2013-6-3 23:02
伊達、武田の両軍と慶次は、関ヶ原に向け進軍を再開した。
慶次は政宗、幸村と共に先頭を駆けていたが、ふ、と思い出したように馬を小十郎によこづけた。
「あのさ、」
「しきが無礼を働いたらしいな」
「えっ、」
「その事に関しては詫びるが、政宗様宛の手紙を勝手に読んだのはいただけねぇな」
「あ、あの四人から、き、聞いてた…?」
「……何か用か」
小十郎はぶっきらぼうにそう尋ねる。慶次はへへ、とすまなそうに笑って、視線を前に戻した。
広い道に、馬の足音が響き渡る。
「…ちょっと意外だったよ、アンタみたいな人がああいう子を奥さんにしたって」
「俺にそういう存在がいる事自体が意外だったんじゃねぇか」
「そんなことはねぇさ!…それよりひとつ聞きてぇんだけど、あの子、どこの子なんだい」
「…」
小十郎は慶次に視線を向け、固い表情に目を細めた。はぁ、と小さくため息をつく。
そして同じ頃、先頭の二人が二人の会話に気がついた。
「…てめぇの事、となると…豊臣の事でも言ったか」
「あの子、豊臣にいたのかい」
「オイ風来坊、豊臣にいた野郎がなんで小十郎のwifeになるんだよ」
慶次の言葉に、小十郎が答える前に政宗が呆れたように返す。幸村が政宗の言葉にばっ、と政宗を見た。
「…片倉殿…奥方が出来たのでござるかっ?!」
「よく分かったなアンタ」
「え、なんだあの女の子奥さんになったの?」
「知っておるのか佐助ぇぇえ?!」
「奥さん奥さんうるせぇぞ!!」
小十郎がそう怒鳴ると政宗は楽しそうにケラケラ笑い、幸村は顔を真っ赤にさせて佐助の方へと顔を向ける。
小十郎はちっ、と小さく舌打ちをした後慶次を見た。
「…あいつはこの世界の人間じゃねぇってことだ」
「え?」
「分からないでいい。あいつも無駄に語ることはねぇ、命に関わりかねないからな」
慶次は小十郎の言葉に不思議そうに首をかしげたが、そこまでの興味はないのか、それ以上は聞かなかった。
慶次は視線を前に戻し、自嘲気味に笑う。
「…ちょっと説教されちゃったよ。俺が秀吉を許せないのは、殺されたのが特別な人間だからだろ、ってさ。秀吉を悪と見なすなら、利たちも悪だろって」
「…」
「確かに、そういわれちゃうと、やってることは同じなのかもしれないけど…同じじゃねぇんだよ」
「ならそう言やよかっただろ」
「…なんか言えなかったんだよ、あの子に」
「あいつはお前が思ってるほど頭よくねぇぞ」
つっけんどんな小十郎の言葉に思わず慶次は、はは、と笑う。小十郎はむ、としたように慶次を見た後、視線を戻した。
「俺にもどう違うのか、彼女に説明できるほどちゃんと言葉にできないからかな。俺馬鹿だからさ」
「…」
「それに、やっぱりあの子頭いいから、俺みたいに突っ走れなくて、それでもってきっとそれが、悔しいんだろうね。そう感じたよ。…でも、アンタの事はすっごい好いてるってことは分かったよ!」
「なっ…こんなときにふざけたことを!」
「ふざけてねぇって、だって彼女にアンタと独眼竜の邪魔はするなって言われたからさ!」
「…あぁ、確かにあいつ小十郎にぞっこんだな」
「破廉恥なぁぁぁっ!!」
「お止めください!!!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい三人を見ながら、慶次はふ、と薄く笑みを浮かべた。