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過去のあなたに恋してる?42(終)

唇は少しして離れた。小十郎は思わずキスしてしまったことに一瞬視線をさ迷わせたが、政宗が小さく、小十郎、と呼ぶので視線を合わせた。
政宗は今まで見たこともないくらい、嬉しそうに笑っていた。小十郎は今まで政宗のことで悩んでいた自分が阿呆らしく思えて来て、困ったように笑った。

「…記憶があったのですか、政宗様」

小十郎の言葉に政宗は、小十郎と同じように困ったような笑みを浮かべた。

「まさかお前が持ってるとは思ってなくてよ」

どうやら、政宗も小十郎と同じように過去の記憶を持っていたようだ。そして、小十郎と同じように愛しい人を思い、だが記憶がないのだろうと思い込み、黙っていたようだ。
「…あなたに出会ってから悩んでいた時間が…!」
「勿体ねぇことした…!この二年もったいねぇ!」
二人はお互い同時にそんな事をつぶやき、思わず顔を見合わせ、声をあげて笑いあった。
下敷きにされたというのにそんな風に笑いあっている二人に、ベニヤを持ち上げた生徒達はきょとんとしていた。



文化祭の一日目が終わった。政宗は幸村と共に校門で小十郎の事を待っていた。ベニヤが倒れたことで小十郎達のクラスは説教と居残り補強をしていたのだ。
小十郎は政宗と一緒にいる幸村をわずかに驚いたように見た。幸村は小十郎を見ると、政宗に対しぷぅと頬をふくらませた。
「政宗殿から聞きましたぞ片倉殿!ずるぅござるぅぅぅうう」
「ドンマイとしか言いようがねーわ」
「…?………まさか、」
「佐助にはないというのに、何故片倉殿にはあるのでごーざーるーかーー」
「んなもん知らねぇよ」
どうやら、幸村にも過去の記憶があるようだ。幸村は何故佐助にはなく小十郎にはないのかと、ぶーぶー政宗に対し文句を言っていた。政宗はどう答えようもなく、困ったように肩をすくめるだけだった。
小十郎は呆気にとられたように幸村をみた。
「…まさかお前にもあったとはな」
「それがしも、まさか貴殿にもあるとは思わなんだ。佐助にはなかったゆえ、いくら話しぶりがかつてと同じといえどそれは佐助にも言えることであったゆえ、てっきり貴殿にもないのだと……」
「他にもいなさそうな感じだったしなー」
「…竹中半兵衛は覚えていたようでしたが」
「まさかの!」
半兵衛に記憶があると知った幸村はますます頬をふくらませた。二人は思わず苦笑する。
幸村はそんな二人に一瞬きょとんとした後、だがすぐに楽しそうに笑った。
「…何はともあれ、よかったですな政宗殿」
「…!」
「…………おぅ」
「ではそれがしはこれにて!佐助と飯を食う約束をしているゆえ!」
「は?!ちょ、」
「お邪魔は致しませぬゆえ。政宗殿、きちんと思いを告げられよ!」
幸村は突然そう言い捨てると、きらりと眩しい笑顔を残して颯爽と走り去ってしまった。
残されたふたりは思わず顔を見合わせる。
「………あー…。…小十郎」
「はっ、」
政宗は幸村が走り去った方をちらりと睨んだ後、きょろきょろと辺りに人気がない事を確認し、小十郎に向き直って名前を呼んだ。返事を返せば、政宗は小十郎の右目の下あたりに触れた。
「…俺のお前に対する思いは、あの頃から変わってねぇ。…お前はどうだ?」
「………この小十郎も、変わりありませぬ。お慕い申し上げております、政宗様…」
小十郎は頬に触れている政宗の手を取ると、その手のひらにそっと唇を押し付けた。
政宗は一瞬面食らったように小十郎を見たが、すぐに照れたような楽しそうな笑みを浮かべた。
「なんだ、溜まってんのか?」
「失礼ですがこの小十郎、政宗様が高校を卒業されるまでは手を出すつもりはありませぬ」
すぐに手を離した小十郎に政宗はつまらなそうに眉間を寄せた。
「……堅物も変わらずかよ」
「残念ながら。まぁ、かつてと違い此度は主ではないゆえ、多少羽目を外してしまう事もあるかもしれませぬ……が」
「……!ha-ha、おもしれぇ。あと一年ちょっと、首長くして待っていやがれ」
「ふっ……承知いたしました」
「小十郎」
「はい」
挑発的な事を口にした小十郎に政宗はニッ、と笑い、そして唇に人差し指を向けた。
「kiss me」
「…仰せのままに」
小十郎はちら、ときちんと人気がない事を確認した後、政宗の頭に両手を添えるようにして唇を落とした。政宗も小十郎の肩の上から手を抜き、首に抱きつくように腕を絡めた。



過去のあなたに恋してる?


否、ただあなただけを愛している!




END
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過去のあなたに恋してる?41

装飾がプラスチックで出来たものが多かったせいか当たりどころが悪かったせいか、派手な音をさせてベニヤが倒れた。おまけに他のベニヤと重なって掛けられていた装飾もあったため、隣接しておいてあったベニヤも倒れ、おまけに反対側にあったベニヤもそれに巻き添えを食って倒れ、二人は一見どこに下敷きになったか分からない状態になってしまった。おまけに教室は暗い。政宗があげた叫び声が教室内の他の生徒にも聞こえたらしい、にわかに教室内が騒がしくなった。
「政宗様お怪我はっ……!?」
なんとか政宗を庇うのに間に合い押しつぶさないで済んだ小十郎は、ベニヤの重みに腕がぷるぷると震えるのを耐えながら慌てて政宗の方を見、はっとしたように我に返った。

小十郎は、政宗のことをまともに名前で呼んだことはなかった。どう呼べばいいか分からず、どうしても名前を呼ぶ必要があるときは他人行儀に名字で呼んでいた。

だが、とっさのことにそう呼んでしまった。ランタンの灯りで僅かに見えた政宗は、驚きで目を見開いて小十郎を見ていた。
しまった。
小十郎はそう思い、口元を抑えたくなったが、装飾でそれなりに重いベニヤを片腕で支えるには政宗を押しつぶさないように浮かせている今の姿勢は維持できない。
誤魔化すしかない、そう判断した小十郎は何事もなかったかのように振舞うことに決めた。今ならばまだ間に合う。演技に入り込みすぎていた、そうすればいい。そう思ったのだ。
「くっそ、もうちょい土台ちゃんとさせとけよ裏方…ッ」
「おい小十郎、おまえ、」
「申し訳ありません、少しお待ちを、」
「小十郎!!」
政宗が不意に怒鳴った。びくっ、と肩を跳ねさせ、小十郎はわずかに驚いたようにベニヤに向けていた視線を政宗に戻した。
政宗は小十郎が自分を見たことを確認するとがしりと小十郎の頭を両手で挟むように掴んだ。結果、そのせいで何かあっても顔を逸らせなくなってしまった。
小十郎は内心かなり焦ったが、大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。
「(ただでさえ普段から敬語使ってんだ、今さら様つけて呼んだくらいで、しかも敬語キャラ風な役やってたんだから言い訳はきく、何もそんなに変な話じゃねぇ……!落ち着け!!)」
そう自分に言い聞かせ、落ち着こうとしていた小十郎に対し政宗は小十郎の予想を裏切る行動を起こした。
「………小十郎」
じっと見つめた後、静かにそう名前を呼ぶ。小十郎を見る政宗は、どこか信じ難いものを見るような、どこか懐かしいものを見るような、それでいてどこか嬉しそうな、そんな一言では形容し難い目をしているように見えた。そしてそのまま、小十郎の唇に触れた。
「…?なにを…」

「kiss me」

政宗が言い放ったのは、かつては毎日のように聞かされた言葉。小十郎は思わず目を見開いた。
思わず政宗と目を合わせれば、政宗もじっと小十郎の目を見ていた。僅かにその瞳は揺れている。

至近距離で近くに人目はない。
何故、まさか、そんなことを考える前に、小十郎は請われるままに政宗の唇に自分のそれを重ねていた。

過去のあなたに恋してる?40

その頃、教室の外では。
「……政宗叫ばねぇな」
「政宗殿はあまり声が出ぬ質でござるからな」
「?なんだそれ」
「某はすぐ叫んでしまうのでござるが、政宗殿は恐怖すると声が出ぬのだと、前に聞いたことが」
「へぇ…そんなことあるもんなのか?」
「有り得るのではないでござろうか。あるいは、それほど政宗殿には怖くはないのか…」
「アンタがあれだけ絶叫してたのに??」
「某は元々暗闇は苦手なのでござる」
「じゃあなんで入ったんだよアンタ」


「…びっ………くりした………」
外であれこれ幸村と元親が好き勝手に言っていたが、政宗はそれなりに恐怖していた。基本的に突然現れる系統のものが多く、政宗はそうしたドッキリ系には強くはあったがやはり怖いものは怖かった。
そして入口の女生徒に念を押されるだけあって、驚かし役の生徒があの手この手で石を奪い取ろうとしてくるのもなかなか斬新だった。
「…さっきの野郎石を最後まで持ってくのは嘘だとか言ってたけどどっちだよ……」
政宗はちら、とたった今突破してきた方を見ながら、小さくため息をついた。
今悩んでもどうしようもないので、先に進むことにした。狭い教室を長くするためか、ややこしくなっているルートをランタンの灯りを頼りに進む。
「……こんな暗い場所を、この程度の灯りで進ってのは、どうにも昔を思い出すな…」
政宗はぽつり、と小さく呟いた。小さすぎるそのつぶやきは、誰の耳に入ることもなかった。

それから何人かの生徒に驚かされつつも、出口付近までやってきた。光が僅かに漏れている出口までついて、ふと気がつく。
「そういや小十郎はー」
どこにいた、と言おうとした時、不意にぐいと後ろに引っ張られた。
驚き振り返る前に、ぐ、と喉元に何かを押し付けられた。
「おいででしたか」
「!小十郎?!」
「こういう役なのでご容赦を」
政宗をひっぱったのは小十郎だった。どうやら小十郎が最後の驚かせ役のようだ。
小十郎は後ろから、政宗の耳元に顔を寄せた。
「石は、お持ちになりましたでしょうな、御客人」
「……あぁ、持ってるぜ」
「では、私にお渡しくださいませ」
小十郎はそう言いながら政宗を抑えていた手を離した。小十郎を振り返り、首元に添えられていた方の手を見下ろせば、レトロなデザインの小さなナイフのようなものを持っていた。
政宗は、ふっ、と小さく笑った。
「こいつは怖ぇな。…もし石を持ってなかったらどうなるんだ?」
「それは道中で渡してしまった者によって変わります」
「ヘェ…例えば?」
「そうですねーー」
小十郎が政宗の問に苦笑混じりに答えようとした時。
ぐらり、と教室が揺れた。
「!地震か、」
「おわっ!!」
「!」
さして大きな地震ではなかったが、大道具を設置する際に地震のことまで考慮していなかったのだろう、通路の区切りに置かれていたベニヤ板が装飾もろとも政宗の方へ倒れてきた。
小十郎は咄嗟に政宗をかばおうと飛び出た。

「政宗様ッ!!」
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過去のあなたに恋してる?39

「…一人ずつではないと行けぬようでござるよ?」
「えー!じゃあ俺無理!ぜってー無理!」
「あはは、さっきもそう言って逃げてった男の子いたけど、そんな怖くないよ!」
「…島だな、ぜってー……」
「どうする?入る?」
受付の女子は、楽しげに3人を見ている。元親がばっ、と二人から離れ、柱の影からやだやだと首を横に振るものだから、政宗と幸村は思わず顔を見合わせ、くすりと笑った。
「某と政宗殿は入りまする!」
「オッケ!どちらさんがお先に入る?」
「どうする?」
もぐもぐと口に含んでいたものを飲み込むと、幸村はニッ、と笑って拳を突き出した。
「ここは潔く、ジャンケンで決めましょうぞ!」
「潔いのかそれ…?まぁいい、ジャンケン、」
「ほいっ。…某からですな!政宗殿、菓子を頼みまする」
「はーい、男のコ1名いっくよー!」
「食べんでくだされよ!!」
「食わねぇよ!」
幸村は荷物になる菓子類を政宗に預け、ついでに食べないようにとの念を押しながら、悠々とお化け屋敷に入っていった。政宗は念を押してきた幸村に僅かに呆れたようにため息をつき、その頃には離れていた元親も戻ってきた。
「あーやだやだ……真田ってそんなに怖いの好きな奴だっけ?」
「Ah …お化け屋敷は本物じゃねぇって分かってるから怖くねぇみたいなことは前言ってたな。あいつ怪談話そのものには結構弱いぜ」
「えー分かってても怖ぇだろ……」
「まァこの小ささならそこま「ぎゃあああああああお館さぶぁぁぁぁあえああああ!!」…………」
そこまで大したことはないだろう、と言いかけた政宗の言葉を遮るように、教室の中から幸村の叫び声がした。その声は廊下にガンガンと響き、一般来場していた子供たちの中には泣き出すものもいた。
受付の3年生は腹を抱えて笑っており、政宗と元親も思わず顔を見合わせて肩をすくめた。
「…ダメだありゃ。どんな叫びだよおい」
「でも、つまりめっちゃ怖いってことだろこれ」
「……ha!面白くなってきたぜ」
「政宗、お前やる気いれんのはいいが結構汗やべぇぞ」
「ぎゃあああああああうおおおおおああああああ」
そんな風に話しているうちに、入口と反対側の扉から幸村が全力で飛び出してきた。なぜそこまで息が上がったのか、ふらふらと壁沿いまで歩いていって、壁に手をついて乱れた息を整えていた。
「おいおい真田ァ、Are you ok? 」
「はっ……はぁっ……確かにこれは怖いでござる………っ!」
「こんなちっせぇとこで、何が怖いんだよ」
「役者のくおりてえが凄いでござるよ!!」
「くおりてえってなんだよ落ち着けよアンタ」
はぁはぁと息を荒げながら、何故かぴっと親指を立ててそう言い切った幸村に元親は半分笑いつつもそう言った。
政宗は僅かに嫌そうに教室を振り返った。
「…小十郎も確か役者っつってたな…」
「あぁ、ネタバレになるので詳細は言いはしませぬが、片倉殿が一番やばいでござる」
「げ、まじかよ………」
「ふふ、どうする?そちらさんはやっぱりやめる?」
「……いや、入ります」
政宗は楽しそうにこちらを見る受付に今更引き下がることもできず、幸村に菓子類を返すと教室の中に足を踏み入れた。

 「はい、このランタン持って進んでくださいねー」
「く、くらっ…」
入って直ぐに扉は閉められ、暗幕で窓が塞がれた教室内で唯一の光源は渡された小さなランタンだけだった。これはなかなか雰囲気がある。
ランタンを渡してきた女生徒は魔女の格好に扮していた。彼女はにこりと笑って、小さな石も差し出した。
「その石は出口まで大切に持っていてくださいね。いいですか?出口まで、ですよ?」
「…わ、分かったっす…」
その笑顔が何ともいえない怖さを帯びていて、政宗は曖昧にそう返事をすると足を踏み出した。

過去のあなたに恋してる?38

「同じなのはたまたま?それとも…」
「ははっ、たまたまではない、と言っておこうか。とはいってもどちらかがどちらかに合わせたわけではないよ。たまたま希望する学部が同じだっただけだ」
「……たまたま?」
「あぁ、たまたまだ」
「…ネタにする気かお前……」
「へへっ、ネタは多ければ多いほどいいからね?」
「全く君という男は…」
呆れたような小十郎の言葉にそう返した佐助に、半兵衛はくすくすと楽しそうに笑った。佐助は笑う半兵衛を意外そうに見たが、すぐにへへっ、と佐助も笑った。
「それじゃ、僕は失礼するよ。またね、猿飛くん、片倉くん?」
「じゃねー」
「……おう」
ふ、と僅かに意味深な笑みを浮かべた半兵衛に小十郎は僅かに目を細め、困ったように笑いながら教室に向かう半兵衛を見送った。
「…ったく、羨ましいもんだぜ、くそが……」
「?なんか言った?」
「いいや、何も」
「げっ、そういや俺様今日日直だった。またね、旦那!」
佐助はそう言うと慌てたように職員室に走っていった。小十郎は、半兵衛が入った教室をちらりと見やる。半兵衛はすでに来ていたらしい秀吉と、楽しげに話していた。

僕はまだ、これからも秀吉と共にすすめる。羨ましいだろう?
先ほどの半兵衛の笑みはそう語っていたものだから、小十郎は僅かにむっとした。だが同時に、彼らしからぬ行動を、半兵衛がそうした笑みを自分に向けた理由も、なんとなく分かる気がして小十郎はそこまで苛立ちを感じることはなかった。

「…テメェとは相入れねぇが……テメェの気持ち、分からねぇでもねぇからな」

過去では自分と違い、時間に追われて生きていた半兵衛。友である秀吉のために、自身の思いに蓋をするしかなかったことがあったことを、過去それなりに長生きした小十郎は気がついていた。
半兵衛は過去、豊臣に小十郎を勧誘しようとした事があった。その時はいつものように涼しい顔をしていたものだが、後後になって思えば、彼なりに葛藤があったのではないかと気がついた。
事実がどうかなどは分からない。小十郎の私感でしかない。

「…せいぜい長生きしろよ、竹中半兵衛」
小十郎は小さく口元に笑みを浮かべながらそう呟き、自身の教室へと足を向けた。
「……俺も、政宗様に一歩進めりゃ……いや、俺は竹中とは違う。……あの政宗様に、こんな想いぶつけるわけにはいかねぇ…」
小十郎の呟きは、わいわいと騒がしい廊下の喧騒に消えた。



そして、文化祭の日がやってきた。
小十郎は今までの練習通り、暗闇の中で客が来るのを待つ。
「…こいつが終わったら、いよいよ高校生活も終わりになるってもんだな…」
小十郎はそう思いながらも、暗闇になれた目でぼんやり見えた来場客を驚かすべく、腰をあげた。

「ここか、小十郎のお化け屋敷」
「クオリティたっか!!こっわ!!俺無理!」
「何言ってんだ元親」
それから少しして、政宗が元親、幸村と共に小十郎の教室の前にやって来ていた。クオリティ高く作り上げられたお化け屋敷に元親は震え、幸村は道中に買い漁った菓子をもぐもぐと頬張っていた。
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