もうお前を離さない301

「暗ァ、邪魔するぞ」
「げげっ?!何しにきやがった刑部!それに、長曾我部が騒いでいたのは終わったのか?」
「その事だがな。企てが露見しよった」
「!!な、なんだと…?…はっ!はんっ、嘘吐いても無駄だぞ刑部!!露見したなら、なんでお前さんはこんな所にいられるんだよ!」
黒田に会いに来た大谷は、予想通りの黒田の反応に小さくため息をついた。
「それがなァ……。…我は三成に許されてしまったのよ」
「………は?」
「無論、長曾我部は我と毛利を許しておらぬがな。多勢に無勢と思うたか引き下がったがなぁ」
「…、長曾我部は全部知ったのか?」
「無論。主の事も知っておるわ」
「……そうかい。…おい刑部、なんでそうなったんだ?」
黒田の問いに、それは何故大谷が許されるような事になったのか、を尋ねていると悟り、大谷は目を伏せた。
「…真田の嫁と、村越よ」
「嫁?…、あの女か、…そうか……。お前さんはどうするつもりだ?」
「我は三成に許されてしまった、ゆえに今まで以上に為すべきことをするまでよ。主こそどうする?」
「…ふん。露見したんなら遠慮することはないな、長曾我部に会いに行く」
「殺されてもしらぬぞ」
「へっ、お前さんに心配される人がくるとはな。…悪いが小生はお前さんと違って平気じゃないんでね。殺されても文句はない」
長い問答を淀みなく交わしていた2人は、黒田の言葉を最後に同時に背を向けた。大谷は城の中へ、黒田は外へと歩いていった。


 「…三成さん、村越です」
「…………………」
「入っても…よろしいですか?」
「…入れ」
村越は石田の部屋の襖を開いた。石田は着流しに着替えて文机に身を投げだしていた。石田の周りには防具が散乱しており、刀は石田の隣に横になって置いてあった。
村越は石田の前に座った。
「…何か用か」
「…正直に言います。黎凪と大谷さんに頼まれました。黎凪は三成さんも否定した、と」
「………」
「三成さん…私は、三成さん、凄いと思いました」
「…どこがだ?」
「許せなかったものを、許せたからです」
「………ッ、」
村越は石田の手にそっと触れた。
「大谷さんの事を特別視して許したわけじゃない…なのに許せるのは、凄いと思います」
「…私は…」
「あれはあくまで黎凪の思ってる事です。…あんまり、気にしないでいいと思います、それに、……、黎凪は自分で、まだ一番大切な者を失っていないから言えるのかもしれない、って言ってましたから」
「…貴様はどう思う」
「わ、私ですか?……、筋が通ってるし、そうなんだろう、とは思います。…でもそれを実行できる人は、…普通いないとも思います」
「……………」
石田は村越の言葉に顔を上げた。僅かに暗い表情を浮かべている石田に、村越は困ったような悲しいような、そんな表情で笑った。
「黎凪は…弱音を吐けなかった子なんです。だから、自分を殺すのが得意で無感動になってった…。家族殺しを疑われた事もありますし。あぁは言ってましたけどきっと、黎凪は幸村さんが殺されても仇を追わないと思います」
「………」
「でも、それは黎凪だからであって。私だったら仇を追うし後追いするかもしれない。……黎凪は、ちょっと普通じゃないんです。だから…あんまり、深く取らないでください」
「…」
「黎凪は正論を言うし、凄い納得出来る。…でも、正しすぎるんです。凄いとは思うけど…黎凪は今までの経験から自分にも他人にも厳しいから、言葉を容赦しないだけなんです。…、だから、自分を貶めないでください、三成さん」
村越はそう言って石田の手を握った。