2014-5-1 22:51
唇は少しして離れた。小十郎は思わずキスしてしまったことに一瞬視線をさ迷わせたが、政宗が小さく、小十郎、と呼ぶので視線を合わせた。
政宗は今まで見たこともないくらい、嬉しそうに笑っていた。小十郎は今まで政宗のことで悩んでいた自分が阿呆らしく思えて来て、困ったように笑った。
「…記憶があったのですか、政宗様」
小十郎の言葉に政宗は、小十郎と同じように困ったような笑みを浮かべた。
「まさかお前が持ってるとは思ってなくてよ」
どうやら、政宗も小十郎と同じように過去の記憶を持っていたようだ。そして、小十郎と同じように愛しい人を思い、だが記憶がないのだろうと思い込み、黙っていたようだ。
「…あなたに出会ってから悩んでいた時間が…!」
「勿体ねぇことした…!この二年もったいねぇ!」
二人はお互い同時にそんな事をつぶやき、思わず顔を見合わせ、声をあげて笑いあった。
下敷きにされたというのにそんな風に笑いあっている二人に、ベニヤを持ち上げた生徒達はきょとんとしていた。
文化祭の一日目が終わった。政宗は幸村と共に校門で小十郎の事を待っていた。ベニヤが倒れたことで小十郎達のクラスは説教と居残り補強をしていたのだ。
小十郎は政宗と一緒にいる幸村をわずかに驚いたように見た。幸村は小十郎を見ると、政宗に対しぷぅと頬をふくらませた。
「政宗殿から聞きましたぞ片倉殿!ずるぅござるぅぅぅうう」
「ドンマイとしか言いようがねーわ」
「…?………まさか、」
「佐助にはないというのに、何故片倉殿にはあるのでごーざーるーかーー」
「んなもん知らねぇよ」
どうやら、幸村にも過去の記憶があるようだ。幸村は何故佐助にはなく小十郎にはないのかと、ぶーぶー政宗に対し文句を言っていた。政宗はどう答えようもなく、困ったように肩をすくめるだけだった。
小十郎は呆気にとられたように幸村をみた。
「…まさかお前にもあったとはな」
「それがしも、まさか貴殿にもあるとは思わなんだ。佐助にはなかったゆえ、いくら話しぶりがかつてと同じといえどそれは佐助にも言えることであったゆえ、てっきり貴殿にもないのだと……」
「他にもいなさそうな感じだったしなー」
「…竹中半兵衛は覚えていたようでしたが」
「まさかの!」
半兵衛に記憶があると知った幸村はますます頬をふくらませた。二人は思わず苦笑する。
幸村はそんな二人に一瞬きょとんとした後、だがすぐに楽しそうに笑った。
「…何はともあれ、よかったですな政宗殿」
「…!」
「…………おぅ」
「ではそれがしはこれにて!佐助と飯を食う約束をしているゆえ!」
「は?!ちょ、」
「お邪魔は致しませぬゆえ。政宗殿、きちんと思いを告げられよ!」
幸村は突然そう言い捨てると、きらりと眩しい笑顔を残して颯爽と走り去ってしまった。
残されたふたりは思わず顔を見合わせる。
「………あー…。…小十郎」
「はっ、」
政宗は幸村が走り去った方をちらりと睨んだ後、きょろきょろと辺りに人気がない事を確認し、小十郎に向き直って名前を呼んだ。返事を返せば、政宗は小十郎の右目の下あたりに触れた。
「…俺のお前に対する思いは、あの頃から変わってねぇ。…お前はどうだ?」
「………この小十郎も、変わりありませぬ。お慕い申し上げております、政宗様…」
小十郎は頬に触れている政宗の手を取ると、その手のひらにそっと唇を押し付けた。
政宗は一瞬面食らったように小十郎を見たが、すぐに照れたような楽しそうな笑みを浮かべた。
「なんだ、溜まってんのか?」
「失礼ですがこの小十郎、政宗様が高校を卒業されるまでは手を出すつもりはありませぬ」
すぐに手を離した小十郎に政宗はつまらなそうに眉間を寄せた。
「……堅物も変わらずかよ」
「残念ながら。まぁ、かつてと違い此度は主ではないゆえ、多少羽目を外してしまう事もあるかもしれませぬ……が」
「……!ha-ha、おもしれぇ。あと一年ちょっと、首長くして待っていやがれ」
「ふっ……承知いたしました」
「小十郎」
「はい」
挑発的な事を口にした小十郎に政宗はニッ、と笑い、そして唇に人差し指を向けた。
「kiss me」
「…仰せのままに」
小十郎はちら、ときちんと人気がない事を確認した後、政宗の頭に両手を添えるようにして唇を落とした。政宗も小十郎の肩の上から手を抜き、首に抱きつくように腕を絡めた。
過去のあなたに恋してる?
否、ただあなただけを愛している!
END