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もうお前を離さない304

小早川は首を傾げた。
「…君は、三成君のこと……すすす、好きなの?」
「?好きっていうか…三成さんは私の恩人、ですが…」
「恩人…?三成君が……?」
「村越!どこだ!」
「ひぃぃっ!!」
「!三成さん」
3人がいるところに石田が現れた。小早川は勢いよく天海の後ろに隠れ、村越はやや意外そうに石田を振り返った。
石田は村越を見つけるとどこかほっとしたように息を吐いた。だが、小早川を見るとその表情は露骨に崩れた。
「金吾……」
「どうしたんですか?何かありましたか?」
「…。刑部を見なかったか?」
石田は村越の問い掛けにしばらく小早川を見た後、頭を振り、村越に向き直った。小早川は何も言ってこなかった石田に驚きながら再び天海の後ろから顔をのぞかせた。
「…大谷さんなら、さっき西門に向かうのを見ました」
「西門か…」
「あの……。…、大丈夫、ですか?大谷さん…。最近、食事にも来ないし…」
「………。私と顔を合わせたくないのだろう。それより…金吾!」
「ひ、ひぃぃっ!!」
普段知っている彼らしくない石田に様子を伺っていた小早川は、石田の張り上げた声に飛び上がった。石田は不機嫌を隠さないまま小早川を見据える。
「………小早川殿と仲悪いんですか三成さん」
「あの顔を見ると無性に斬り刻みたくなる」
「物騒な事言わないでくださいよ。ここに来たという事は、味方として来てくださったんでしょう?嫌いな相手でも、然るべき感謝はするべきです」
村越の言葉に小早川は驚いて村越を見た。石田は表情を変えないまま村越を見る。
「………」
「三成さん?」
「…金吾。1つだけ言っておく、裏切る事は許さない!!分かったか!!」
「ひぃぃぃぃっ!!」
「それさえしなければ後は貴様の好きにしろ!」
石田はそう言い捨てると西門に向かって走っていってしまった。村越はそんな石田に苦笑いを浮かべた後、ふと気が付いたように小早川を振り返った。
「えーと、小早川殿。……ってまだ隠れてたんですか」
「だだだだって三成君は怖いものっ!」
「…まぁいいですけど。小早川殿、取り敢えず、大谷さんに指示された部屋に案内します。ついてきてください」
「え、あ、う、うん……」
小早川は微笑む村越にどこか頬を赤くしながら天海の後ろから出た。天海は目を細め、じっと村越を見たが何も言わなかった。
「…ね、ねぇ……君は、なんで三成君の軍に入ったの?」
「んー…三成さんに拾われたからですね」
「ひ、拾われた?」
「お陰様で、今の私があります」
村越はそう言って小早川を僅かに振り返り笑った。小早川は不思議そうに村越を見る。
と、そこへ偶然通りかかったのか、真田と宮野が現れた。
「あれ?あ、カブトムシ」
「!れ、黎凪…。…まぁ似ているが…」
「!!ちちち違うよぉ!」
「黎凪に幸村さん。黎凪…腕は大丈夫?」
「芽夷こそ足大丈夫?小早川秀秋、殿、来たんだね」
宮野はちらと村越を見た後すぐに視線を小早川に戻した。真田ははっとしたように居住まいを正した。
「お初にお目にかかりまする小早川秀秋殿!某武田が総大将、真田幸村にござる」
「初めまして、と、挨拶しておきましょうか。武田軍所属、宮野黎凪と申します」
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます、フフフ…。私は天海と申します」
真田と宮野はそれぞれ挨拶し、何故か天海がそれに返した。
真田はじ、と小早川を見た後天海を見、そして村越を見た。
「何故村越殿が…?」
「大谷さんに指示されてました」
「…成程。では我らは先を急ぐ故、これにて失礼つかまつる。御免」
「急ぐ?2人で?」
「ちょっと城の外に用があって。じゃあね」
宮野はそう言うと既に歩きだしていた真田の後を追った。

もうお前を離さない303

宮野は真田を見上げ、ふぅと小さくため息をついた。
「乱入は乱戦だから関係ないんだけど、残ったルートのほとんどが小早川は裏切ってる」
「そんな…今小早川殿は確か、まだ烏城に…」
「聞きに行っても無駄だと思うよ。小早川は死ぬのが怖いんだ。だから優しい徳川に流れる」
「だが…!分かっているなら止めるべきであろう?!」
「…止めるためには小早川を殺すしかないよ」
「!」
「私が知ってるとはいえ、もしかしたら裏切らないかもしれない。私の中では確定していたとしても、証拠がない。…今は手のだしようがないんだよ」
「…ならば、何故…?」
「可能性が高いのは確かなんだ。…知ってた方が素早く対処出来る」
「…俺には、と言ったな。三成殿には申しておらぬのか?」
「三成さんに言ったら即斬殺になる」
「それはそうだが…!……いや、いい。……お前も、本当は言いたいのを耐えているのだろう」
「………」
「すべてを語ることを許されてはおらぬのだからな…」
真田の言葉にぎり、と宮野は唇を噛んだ。何も語らない宮野に、真田は宮野を抱きすくめその首元に顔をうめた。
「……強制的に話せないようにされてもいる。でも…それは本当に核心的な分岐の時だけ。…私は……西軍を勝たせにきたんじゃない」
「……黎凪。1人で背負うなよ」
「!」
真田の言葉に宮野は驚いたように真田を見た。真田は真剣に宮野を見つめる。
「ここに連れてきたのは俺だ。責は共に背負う」
「……ありがとう、幸村」
真田の言葉に宮野ははにかむように笑うと腰を上げた。真田も続いて立ち上がる。
「腕は平気か?」
「大丈夫。ありがとう」
宮野はそう言うとにっ、と勝ち気な笑みを浮かべ、真田もそんな宮野の表情にほっとしながら同じように笑い返した。



 話にあがった小早川が大阪城に姿を見せたのは、それから3日後の事だった。
「こここ怖いなぁ〜……」
「おやおや…金吾さんは本当に三成さんが怖いのですねぇ…」
がくがくと震える小早川秀秋を、隣に立つ天海はどこか嘲るように笑った。
そんな2人に最初に気が付いたのは村越だった。
「…?どちら様ですか?」
「ひぃぃっ!!お、脅かさないでよぉぉっ!!」
「えっ?す、すいません。で、どちら様ですか?」
村越は声をかけた途端飛び上がって天海の後ろに隠れた小早川に首を傾げながらも再度尋ねた。
天海は長い銀髪を揺らして笑った。
「おやおや…金吾さんったら。こちらの方は金吾さんですよ。そして私は天海と申します」
「金吾…あ、小早川秀秋、殿?初めまして」
「…ききき、君は?見たことないけど…」
村越の物腰が穏やかだからか、小早川は天海の後ろから顔をのぞかせた。
「村越芽夷と申します。形式的には石田軍に属しています」
「み、み、三成君にぃぃっ?!」
にこりと笑いながらそう名乗った村越に小早川は驚愕して叫んだ。村越はきょとんとして小早川を見る。
「…?どうかしましたか?」
「だだだだって三成君は怖いものぉぉっ!!」
「…。ならばどうしてこちらに?小早川殿は味方であると伺っていましたが……」
「えっ…?」
「それだけ三成さんを恐れているのに何故西軍に?貴方の意志ではないのですか?」
「うぅ……それは…」
村越はどうにも歯切れの悪い小早川に僅かに眉間を寄せた。
「…、皆…三成さんが怖いんですね」
「……え?」
「私には…徳川がそんなにいい人間だとも思えませんが、第三者にしたら徳川の方がいい人なんでしょうね…」
村越はそう言って悲しげに笑った。

もうお前を離さない302

「…貴様は気にしないのか?正論だと思うのだろう」
「正論だと思っても、だから従おうとは思いません。そんなの、出来る人が勝手にやってろって思うんで。私は、私の正義で生きてますから」
「!…貴様の、正義…」
「人は皆考えが違う。一緒の人なんていません。似てる人はいますけどね。私は黎凪の言葉に従う気も目指す気もないです。私はそういう人じゃないし、何ていうんだろう…正しくても、そんな悲しい生き方はしたくないんです」
「…そうか…」
「…三成さんは、黎凪の言葉で何を思ったのか、よかったら教えていただけますか?」
村越の言葉に、石田はゆっくりと体を起こした。ぽつりぽつりと話始める。
「………私は秀吉様の為…家康を追っている…。……最近。本当にそうなのか分からなくなってきた」
「…そう、なんですか」
「……私は本当は…自分の為に…追っているのではないかとな……」
「……………」
村越は一瞬、口を噤んだ。だがすぐに笑った。
「それでも、いいじゃないですか」
「なんだと…?!」
「貴方の生き方は貴方の為のもの。それに、自分の為に追ったって、秀吉様の仇を追うことに変わりはない。そうでしょう?」
「違う!!己の為に家康を追うのは、貴様が怒った長曾我部と同じだ!」
「…同じだと思うのなら、仇を追うことをいっそのこと止めてしまえば?」
「なぁ?!」
「だって…仇をとって、秀吉様は喜んでくれるんでしょうか?」
「!!」
村越はふむー、と呟きながら立ち上がり、石田の隣に座った。石田は仰天したように村越を見ている。
「…ッ…お喜びになるか…だと………」
「…もし心残りを持って死んだとしたら、私だったら仇を取るより残したものを叶えてほしいんじゃないか、と思うんですよね…。秀吉様がどうかは分かりませんけど…」
「…なら私はどうすればいいっ!!家康を許せというのか?!」
「そ、そうは思ってません!…ただ、仇討ち、私はしてほしくないから…」
「!?」
「す、すいません!なんか話題逸れてましたし!…その……うまく言えないんですけど……。…三成さんは、どうしたいですか?」
「…ッ……分からなくなった…分からなくなってしまった……」
「………そう…なんですか…。…、ちょっと失礼します」
「!?」
村越は不意にそう言うと石田に向き直り、正面から石田に抱きついた。石田は驚愕して村越を見る。
村越は石田の頭をぎゅうと抱き締めた。
「…、分からなくなったなら、一回考えるのをやめて、全部吐き出した方がいいです」
「……貴様は孫市と同じ事を言うのだな」
「孫市さんが…?」
石田はそう言うと村越の体に片腕を回した。
「…だが……貴様のぬくもりは落ち着く…」
「?!う、え、あ、そ、そうですか……」
「…?何を照れている?」
「い、いや、何でもないです……。…、考えすぎるとまとまるものもまとまらなくなりますからね。…、一回考えるのはやめです、やめ!」
村越はそう言うと笑ってぽんぽんと石田の背中を叩いた。石田は口元に僅かに笑みを浮かべると静かに目を閉じた。


 「…幸村」
「む?どうした?」
「……ん。幸村には、話しておこうかなと思って」
「?何をだ?」
「最後の戦……関ヶ原の戦い。全く予想出来ないけど、一つだけ確実な事がある。小早川秀秋が裏切る」
「?!な、なんと!?」
真田は驚愕して目を見開いた。

もうお前を離さない301

「暗ァ、邪魔するぞ」
「げげっ?!何しにきやがった刑部!それに、長曾我部が騒いでいたのは終わったのか?」
「その事だがな。企てが露見しよった」
「!!な、なんだと…?…はっ!はんっ、嘘吐いても無駄だぞ刑部!!露見したなら、なんでお前さんはこんな所にいられるんだよ!」
黒田に会いに来た大谷は、予想通りの黒田の反応に小さくため息をついた。
「それがなァ……。…我は三成に許されてしまったのよ」
「………は?」
「無論、長曾我部は我と毛利を許しておらぬがな。多勢に無勢と思うたか引き下がったがなぁ」
「…、長曾我部は全部知ったのか?」
「無論。主の事も知っておるわ」
「……そうかい。…おい刑部、なんでそうなったんだ?」
黒田の問いに、それは何故大谷が許されるような事になったのか、を尋ねていると悟り、大谷は目を伏せた。
「…真田の嫁と、村越よ」
「嫁?…、あの女か、…そうか……。お前さんはどうするつもりだ?」
「我は三成に許されてしまった、ゆえに今まで以上に為すべきことをするまでよ。主こそどうする?」
「…ふん。露見したんなら遠慮することはないな、長曾我部に会いに行く」
「殺されてもしらぬぞ」
「へっ、お前さんに心配される人がくるとはな。…悪いが小生はお前さんと違って平気じゃないんでね。殺されても文句はない」
長い問答を淀みなく交わしていた2人は、黒田の言葉を最後に同時に背を向けた。大谷は城の中へ、黒田は外へと歩いていった。


 「…三成さん、村越です」
「…………………」
「入っても…よろしいですか?」
「…入れ」
村越は石田の部屋の襖を開いた。石田は着流しに着替えて文机に身を投げだしていた。石田の周りには防具が散乱しており、刀は石田の隣に横になって置いてあった。
村越は石田の前に座った。
「…何か用か」
「…正直に言います。黎凪と大谷さんに頼まれました。黎凪は三成さんも否定した、と」
「………」
「三成さん…私は、三成さん、凄いと思いました」
「…どこがだ?」
「許せなかったものを、許せたからです」
「………ッ、」
村越は石田の手にそっと触れた。
「大谷さんの事を特別視して許したわけじゃない…なのに許せるのは、凄いと思います」
「…私は…」
「あれはあくまで黎凪の思ってる事です。…あんまり、気にしないでいいと思います、それに、……、黎凪は自分で、まだ一番大切な者を失っていないから言えるのかもしれない、って言ってましたから」
「…貴様はどう思う」
「わ、私ですか?……、筋が通ってるし、そうなんだろう、とは思います。…でもそれを実行できる人は、…普通いないとも思います」
「……………」
石田は村越の言葉に顔を上げた。僅かに暗い表情を浮かべている石田に、村越は困ったような悲しいような、そんな表情で笑った。
「黎凪は…弱音を吐けなかった子なんです。だから、自分を殺すのが得意で無感動になってった…。家族殺しを疑われた事もありますし。あぁは言ってましたけどきっと、黎凪は幸村さんが殺されても仇を追わないと思います」
「………」
「でも、それは黎凪だからであって。私だったら仇を追うし後追いするかもしれない。……黎凪は、ちょっと普通じゃないんです。だから…あんまり、深く取らないでください」
「…」
「黎凪は正論を言うし、凄い納得出来る。…でも、正しすぎるんです。凄いとは思うけど…黎凪は今までの経験から自分にも他人にも厳しいから、言葉を容赦しないだけなんです。…、だから、自分を貶めないでください、三成さん」
村越はそう言って石田の手を握った。

もうお前を離さない300

「…、弱い所がない人はいない、そう思ってるんだ」
「……今はな」
「愛されてんね黎凪」
「?!なっ!?」
「うん、自分でもそう思う。いいだろう」
「リア充爆発しろー」
「だが断る」
「破廉恥ぃぃっ!!」
「「今?!」」
宮野と村越は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いた真田にくすくすと笑った。
だが不意に宮野は口元に笑みを浮かべたまま小さくため息をつき、村越を見た。
「…芽夷。三成さんの所に行ってあげてくれないかな」
「?いいけど…なんで?」
「さっき、私さりげなく三成さんを否定したからさ」
「…えっ?」
「気付かなかった?でも、多分三成さんは分かってる」
「わ…分かった」
村越は首をかしげながらもちゃちゃっと袴を履き、左足を庇いながら走っていった。
真田は先ほどまでの真っ赤な顔はどこに行ったのか、神妙な顔つきで村越を見送った。
「……今、そういう世界を生きている、か…」
「…私は長曾我部に仇討ちを諦めろと言った。でもその言い分は、三成さんに対しても、当て嵌まる。徳川の裏切りも、言ってしまえばただの戦略だから…」
「…………後悔しておるか?」
「してない。私は、同軍だからといって、優しくするつもりはないから」
「…平等なのが、お前の強さだな」
「嫌われやすいけどね、そういうの」
宮野はそう言って苦笑すると真田を見上げた。真田は宮野の額に己の額を押しあてると、俺は好きだぞ、と言って宮野を抱き締めた。

 「待ちやれ」
「、大谷さん…」
一方の村越は、石田を探している時に大谷に呼び止められた。村越は僅かに大谷から視線を逸らす。
「…大谷さん。もう二度と…こんな事しないでくださいよ」
「…。主は何故我を庇った?下手をすれば長曾我部に殺されておったぞ」
「…大谷さんが死んだら、本当に三成さんは全てを失うと思ったし…。…なんか、腹立たしかったんです、長曾我部さんが。自分勝手に行動してる長曾我部が…ッ」
「自分勝手、なァ…。それを言うなら三成も十分自分勝手よ」
「そうかもしれませんけど!!…、三成さんと長曾我部のは何か違う…。長曾我部は短絡的で…三成さんと違って、覚悟をしてないように感じたから。人を殺すことに何も思ってないような気がしたから…!」
「……………」
村越はぎゅう、と袴を握り締めた。大谷は黙って村越の言葉を聞いている。
「三成さんを殺すことはただ単に人を殺すこととは意味が違う!…それを、何も考えていなかったら。この国の行く末が、掛かってるっていうのに…あの人は、自分の事しか考えてなかったから!」
「分かった分かった。…、主はまこと、変わった女子よな」
「は、はい?!」
「…、三成一筋のように思えて、存外考えはしておるのだな」
大谷の言葉に村越は視線を一瞬逸らした後、大谷を見た。
「…優しくする事だけが、優しさじゃないと、思うから」
「………ヒヒヒ、なるほどなァ。…我はちと黒田と話がある」
「!…、……」
「三成は主に任せてもよいか?……許されたとはいえ…な」
「…分かりました。黎凪にも頼まれた所なんです」
「ヒヒ、確かにな。あれは長曾我部を批判したが、三成も批判しておった故な。あれは遠回りに仇討ちなど止めよと三成に言うておったのか、さてさて……」
「…?…!諦めろ……って…そうか……」
「…ではな」
大谷はそう言うと村越に背を向け、村越は石田を探しに地面を蹴った。
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