうな笑みを作った。
「少し離れた寺の者よ。主は?」
「俺は前田慶次!こいつは猿の夢吉。祭に遊びに来たのかい?」
派手な男の名前は前田慶次。前田利家の甥に当たる男で、一時期西軍に属していたが抜け、その後の消息は分かっていなかった。
吉継は口元に笑みを浮かべたまま、笑っていない目で慶次を見据えた。佐助は我関せずといったように視線をそらす。小十郎も話には聞いていたので、いざという時のために懐に忍ばせた刀にそっと手を添えた。
「まぁ…それだけではないがの」
「ははっ、そうかい!なら案内してやろうか?この祭は、」
「生憎だが遠慮しておく。そう暇でもないのよ」
吉継は慶次の申し出をぴしゃりと断った。

オカントリオの奇妙な旅路4

「うおおおおおああああ?!!?佐助ぇぇぇぇえどこへ行ったァァァ!?」
少しして夜が明け、武田の本拠地、上田城に城主真田幸村の大声が響き渡った。
幸村は腕をプルプルとさせながらたった今読み終えた書を見つめた。その書には、吉継と共にしばらく武田を開けることが簡潔に書かれていた。
幸村の大声に何事だと家臣が集まる。
「何故俺に何も言わずに…!誰か!石田殿の元へ早馬を!!」
幸村は事の真意を確かめるべく、だが自ら行くことはせず、部下を向かわせることにした。



 「…………」
同じ頃、西軍総大将石田三成は、むっつりとした顔で書を見下ろしていた。それは吉継が残した書で、そこには佐助の書と似たようなことが書かれていた。
しばらく抜ける、だが戦までには戻る。我の事は気にせず主は事を進めてくれやれ。
書はそのように締め括られていた。ぎり、と三成の歯が鳴る。
「ぃよう、石田ァ!……ぁん?なんだ、大谷どっか行ったのか」
「…そのようだな。貴様はなんのようだ、長曽我部」
「おう、この前の戦の事なんだけどよ、」
三成は自分のもとを訪れた長曽我部に話を合わせ、気にするそぶりは見せないものの、何か胸騒ぎがするのを感じていた。
「(刑部…貴様何を隠している…)」
だが本人が不在の今、三成に確かめる術はなかった。
「…長曽我部、私も刑部同様用ができた、近いうち一度京に行く」
「あぁ?そうなのか?連れはいんのか」
「いない」
「はぁ?!総大将を一人でほっぽり出せるかよ、俺もついてくぜ!」
「好きにしろ」
三成は吉継の手紙から、吉継が何かを探りに行った事を読み取っていた。明朗にそれが書かれていないという事はそれが何かも分かっていないということだ。
そんな状況で吉継ならどこへ行くか。三成はそう考え、京に行くことを決めた。
いないのならば、見つけて問いただせばよい。幸い、戦までにはまだ準備することも多く、京に行くことは例え吉継がおらずとも無駄足にはならない。
「…隠し事は許さない」
三成は机の上においた書を睨み、小さくそう呟いた。



 「どういう事だァァァ!」
そしてこれまた同じ頃、奥州では政宗がそう叫び声をあげていた。その手にはやはり小十郎が残した書がある。
身体に異常あり、原因を探って参ります。
書には簡潔に、それだけ書かれていた。政宗は苛立ったように書を壁に投げつける。
「Shit!!俺に隠れて行動するたァいい度胸してんじゃねぇか小十郎!成実!」
「うっス!」
「厩行って小十郎の馬あるか確認してこい。いなかったら俺の馬連れてこい!家康ん所に行く!」
「へっ?り、了解っす!」
政宗はばさりと寝間着を脱ぎ捨て、戦装束に手をかけた。
「テメェがいなけりゃ話にならねぇ…家康に頭下げなきゃならねぇかもな」
Shit、と政宗は小さく舌打ちした。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2013年09月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30