スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

凶姫と龍人6

「梵天成翔独眼竜…か。どこまで主バカなんだ、この男は」
翌朝、三成は家の近くの小高い丘で、秀吉にもらった本を読んでいた。秀吉に貰った本はいくつかの主従関係の人物達をモチーフにした小説が載っている本で、三成が呟いた言葉はその中の一人の刀に刻まれている文句である。
「……家康もこれくらい潔くかつ美しく生きる男であれば、まだよかったのだがな。同じ男と言う生き物とは思えん」
昨日のプロポーズを引きずっているのか、三成はぶつぶつとそう呟いた。だがすぐに本の世界に戻り、ページを捲った。
少しして、三成は聞こえた物音に顔をあげた。そして、こちらに走ってくる天君が目に入り、目を見開いた。
「天君?!貴様半兵衛様はどうした!!」
単体戻ってきた天君に三成は駆け寄り、そう尋ねた。天君は抜けてきた森の方に目をやり、小さく嘶く。
「半兵衛様はまだ森なのか…?!私を半兵衛様と別れた所まで連れていけ!」
三成はそう言いながら家に戻った。
 本をしまい、刀を紐で腰から下げて天君に跨がった三成は天君を走らせた。
四時間ほどでその場所に着く。三成は一度天君から降りて辺りを見回した。
「半兵衛様ならば、昨夜の雪をしのげる場所を探したはず…ん?」
その時三成は、半兵衛が見つけたのと同じ、とんがり帽子の屋根を見つけた。
「…見た感じここからそう遠くない、あそこに行ったはずだ。天君!あの屋根のある所まで行くぞ!」
三成はそう言うと疲労も忘れ、再び天君に跨がった。

 「だから言ったじゃねぇか、政宗様に知れたら、と」
「でもよぅ…政宗もあんまりじゃねぇか。元はと言えば、俺達がこんな姿になったのもああいう野郎を受け入れるだけの許容がなかったからだろ?」
「…言うな。政宗様はあれで変わられてしまった、己の姿を見られる事が恐ろしいのだろう。……おまけにあの男、綺麗だったしな」
「確かになぁ…姫さんが来てくれてりゃ、もう少し変わったのかもしれねぇなぁ……」
城の中では元親と小十郎がぼやいていた。だから、三成が来たことにすぐには気付かなかった。
「失礼する!こちらの主はいらっしゃるか?!」
そう声を張り上げながら三成はずかずかと城の中に入ってきた。半兵衛より遠慮がない。
「誰かいないのか!半兵衛様!!」
「…ん?なぁ、今なんか声しなかったか?」
「あぁ?」
「外から明かりが見えた!ご在宅だろう!聞きたいことがある!」
二人がそう呟いた時、三成の声が響き渡り二人は飛び上がった。飛び上がった勢いで、部屋の扉まで走っていく。
そ、と扉の影から覗けば、三成がきょろきょろと辺りを見回しながら歩いてくる。思わず元親はばしばしと小十郎を叩いた。
「なんてこったい!姫さんだ!!」
「俺を叩くんじゃねぇ!どうなってやがる、もうじき薔薇も枯れるって時に…」
「半兵衛様!ここにいらっしゃるのですか?!半兵衛様ー!」
「!あの男を探しにきたのか…どうする?」
「どうするも何も、あんな大声出してたらすぐ政宗が来る!せめてその前に会わせてやろうじゃねぇの!」
元親はそう言うなり部屋を飛び出した。特に反対する理由のない小十郎も後に続いた。

凶姫と龍人5

置時計はふん、と顔をそらしたが、燭台は半兵衛の問いににこにこと笑った。
「俺は長曽我部元親!こっちは片倉小十郎。アンタは?」
「僕は竹中半兵衛。ここの麓の村に住んでいるんだが、訳あってこの森の先にある町に行かなきゃならなくてね」
「そうかいそうかい。無視してて悪かったな、体冷えてっだろ?上がってけ上がってけ!」
「なっ!長曽我部テメェ勝手なことを!」
声をあげた小十郎に元親は大仰に肩を竦めた。
「どーせ王子はもう寝てるだろ。雪も降ってきたし、こんな中放り出す方がよくねぇだろ」
「う、ぐぐ…!」
「いいのかい?」
「おうともよ!ついてきな」
「くそ…どうなっても知らねぇぞ!」
勝手に先導を始めてしまった元親に小十郎らイライラしたようにため息をつき、二人を追った。
 小さな暖炉のある部屋に案内された半兵衛は暖炉の前に座った。
「すまないね。お邪魔させていただくよ」
「いいってことよ!」
「よくねぇ!王子に知れぶっ!」
「あん?何じゃ、邪魔じゃっ」
ぷんすかしながら声をあげようとした小十郎だったが、後ろから突撃され段差を転げ落ちた。ずるずると鉄球を引きずりながら足置きのようなものが入ってきた。その上にはティーセットが一式乗っている。
「ヒヒ、まぁそう固いことを言いやるな。久々の客人よ、もてなすが吉であろ?」
ティーポットがそう楽しげに言った。茶を注がれたカップが跳びはねながら半兵衛の元へいく。
「さぁ!お飲みくだされー!」
「わぁ、ありがとう。でも僕は猫舌だから少し待ってくれるかな?」
「…やれ幸村よ、主はまた茶を沸騰させたか。匂いが飛ぶゆえ止めよと言うたはずだがなァ?」
「も、申し訳ござりませぬ義父上…」
「あはは、君達は面白いなぁ」
半兵衛はティーポットとカップの会話を聞いてくすくすと笑った。幸村と呼ばれたカップはぐるぐると走り回る。
「君、名前は?」
「我か?我は大谷吉継。下のこやつは暗よ」
「誰が暗じゃ!小生は黒田官兵衛だ!」
「そう。吉継君に官兵衛君、どうもありがとう」
半兵衛が笑って官兵衛を撫でた時だ。不意に暖炉の火が消え失せ、部屋の扉が勢いよく音を立てて開いた。
元親や幸村の顔が青ざめる。半兵衛は入り口の方を振り返った。目が慣れないのと逆光で入ってきた男の姿はよく見えない。
「…君がここの主かな?」
「……誰だテメェ。どっから入ってきやがった」
比較的高い声。半兵衛はこの男がまだ若いと判断し、また、わずかに感じる殺気に僅かに腰をあげた。
「…僕の名前は竹中半兵衛。馬を失ってしまい、一晩雪を凌ぐために泊めていただけないかと思いお邪魔させてもらった。出ていけと言うなら出ていくよ」
半兵衛がそう言ったとき、雲の切れ間から漏れたらしい月の光に部屋の中が明るくなり、男の姿が露になった。
「!!」
思わず半兵衛は目を見開いた。その表情の移り変わりに気がついたか、男の表情が怒りに染まった。
「何見てやがる…!」
「仕方ないじゃないか見えてしまったんだから、」
「泊まりてぇとか言ってたな。なら泊めてやる、二度と出さねぇがな」
「なっ!は、離せ!!」
男は半兵衛の腕をつかみ、どこかへ連れていってしまった。残された元親達の中で、小十郎が深いため息をついた。

凶姫と龍人4

 「…おかしいな。道に迷ったかな」
日が沈む頃、半兵衛は誰ともなしにそう呟いた。跨がる白馬の天君が不安げに嘶く。
半兵衛は天君の首元を優しく撫でて回りを見回した。
「…学会はまだ間に合うけれど、日が沈み切る前に抜けたい…。天君、駆けよう」
半兵衛はそう言うと天君の横腹を蹴った。ひひん、と嘶き、天君は勢いよく駆け出す。
「……?嫌な気配がする。なんだ?」
半兵衛は不意に感じた気配に視線を巡らせた。木々の間からちらりと見える、黒い影。
「…!狼か!!」
半兵衛がその影の正体に気付いたと同時に狼が飛び出してきた。天君が道を塞がれた事で前足をあげる。
「うわっ!」
思わず半兵衛は手綱を放してしまい、天君から転がり落ちた。天君はそのまま駆けていき、狼が天君に連れられて去ったために半兵衛は助かったが、森の中に残されてしまった。
「…しまったな、どうしたものか…。……ん?」
ふ、と顔をあげた時、半兵衛の目に尖り帽子状の屋根のような物が写った。半兵衛は一か八か、そこへ行ってみることにした。
 近づいてみると、それは巨大な城の一角だった。黒く薄暗い城を前に、半兵衛は眉間を寄せた。
「…こんな所に城があったなんて。まだ誰か住んでいるのか?」
門の側を見渡しても門番はおらず、閑散としている。歩き始めてから降りだした雪のために冷え始めた体を軽く抱き締め、ふうとため息をついた。
「仕方ない、住んでいたら、無礼は承知だが進ませてもらおう」
半兵衛はそう言い門を押した。抵抗もなく軽く開く。門から正面玄関まで進み、玄関で念のためノックした。反応はない。
「お邪魔します」
正面玄関も鍵はかかっておらず、簡単に開いた。半兵衛は素早く中を見渡した。埃が積もっていない。
誰か住んでいる。
「どなたかいらっしゃいませんか。旅の者です。一晩雪を凌ぐため、泊めていただきたいのですが」
半兵衛はそう声を張り上げた。夕食時を少し過ぎた頃、まだ寝るには早い。そう判断しての大声だったのだが、返事はやはり返ってこない。
「…どういう事なんだ」
そう呟いて半兵衛が歩みを進めた時だ。
「それ以上入るんじゃねぇ!」
不意にそんな声が玄関ホールに響いた。半兵衛は大人しく歩みを止めた。
「僕の願いは聞き入れてもらえないだろうか?」
半兵衛は注意深く辺りを探りながらそう尋ねた。その時。
「おいおい小十郎さんよ!黙ってろって言ったのアンタじゃねぇか!」
「不法侵入を黙って見ていられるか!」
「……君達かい?」
再び響いた声にそちらを見たら、そこにはあるのは置時計と燭台。だがそれにはよく見ると顔があり、口元が動いていた。
だから、半兵衛は半ばぽかんとしながらそれを見つめ、再び尋ねた。置時計と燭台がぎょっとしたように半兵衛を見た。
「バレちまったじゃねぇかよ!」
「う、うるさい!」
「……これは驚いたな、話す燭台や置時計があるなんて。それに、こんな精巧な時計は見たことがない」
半兵衛はそう言って置時計を持ち上げ、くるくると回して観察した。
「テメェ!何しやがる!」
「あぁ、すまない。ところで君達は?」
半兵衛は置時計を元に戻し、再び尋ねた。

凶姫と龍人3

「…そうだ、三成君。僕は論文を提出しに隣町まで行かなきゃならないんだ」
「!そういえばそんな時期ですね」
朝食を終えた時、半兵衛はふと思い出したようにそう言った。三成はその言葉を聞いていそいそと用意を始める。
半兵衛はそんな三成を見ながらくすりと笑った。
「…なんだか浮かない顔だね、三成君」
「…えっ?」
「ここのとこ数日、ずっとそんな顔だよ」
半兵衛にそう指摘され、三成はわたわたと慌てた。そんな三成に半兵衛はくすくすと笑う。
「話してごらんよ。何かあったの?」
「……いえ、大したことではないのですが…半兵衛様、私は変わり者でしょうか?」
「変わり者?君が?別に?」
「村の秀吉様と家康以外の皆がそう言うのです」
「…僕も言われてるよ。何、言わせておけばいい。君の可愛さは僕が十分分かっているよ」
「ははははは半兵衛様…!」
半兵衛の言葉に三成の顔が真っ赤になる。半兵衛は可愛いなぁ、と呟きながらそんな三成の頭を撫でた。
「家康君も言わないというのは少し意外だったけどね」
「…アイツは絆を結べとしか言ってきませんから」
「はは、流石家康君、ちょっと感心した僕がバカだった」
半兵衛はそう言って呆れたように笑い、出立の用意を始めた。
 「じゃあ、行ってくるね三成君。出来るだけ早く帰ってくるけど、戸締まりには気を付けてね」
「はい!いってらっしゃいませ、半兵衛様!」
三成はそう言って、出立する半兵衛を笑顔で見送った。
半兵衛の姿が見えなくなるまで手を振り、ふぅ、と息を吐き出した。
「三成!ため息なんてついてどうした?」
「ウワァァァァ貴様イエヤスゥゥゥ!!」
突然三成の後ろから家康が現れ、三成に抱きついた。突然の事に三成は半ば悲鳴に近い声をあげ、数メートルとびずさった。
「何をしにきた!」
「訪ねてはまずかったか?」
「用がないのならば来るな!」
「ならば大丈夫だ!ワシはお前に話をしにきたんだ!」
「貴様との対話を拒否する!帰れ!」
にこにこと笑い近寄ってくる家康から三成は逃げる。
家康はふ、と家の横手を見て首をかしげた。
「馬がない。半兵衛殿出掛けたのか?」
「半兵衛様は学会だ」
きらり、と家康の目が光ったのを三成は見逃さなかった。
「ということは三成一人だろう?それは危ない!半兵衛殿が戻るまでワシの家に来るといい!」
「やはりそれが狙いかイエヤスゥゥゥ!!下心が丸見えだぞ!」
「下心?まさか!ワシがそんな目でお前を見るわけないだろう!」
家康は三成の言葉にがし、と三成の手をつかんだ。至近距離で三成の目を見つめる。
「ワシは真面目だ。お前が心配なんだ、三成…」
突然真面目な表情になって真摯に己を見つめる家康に三成は僅かに戸惑ったが、家康の後方に最上らが楽しげに覗いているのを見つけて露骨に顔をしかめた。
「私は見世物ではなァァァァァい!!」
「うわだっ?!」
堪忍袋の緒が切れた三成は渾身の力で手を握る家康を投げ飛ばした。油断していた家康は思ったよりも飛び、近くの沼に落下した。
「消え失せろッ!!」
三成は最後にそう叫んで家の中に戻ってしまった
。沼から顔をあげた家康は悲しげに家を見つめる。
「だ、大丈夫かねいえやぶっ」
「邪魔するんじゃねぇ!三成に拗ねられちまったじゃねぇか!」
思わず昔の口調に戻りながら家康は最上の頭を沼に沈め、立ち上がった。
「ワシは諦めねぇぞ、三成!」

凶姫と龍人2

「家康様ぁ〜!」
「はは、おはよう!」
「キャー家康様ぁ〜!」
村の中のある広場で、黄色い悲鳴が上がる。それに答えているのはオールバックに髪を上げている男一人。にっこりと女なら一発で落ちそうな笑みを浮かべ、彼女達に手を振っていた。
「…貴公はいつも人気者だね、家康君」
傍にいたちょび髭の男がにやにやとしながらそう言う。
そう、この男が三成の探している徳川家康なのである。
家康は困ったように笑う。
「はは…最上殿、今更なことを言わないでくれ」
「ん?ははは、そうだったね安藤君!」
「そんな事より、三成はまだだろうか…」
家康は名前を間違えられた事も気にせず、僅かに頬を赤らめてそう呟いた。最上は首をかしげる。
「…ん?あの学者の娘かい?」
「…娘じゃなくて妹だぞ?ワシはあの子と結婚するんだ!」
「?!」
「この村一番の美女だ。…なんだその顔は。ワシには無理だと言いたいのか?」
「い、いやいやいや!そんなことはないよ!」
「イィエェヤァスゥゥゥゥウ!!」
と、ちょうどいいタイミングで三成の声が響き渡った。家康は嬉々として立ち上がる。
「やぁ三成!おはよう!」
「家康ぅぅ!今朝家の前に鴨の死骸を置いていったのは貴様かぁぁぁ!!」
家康の清々しい挨拶を清々しいまでに無視し、三成は刀を抜いて家康に突きつけた。最上がそんな三成に飛び上がるが、家康はただにこにこと笑っている。
「死骸なんて言うなよ、ちゃんと朝のうちに捕った鴨だぞ?」
「死骸には違いはない!!貴様のせいで朝から半兵衛様が不快な思いをされたではないか!!」
「ん?この本、また秀吉公に借りたのか?」
「人の話を聞け、家康ぅぅ!」
話を聞かない家康に三成は刀を振り下ろす。家康はからからと笑いながらそれを軽々と避けた。
ぱらぱらと三成が持っていた本を捲る。
「よくこんな挿し絵もない難しい本を読めるなぁ」
「その本は挿し絵などなくとも十分面白い!!」
「こんな本ばっかり読んでないで、もっと有意義なことを考えたらどうだ?半兵衛殿もきっと喜ぶ」
「…有意義なこととは、なんだ」
生真面目な三成は家康から半兵衛という自分の兄の名前を出され、刀を振り回す手を止める。
家康はにっ、と今までで一番眩しい笑みを浮かべた。
「ワシと絆を結ぶことだ!」
「貴様との絆などいるかイィエェヤァスゥゥゥゥウ!!返せ!」
「あっ」
三成は怒りに顔を赤くさせ、家康から本を奪い返すと走り去っていった。家康は、またな〜、と走り去る三成に手を振る。
「顔を真っ赤にさせて、可愛いなぁ」
「…貴公は恐ろしく前向き思考だね、家康君」
「?」

 「半兵衛様!ただいま戻りました!」
「あぁ、おかえり。鴨には驚いたけど、ありがたく使わせてもらうことにしたよ。家康君に言ってきてくれたかい?」
三成の声に台所にいた男、竹中半兵衛は笑って振り返り、そう言った。三成はぱたぱたと半兵衛に駆け寄る。
「はい、一応は」
「…と、言うところを見るとまた聞かなかったんだね、全く。おや、その本また借りたのかい?」
「いえ、秀吉様が下さったのです!また本を仕入れるため旅立たれるそうです」
「そう、ちょっと寂しくなるね」
半兵衛はそう言いながら鍋を火から下ろした。
カレンダー
<< 2012年06月 >>
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30