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葱と牛蒡とツインテール64

「…落ち着きなさい、しき」
「私は落ち着いて、」
「片倉様が負けると思っているのですか」
「、そんなことは」
「ならば何もかも完璧にやる必要はありません。貴方は仕事においてはまだただの補助、お帰りになられた時の手間を減らすのがあなたの仕事です」
「…」
しきははっとしたように生嶋を見、ぐ、と服を握りしめた。生嶋は言葉を続ける。
「そして二人が居られない今、実質ここを取り締まる一番上は貴方です。今貴方は、城下の民を導くべき立場なのですよ」
「!」
「ですから、避難しなさい。村人を安心させるのも、奥方たる貴方の仕事です」
しきは何度か瞬いた後、ふ、と苦笑いを浮かべた。
「…そうでしたね。私は…ただの奥さんじゃないですからね」
「不安なのは分かりますが、それが上に立つ者の妻になるということです」
「すいません、失念していました。今行きます」
「はい」
しきは作業していて乱れていた髪をかきあげ、手早くまとめた。生嶋が差し出した簪でぐ、と止める。
簪での髪の結い方にも慣れ、ツインテールにすることも少なくなってきた。自分が変わってきたことを何となく感じる。
変わらないでは、生きてられなかった。
「…小十郎様、御武運を」
しきはそう言うと身だしなみを整え、屋敷を出た。



 そして関ヶ原では、政宗達が信長と対峙していた。政宗は揺れるとげのような部分に立ちながら、隣のトゲにいて目を覚ましたらしい三成に目をやった。
「誰の企みか知らねぇが、アンタらはこのサプライズpartyのダシに使われたらしいな」
「全てはこのためだったということか…」
家康の言葉に、三成は僅かに視線をそちらにやる。政宗は三成に向き直った。
「おい石田。あの作戦…考えたのは誰だ?」
「…………」
「知らねぇとは言わせねぇぞ」
「独眼竜、」
三成は、答えなかった。政宗は、ちっ、と舌を打つがそれ以上追求はしなかった。
それよりも、まずは目の前の問題をどうにかしなければならない。
信長が、にぃ、と笑う。
「者々よ…!世に宴し勤めを果たせ!」
信長はそう言い放つと同時に銃をぶっ放す。膨大なエネルギーが爆発を起こす。吉継はそれを見て、す、と浮上した。
「…!」
爆発に叩きつけられた政宗は小さく呻いた。他の面子も叩きつけられたようだった。
「ん…たまげた力だね…」
「かつての比ではござらぬ…ん…?」
慶次が呻いた隣に転がっていた幸村は、下方が何かおかしいことに気がついた。
その頃、ふよふよと飛んできた吉継はちょうど彼らの上空に到達した。
「第五天の黒き手より吸われし、淀みが魔王の、新たな血肉となりこの世を…滅びで覆いやる…」
吉継はどこか恍惚とした声色でそう呟く。
「これにて万人等しく闇る淵にもがきし仔虫よ…!ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ……」
吉継はそう言い甲高い声で笑ったが、どこかに違和感を感じて、黙ってしまった。
ー大谷さんは、何が願いですか
いつ、誰に聞かれたのか、もはや覚えてなどいなかったが、そう聞かれたことがあったことを、吉継は不意に思い出した。
「…何が願い……」
吉継がぽつりとそう呟いた時、ざり、と音がした。

葱と牛蒡とツインテール63

「死にゆく呻き華のよう……」
混乱し、騒ぎが広がり窪みのなかに黒い霧のようなものが充満して上からは様子が伺えなくなる。大谷はそれをどこか楽しそうに見下ろしていた。
中央に出来た柱のようなものに、お市が近付く。歌を歌う声色は恍惚としている。その姿は、巫女のようにも、生贄のようにも見える。
「開け根の国根のやしろ…」
お市の声に別の声が被る。柱の上部が、ぴしりと裂けた。

第六天魔王織田信長が、復活したのだ。




 「!」
時を同じくして、外のざわめきに屋敷から外に出てきたしきは、異常に気がつき表情を引き締めた。
空が暗く、西の空は僅かに赤暗かった。
「…始まったのか……」
「!しき、村人を避難させました、私たちも行きますよ」
しきに気がついた生嶋が駆け寄ってきてそう言った。
日食の原理が知られていなかった頃、日食は太陽が黒くなる、として不吉な現象であるとされていた。
「これはただの日食です、避難する必要はありません」
実際は、日本がある地球と太陽の間にある月がちょうど太陽と重なっているだけで、不吉なことでもなんでもない。
そう知っているしきはしれっ、とそう言った。聞きなれぬ言葉を聞いた生嶋は、彼女には珍しく顔をしかめる。
「に、にっしょく??」
「簡単に話しますと、日輪と日ノ本の間に別のものが入り込んで日輪と重なっているだけです。日輪には何の異常も起こっていません」
「??」
「避難する必要はないんですよ。日食は、太陽が上り沈むのと同じ、当たり前に起こることなんです。ただ、起こる確率が低いだけで」
「しき、混乱するのは分かりますが、」
「混乱してません、これはただの知識です。この時代には知られていないだけの」
「は、はぁ?」
しきはあわてふためく周りの人を気にせず、屋敷のなかに戻った。生嶋ははっと我に帰り、しきを追った。
「しき、説明なさい!今の発言はどういうことです」
「…生嶋さん。今、関ヶ原で最後の戦が始まりました」
「?!」
しきは生嶋を振り返ってそう言った。生嶋はしきの言葉に驚いたあと、不可解そうにしきを見た。
「…しき、あなたは……この国の者ではないのですね」
「………、はい」
「…どういうことなのかは理解できませんが、片倉様や政宗様はご存知なのでしょうね?」
「はい」
「ならば、深いことは聞くのは止めましょう。知らずともよいことです」
生嶋は動揺を見せず、さらりとそう言った。しきは僅かに驚いたように生嶋を見たが、知らずともよい、という言葉に納得したように目を細めた。
生嶋はいつもの表情に戻って、しきに顔を向けた。
「しかし、避難をせずに何をする気ですか」
「…頼まれていた仕事です。隣国に送るものの」
「…確かにあれは時期を逃せば問題になります……が、隣国も今はこちらと同じ状況ですよ。昨日のうちに完成しているのは知っています」
「…あぁ、それもそうですね」
しきの言葉に生嶋は、はぁっ、とため息をついた。いつもの彼女の、鋭い眼差しでしきを見据える。
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