もうお前を離さない302

「…貴様は気にしないのか?正論だと思うのだろう」
「正論だと思っても、だから従おうとは思いません。そんなの、出来る人が勝手にやってろって思うんで。私は、私の正義で生きてますから」
「!…貴様の、正義…」
「人は皆考えが違う。一緒の人なんていません。似てる人はいますけどね。私は黎凪の言葉に従う気も目指す気もないです。私はそういう人じゃないし、何ていうんだろう…正しくても、そんな悲しい生き方はしたくないんです」
「…そうか…」
「…三成さんは、黎凪の言葉で何を思ったのか、よかったら教えていただけますか?」
村越の言葉に、石田はゆっくりと体を起こした。ぽつりぽつりと話始める。
「………私は秀吉様の為…家康を追っている…。……最近。本当にそうなのか分からなくなってきた」
「…そう、なんですか」
「……私は本当は…自分の為に…追っているのではないかとな……」
「……………」
村越は一瞬、口を噤んだ。だがすぐに笑った。
「それでも、いいじゃないですか」
「なんだと…?!」
「貴方の生き方は貴方の為のもの。それに、自分の為に追ったって、秀吉様の仇を追うことに変わりはない。そうでしょう?」
「違う!!己の為に家康を追うのは、貴様が怒った長曾我部と同じだ!」
「…同じだと思うのなら、仇を追うことをいっそのこと止めてしまえば?」
「なぁ?!」
「だって…仇をとって、秀吉様は喜んでくれるんでしょうか?」
「!!」
村越はふむー、と呟きながら立ち上がり、石田の隣に座った。石田は仰天したように村越を見ている。
「…ッ…お喜びになるか…だと………」
「…もし心残りを持って死んだとしたら、私だったら仇を取るより残したものを叶えてほしいんじゃないか、と思うんですよね…。秀吉様がどうかは分かりませんけど…」
「…なら私はどうすればいいっ!!家康を許せというのか?!」
「そ、そうは思ってません!…ただ、仇討ち、私はしてほしくないから…」
「!?」
「す、すいません!なんか話題逸れてましたし!…その……うまく言えないんですけど……。…三成さんは、どうしたいですか?」
「…ッ……分からなくなった…分からなくなってしまった……」
「………そう…なんですか…。…、ちょっと失礼します」
「!?」
村越は不意にそう言うと石田に向き直り、正面から石田に抱きついた。石田は驚愕して村越を見る。
村越は石田の頭をぎゅうと抱き締めた。
「…、分からなくなったなら、一回考えるのをやめて、全部吐き出した方がいいです」
「……貴様は孫市と同じ事を言うのだな」
「孫市さんが…?」
石田はそう言うと村越の体に片腕を回した。
「…だが……貴様のぬくもりは落ち着く…」
「?!う、え、あ、そ、そうですか……」
「…?何を照れている?」
「い、いや、何でもないです……。…、考えすぎるとまとまるものもまとまらなくなりますからね。…、一回考えるのはやめです、やめ!」
村越はそう言うと笑ってぽんぽんと石田の背中を叩いた。石田は口元に僅かに笑みを浮かべると静かに目を閉じた。


 「…幸村」
「む?どうした?」
「……ん。幸村には、話しておこうかなと思って」
「?何をだ?」
「最後の戦……関ヶ原の戦い。全く予想出来ないけど、一つだけ確実な事がある。小早川秀秋が裏切る」
「?!な、なんと!?」
真田は驚愕して目を見開いた。