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葱と牛蒡とツインテール21

「……あぁ、代わりに我の見解を教えてやるのであったなァ」
「!え、今のだけですか?」
「?他にも欲しいのか?」
「いっ、いや、あれでいいならいいです、教えてください」
さよか。
吉継はそう言うと、いずまいを直ししきに向き直った。ぴん、と扇子をたてる。
「賢人殿とて、主を四六時中見張っておることはできぬ。現に今、三成を動かさねばならぬ状況になっておる。一人二人、斯様なことを信じ、かつ外に漏らさぬ、事実を知っておる者が必要と考えたのであろ」
「…随分と……警戒されてるんですね、私」
しきは吉継の答えを聞いて、ぽつりとそう言った。しきの言葉に、吉継は肩をすくめる。
「本来ならばおらぬはず、いてはならぬはずの存在故なァ、無理もなかろ。……もし我が真っ先に会っておったら、おそらく主を始末していたであろうしなァ…」
「いっ!!」
びくっ、としきの肩が跳ねた。ヒヒヒ、と吉継は不気味な笑い声をあげる。
「厄介事は早に消すに限る。そうは思わなんだか?」
「……、………」
「賢人殿が何を思い主を生かしておるかは知らなんだが、まぁ何かしらの目的はあるのであろうな」
「……そう、ですね」
しきは膝の上で、きゅ、と拳を握りしめた。


 それからまた数日して、小十郎の方で状況が動いた。
「久しぶりだね」
「!!テメェは…あの時死んだはずだ!」
「冥界には大した宝がなかったものでね いま少し現に慰みを見出してみようと思ったのだよ」
「黄泉と現を自由自在か!テメエだったら有り得そうだぜ!!」
戦国の梟雄と名高い松永久秀が、小十郎の牢を訪れていた。かつての対峙で、彼は自らを爆破し死んだはずだった。
驚き、嫌味に対しぎろりと己を睨む小十郎に久秀は、ふ、と薄く笑う。
「私が抜け道の1つも用意せず、卿等を出迎えるとでも思ったのかね?」
「………ッなんでテメェが豊臣にいやがる」
「何、彼等がよい宝を持っていたのでね…」
「…………」
小十郎は座したまま、ぎろりと久秀を睨んだ。久秀はそんな視線を受け流し、小十郎の前で膝をつくと、置かれていた政宗の刀を手に取った。
「惜しいことだ。竜の六爪が欠けてしまうとは…」
「…………」
「だが、欠けているというのもまた風情といったところ、か」
「…その口振り……政宗様は、」
「あぁ、彼は生きているよ。私が呼ばれたのもその為だ…」
「!」
久秀は静かに立ち上がり、ゆっくりと小十郎に背を向け牢の入り口に向かって歩く。
小十郎はゆっくりと、襟に手を伸ばし膝をわずかにあげた。

「おびき寄せる為には何を使ってもいい…だが、卿を殺してはならない。……言い換えれば、卿を殺しさえしなければ、何をしようと構わないということだ」


久秀の言葉が終わると同時に、襟につけていた紋章を顔めがけ投げ、怯んだ隙に切りつけよう、と勢いよく踏み込み、振り返った松永の腰から刀を奪った。
だが、斬りかかる直前に現れた影によって、踏み込んだ小十郎の首もとに刀が突きつけられた。
黒い羽が散り、小十郎はそのまま動けなくなる。
伝説の忍、風魔小太郎だった。
「……さぁ、どうしてくれようか?」
久秀は、ふふ、と意地悪い笑みを浮かべた。

葱と牛蒡とツインテール20

「………」
「ヒヒッ、そう不服そうな顔をしやるな。そうあれもこれも、捕られ人たる主に教えられる訳はなかろ?」
「……そう、ですけど」
しきは吉継の言葉にそう答えるしかない。吉継は、ひゃっひゃ、と笑い、肩を揺らした。
「まぁ、主が我の問いに答えれば、我の見解を教えてやらぬ事もないがなァ?」
「!」
「さて、どうしやる?」
「…質問によります」
「素直でよい子よ、ヨイコ」
吉継はそう言うと、目を細めてしきを見据えた。白黒反転した目の色に見据えられ、しきは思わず後ずさる。
ぱし、と吉継は扇子を鳴らした。
「賢人殿より、これより先の事を主に言わせてはならぬと言われておる。恐らくそれは、これより先の未来を主に過去として確定されるを防ぐためよ」
「!」
「我は左様な事にはならぬとは思うておるがな。まァ未来の事など我にはどうでもよいのよ、全てはなるようになるしかない故なァ」
「……それ、で…質問って」
吉継はしきの言葉に目を細めた。布巾で隠れた先で、にんまりと笑っている、そんな感じがした。
「主はこの先の事を知っておるのに、無茶をしてあの男を庇おうとした…それは、主が知っておるこの先が、必ずしもそうなるとは主にも言えぬからよ」
「!」
「それは主にとってここが過去ではない故よ」
「…?で、でも半兵衛殿、は未来を過去とされるのは困るって…?」
「賢人殿も主にばかり気を回していられるほど暇ではないのよ。そうよなぁ、事実にされては困る、というのが正しいのであろ」
「……はぁ……」
「まァそれはさておき、どちらにせよ主の知る事実がこの先の事実にはなるとはまだ、現段階では言い切れぬな」
「…そう、ですね」
ひゃっひゃっひゃっ。吉継はまた、肩を揺らして笑った。
「賢人殿も用心なさるものよ…さて、我の問であったな」
「!」

「簡単な問よ。主の知る先の事実に…三成が傷付くことはありやるか?」

吉継の問に、しきは目を見開いた。しきの反応に吉継はひっひと笑う。
「…そう驚くことはなかろ?で、ありやるか?」
「それこそ…事実にされちゃ、困るんじゃ?」
「主は三成を同情の眼差しで見つめたそうよな」
「!あれはっ」
「その上、いざという時の話を多々したとか…その時点で予想はつくわ」
「なら、わざわざ私に聞かなくても、」
「ほう、やはりありやるか」
「!こんのっ……!」
口車にのせられたと理解し、しきは思わず声をあらげた。ヒャヒャヒャヒャヒャ、と吉継は楽しそうに笑う。
「なら、我もあまりのんびりとはしておれんよなァ、ひひひっ」
「…ッ……こっちなら平気か…」
「……こっち?」
しきは笑う吉継に半ば呆れたが、アニメ版の方では三成を裏切ることはないため、思わずそう呟いてしまった。
ぴく、と吉継の指がはね、視線が鋭くなる。その視線に、しきははっと自分のミスに気がついた。
「い、いや、なんでも、」
「…主が知り得る事実は、1つではないということか?」
「……だ、大丈夫ですよ、前提が違いますから…」
「前提?前提とは何よ」
「そんなこと言えるわけないでしょ!…知らなくていいことだって…」
吉継はしきの言葉に、ふむ、と呟いた。
「……やはり主は女よな」
「え……?」
何でもないわ。吉継はそう言って肩をすくめた。

葱と牛蒡とツインテール19

「…しき、殿?」
「……………」
同じ頃、しきの座敷牢を家康が訪れていた。食膳に手をつけず、体育座りの体勢でうずくまっているしきに、家康は驚いたように駆け寄った。
「大丈夫か?!何故食事を、」
「…食欲なくて…」
「…っ。三成は?」
「なんか…気がついたらいなかった」
衰弱している様子のしきに、家康は慌てる。と、そこへ、三成が戻ってきた。
「!!三成!」
「…なんだその目は、家康」
「!お前、」
「私は何もしていないぞ。それより家康。半兵衛様が貴様と私を御呼びだ、行くぞ」
「!彼女をこのまま放っていく気か?!」
家康の言葉に三成は不愉快げに眉間を寄せた。
「この女の事など知ったことか!半兵衛様の邪魔立てをしたのだ、これくらいのことは覚悟していたはずだ」
「だが…」
尚も表情を曇らせる家康に、三成はちっ、と舌を打つ。家康に向き直り、腕を組んで見下ろした。
「…誰にでも甘い顔をしていると、その内寝首をかかれるぞ」
「ッ!ワシは、」
「行くぞ。見張りの代理はすでに用意してある」
「…ッ」
「…大丈夫です、心配には及びませんっ」
「!しき殿、」
「あんたに関係ないでしょ…!」
「…、…そう、だな……」
家康はしきの言葉にはっとしたように目を見開いた後、目を伏せ、立ち上がり三成の後に続いて牢を出ていった。
「……」
しきはぐ、と自分の身体を抱き締めた。
酷く疲れているのに、全く眠ろうという気が起きない。気がついた内に寝ていても、疲労はとれなかった。
「…気がおかしくなりそう……」
「ほぅ、気がおかしくなりやるか」
「ひぃぃっ?!」
一人言のつもりでぼそりと呟いたのに、返答が、しかも大分不気味な声でなされ、しきは思わず飛び上がった。
驚いて見れば、牢の外側に、輿に乗り浮いている男がいた。
「(刑部!?)」
男の名は大谷吉継。三成の友人であり豊臣軍の一員で、官職の刑部少輔をもじって、刑部と呼ばれることが多い。戦装束ではなく和服姿で、公式では見たことのない姿に、しきは思わずおお、と呟いた。
驚くしきに吉継は楽しそうに笑う。
「ヒャヒャヒャ、そう飛び上がれるならばまだまだ平気よなァ」
「……見張りの代理って………」
「三成が、主が狂ってしまっては賢人殿の顔に泥を塗ると申してなァ。あれは生真面目故に」
「…はぁ……(一応心配してくれてたのか…)」
吉継は輿を地面に下ろし、ひっひと楽しげに笑った。しきは思わずじろじろとみてしまう。
その視線に気がついた吉継は、ひらひらと包帯の裾を揺らした。
「我の姿が滑稽か?主ならば見慣れておると思うておったが」
「えっ?」
吉継の思わぬ言葉に、しきは驚く。吉継は懐より扇子を取りだし、閉じたまましきに向ける。
「賢人殿…半兵衛殿より伺っておる故なぁ。主は外の世界の者と」
「…そう、ですか…。いや、その……和服姿は、初めて見たので…」
「左様か」
「……あの」
「何よ?」
しきは、半兵衛が三成には話さず、吉継には話したことが気になり、思い切って聞いてみることにした。
「……半兵衛は、あ、いや、半兵衛、殿?は…三成にはその話、してないみたいですけど」
「主も知っての通り、あれは頭が固い。左様なことを言われても理解できなんだ」
「…じゃあ、なんであなたには」
「ヒヒッ、何故であろうなァ」
吉継は楽しそうに笑っただけで、答えははぐらかした。

葱と牛蒡とツインテール18

途中で兵が食事が運ばれてくる以外、牢の中に音はなかった。三成は黙って座したまま、しきの牢の扉に視線を向けている。しきはその視線に下手に動くこともできず、次第に疲労を溜めていった。



 それから一週間ほど経った。小十郎の牢に、珍しく三成が食事の膳を手に、姿を見せた。刀は腰ひもに引っ掛けて下げている。
「…見ねぇ顔だな。装備もいい…お前が、三成君とやらか」
「……。そうだ」
三成は小十郎の言葉にぴく、と反応した後、簡素にそう答えた。
「しきの牢の見張りをしているそうだな」
「そうだ」
「…手出ししちゃいねぇだろうな」
小十郎の言葉に食膳を置いた三成は顔をあげた。ふん、と鼻を鳴らす。
「そんな下品な事をするものか。その辺りの愚鈍な軍と一緒にするな」
「………」
「…だが、このところ静かになったな」
「何?」
三成がふ、と思い出したようにいった言葉に、小十郎は眉間を寄せた。三成はす、と立ち上がり、ちらりと小十郎を見下ろした。
「何もすることがないからな。貴様のような男ならばまだしも、ただの女には耐えがたいだろうな」
「!」
「貴様がさっさと豊臣に下ればいい話だ」
「!!あいつを連れてきたのはそれが目的か…!」
小十郎は驚いたように目を見開き、だがすぐに、ぎろりと三成をにらんだ。三成は再び、どこか楽しそうに鼻を鳴らした。
「半兵衛様はそんな下賤な考えをお持ちではない、言ってみただけだ」
「…てめぇ」
「半兵衛様を煩わせるな、さっさと豊臣に下れ」
三成は小十郎を振り返り、強い口調でそう言った。その視線は鋭く、直前の言葉が本音であることを語っていた。
小十郎は真っ直ぐその視線を睨み返す。
「…テメェが豊臣以外に仕えねぇように、俺も政宗様以外に仕えるつもりはねぇ。いくら待った所で、俺の答えは変わらねぇ!」
「!…、………」
三成は驚いたように小十郎を見、そしてどこか悔しげに目を細めた。小十郎は目をそらさない。
三成はく、と刀を引き抜き、鞘から抜き取ると小十郎の右目に切っ先を向けた。
「………」
「殺すか?」
「……貴様の気持ちは分からんでもない」
「そいつはありがてぇ」
「だが私はその考えを変えてやる」
「!」
小十郎は意外そうに三成を見た。三成の顔は何故か、酷く苦しげに歪んでいる。
「…んな顔してるような野郎に、テメェと同じ考えの俺を変えられんのか?」
「貴様が豊臣に下ることを半兵衛様が望まれるからだ…その為ならば、私は何だってするということだ」
「……絶対に無理だ、と言っておくぜ」
「………。だが、ひとつ忠告しておくぞ。あの女…そう長くは持たないぞ」
「……ッ」
三成は最後にそう言い捨てるように言うと、牢を出ていった。
残された小十郎は、ぐ、と唇を噛む。
「……借りを返してもいねぇのに、あいつを巻き込むわけにはいかねぇ…ちっ、どうしたもんか」

三成はずかずかと廊下を進む。小十郎のもとを訪れたのは、しきのことを伝えるためだった。気にしていないといえば、嘘になった。
「…半兵衛様を、卑怯者にするわけにはいかない……ッ」
三成の想いは、ただそれだけだった。

葱と牛蒡とツインテール17

「…そういうのよくないよ」
「……何?」
しきの言葉に、ぴくっ、と三成の指が跳ねた。しきは僅かに三成の方ににじりよった。そっぽを向いていた三成がしきに視線を向ける。
「あなた自身の意思がないのは、よくないよ」
「…………」
「あなたはあなたであって、半兵衛の操り人形じゃないし、自分の考えを持ってない人なんて、」

「貴様に何が分かる!!」

不意に、三成が怒鳴った。しきはびくっ、と体を跳ねさせる。三成は眉間を寄せ、怒ったような表情でしきを睨んだ。
「…貴様に何が分かる。…………、ろくに戦ったこともない女風情に、何が分かる!!」
「!」
「半兵衛様は正義だ、だから従っている、それの何が悪い?!」
「正義だと思うのは別に悪くないよ。ただ、馬鹿みたいにハイハイと従ってるだけなのはどうなのって言ってんの!自分で考える事しなきゃ、意味ないでしょ?!」
「きさま、」
しきの勢いに三成は不愉快げに更に眉間を寄せる。
「言うこと聞くだけなのはいい部下とは言えないよ!自分で考えて行動できるよう人間じゃなきゃ、いざって時に使えないでしょ!」
「……よく分かった」
「え?」
突然三成は静になり、ぼそりとそう言った。思わぬ反応にしきは思わず拍子抜けしてしまう。
だが三成の顔を見ると、しきのいう言葉に納得したというよりかは、絶望したーそう言っているように見えた。
「…貴様は恵まれた人間なのだな」
「え…っと……?」
「…そんな生き方は私は知らん。だが、いざという時いざという時と、計画性のないことばかり…それとも何だ?半兵衛様が急死なさり、いざという時が来るとでも言いたいのか貴様は」
「!…べ、別にそういう意味じゃ、」
思わずしきはぎくりとするが、そうだよとは言えるはずもなく、曖昧にごまかす。三成は、だん、と刀で床を叩いた。
「…半兵衛様の意思、秀吉様の想い、それが私の意思であり想いであり、願いだ!」
「…!」
「へーこらと私が従っているだけだと思いたいのならそう思っていろ、貴様の同意など私は求めていない、そんなものは必要ない」
「………」
「貴様に私を語られる筋合いはない。貴様が半兵衛様を悪だと見なそうと、そんなことは私には関係ない。そういう輩に絶望を与えるのが私の刀だ。私は半兵衛様と秀吉様に従う。それが私の生きる道だ」
分かったか。
三成はそう言うと再び座し、ふんっ、と鼻を鳴らした。しきは、むぅ、と黙ってしまう。
「(…うーん…ちょっと言い方間違えたかな…)……」
「……」
「(…でも、最初の言葉…。三成が言いたかったことも、なんか違ったんじゃないかな…)」
そうは思っても、聞くことは憚られる気がして、しきは口をつぐんだ。


 翌日。しきが目を覚ますと、寝る前とオナジ体勢で三成が座っていた。
「……おはよう、ございます」
「…」
「寝ました?」
「貴様には関係ない」
「…それもそうだけど」
三成のつっけんどんな態度に、つまらない、と思ったが、しきはその場に体育座りの体勢で座った。
「………」
「………」
沈黙が続く。やることもない牢獄生活は、退屈なものになりそうだ。
「…あの」
「無駄口を叩くな」
「………」
しきは、むぅ、とむくれたが、どうしようもなかった。
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