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凶姫と龍人11

「何故なんだ三成……どうしてワシじゃダメなんだ……?」
「い、家康君、」
「誰もいない、ワシを断る者なんて!皆の前で恥をかいた……。うるさい、ちょっと黙っててくれないか?」
家康はそう言うと椅子ごと最上に背を向けた。最上はあからさまな拒絶に気付いているのかいないのか、家康の前に回った。
「落ち込むなんて貴公らしくもない。貴公は最高だよ!しっかりしたまえ!この村に貴公以上の男などいないのだよ?」
最上は何が楽しいのかくるくると踊り、びしっ!と家康に指を突きつけた。
「貴公は素敵で優しくお洒落で強く、皆の憧れではないのかね?!ま、我輩には劣るがね!」
「…………」
「自分をよく見たまえ!まずは貴公の完璧なその肉体!誰にも劣らぬ筋肉ではないのかね?!男の中の男だよ!世界中が膝まづく、偉大な男ではないか!まぁ、我輩のより優雅さには欠けるがね!」
「…はぁ……」
「この居酒屋にある動物は全て貴公が射止めたものではないか!銃の腕は百発百中!喧嘩をすれば必ず勝つ!村の婦女子は皆貴公を愛し、その腕に抱かれたいと願っている、そうだろう?」
最上の言葉に居酒屋にいた女たちが家康の周りに侍る。家康は女たちには目もくれずにふぅとため息をついた。
「履いている靴にまで憧れるよ!まぁ、知恵勝負では我輩が勝つがね!」
「お前はワシをバカにしたいのか最上」
家康を誉めているようで誉めていないような最上に家康は黒い笑みを浮かべ、つかつかと歩み寄るとひょいと持ち上げた。
「うぇっ、あ、ちょ、やっ、こーん!」
「ははは、ワシは筋力は勿論、握力もすごいぞ。試してみるか?」
「い、いやいやいや、遠慮しておくよ!まぁ落ち着いて玄米茶でも飲もうではないか!」
「お前の淹れる茶はお世辞にもうまいと言えないから遠慮しておく」
家康はそう言うとぽーんと最上を投げ捨てた。こーん!とないて床に落ちた最上を回りの男は笑い、女は再び家康に近寄った。交互に腕を引く。
「家康様ぁー、三成じゃなくて私を見てよォ」
「えー、私よー」
「はは、困ったな」
家康はそう言いながらも笑みを浮かべた。少し立ち直ったようだ。
「い、家康君。貴公のその力はどこから来ているのだね?」
「ワシはこれでも昔は三成よりも小さくてな。それではダメだと思って、毎日卵を48個食べていたんだ。だからこんな大きくなれた!今は60個食べるぞ?」
「動物性たんぱく質を取りすぎだよ、家康君」
感嘆の声が居酒屋の中に響いた時、ばんと扉が開く音がし、凛とした声が部屋に響いた。ぴたり、と静かになる。家康は声の主を意外そうに振り返った。
「半兵衛殿。学会とやらに行かれたのではなかったのか?」
「意味の分からねぇもん書いてるから追い返されたんじゃねぇのか?」
誰かがそう呟き、笑い声が巻き起こった。半兵衛は笑われながらも顔色1つ変えず、家康に歩み寄った。
「本当は君なんかに頼みたくないんだけど、秀吉がいない今、彼に対抗できそうなのはこの村では君しかいないからね」
「彼……?半兵衛殿からの頼みなんて珍しいな」
「率直に言おう。三成君を助けてほしい」
「………え?」
家康は僅かに目を見開いた。他の男たちはまだ騒いでいる。
「彼は三成君を牢に閉じ込めた。このまま引き下がるわけにはいかない、けど、僕に彼に対抗できる力はないからね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。誰が三成を?」
「あの森の中に黒い城がある。そこの主の…人であって人でないようなものに、だ」
家康は半兵衛の言葉に戸惑いを浮かべ、半兵衛に近寄った。

凶姫と龍人10

ばん!と政宗は三成の部屋の扉を叩いた。
「何で来ねぇ!!」
「政宗様、紳士的に!」
「そうだそうだ、すぐ怒るのはよくねぇって!短気は損気!!」
怒鳴る政宗を慌てて小十郎と元親が諫める。吉継は離れたところでヒッヒと笑っていた。
「……晩餐に、来て欲しいんだが」
『もう一押し!』
「あ、貴女と晩餐を過ごせたら…とても嬉しいんだが」
「貴様自分が言ったことを忘れたのか。来たくないならば来なくてもいいと言っただろう」
閉じられた扉越しに三成の声がする。ぴき、と政宗の額に青筋がたったとき、小十郎が前に出た。
「すまねぇ姫様!あれは政宗様の照れ隠しなんだ!」
「What are you saying?!」
「…そうではないかと内心思ってはいたが」
「!!Shut up!!」
政宗は真っ赤になって小十郎を掴むと思いきり投げた。小十郎は弧を描いて飛んでいき、官兵衛の上に落ちた。
政宗は扉に向き直る。
「いいから出てこい!」
「どうしてもと言うのなら、半兵衛様を連れ出した時のように連れ出せばいいだろう!だが、そうするつもりならば斬滅してくれる!」
「飯も食わねぇで閉じ籠ってるつもりか?!」
「貴様の情けなどいらん!」
「…!ならずっと閉じ籠ってろ!!」
政宗は捨て台詞のようにそう怒鳴ると背を向けた。
「お、おい王子!」
「奴に飯やるんじゃねぇぞ。俺が許すまでな」
政宗はそう言い残すと去ってしまった。残された元親、吉継、官兵衛と小十郎は顔を見合わせる。
「…どうするよ……折角のチャンスを逃すわけにゃいかねぇぞ!」
「今すぐにはどう考えても無理な話よ。やれ、あれは第五天に任せるとしよ」
「第五…あぁ、お市さんか」
「だがいくらなんでも飯を食わすな、は従える命じゃねぇ。元親、お前はしばらくここを見張ってろ、あの姫様の様子を見ろ」
「おぅ、合点承知よ!」
「では我等は面倒な料理長に晩餐の中止を伝えに参るとしよ」
「俺は政宗様の様子を見てくる」
そう言い合って、四人はそれぞれの目的地に向かい離れた。
 「あの野郎!俺が頼んでるってのに!」
自室に戻った政宗は腹立たしげに壁を叩いた。ばちばちと雷がはぜる。政宗は机の上の鏡を手に取った。
「あいつを見せろ」
政宗がそう言うと鏡は蒼白く光り、鏡面に三成が写った。膝を抱えて座る三成の傍にそっと市が近寄る。
『…独眼竜…いや、政宗さまは悪い人じゃないよ……?』
『奴の人となりなどどうでもいい!晩餐など嫌なのだ!』
政宗は三成の言葉に僅かに目を見開き、鏡を伏せた。悲しげに顔を歪め、力なく鏡と薔薇が乗っている机に体を預けた。
「…ha…当然だよな、こんな姿…愛する人間なんざ、いるわけねぇ…」
政宗はそう言って頭を抱えた。
政宗は知らない。三成の言葉に、続きがあったことを。
「私はすでに朝、食事を取った!これ以上食えるものか!」
「…あなた…それはいくらなんでも少食だし……独眼竜勘違いしてるよ…?」
「えっ」

 「………………」
「い、家康君、麦酒でもどうかね?」
「いらない」
同じ頃、村の酒屋では、家康が不貞腐れていた。なんだかんだ、昨日三成にフラれたのが堪えているらしい。
最上は家康を励まそうとしてはいるが、全て空回りしているようだ。

凶姫と龍人9

「やれすまぬな。驚かせてしまったか」
「てぃ、ティーポット…?」
「我は大谷吉継、そこなカップは幸村よ。色々な事が起きて混乱しているであろ?茶でも飲みやれ。幸村、沸騰させたら許さぬゆえなァ…?」
「うっ…わ、分かっておりまする…」
「そう脅しなさんな、刑部」
吉継の前で止まった幸村は冷や汗をだらだらとかきながらそう答えた。沸騰させてもちょうどよく冷めるかもしれない。
吉継が茶を注いでいる間、官兵衛は吉継の隣で尻尾を揺らし鉄球を転がしていた。
「ほれ、進め進め」
「お、お飲みくだされー!」
「…す、すまない」
僅かに湯気をたてる茶に三成は内心ほっとしながらカップに口をつけた。そのときに僅かに温度が上がったような気がしたが、緊張からかそれとも恐怖からか、がたがたと震える幸村が可哀想なので、なにも言わないことにした。
「…美味しい。これはなんという茶なんだ?」
「かもみーるという茶よ。かもみーるには心を鎮める作用があるゆえな。落ち着きやったか?」
「そうか…感謝する」
「先程は格好ようござった!身代わりになられるとは、感動いたしもうした!」
「…ありがとう」
掌でぴょんぴょんと跳び跳ねる幸村に三成は小さくはにかんだ。その笑みに照れたか、幸村はくるくると回る。
官兵衛とその上の吉継はやれやれとため息をついた。
「お前さん、あの男とはどういう関係なんだ?」
「?」
「やれ、暗ァ……主はどうしてそう、遠慮というものを知らぬのよ」
「あっっち!おい刑部!溢れてる溢れてる!」
「いや、気にするな。半兵衛様は私の兄だ。とても頭のよい方で、私などが兄様と呼ぶのはおこがましい。だから半兵衛様とお呼びしている」
「なんと!!ご家族でこざったか!!なれば政宗殿にもまだちゃんあっっっついでござらぁぁ!」
「主まで余計な事を言いやるな!」
「だ、大丈夫か?」
何かを言いかけた幸村に吉継が官兵衛に溢したのと同じものを注ぎ、幸村は熱さのためぴょんぴょん跳び跳ねた。沸騰させる割には注がれるものの熱さには弱いようだ。
「ま、積もる話は晩餐でするとしよ」
「そうね……」
「?!!?!??!!!」
不意に後ろから聞こえた声に三成は再び飛び上がった。どうやら声を発したのはタンスらしい、扉の隙間から二本の黒い腕が出てうようよとしている。
「何着てく…?」
「こ……こはタンスも話すのか」
「ヒヒッまぁなァ。そやつは第……いや、市よ」
「ね…闇色さんはどういうのが好き……?薄紫色なんてどうかしら……?」
市はそう言うなり薄紫色のシンプルなドレスを取り出して三成の前でくるくると回した。三成は困ったようにドレスと市と吉継を見やる。
「…その事なんだが……」

 「……来ねぇ、だと?」
一時間後、政宗は吉継の言葉に吉継を振り返った。幸村と官兵衛はどことなく気まずげだが、吉継に気にした素振りはない。
「そうよ。晩餐には行かぬと」
「なんでだよ?」
「さてな。行かぬと言ったら行かぬとしか言わぬ。来たくないのならば来なくてもいいと言うたのは主であろ」
「それ理由の説明に…ってあぁ!政宗様が落ち込まれている!」
「べ、別に落ち込んじゃいねぇ!あの野郎…何で来ねぇんだ!」
「!お、おい待てよ王子!」
政宗はぎろりと上階を睨むと部屋を飛び出した。

凶姫と龍人8

「政宗様」
「…あ?」
「あの女子に、部屋を与えてはいかがでしょう?」
政宗が牢まで戻ってきた時、小十郎がそう提案した。何故か小十郎の後ろには元親が隠れている。
「…なんでだ」
「彼女は死ぬまでこの城で過ごすことになります。いくらなんでも女子に死ぬまで牢はあんまりかと」
「…」
政宗はじろりと小十郎を見据えた後、何も言わずに牢に向かった。小十郎と元親は慌てて後を追う。
牢に戻ると勢いよく三成が振り返り、振り返ったと思ったら姿が消えた。
「っ!」
政宗は顔めがけて振られた左手を、顔のとなりで捕まえた。三成は止められることは予想済みだったのか、そちらは気に止めず、僅かに目に涙を浮かべて政宗を睨みあげた。
「私はどうなってもいい。貴様の自由にすればいい、だが!何故別れも言わせてくれなかったッ!!」
「…」
「もう二度と会えないのなら、ちゃんとご挨拶したかった!私は……ッ!!」
三成はそう言うと政宗の手を振り払い背を向けた。政宗は気まずそうに視線をさ迷わせる。
「…ついてこい。部屋に案内する」
「……部屋があるのか…?」
「ここにいたいのか?」
「…流石にここは嫌だ」
三成がそう言うのを聞くと政宗はぷいと背を向け、歩き出した。三成は僅かに迷った後、刀を拾い、政宗に続いた。
 城の中は予想よりも広く大きかった。そのなかを二人は何も喋らずに歩いていく。
明かり代わりに政宗に持たれていた元親は政宗に顔を寄せた。
『おい、なんか話せよ王子』
『……なにをだよ』
『この城のこととか!なんかあるだろ!』
「………。おい」
「なんだ」
「…城から出ない限り、この城の中は自由にしていい。西の外れの部屋以外はな」
「西の外れの…そこは何の部屋なんだ」
「いいから行くんじゃねぇ!」
「…分かった」
思わず声を荒げてしまった政宗は、そっと三成を振り返った。三成は目を薄く伏せ、とぼとぼとついてきている。
政宗の目に、左腰に下げられた刀が入った。
「…おい」
「なんだ」
「その刀で俺を斬ろうとは思わねぇのか…?」
「……何を言っている。約束を違えるのは裏切りだ。私は裏切りが嫌いだ」
「……。そうかい」

ひとつの部屋の前で政宗が立ち止まる。
『王子!夕飯に誘えよ!』
「…。晩餐を一緒にどうだ。き、来たくねぇなら来なくてもいい!」
元親の言葉に政宗はそう言ったが、驚いたように振り返った三成になんだかいたたまれなくなり、すぐにそう言って乱暴に扉を閉めた。
残された三成はぽかんとしてしまう。
「…なんだ今のは……」
そう呟いて部屋を見渡し、中央にあった天涯付きベットに腰掛けた。大きな窓から、うすらぼんやりと月明かりが見えた。
「……半兵衛様…」
三成はそう呟いてぼすんとベットに身を横たえた。もだもだと何回かベットの上を転がり回る。
「…屈するものか……貴様にだけは!」
そしてそう呟いた。
その時。
「失礼いたしまするー!」
「?!!?!??!!!だ、誰だ?!」
扉を僅かに開け、幸村が勢いよく入ってきた。三成はその大声に思わず飛び上がる。
くるくると走り回る幸村に、後から入ってきた吉継はやれやれとため息をついた。

凶姫と龍人7

「半兵衛さまぁ〜…」
段々三成の声に元気がなくなっていく。元親と小十郎はそんな三成を全速力で追いかけていた。三成の歩みが速いために、小さい彼らは追いかけるのが大変なのだ。
半兵衛が監禁されている牢獄に繋がる扉を三成が通りすぎた時、元親と小十郎は半開きだったその扉を押して小さく音を立てた。はっ、と三成が刀を掴みながら振り返る。
「…半兵衛様?」
扉の先の階段を元親がかけ上がる。その事で三成の目には、明かりを持った何者かが階段を登っているように見えたことだろう。はっ、と息を飲むと刀を構えながら慎重に階段を登っていった。
「…なんて物騒な姫様だ」
扉の影から三成を見送った小十郎はそうぼそりと呟いた。

 「…半兵衛様!」
「?!三成君!?どうしてここに!」
階段を登りきった先に、三成は半兵衛を見つけた。慌てて駆け寄った三成を、半兵衛は驚いたように見上げた。
「どうしてここに…いや、そんなことはおおよその予想はつく。三成君、早くここから出るんだ!」
「こんなところに半兵衛様を置いてなど…!」
「僕の言うことを聞い…げほっ、けほっ」
「!!半兵衛様!」
「そこで何してやがる!」
「!」
話している途中で咳き込んだ半兵衛に三成が手を伸ばした時、不意にそんな声が響き渡った。それと同時に、ばちばちと電気が弾けるような音も聞こえる。
三成は刀を構え、勢いよく振り返った。
「ここの主か」
「……そうだ」
「半兵衛様を出してくれ!こんな所にいては病が悪化してしまう!」
「三成君!!」
「そいつは勝手に城に入ってきた。誰が出すか」
三成は必死で政宗の気配を探ったが、どうにも場所が掴めない。場所が掴めれば即座に斬りかかれるが、掴めない状況で斬りかかって外しでもしたら半兵衛の身に危険が及ぶ。
三成はぐ、と唇を噛んで刀から手を離した。
「…頼む、何でもする。だから半兵衛様を出してくれ!」
「止めるんだ三成君!僕の言うことが聞けないのかい?!」
「私はまだ、半兵衛様を失いたくありません!!」
「!」
「…何でもするだと?」
三成は政宗の言葉に小さく頷いた。ばちばちという音が小さくなる。
「…ならテメェが代わりに残れ。死ぬまでずっと、な」
「何を!」
「……なら、姿を見せろ。刀は捨てる」
三成はそう言って腰に下げていた刀を外し、自分の前に置いた。ふらり、と政宗が月の明かりのさす所まで出てきた。
「…………!!」
三成は息をのみ、ふらふらと数歩下がった。牢の中から半兵衛が手を伸ばし、三成の手を握る。
「止すんだ三成君!」
「…いえ」
三成は深呼吸をひとつすると半兵衛の手を振り払い、政宗の前に立った。
「…分かった、残ろう」
「Ha!!いいだろう」
政宗はそう言うと三成の隣を通り抜け、半兵衛を牢から出し連れ出した。
「三成君!」
「半兵衛様…っ!」
半兵衛が手を伸ばすがその手は三成には届かず、三成はふらふらとその場に力なく座り込んだ。
「離せ!君にあの子を任せるわけにはいかない!」
「この話は決着ついた。あいつの事は忘れんだな」
政宗は半兵衛をかごの中に押し込んだ。
「村まで連れてけ」
「出せ!僕は許さないよ!」
半兵衛はそのなかでじたばたと暴れたが、虚しくそれは村に向けて動いていってしまった。
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