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凶姫と龍人5

置時計はふん、と顔をそらしたが、燭台は半兵衛の問いににこにこと笑った。
「俺は長曽我部元親!こっちは片倉小十郎。アンタは?」
「僕は竹中半兵衛。ここの麓の村に住んでいるんだが、訳あってこの森の先にある町に行かなきゃならなくてね」
「そうかいそうかい。無視してて悪かったな、体冷えてっだろ?上がってけ上がってけ!」
「なっ!長曽我部テメェ勝手なことを!」
声をあげた小十郎に元親は大仰に肩を竦めた。
「どーせ王子はもう寝てるだろ。雪も降ってきたし、こんな中放り出す方がよくねぇだろ」
「う、ぐぐ…!」
「いいのかい?」
「おうともよ!ついてきな」
「くそ…どうなっても知らねぇぞ!」
勝手に先導を始めてしまった元親に小十郎らイライラしたようにため息をつき、二人を追った。
 小さな暖炉のある部屋に案内された半兵衛は暖炉の前に座った。
「すまないね。お邪魔させていただくよ」
「いいってことよ!」
「よくねぇ!王子に知れぶっ!」
「あん?何じゃ、邪魔じゃっ」
ぷんすかしながら声をあげようとした小十郎だったが、後ろから突撃され段差を転げ落ちた。ずるずると鉄球を引きずりながら足置きのようなものが入ってきた。その上にはティーセットが一式乗っている。
「ヒヒ、まぁそう固いことを言いやるな。久々の客人よ、もてなすが吉であろ?」
ティーポットがそう楽しげに言った。茶を注がれたカップが跳びはねながら半兵衛の元へいく。
「さぁ!お飲みくだされー!」
「わぁ、ありがとう。でも僕は猫舌だから少し待ってくれるかな?」
「…やれ幸村よ、主はまた茶を沸騰させたか。匂いが飛ぶゆえ止めよと言うたはずだがなァ?」
「も、申し訳ござりませぬ義父上…」
「あはは、君達は面白いなぁ」
半兵衛はティーポットとカップの会話を聞いてくすくすと笑った。幸村と呼ばれたカップはぐるぐると走り回る。
「君、名前は?」
「我か?我は大谷吉継。下のこやつは暗よ」
「誰が暗じゃ!小生は黒田官兵衛だ!」
「そう。吉継君に官兵衛君、どうもありがとう」
半兵衛が笑って官兵衛を撫でた時だ。不意に暖炉の火が消え失せ、部屋の扉が勢いよく音を立てて開いた。
元親や幸村の顔が青ざめる。半兵衛は入り口の方を振り返った。目が慣れないのと逆光で入ってきた男の姿はよく見えない。
「…君がここの主かな?」
「……誰だテメェ。どっから入ってきやがった」
比較的高い声。半兵衛はこの男がまだ若いと判断し、また、わずかに感じる殺気に僅かに腰をあげた。
「…僕の名前は竹中半兵衛。馬を失ってしまい、一晩雪を凌ぐために泊めていただけないかと思いお邪魔させてもらった。出ていけと言うなら出ていくよ」
半兵衛がそう言ったとき、雲の切れ間から漏れたらしい月の光に部屋の中が明るくなり、男の姿が露になった。
「!!」
思わず半兵衛は目を見開いた。その表情の移り変わりに気がついたか、男の表情が怒りに染まった。
「何見てやがる…!」
「仕方ないじゃないか見えてしまったんだから、」
「泊まりてぇとか言ってたな。なら泊めてやる、二度と出さねぇがな」
「なっ!は、離せ!!」
男は半兵衛の腕をつかみ、どこかへ連れていってしまった。残された元親達の中で、小十郎が深いため息をついた。
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