2013-11-30 22:37
「…家康?」
「三成がワシに怒るのは最もだ、不思議じゃない。だが、それでワシが三成に歩み寄らなかったのは不思議だなぁ……」
「…何言ってんだアンタ」
政宗はちら、と小十郎に視線を飛ばす。小十郎は小さく頷き、静かに部屋を出た。周りに誰もいないか、再確認するためだ。
こんな発言を、下手に聞かれるわけには行かない。
「ワシは三成には何を言っても無駄だと諦めてたのか?」
「…知らねぇよ、んな事」
「そう言ってくれるなよ、仲間だったんだろう?ワシとお前は」
「…Ah……関ヶ原の戦の前、自分に不満がある奴は離反してくれて構わない、石田の力になってくれ、とか言ってたな」
「!」
家康は政宗の言葉に、驚いたような意外そうな表情を浮かべた。何度か瞬いた後、くす、と苦笑を浮かべる。
そして次いで、はぁ、と小さくため息をついた。
「…そうか…やはり諦めていたんだな」
「…まっ、別に不思議ではねぇんじゃねぇのか?直接ではねぇとはいえ、野郎を裏切ったのは事実だ。お前が向き合おうとした所で、石田は聞こうともしなかったと思うぜ」
「確かにそうかもしれないな。でもワシは、そう諦めたことは後悔したと思う」
「………」
家康の言葉に飄々と流していた政宗はしばしまじまじと家康を見つめ、表情を消した。家康はそんな政宗の反応を予想していたのか、薄く笑う。
家康は体の前で手を組んだ。こちらの家康同様戦から離れているのか、指の怪我は少ない。
「話の節々で感じたことがある。お前がワシを案じてくれている事とかな。だからワシがここのワシ自身に対し感じたことを礼の代わりに話そう」
「…そいつァありがてぇな。で、お前、石田を殺したことは後悔しないで、説得を諦めたことは後悔すんのか?」
政宗はそう言いながら肩をすくめ、傍らにおいてあったキセルを口にくわえた。ほう、と白い煙が部屋に漂う。
家康は僅かに困ったように笑い、両手を挙げた。
「まぁ理解してくれとは思わないが…ワシだったらそう思う、っていう話だしな」
「…なんでそう思ったんだ?」
政宗はキセルのすい口をカシ、と軽く噛み、目を細めて家康にそう尋ねた。
家康はきゅ、と拳を作った。そしてどこか寂しそうに笑う。
「ワシはな、三成の事を大事な友だと思っている。それでも、ワシの世界でも、未然に三成を説得したり止めたりすることは出来なかった。ワシは他の将に門前払いされたことよりも何よりも、三成を止められなかったことが苦しかった」
「………あいつが、止まるとは思えねぇな」
「それでもワシは止めたかった。三成は自分でも分かっていた、復讐を遂げた先には二度目の死が待っていると」
「!」
政宗は家康の言葉に意外そうに家康を見た。こちらの三成に、そのような様子は見られなかったように感じた。
ー向こうで豊臣を殺したのは俺。家康じゃなかったから、そう考える余裕があったか………
政宗はふっ、とそう考え、むす、と顔をしかめた。
家康は言葉を続ける。
「ワシは三成をそう、また死なせるのは嫌だった。だからワシを嵌めようとした者の策も利用した」
「手紙の話か」
「そうだ。でも結局、三成を止めることはできなかった…お前を殺すことは結果的には無かったから、まだよかったけどな」
「……アンタの所はいわば、石田の復讐心を上回るhappeningに見舞われて、結果的にうやむやになった感じが否めねぇな」
「否定はしないよ。あれだけの騒ぎがなければ、三成がお前を認めることも、ワシの言葉に耳を傾けることもなかっただろうからな」
家康は政宗の言葉に、寂しそうにそう返した。