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もしこの道を進めたなら15

「…家康?」
「三成がワシに怒るのは最もだ、不思議じゃない。だが、それでワシが三成に歩み寄らなかったのは不思議だなぁ……」
「…何言ってんだアンタ」
政宗はちら、と小十郎に視線を飛ばす。小十郎は小さく頷き、静かに部屋を出た。周りに誰もいないか、再確認するためだ。
こんな発言を、下手に聞かれるわけには行かない。
「ワシは三成には何を言っても無駄だと諦めてたのか?」
「…知らねぇよ、んな事」
「そう言ってくれるなよ、仲間だったんだろう?ワシとお前は」
「…Ah……関ヶ原の戦の前、自分に不満がある奴は離反してくれて構わない、石田の力になってくれ、とか言ってたな」
「!」
家康は政宗の言葉に、驚いたような意外そうな表情を浮かべた。何度か瞬いた後、くす、と苦笑を浮かべる。
そして次いで、はぁ、と小さくため息をついた。
「…そうか…やはり諦めていたんだな」
「…まっ、別に不思議ではねぇんじゃねぇのか?直接ではねぇとはいえ、野郎を裏切ったのは事実だ。お前が向き合おうとした所で、石田は聞こうともしなかったと思うぜ」
「確かにそうかもしれないな。でもワシは、そう諦めたことは後悔したと思う」
「………」
家康の言葉に飄々と流していた政宗はしばしまじまじと家康を見つめ、表情を消した。家康はそんな政宗の反応を予想していたのか、薄く笑う。
家康は体の前で手を組んだ。こちらの家康同様戦から離れているのか、指の怪我は少ない。
「話の節々で感じたことがある。お前がワシを案じてくれている事とかな。だからワシがここのワシ自身に対し感じたことを礼の代わりに話そう」
「…そいつァありがてぇな。で、お前、石田を殺したことは後悔しないで、説得を諦めたことは後悔すんのか?」
政宗はそう言いながら肩をすくめ、傍らにおいてあったキセルを口にくわえた。ほう、と白い煙が部屋に漂う。
家康は僅かに困ったように笑い、両手を挙げた。
「まぁ理解してくれとは思わないが…ワシだったらそう思う、っていう話だしな」
「…なんでそう思ったんだ?」
政宗はキセルのすい口をカシ、と軽く噛み、目を細めて家康にそう尋ねた。
家康はきゅ、と拳を作った。そしてどこか寂しそうに笑う。
「ワシはな、三成の事を大事な友だと思っている。それでも、ワシの世界でも、未然に三成を説得したり止めたりすることは出来なかった。ワシは他の将に門前払いされたことよりも何よりも、三成を止められなかったことが苦しかった」
「………あいつが、止まるとは思えねぇな」
「それでもワシは止めたかった。三成は自分でも分かっていた、復讐を遂げた先には二度目の死が待っていると」
「!」
政宗は家康の言葉に意外そうに家康を見た。こちらの三成に、そのような様子は見られなかったように感じた。
ー向こうで豊臣を殺したのは俺。家康じゃなかったから、そう考える余裕があったか………
政宗はふっ、とそう考え、むす、と顔をしかめた。
家康は言葉を続ける。
「ワシは三成をそう、また死なせるのは嫌だった。だからワシを嵌めようとした者の策も利用した」
「手紙の話か」
「そうだ。でも結局、三成を止めることはできなかった…お前を殺すことは結果的には無かったから、まだよかったけどな」
「……アンタの所はいわば、石田の復讐心を上回るhappeningに見舞われて、結果的にうやむやになった感じが否めねぇな」
「否定はしないよ。あれだけの騒ぎがなければ、三成がお前を認めることも、ワシの言葉に耳を傾けることもなかっただろうからな」
家康は政宗の言葉に、寂しそうにそう返した。

もしこの道を進めたなら14

外は薄ぼんやりと暗く、夜が近づいていた。家康と三成は足早に大阪城へと戻った。
「夕餉は部屋に運ばせる。用があれば呼べ」
城についた三成は端的にそう言うとさっさと自分の部屋へと戻ってしまった。その方が今の家康には楽だったから、都合がよかった。
心配そうに自分を見る忠勝に大丈夫だ、と笑って見せ、家康は目覚めた部屋に戻ってきた。三成が蹴り飛ばした襖は直されていた。
「…ふぅ」
家康は鎧を脱ぎ捨て、上半身裸で床に転がった。ひやりとした畳の冷たさが背に伝わる。
「…迷って………」
ーあるいは今も…
そう言う三成の口は、僅かに笑っているようにも見えた。
家康はぐっ、と目を強く閉じた。
「…迷ってなんか…」
そう呟いた自分の声は笑えるほど震えていた。
家康はふぅ、とため息をついて目を開いた。否定してばかりいても意味がない。
「…迷っていたつもりなんか…ないんだが……な」
家康は少し疲れたようにはぁ、とため息をついた。
どうにも分からない。分からなくなってきてしまった。
自分が何に囚われているのか。何を迷っているというのか。何が違うというのか。
「…忠勝ー」
「…!」
家康は部屋の外に控えている忠勝に声をかけた。蒸気が吹き出すような音がした後、僅かに障子が開く。
家康は寝転がったまま忠勝を見た。
「…忠勝。お前にワシはどう見える?」
「……?!??」
「…ここのワシと、どう違うように見える?」
忠勝は家康の言葉にふしゅー、と音をさせた後、しばらく沈黙した。
そして少しして、しゅー、と音を立てた。家康は意外そうに忠勝を見る。
「我慢?我慢しているように見えるのか?」
「……!!」
肯定の返事を返す忠勝に、家康はしぱしぱと瞬きする。
「…確かに独眼竜に無理はするなとしょっちゅう言われてはいるが……我慢、か………」
「……!!!」
「ははっ、そう慌ててくれるなよ忠勝。ありがとう」
どこが呆然としたように自分の言葉を反復する家康に忠勝は慌てた様子を見せたが、家康は笑ってそう返した。忠勝はなお不安げに家康を見つめるが、何か言い募ることはしなかった。
家康は驚いた表情で視線を天井へと向けた。
「……我慢か…」
予想だにしなかった言葉に何度目かにまた呟く。
「………我慢、なぁ…」
家康は困ったようにまた呟いて、疲れたように目を伏せた。



 「……あぁ、息が詰まる」
「Ah?」
それと同じ頃、元の世界で家康がそう呟いた。ずっと現状説明をしてきた政宗は、家康の言葉にぴくりと眉を動かした。
家康はぐるぐると首を回し、はぁとため息をついた。いつもにこにことしている彼にしては珍しい。
「…全く大変な所に来てしまったなぁ。ここのワシはこんな事を平気な顔でやってたのか?」
「…表向きはな。俺にも弱音も吐かなかった」
「無理だ!」
「はぁ?!」
朗らかに、そしてきっぱりとそう言った家康に政宗は思わず声を荒らげた。家康はぷぅ、と頬を膨らませる。
「こんな息の詰まる緊張した世はごめんだ」
「な…んなこと言ったってな、アンタが石田を倒してそう長く経ったわけじゃねぇんだ、不安定で緊張してんのは当たり前だろ!」
「そうかもしれないけどな…。……ワシは三成を裏切ってまで、こんな事をしたかったのか…?」
「!」
家康が不満げに呟いた言葉に政宗は僅かに目を見開いた。

もしこの道を進めたなら13

目を閉じたり、世闇の中にいたり、暗闇の中に身を投じると、必ずと言っていいほど頭に思い浮かぶ。

家康は薄く目を開いて視線をあげた。ちらり、と横を見れば、三成は目を伏せたまま、微動だにしない。
家康は秀吉の像を見上げる。
「…………」
秀吉公、と、胸のうちで呟く。
ーあなたはワシを軽蔑するだろうか?
ー異なる世界とはいえ、ワシが裏切った三成その者に心配されているこの現状を見て貴方は笑うか?

違う。
家康は目を伏せる。
それはただの願望だ。秀吉はそう思ったとしても、けしてそんなことを簡単に表に出すことはしない。

「…ワシは責められたいのかもしれないなぁ」
「…家康?」
家康がぽつりと漏らした言葉に、三成は目を開き、家康を見た。家康は目を小さく開き、三成を見る。
「三成、お前はワシに対して激怒していた。当たり前だ、怒らない訳がない。……でも今思うと、そう怒ってワシに向かってきたのは、お前だけだった」
「………」
「他の誰よりも、お前が一番ワシにぶつかってきた。決して諦めることなく、死ぬその時まで…」
「家康」
「やめてくれ、三成」
家康はそう言って三成を見た。何故か胸が痛い。目の間も、何かぼんやりとした痛みがある。
三成は家康の言葉に表情を変えず、真っ直ぐに家康を見つめた。

「…優しくしないでくれ、三成」

絞り出した言葉は少し震えていて、顔が僅かに熱を持つ。三成は家康の言葉に、すぅ、と目を細めた。
はぁ、と小さくため息をつき、家康から視線をそらし、秀吉の像を見上げる。

「そうやって貴様は私から逃げ続けるのか」

「!」
家康は三成の言葉にびくりと肩をはねさせた。三成は家康に視線を戻さない。家康は思わず三成の方に向き直った。
「ワシはお前から逃げているように見えるのか?」
「誰かに責められたいのは貴様を責めた私が居なくなったのを認めたくないからではないのか」
「、え、」
「家康。貴様は確かに、後悔はしていないのだろう。だが、自分の行いが決して正しいものではなかったことも承知しているはずだ。貴様はそこまで、愚かではない」
「……それは」
「貴様のことだ、どうせ私と戦うことになることを、最後まで悩んだはずだ。いや、あるいは今も…」
「三成っ!!」
家康は思わず大声を張り上げる。三成は静かに家康を見た。
家康は心臓がばくばくと音を立てているのに気がついた。先とは別の理由で、顔に熱が集まる。
三成はふっ、と小さく笑った。
「…まぁいい。1度にやってもまた混乱するだけだ。秀吉様の墓前で騒ぎを起こすのも無礼にあたる。…戻るぞ」
「………、……」
三成は黙る家康をよそに、さっさと立ち上がり燭台の火を消した。
「……ここに残る気か」
「…いや、行くよ」
家康は三成に言われた言葉を頭の中で繰り返しながら、静かに立ち上がり歩き出した三成のあとについて行った。

もしこの道を進めたなら12

「、」
「…………」
差し出された手を前に、家康は反応ができない。家康のその、何もしない反応に、三成はすぐ手を下ろした。
「……家康。ついてこい」
「あ、あぁ…」
有無を言わせぬ強い口調に、家康は歩き出した三成のあとについていくしかなかった。


 三成に連れられてきたのは、寺だった。そこそこ大きいが、人気はまるでない。さながら廃寺のようだ。
三成は気にすることなく、きぃ、と音を立てて本堂に入っていった。ぼぅとしていた家康は慌てて三成を追い掛ける。
「三成ここ…人がいないみたいだが……」
「あぁ、いない」
「えっ?」
さらりと返された言葉に家康はぎょっとしたように三成を見る。三成は蝋燭が照らす薄暗い本堂を奥へ奥へと進んで行ってしまう。
闇の中へと進んで行く三成に、家康は何かぞわりとしたものを感じ、慌ててすぐ後ろについた。
本堂の一番奥についたところで、三成は立ち止まった。
「三成…?」
三成は近くの蝋燭を手に取り、前の燭台に火を灯した。ぽぅ、と寺の奥の壁面をぼんやりとした灯りが照らす。
「…!」
家康は壁面にあったものを見て、驚愕に目を見開いた。

そこには、剥き出しの岩肌に掘られた、秀吉の姿があった。

三成はすっ、とその場に座す。
「…ここは秀吉様の菩提寺だ」
「…!ぼ、菩提寺?この、これは?」
「私が彫った」
「器用だな三成!!」
精巧なそれに家康はどうして寺の壁を破壊してこんなものがあるのかとか菩提寺なのになんでそんなものを作ったのかとか色々な驚愕を忘れて素直に感心する。三成はふん、と小さく、だがどこか嬉しげに鼻を鳴らした。
「…でも、どうしてワシを秀吉公の菩提寺に?ワシは、世界が異なれば…」
「貴様が屠ったからこそだ。貴様の時間は恐らく秀吉様を裏切った、その大罪の時に止まった」
「…さっきから、訳わからないぞ……」
三成は家康の言葉に静かに家康を見上げた。そしてそのまま、静かに見つめる。
「いずれ分かる。貴様が、私が知っている家康と、全く違う人間ではないのならな」
「……………」
「座れ、家康」
家康は何故か自信のこもった三成の言葉に言い返すことができず、言われるままにその場に座った。
三成は正座したまま、静かに目を伏せる。家康もそれにならい、目を伏せた。




目を閉じると嫌でも思い出す。秀吉を倒した、その雨の日のことを。

もしこの道を進めたなら11

幸村はにっ、と勝気な笑みを浮かべる。家康は幸村がこのように、どこか政宗が浮かべるような笑みで、笑うところは見たことがなかった。
幸村はぐ、と拳を作り、胸元に掲げた。
「如何にも。それ故、これより後の戦は、伊達武田連合軍としてお相手致しまする」
「…これより、後……」
「わざわざ律儀な男だな、貴様は」
三成の言葉に幸村は小さく笑う。
「純粋にお二方とお会いしとうござりました故に、直接出向いただけにござる」
三成は幸村の言葉に小さく肩を竦め、組んでいた腕を解いた。ぎろり、と鋭い目線で幸村を見据える。幸村はやはりどこか勝気な目線でそれに答える。
「伊達政宗の仲間となったのならば、奴との戦の時も容赦はしない」
「無論、こちらも手加減は致しませぬ。次にお二方とお会いいたすは、戦やも知れませぬな」
「…なぁ、ちょっといいか……?」
ばちり、と間で火花を飛ばしながら、だが剣呑な雰囲気のない二人に、家康は恐る恐る口を挟んだ。二人はきょとんと家康を見る。
家康は先の会話から気になっていたことを口にした。
「お二方お二方、って…ワシと三成はそんなに一緒にいるのか?」
「…あー……というよりか、は…」
「馴れ合いはしない」
「と言ってはおられまするが、一応お二方は同盟関係でござる」
「えっ」
家康は思わぬ言葉にぽろりと声を漏らした。
三成と敵対していない事は分かっていたが、三成は先の戦で自分は味方でもなかったと言っていた。そのため勝手に味方でも敵でもない微妙な立ち位置なのだと思っていた。
驚く家康に幸村は苦笑する。
「先の戦の後、家康殿が石田殿との勝負に勝ったからでござるよ」
「へっ?」
「ちっ……」

「最初から家康殿は、石田殿と共に天下を目指す心づもりだったようでござった」

家康は幸村の言葉に目を見開いた後、言葉を失ってしまった。
その家康の変化に、三成が気がつく。幸村はにこにこと笑って家康の言葉を待っている。
三成は小さくため息をつくと、家康の腕を掴んで立ち上がった。
「、あっ」
「貴様の話、確かに聞き届けた。じきに八つ時だ、私達は退散する」
「なんと、もう少しおられても…」
「家康の状況を、何人かには説明しなければならない」
「!それもそうでござりまするな…某、二日三日こちらに滞在致しまするゆえ、何がしかありますればいつでも!」
「分かった」
三成は端的にそう言うと、家康の腕を引っ張って部屋を出た。
それと入れ替わるように、佐助が部屋の中に姿を戻す。
「…どしたの、あのお方」
「む?」
「なーんか、泣きそうな雰囲気だったけど」
「な、なにっ?!俺は何かまずいことを言ったか…?!」
「は?」


 「家康」
「…な、なんだ」
宿から出て、三成は家康の腕を掴んだままずかずかと進んだ。そして、川原に出て人気のないところで立ち止まり、家康を振り返った。家康は動揺を見せないように返事をする。
三成はそんな家康に目を細めた。
「……家康。本音を言え」
「本音…?きゅ、急になんだよ、三成」
「貴様は何を隠している。何に怯えている」
「…?」
「……いや、愚問か……」
三成は本気で首をかしげる家康にわずかに目を伏せ、そう呟いた。
家康は何かを隠しているつもりも怯えているつもりもなかった。だから、本気で三成の言葉が分からなかった。
三成は小さくため息をつくと、す、と手を差し伸べた。
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