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凶姫と龍人35

三成は渡されたドレスをまじまじと見た。
白を基調に、裾にかけて薄い青紫色が広がっているドレスだった。袖は六分目辺りからふわりと広がっているタイプだ。
三成は自分の前にそれを合わせた。
「…やはり似合わないのではないか…?」
「ううん…そんなことないわ…貴女細いから…」
「……そうだな、ガリガリだろう」
「…市、そんなつもりで言ってないわ……体型に合った服を着れば…みーんな別嬪さんよ…ほら…着てみましょう…?」
「………」
「……………………」
「……分かった、着る、着るからその黒い手を引っ込めろ!」
言い渋る三成に市がぞわりと黒い手を出したので、三成は慌ててそういい、覚悟を決めた。

 「…こんなんでいいのか?」
「無論」
「おぅ王子!かっこいいじゃねぇの」
一方の政宗は仕度を終えていた。青色の燕尾服を身に纏っている。政宗は眼帯をした右目に触れた。
「…あいつ、そういやこの目の事聞いてこねぇな」
「貴方様が話さぬ限り、聞いてはこないでしょう。かといって、気にしているとも思いませぬが」
「…そうだな」
「なぁ王子、アンタ、この晩餐会で告白すんのか?」
「………そのつもりではいる」
政宗は元親の言葉に驚いて元親を見た後、ぼそり、とそう言った。顔はわずかに紅い。
「…でも、アイツ、俺が好きとは思えねぇなァ…」
「わかんねぇぜ?少なくとも、あんたに好意は持ってるだろ。じゃなきゃ一日中一緒にいて平気なもんかよ」
「確かにな。それは賛同するぜ」
小十郎の言葉に政宗は小十郎を見下ろした。小十郎は真っ直ぐ政宗を見上げる。
「お忘れではありますまい。石田は、最初貴方様と対峙した時、刀を構えていたことを」
「え、そうなの?」
「それから今日まで、政宗様に対する敵対心は薄れてる。脈なしとは思えませぬ」
「……ありがとよ。で、肝心の本人はどうした?」
政宗は肩をすくめると立ち上がり、襟元を軽く正した。ごん、と音がして扉がわずかに開く。
「政宗殿!三成殿がお待ちにござる!」
「!…OK」
「御武運を」
「政宗殿!気合いにござる!」
「…武運とは違くね?」
政宗は三人の言葉にくすりと笑うと部屋を出た。

 政宗は階段上で待つ三成の元へ歩き出した。その後ろを少し離れて元親と小十郎がついていく。
三成を見上げた政宗は僅かに息を呑んだ。
三成は結局、市に渡された白のドレスを着ていた。紫色の方が強い青紫色の裾から白い腕が覗いている。薄く唇に引かれた紅が三成の血色の悪い顔を明るくしている。
三成は恥ずかしそうに、ぎゅ、と拳を前で握りしめていた。
「…政宗様、みとれている場合ではございませぬぞ」
「、お、おぅ」
政宗ははっと我に返ると階段を静かに登り、数段下から三成に手をさしのべた。
「…その、変ではないか?」
「今までのなかで一番似合ってるぜ」
「!!!」
三成はぼんっ!と顔を赤くさせながらも政宗の白の手袋に包まれた手をとった。

凶姫と龍人34

その後しばらく雪のなかで遊んでいた二人だったが、室内に戻ってきて、暖炉の前で本を読み始めた。
政宗が一つの単語を指差す。
「たけがたなってなんだ」
「これは、しない、と読む。練習用に竹で出来た刀のことだ。木で出来た木刀というのもある。…そう言えば刀は異国語で何と言うんだ?」
「刀はswordだ。s、w、o、r、d」
政宗は本の上を指でなぞり、アルファベットを書いた。
「そぉど…。……竹は?」
「たけ?…確か、bambooだ。b、a、m、b、o、o」
「…じゃあ、竹刀はばんぶぅそぉどか」
「……。そうなるな」
「…なんだか、すぐ曲がりそうだな、ばんぶぅそぉど…」
「Bamboo sword…」
二人はそう呟くと互いを見合い、ぷ、と小さく噴き出しあった。
くすくすと笑いながらも二人の視線は本に戻る。
「つぅかよ、この話人多すぎねぇか」
「まぁ、平安の終わりだからな…朝廷が絡んでくるとややこしい時代だからな」
「平滋子って誰だっけ?」
「滋子は平清盛の妻時子の妹で、後白河上皇の妻になる」
「…あん?清盛は後白河とはあんまり付き合いたくないんじゃなかったのか?」
「ま、世の中そううまくいかないという話だ。トントン拍子に自分の思う通りに進むわけではない」
「ま、そうだな。それくらいねぇと生き甲斐がねぇ」
政宗は三成の言葉に肩をすくめてにやりと笑うとそう言った。三成はじ、と本から視線を移して政宗を見つめた。
「貴様、思ったより好戦的なのだな」
「あ?そうか?」
「あぁ。会ったばかりの頃はもう少し内向的というか、そんな印象を受けたからな」
「…ま、そうかもな。ずっとこの城に閉じ籠っている事に変わりはねぇからな」
政宗は三成の言葉に苦笑し、自嘲的な笑みを浮かべた。三成はぐ、と拳を握ると政宗に向き直った。
「…貴様に頼みがある」
「なんだ?」
「……ちゃんすが欲しい。最初の夜、貴様は私を晩餐に誘ってくれただろう。また、誘ってくれないか?」
「………。つまり、俺とアンタが晩餐を…?」
政宗は三成の言葉にぽかんとした後、恐る恐るといったようにそう尋ねてきた。三成はこくんと頷く。
「…なんだかんだ朝食を共にしたりはするが、いつも貴様は先に戻ってしまうだろう?その…貴様と、ちゃんと食事がしたい」
「…。……喜んで」
政宗はしばらく目を見開いていたが、ふ、と笑うと薄く目を細めてそう答えた。


 「…政宗様、落ち着きなさいませ」
その後、自室に戻った政宗は色々と動揺していた。返事をしていた時は落ち着いていたと言うのに、だ。
政宗は小十郎の言葉に小十郎を振り返った。
「これが落ち着いていられっかよ!Shit!!情けねぇな、俺!!」
「…一先ず晩餐の前に身なりを整えましょう。髪も少し切らねば」
小十郎は、はぁ、とため息をつくと政宗の手を引っ張り浴室へと連れていった。
 一方の三成は、というと。
「…こんなの…どうかしら…?きっと似合うわ……」
「…う…ふわふわ…」
晩餐会でのドレスを選ばされていた。

凶姫と龍人33

翌日、城の庭にて。
「…いつのまにか小鳥が増殖してやがる」
「ぞ、増殖…まぁ来い、この鳥達は人懐こいんだ

「そうなのか?」
「あぁ、私にもなついた」
三成はそう言いながら政宗をしゃがませ、手を出させた。三成はその上に鳥のエサを乗せ、手の周りにもエサをまいた。
「いいか?動くな。自分は危害を加えない、ということを体で示せ。そうすると寄ってくるぞ」
「…そうなのか?」
「私がそうだったから大丈夫だ」
「…ふーん……」
政宗はそう呟くとぴたりと体を動かさずに、近くに着地した小鳥をじ、と見つめた。三成は小さく笑って政宗から離れ、木の裏に回った。
被っていたフードを外し、きゅ、と胸元の服を握った。
ーーあぁ、この感情は何なのだ
ーー胸が、熱くなる。
三成は心のなかでそう呟き、空を見上げた。青く澄んだ空には雲ひとつなく、三成はむ、とむくれた。
「…私の悩みなどよそに晴れ渡った空だな……」
三成は肩をすくめて、木の影からそ、と政宗を覗いた。
大して離れていないのに、何故か政宗の体には至るところに小鳥が止まっており、三成は思わず噴き出した。
「ふ、はははははっ!き、貴様…ッ!」
「!テメェ笑うん、じゃっ?!」
政宗が思わず声をあげると、ばさばさと小鳥が一気に飛び立ち、政宗はうわわわ、と言いながら体を振るった。
「す、すまん、思わず面白くてな、」
「…コノヤロ」
政宗はにや、と笑うと足元の雪をわさわさと集め始めた。三成も笑い返し、素早く雪玉を丸めて投げつけた。
ちょうど大玉の雪玉を持ち上げていた政宗の顔に雪玉はヒットし、驚いた政宗は雪玉を落としてしまって雪に埋もれた。
「てんめぇぇえ!待ちやがれ石田ァ!」
「ふはははは、捕まえられるものなら捕まえてみろ!」
三成は楽しそうに笑いながら逃げ出し、政宗も言葉のわりには笑いながら三成を追いかけ始めた。
上から眺めていた官兵衛はため息をついた。
「…もはや恋人にしか見えんぞ」
「リア充爆発しやれ、と?」
「リア充って何じゃ」
「ヒヒ、まぁよいではないか。仲良しこよしが何よりよ」
「…お前さんが言うと胡散臭いな」
官兵衛はそう言うと尻尾をぶるん、と振り、寝る体勢に入った。

凶姫と龍人32

「…伊達」
「……おぅ」
「…今、こうして握っているのも、怖いか?」
「……いや…案外平気だ。アンタは、結構平気なんだよ、ただ、流石に直となると、な。悪かったな」
「もう謝るな。貴様が謝罪すべきことなどない」
三成はそう言うと片手を離し、わしゃ、と政宗の頭を撫でた。政宗はきょとんと三成を見る。
三成はじ、と政宗の目を見つめたまま撫で続けた。
「…落ち着いたか?」
「…。ぶはっ!」
「?!」
三成の言葉に政宗は勢いよく噴き出した。三成はびっくりしたように頭から手を離した。
「は、はははっ…アンタ、本当におもしれぇ奴だな」
「?よく分からんが、大丈夫そうだな」
「…あぁ、大丈夫だ。ありがとよ」
「…。礼には及ばん」
嬉しそうに政宗は笑ってそう言った。三成はその政宗の笑みにわずかに顔を赤らめた後、少し顔をそらしてそう返した。

 「よう王子!」
「!なんだ、テメェか」
それから少しして、政宗と三成は別れ、政宗は自室に戻ってきた。待ち伏せしていたらしい元親が、元就とともに駆けてきた。
「如何であった」
「んだよ、アンタもいたのか」
「で、どうだったのだ」
「…。別に……」
政宗は二人から顔をそらし、ぼつりと呟いた。元親と元就はどこかつまらなそうに顔を見合わせたが、その場にちょうど訪れた小十郎は政宗の顔を見て、薄く笑みを浮かべた。
「何やらよきことがあったようですな、政宗様」
「!なにっ」
「…小十郎…言うんじゃねぇよ……」
「隠すつもりであったか王子よ」
「いや、隠すとかそういうつもりはねぇ。…、アイツ、思ってたより、いい奴だった、って話だ」
そう言った政宗の顔は僅かに赤かった。元親と元就は思わず顔を見合わせ、小十郎は珍しく、くっくと喉を鳴らして笑った。
「惚れたならば惚れたと、素直に仰いませ」
「なっ!て、テメ、小十郎!!」
「おぉ?!惚れたのか?!」
「…!うるせぇ!」
政宗はぱくぱくと口を開閉して混乱しながら、顔を真っ赤にしてそう怒鳴り、部屋に逃げ込んでしまった。
勢いよく閉まったドアに元親の火が消えたが、元親はにやにやと笑った。
「王子は惚れたぜ!もしかしたら、俺たち人間に戻れるかもしれねぇ!」
「そう簡単にはいくまい。石田も惚れねば意味はないのだぞ」
「まぁ、そうだけどよ!希望が見えてきたじゃねぇか!!」
「…だが、それはいいとしても、時間はあまり残されてねぇ」
興奮する元親だったが、小十郎の言葉にはっと小十郎を振り返った。
小十郎は腕を組み、考え込む様子を見せた後、二人を振り返った。
「…こうなったら形振り構ってはいられねぇ。俺たちでも動くぞ!」
「!待ってましたァ!」
「ふん、なかなかに面白そうだな」
「そうと決まりゃ、早速軍議だ」
三人は同時に頷き合うと、全速力で厨房に向かって走っていった。

凶姫と龍人31

翌日。
「どうだ。辞令の言葉はいらんぞ」
「…抹茶の良し悪しなんざ俺には分からねぇけど、これは飲める」
「何だそれは」
三成は政宗の言葉に杓を置いて政宗に向き直った。政宗は三成に言われた作法で飲み干し、肩を竦めた。
「今まで抹茶なんざ苦くて飲めなかったんだよ」
「…だから開封してあるのにあんなに大量に余っていたのか!粗末にするな!!」
「飲めねぇモンは仕方ねぇだろ!……、そのすぐ後、俺以外飲めなくなったしよ」
「…!そういうことは先に言え。ならば仕方がない」
三成はふん、と鼻を鳴らすと政宗から渡された椀を受け取り、茶釜の隣においた。政宗は姿勢を崩し、胡座をかく。白いシャツの上に被っていた青い上着がばさり、と落ちた。
「!」
「落ちたぞ」
政宗と三成が同時に手を伸ばし、ぱふ、と手が重なった。
「ッ!!」
政宗は瞬時に手を引っ込めた。三成はきょとんと政宗を見る。
「?どうした」
「…あ、いや、悪ぃ…」
「?手がどうかしたのか」
不思議そうにそう言いながら、三成は政宗に手を伸ばした。政宗は何も言わずに手を引っ込める。
「……昨日はアンタ、手袋着けたじゃねぇか」
「?そういえば、本を読むまで着けていたな」
「…素肌で俺にさわんな」
政宗はぼそり、とそう言った。三成は驚いたように政宗を見た後、自分の手を見、そして政宗を見て、にやりと笑った。
突然笑った三成を政宗はぎょっとしたように見る。
「アンタ何笑っ…「覚悟ぉぉぉぉお!」どわぁぁぁあぁぁあ?!」
きらんと目を輝かせた三成が、突如政宗に飛びかかった。予想だにしなかった行動に政宗は押し倒される形になる。ごちん、と固い音がした。
「いって頭ぶっけた…!テメェなにしや…ッ」
三成は政宗の頬を、ぼふ、と両手で挟んだ。政宗の顔がちょっと間抜けた顔になる。
ぴくり、と政宗の肩が跳ねた。
「触られるのが嫌なのか」
「…アンタは嫌じゃねぇのかよ、んなウロコの肌」
「当たり前だ!」
自嘲気味に笑いながら言った政宗に、三成はそう怒鳴り返した。政宗は目を驚きに見開く。
三成は頬から手を離し、ぽかんとして無防備な政宗の手をつかんだ。
「私は外観で人を判断するのは嫌いだ!!貴様がどんな肌だろうが、それは私が貴様を卑下する根拠にはならん!生まれ持ったもの、変えられぬもの、それを己と違う異質なものだからと、私が貴様を嫌うと思ったのか!!」
「あ、いや、俺は……」
「私は昨日言ったはずだ!違うものは違うものでいい、と!それで苦しんだこともあったと!!私が苦しかったことを貴様にすると思ったか!!私を馬鹿にするな!!」
「…すまん」
政宗は激昂する三成に素直に謝った。三成は荒くなった息を調え、政宗の手をぎゅうと強く握った。
政宗は視線を落とす。
「…すまねぇ。ただ俺は、今まで、そうだったから……怖かったんだ」
「!!」
三成は、はっ、と息をのんだ。
「アンタは変わってる。普通の奴らと違う。それは嬉しいとは思う。だけど、まだ、抵抗はあんだよ」
「………伊達」
「俺は…まだ、他人が怖ぇんだ…すまねぇ……」
「……いや、私が考えなしだった。許してくれ…」
三成はぐ、と唇を噛み、握った手を胸元に抱いた。
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