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葱と牛蒡とツインテール65

「やめ、ろ…」
吉継の耳に、か細い声が届く。見下ろせば、よろめきながら踏み出す三成がいた。
回りの面子はまだ倒れていて、既に三成もぼろぼろだったが、三成は屈せず刀を構えて戦おうとする。
「貴様の蛮行を断じて許可しない…!これでは、秀吉様が統べようとした世が滅んでしまう!」
ぎり、と三成は奥歯をならす。信長は興味なさそうにそちらを見下ろしている。吉継ははっ、としたように三成を見た。
三成は震えそうになる手で、しっかりと刀の柄を握りしめた。
「秀吉様の夢を…半兵衛様の希望を…!」
三成の脳裏に二人の姿がよぎる。
三成はどちらの死をも見送ることが出来なかった。どちらにも間に合わなかった。
もう間に合わないことは、許されない。

ー共に世界をこじ開けようぞ

「貴様などに!消させはしないッ!」
三成は勢いよく地面を蹴って単身信長に迫った。信長は既に手にショットガンを構えていて、三成に向けていた。
無言のまま三成に向け放つ。強力なショットガンが炎を巻き起こす。
「ぐぉあああっ!!」
三成は炎に翻弄され信長に近寄れない。
「卑しき猿と故なきその尾よ…脆き魂と為りて悠久眺むる価値もなし!」
「ぐあぁあああっ!」
信長の攻撃に三成は弾き飛ばされ、下の岩に激突した。三成は力なく倒れ、その手から鞘がこぼれ落ちていった。
信長は尚もショットガンを撃とうとしたが、その時に接近する影に気がついた。
政宗が三成に意識が向けられていた隙に間合いに入り込んでいた。
「Ha!!」
政宗は頭上から信長に斬りかかったが、敢えなく刀で受けられ、弾かれる。それと同時に、小十郎が低い位置から信長に迫る。
「せやぁっ!」
政宗を弾いた信長の刀は頭上にあり、普通ならばそのがら空きの胴体を狙えたが、死んでも第六天魔王、すばやく刀を返し逆手で小十郎の刀を受けると返す手で小十郎も弾き飛ばした。
「よっとぉ!」
「ぜりゃあ!」
信長の後方、反対側の頭上から佐助が手裏剣を飛ばし、幸村がそれに追走するように地面を蹴る。
信長は振り返り様に佐助の手裏剣を弾き、すかさず跳躍して迫った幸村の槍も受けて弾いた。
「「せああっ!」」
家康と慶次は離れたところから衝撃波を放つ。
「無用どもがァァッ…!」
にぃ、と笑ってそれを振り返った信長は、マントを翻すこと、ただそれだけでそれ以上の衝撃波を放ち、六人を弾き飛ばしてまわりにあった棘に叩きつけた。
信長は高らかに笑う。回りの棘の花は次々に数を増やしていく。
「く…っ」
叩きつけられた小十郎は思わず呻いた。衝撃に体が痺れる。
「…小十郎ォ…」
「は…ッ」
「豊臣の山猿の死が、こんなもん持ってくるとはなァ…」
政宗はそう言いながら体を起こし、ぶんぶんと頭を揺らした。小十郎は目を細め、ぐ、と体を起こす。
「どうにか…ってあのやろう、」
「?」
「…許さない…!絶対にッ…!」
政宗のどこか焦った声にそちらを見やれば、ぼたぼたと血を流し、切っ先を引き摺りながら歩く三成の姿があった。
「唾棄すべき魔王…!…貴様などに…秀吉…様のっ…」
三成は刀を両手で握り、ふらふらと信長に向かっていった。誰が見ても結末は分かりきっている。
「どこまで純粋なんだよあの野郎…!」
政宗はぎり、と歯を鳴らした。信長が刀を振り上げた。
間に合わない。
「灰儘に帰するが良いわァァァ〜ッ!!」
信長の背後にいる六魔の刀が、勢いよく振り下ろされた。

葱と牛蒡とツインテール64

「…落ち着きなさい、しき」
「私は落ち着いて、」
「片倉様が負けると思っているのですか」
「、そんなことは」
「ならば何もかも完璧にやる必要はありません。貴方は仕事においてはまだただの補助、お帰りになられた時の手間を減らすのがあなたの仕事です」
「…」
しきははっとしたように生嶋を見、ぐ、と服を握りしめた。生嶋は言葉を続ける。
「そして二人が居られない今、実質ここを取り締まる一番上は貴方です。今貴方は、城下の民を導くべき立場なのですよ」
「!」
「ですから、避難しなさい。村人を安心させるのも、奥方たる貴方の仕事です」
しきは何度か瞬いた後、ふ、と苦笑いを浮かべた。
「…そうでしたね。私は…ただの奥さんじゃないですからね」
「不安なのは分かりますが、それが上に立つ者の妻になるということです」
「すいません、失念していました。今行きます」
「はい」
しきは作業していて乱れていた髪をかきあげ、手早くまとめた。生嶋が差し出した簪でぐ、と止める。
簪での髪の結い方にも慣れ、ツインテールにすることも少なくなってきた。自分が変わってきたことを何となく感じる。
変わらないでは、生きてられなかった。
「…小十郎様、御武運を」
しきはそう言うと身だしなみを整え、屋敷を出た。



 そして関ヶ原では、政宗達が信長と対峙していた。政宗は揺れるとげのような部分に立ちながら、隣のトゲにいて目を覚ましたらしい三成に目をやった。
「誰の企みか知らねぇが、アンタらはこのサプライズpartyのダシに使われたらしいな」
「全てはこのためだったということか…」
家康の言葉に、三成は僅かに視線をそちらにやる。政宗は三成に向き直った。
「おい石田。あの作戦…考えたのは誰だ?」
「…………」
「知らねぇとは言わせねぇぞ」
「独眼竜、」
三成は、答えなかった。政宗は、ちっ、と舌を打つがそれ以上追求はしなかった。
それよりも、まずは目の前の問題をどうにかしなければならない。
信長が、にぃ、と笑う。
「者々よ…!世に宴し勤めを果たせ!」
信長はそう言い放つと同時に銃をぶっ放す。膨大なエネルギーが爆発を起こす。吉継はそれを見て、す、と浮上した。
「…!」
爆発に叩きつけられた政宗は小さく呻いた。他の面子も叩きつけられたようだった。
「ん…たまげた力だね…」
「かつての比ではござらぬ…ん…?」
慶次が呻いた隣に転がっていた幸村は、下方が何かおかしいことに気がついた。
その頃、ふよふよと飛んできた吉継はちょうど彼らの上空に到達した。
「第五天の黒き手より吸われし、淀みが魔王の、新たな血肉となりこの世を…滅びで覆いやる…」
吉継はどこか恍惚とした声色でそう呟く。
「これにて万人等しく闇る淵にもがきし仔虫よ…!ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ……」
吉継はそう言い甲高い声で笑ったが、どこかに違和感を感じて、黙ってしまった。
ー大谷さんは、何が願いですか
いつ、誰に聞かれたのか、もはや覚えてなどいなかったが、そう聞かれたことがあったことを、吉継は不意に思い出した。
「…何が願い……」
吉継がぽつりとそう呟いた時、ざり、と音がした。

葱と牛蒡とツインテール63

「死にゆく呻き華のよう……」
混乱し、騒ぎが広がり窪みのなかに黒い霧のようなものが充満して上からは様子が伺えなくなる。大谷はそれをどこか楽しそうに見下ろしていた。
中央に出来た柱のようなものに、お市が近付く。歌を歌う声色は恍惚としている。その姿は、巫女のようにも、生贄のようにも見える。
「開け根の国根のやしろ…」
お市の声に別の声が被る。柱の上部が、ぴしりと裂けた。

第六天魔王織田信長が、復活したのだ。




 「!」
時を同じくして、外のざわめきに屋敷から外に出てきたしきは、異常に気がつき表情を引き締めた。
空が暗く、西の空は僅かに赤暗かった。
「…始まったのか……」
「!しき、村人を避難させました、私たちも行きますよ」
しきに気がついた生嶋が駆け寄ってきてそう言った。
日食の原理が知られていなかった頃、日食は太陽が黒くなる、として不吉な現象であるとされていた。
「これはただの日食です、避難する必要はありません」
実際は、日本がある地球と太陽の間にある月がちょうど太陽と重なっているだけで、不吉なことでもなんでもない。
そう知っているしきはしれっ、とそう言った。聞きなれぬ言葉を聞いた生嶋は、彼女には珍しく顔をしかめる。
「に、にっしょく??」
「簡単に話しますと、日輪と日ノ本の間に別のものが入り込んで日輪と重なっているだけです。日輪には何の異常も起こっていません」
「??」
「避難する必要はないんですよ。日食は、太陽が上り沈むのと同じ、当たり前に起こることなんです。ただ、起こる確率が低いだけで」
「しき、混乱するのは分かりますが、」
「混乱してません、これはただの知識です。この時代には知られていないだけの」
「は、はぁ?」
しきはあわてふためく周りの人を気にせず、屋敷のなかに戻った。生嶋ははっと我に帰り、しきを追った。
「しき、説明なさい!今の発言はどういうことです」
「…生嶋さん。今、関ヶ原で最後の戦が始まりました」
「?!」
しきは生嶋を振り返ってそう言った。生嶋はしきの言葉に驚いたあと、不可解そうにしきを見た。
「…しき、あなたは……この国の者ではないのですね」
「………、はい」
「…どういうことなのかは理解できませんが、片倉様や政宗様はご存知なのでしょうね?」
「はい」
「ならば、深いことは聞くのは止めましょう。知らずともよいことです」
生嶋は動揺を見せず、さらりとそう言った。しきは僅かに驚いたように生嶋を見たが、知らずともよい、という言葉に納得したように目を細めた。
生嶋はいつもの表情に戻って、しきに顔を向けた。
「しかし、避難をせずに何をする気ですか」
「…頼まれていた仕事です。隣国に送るものの」
「…確かにあれは時期を逃せば問題になります……が、隣国も今はこちらと同じ状況ですよ。昨日のうちに完成しているのは知っています」
「…あぁ、それもそうですね」
しきの言葉に生嶋は、はぁっ、とため息をついた。いつもの彼女の、鋭い眼差しでしきを見据える。

葱と牛蒡とツインテール62

空に見えたのは、黄色。
政宗は驚愕に目を見開いた。幸村や佐助も爆発に近い衝撃に気がつき、そちらを振り返って驚いた表情を浮かべた。
飛ばされた三成が落ちる前に、家康が地面に落ちごろごろと転がった。三成は辛うじて着地したが、すぐにばたりと倒れた。

どうやら、家康が三成を庇ったようだ。

三成はぐぐ、と這うように少し体を起こした。庇われてもダメージは受けたのか、腕はぷるぷると震えている。
「何のつもりだ…家康」
「憎しみも…憤りも…癒すのは絆だ、三成。ぐっ…ワシは、お前を…」
「驕るなと言っている…!助けろなどと言っていない!私と共に起たなかった貴様が…絆の何を語る…!」
「三成…」
「どこかで…のたれ…死ね…」
三成は呻いて起き上がろうとしたが、そのまま力尽きて倒れた。家康は目を伏せて薄く、どこか寂しげに笑った。
「…そんなことを、平気で言うなよ…三、成…」
家康もそう言って、力なくそのまま静かに目を閉じた。
「…」
政宗は倒れた二人を見て目を細めた。小十郎は政宗に駆け寄り、その体を支えて立ち上がらせた。
「…なァ、小十郎」
「はっ」
「……いや、何でもねぇ」
「…政宗様の思い、石田には届いたかと」
「…家康が、野郎の助けになってくれそうではあるけどな」
政宗は、はっ、と小さく笑い、僅かに顔を伏せた。

そして、日食が起こり、関ヶ原が更に暗くなった。
「みんなで、咲かせよう…ほら、もうすぐ…」
密かに数を増やしていた黒い手が、目に見えて増え始めた。政宗達も異変に気がつく。
「みんなッ!!」
その時、鍋の上から震えている、だが大きな声が聞こえた。秀秋だ。
「あの黒い手に気をつけて!あれに触っちゃだめだよ!」
「…どういうことだ」
政宗は小さく呟き、そちらへと目をやった。黒い手がもごもごとうずめいている。
「天海様はみんなの心を一つにするためだって…そのための犠牲だって言われて…お坊さんの言うことだからボク、正しいと思っていたけど…。やっぱれ!間違ってると思うんだッ!」
秀秋の言葉をきっかけに、兵たちは黒い手から逃げ始めた。だが黒い手は気にも止めずに兵たちをなぎ倒していく。
「この黒い手、見覚えがあり申す…。お市殿…!」
黒い手を避けながら辺りを見回していた幸村は、お市の姿に気がついたが、手に阻まれ、近寄ることができない。
次第に、手の攻撃は鍋のやぐらにまで及び、やぐらが破壊され、鍋が倒れた。
関ヶ原の地は滅茶苦茶になった。
「…まさか、しきの言っていた、この世界そのものを憎んでいる人間は少なくない、というのは…」
「…あの黒い手、いやに禍々しいな。兵を殺しただけで止まるはずはねぇ。…なるほどな」
「?」
なにかに感づいたらしい政宗に、小十郎は顔を向けた。
「…その世界を憎んでるっていう野郎達に、石田の復讐が利用された、ってところか…。あの回りくどいやり方も、家康の文字真似した偽の手紙も、ここに大人数を集めるためだとしたら納得がいくってもんだ。Shit!!胸糞悪ィ!!」
「しかし、集めて殺すことになんの意味が…それこそ、わざわざ妙な技を使わずとも、豊臣を忘却するという理由でこの世を憎んでいる石田一人で事足りること」
「分かるかよ。今はまずあの手から逃げることだ。小十郎!」
「はっ!」
小十郎と政宗は、自軍の兵に下がるように指示した。

葱と牛蒡とツインテール61

政宗はきっ、と三成を見据え、三爪を三成へと向けた。
「全力で来い…!これがアンタの、クライマックスだ!!」
政宗の言葉に三成の目が更に見開かれ、憎悪に歪んだ。
ぐらり、と上体が倒れ、ぶるぶると揺れる。
「…ッガアァァァァァァァッ!!!」
三成は吼え、上体を勢いよく起こして反らした。目が赤く光り、目元は黒く濁る。赤黒いオーラが、三成の頭を中心に現れる。
政宗は僅かに目を見開いた。
三成は再びぐらり、と上体を落とし、普通ではあり得ない前屈体勢を取り、勢いよく地面を蹴った。政宗の視界から三成が消え失せーー一瞬のうちに政宗の足元に移動した。
「…!」
政宗は予想以上の三成の速さに目を見開く。もう避ける時間はない。三成の刀は真っ直ぐ、政宗の首を目掛けて振られた。

ガキンッ!と鈍い音がする。
三成は、首をとった、と思い、秀吉を失って初めて、笑みを浮かべた。だが。
「…!」
政宗の首布が千切れ、その下から稲妻模様のネックガードが姿を見せた。
政宗が部下から贈られた、首の防具だった。
政宗は刀で三成を弾く。三成はもろに弾かれ、よろよろっと後ずさった。
「、何っ」
政宗は唯一三成が怯んだ隙を逃さなかった。
「いぃいやぁぁぁああぁぁあぁぁあああっっ!!」
政宗は体に残った力を使い果たすかという勢いで六爪を三成に叩きつけた。政宗よりも三成の防具は隙間がなく、かつ丈夫なようで、政宗のように壊れない。
それでも政宗は、刀を三成に叩きつけた。
斬るようにではなく、殴るように。
最後の一撃で、三成を下から上へと殴りあげる。衝撃で、軽い三成の体は上に飛び、政宗は三成を追撃するように五爪を空へと放った。
五爪が竜の紋章を空に描き、中央に向いた竜の口元に三成はたたきつけられ、磔にされた。
「ぐ…ぅうっ…」
叩きつけられた衝撃に三成の首が揺れたが、三成は諦めなかった。磔から逃れようともがく。
三成の憎悪は消えない。赤黒いオーラで、青い光を放つ竜の紋章すらも赤く染め始めた。
政宗は三成に対して、刀を構えた。
ー私からたったひとつの光を奪ったのだッ!
「…一度死んだなら尚更…!」
そう怒鳴る政宗の声は、僅かに震えているようにも聞こえた。
「また死ぬためじゃなく…!生きるために力を揮いやがれ!!テメェの死神を断ち切ってやる!!」
政宗は勢いよく地面を蹴った。
「JUMPING JACK BREAKER!!!」
ーJumping Jackとは、日本語に訳すと操り人形を指す。
政宗には三成が操り人形のように見えたのかもしれない。
豊臣秀吉という男を愛し、崇め、己を己たらしめる存在であると、己の世界を照らす光であると信じこんでしまった。きっかけは政宗には知りようがないが、自らの道を照らすのは自分自身であるということを、彼は見失ってしまったのだ。
だから、今の彼の世界には光がない。光がないと思い込んでいる。だから生きられない。彼を今動かし歩かせているのは、亡き豊臣秀吉への妄執。

自分が作り出してしまった哀れな人形。それを自分は、人に戻さねばならない。自分が目指す高みにふさわしい人間になるためにも。

操り人形を破壊する者。それが、この技が示す言葉。
政宗の一撃は竜の口元を貫き、大きな衝撃波を起こした。暗かった関ヶ原の地が一瞬明るくなる。
小十郎はそちらを見つめ、落ちてくる政宗を見つけて落下地点へ駆け寄った。
地面に降り立った政宗の体からは蒸気が上がり、政宗はガクン、と膝をついた。
成功したか。政宗はすぐに顔をあげた。
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