オカントリオの奇妙な旅路6

「ん、そうなのかい?そりゃあ引きとめっちゃって悪かったね!」
「いやー、こちらこそこーんな無愛想な兄弟子でごめんねーにーさん」
「ほぅ?我のこの笑顔のどこが無愛想よ」
「その笑顔こええってー」
「ははっ、まぁ俺も立ち寄っただけで長居は出来ねぇんだ。ここの祭はいい祭だからさ、楽しんでってくれよな!」
慶次はそう言うとにかっ、と笑い、佐助と小十郎の頭を撫でて去っていった。
小十郎は撫でられて乱れた髪を手櫛で戻し、ふぅと息をついた。
「…俺が言うのも何だが、いかせていいのか、大谷」
「今下手にちょっかいを出せば厄介なことになろ」
吉継は目を閉じ、そう言って慶次が去った方向から目をそらした。佐助は吉継の言葉にはっ、と小さく笑う。
「言うね〜風来坊の旦那は気が付いてなかったみたいだけど、殺気が痛いぜ旦那」
「殺気?ハテ、なんのことやら。アレは雑賀のおまけでついてきたような男よ、興味ないわ」
「ふーん?」
ばちり、と二人の間に火花が飛ぶ。つくづくこの二人は相容れないようだ。
小十郎は小さくため息をつき、佐助の腕を掴んだ。
「…猿飛、今はんなことで揉めてる場合じゃねぇはずだ。テメェにも都合ってもんがあんだろうが、いちいちつっかかんのは止めろ」
「……………」
「テメェがいねぇ真田が、早まった行動を起こさねぇとも限らねぇんだぞ」
「…右目の旦那に言われなくても分かってるよ」
佐助はどこかムッとしたような顔で小十郎を見た後、腕をつかむ小十郎の手を振り払った。吉継はわずかに目を細めた後、くるりと背を向けた。
「このような祭の場には用はない。はよ行くぞ」
「行くってのはいいがどこにだ?」
「こうした繁華街の近くには、裏の道があるのよ」
「あー、それはいえるかもね。忍よりたちの悪い情報屋もゴロゴロ」
佐助もすぐに調子を戻し、歩き出した吉継の後ろについていった。小十郎もそれに続く。
祭の中心地を抜けると、京の町でも一気に静かになった。閑静な長屋の合間を三人の足音が響く。佐助はふ、と思い出したように眉間を寄せた。
「…しっかし、分業できないってのは困ったね。大谷の旦那が若輩者の姿は不便だっての分かった気がするよ」
「確かにな…さっきの事から考えても、こうも子どもの姿だとろくに相手にもされねぇだろうな」
「大谷の旦那頼り、ってわけか…」
「そう落ち込むこともなかろ。我がこのような状況になったと三成に知れるのは困りものゆえな」
忌々しいことにの、と吉継は呟く。佐助はなるほど、とぽんと手を叩いた。
「自動的に俺様と右目の旦那は大谷の旦那の弱みを握ってしまった、てこと?」
「まぁ、こう頼るしかない今は脅そうとも思わねぇけどな」
「お互い様、ってわけね」
佐助は肩をすくめ、両腕を頭の後ろで組んだ。小十郎は目を細めて吉継の後ろ姿を見つめる。
どこをどう見ても、きれいな体だった。吉継の悪い噂は幾度と耳にしていたが、過去をこうして知ってしまうと、どうにも同情的になってしまう。
小十郎のそんな考えが伝わったのか、吉継がちらり、と小十郎を振り返った。
「…同情しているならくびり殺しやるぞ」
「っ、」
「我を最も苛立たせたのその同情よ。くだらん事を考えている余裕があるなら解決策を考えやれ」