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もうお前を離さない212

「妻女山に到達した頃、弓兵に囲まれたとか。軍神自身は怪我もなく無事だそうなのですが、多くの兵が射たれたらしく…」
「…、上杉さんが…」
「…アンタ、魔王の妹じゃねぇが、感情が顔にあまり出ねぇな」
「へ…?」
伊達は不意に宮野を振り返ってそう言った。宮野はきょとんと首をかしげる。
「全然女らしくねぇ」
「どっ、独眼竜!」
「あはー、まぁそうですよね」
伊達の発言に焦る徳川に対し、宮野はけらけらと楽しげに笑って肯定する。
伊達は呆れて宮野を見た。
「少しは気にしたらどうなんだ?」
「えー…でも幸村にも言われましたし」
「なっ、さ、真田が?」
「微妙に男っぽいって」
「HA、真田らしい言葉のchoiceだな。で、その後の毛利の動きは?」
「は、どうやら上杉は戦力を削ぐ事が目的だった模様で、最上領へ向け進行中です」
「…ウチの傍まできやがるな」
「…、どうする独眼竜?」
徳川はちら、と視線を伊達へ向けた。伊達はしばらく考え込んだ後、小さくため息をつき立ち上がった。
「小十郎、伊達の兵士全員集めろ。腕の立つ奴らを連れてお前は一旦奥州に戻れ」
「し、しかし…」
「最後の戦が始まる前には戻ってこい。毛利は向こうが手出ししねぇなら手出しする必要はねぇ」
「、はっ!」
伊達と片倉はその部屋を出ていった。宮野は右手を横向きに唇の下に当て、考え込む様子を見せる。
「毛利が北上…か…」
「?どうかしたのか?」
「いや、…ヤな予感がするだけです」
「そうか。…さて、ワシもそろそろ戻らねばな。宮野殿」
「はい?」
「…、君にはしばらくここにいてもらう。手枷は悪いが…」
「気にしませんよ。手枷つけられたことありますし」
「…、また後でくる。大人しくしていてくれよ?」
徳川はそう言い残すと、部屋を出ていった。



 「………貴方しかいないので貴方に聞きます、黒田さん」
「……尋ね方が尺に触るが、どうした」
「…三成さんと大谷さん無事でしょうか?島津さん、なんか三成さん気に入ったみたいでしたけど…」
「…、ま、多分酒につぶれて帰ってくるかもな」
「さ、酒?!」
一方九州にいる石田達はというと、島津領に到着していた。そしてなぜか島津が石田を気に入り、戦いもなく島津は石田の傘下に下った。
先程から石田と大谷は島津と今後の打ち合わせに島津方に出向いており、村越は石田軍の陣営に残されていた。
黒田ははらはらとしながら島津方の陣営を見下ろす村越に小さくため息をつく。
「これはこれは黒田殿、ため息などついて如何なされた?」
「ん?あぁ…お前さんか」
そこへチェーンソーを持った大柄な武将、立花宗茂が姿を見せた。黒田はちら、と村越に視線を飛ばす。
「あの女子が三成と刑部を心配していてね」
「女子?…石田殿の奥方か何かでしょうか?」
「…まぁ、小生はあの子供が三成に惚れているんじゃないかと疑ってるがね、拾い子だそうだ」
「…?チェーンソー?!」
「ち、ちぇえんそぉ?手前の雷切が何か…」
「…あ、立花宗茂さんですか?」
黒田が言葉と共にふんと鼻を鳴らした時、村越は漸く立花がいることに気が付いた。立花は村越に向け頭を下げる。
「石田殿が心配ということで」
「え、あぁ…はい。ちょっと心配です。本人に言ったら怒られちゃいますけど」
「?そうなのですか」
「今まで何回も言われてるんですけど、なかなか出来ませんね…はは」
村越はそう言いながら島津方の陣営を見つめた。

もうお前を離さない211

「…馬鹿馬鹿しいかもしれませんけど、やっぱり母親って自分の創造主ですからね。自分を創りだした人に否定されると、堪えます」
「…I can understand you a little.確かに、母親ってのは別格の存在だ」
「独眼竜…」
「…ま、そんな家庭事情は置いといて。私も聞きたいことがあります、何故殺さなかった?」
「!」
宮野は笑みを消し、不思議そうな顔で徳川を見た。徳川は意外そうに目を見開いた後に苦笑した。
「…ワシが君と話したかったからだ」
「…さいですか。……しかし、あれですね」
「ん?」

「貴方は、苦笑いしかしませんね」

「…え…?」
徳川は宮野の言葉に呆然と宮野を見る。宮野はじ、と徳川を見ていた。
「心から笑えていない。そんな感じがします」
「…そうか?」
「私は自分を自分で誤魔化して生きてますが、貴方は自分に嘘を吐いて生きているように見えますよ」
「……………」
「悪いとはいいませんけど、辛くないですか?」
宮野はことりと首をかしげる。徳川は薄く笑った。
「…それでもワシには守りたいものがある。その為ならば……」
「…そうですか。……、貴方が決めたなら良いですが、それなら後悔はしないでくださいよ」
「あぁ、勿論だ」
「…アンタ…つくづく変な野郎だな」
「はい?」
徳川と宮野の会話を黙って聞いていた伊達は小さく笑うと、宮野に向かい合うように座った。宮野は伊達の言葉に視線を徳川から伊達へ移す。
「自分は心配される筋合いはねぇと言っておきながら、アンタは家康を心配してるじゃねぇか」
「へ?私は心配から後悔するなと言ったんじゃないです、よ?」
「…じゃあ何故だ?」
「…後悔されてしまったら、死んだ人が犬死にになるからですよ」
「!」
「敵であろうがなんであろうが、そう決めたのなら後悔はしないでほしい、それだけです」
宮野はそう言ってにやと笑った。伊達もそれに合わせてにや、と笑った。
「…そういえば、あの後…どうなりました?」
宮野はふ、と思い出したようにそう尋ねた。あの後、とは恐らく宮野が気絶した後、だろう。
「真田達には逃げ切られ、そのままだ。毛利が北へ動き始めているとの情報が入ったから、北の方に注意を向けなければならなくなってな」
「毛利が……北に…」
「?どうした?」
「いえ、何でも。…、ならしばらくは幸村は大丈夫かな…」
「…軍神の野郎はなんだって真田に挙兵したんだ?」
宮野のどこかほっとしたような声色に、伊達は別の事を疑問に感じ呟いた。宮野は知りません、と首を横に振った。
「…でも、幸村が勝ったみたいでした」
「!Really?」
「雰囲気的に」
「…そうか、真田は軍神殿に勝ったか…」
「まぁ、見つけた直後に撃たれたからよくは分かりませんが」
「……そ、そうか…」
宮野の言葉に徳川はう、と詰まり気まずげに俯いた。伊達は頬を引きつらせて笑う。
「…アンタ、地味に人の心抉る発言するよな」
「今は確かに嫌味言いました」
「自覚があって何よりだ」
「あははははは」
「楽しそうだな」
「政宗様」
対談する3人の所へ片倉が静かに入ってきた。
「政宗様、火急の知らせ」
「どうした?」
「上杉が毛利の奇襲を受け、大打撃を受けたとのこと」
「え…?」
「何ッ?」
「軍神殿が?!」
三者三様の声が上がる。伊達は体を片倉に向け、ちら、と宮野に目を向けた。
宮野の表情に変わりはないが、目は焦っていた。
「…、詳細を聞かせろ」
「はっ!」

もうお前を離さない210

翌日。
「………。ん?」
ぱちり、と宮野の目が開いた。しばらく瞬きを繰り返した後に、宮野は小さく声を上げる。目の前に見える風景から、ここがどこかの敷地内だと窺えた。
「…生きてら。殺されなかったんだ」
宮野は横たえられていた所から体を起こした。打ち掛けを体に掛けられていたらしく、ぱさりとそれが落ちる。
右手を持ち上げると、鎖で部屋の柱と繋がれていた。
「…なるほど。捕虜って所かなぁ…」
宮野は小さく呟くとぴく、と肩を跳ねさせた。そして打ち掛けを掴むと体に掛け再び横になった。
それと同時にかたり、と音をさせて部屋の中に徳川と伊達が入ってきた。
「…、まだ目覚めていないか」
「まぁ、無理もねぇだろ」
「……そうだな」
宮野は薄目を開いて2人を見る。徳川は苦笑しながらぽてんと床に座した。
「…家康。そういやアンタ、なんで奇襲しようと思ったんだ?」
「……時間がないんだ」
「?」
その徳川の対面に背を向けて立っていた伊達は、徳川の言葉に不可解そうに振り返った。
「…三成の動きが予想以上に速い。放った斥候の話では官兵衛や立花殿を従え、今はもう薩摩にいるとか。…真田と軍神殿を別に相手取っていたら、間に合わない」
「えぇぇぇぇまさかのそんな理由ー?!」
「「うおぁっ?!起きてたのか!!」」
徳川が奇襲をした理由に驚き、つい宮野は叫んでしまった。男2人は飛び上がる。
「うえぇいやっちまった」
「うえぇい?お、起きているならそう言ってくれ!!びっくりしたぞ…」
「そのまま心臓止まればいいのにと言ってみる」
「…はは、君は辛辣だなぁ…。…その、…傷は」
「…、貴方に心配される筋合いはないですよ。私が幸村が反対なのを押し切ってやった事ですから」
「!やはり真田は反対しやがったか」
宮野は肩を竦めると打ち掛けを適当に畳んで傍らに置いた。剥き出しの白い腕にはいたる所に包帯が巻かれている。
宮野はその包帯を上から擦りながら頷いた。
「…幸村が気にしなければいいんだけど」
「……………」
「…で。何か御用で?」
宮野は首を傾げてそう尋ねた。徳川は曖昧に頷く。
「…、君は、何故あのような考え方をするんだ?」
「あのような?…どの部分ですか?色々喚いた気がするので」
「…1つも完全に正しい物がない、というものだ」
「…、あぁ」
「確かにな。…なかなかできる事じゃないぜ」
「………やめてください。私は…逃げてるだけですから」
「?!な、何を!?」
宮野はふるふると首を振ると俯き、自嘲気味に笑った。
「…私は逃げてるだけなんですよ。自分の中の正義が確定しないから…自分が正しいと思う事を信じられないから、だからそうやって相手を否定しない事で不安定な自分を正当化させてるだけですよ」
「…!」
「そんな自分が大嫌いですよ。…それでも、どうやっても自分を信じられないし、正しい事が何なのか分からない。…逃げていては駄目だと分かってはいるんですけど」
「…意外だな」
「そうですか?」
「…そこまで分かっているのに、どうして自分が信じられないんだ?」
「…トラウマですかね。人の所為にはしたくないですけど、死んでもまだあの人の言葉が追い掛けてくる」
「あの人…?」
「他人の罵詈雑言ならいくらでも忘れられる、でも……、…母さんの言葉だけは忘れられない」
「…motherか」
宮野は小さく頷くと笑った。

もうお前を離さない209

「…う……」
「!真田の大将」
東の空にあった三日月が西の空へと移った頃、気を失っていた真田は目を覚ました。真田は体が動かないために、緩慢に視線だけを声がした方へとやった。
猿飛しかいないのを見て、真田は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……佐助……お前だけでも…無事でよか、った…」
「……すまない真田の大将」
「…黎凪は……死んだのか…?」
「…。戦闘場所に残されていた血の量だと、死んでない。多分、徳川方の捕虜になったと…」
「……そうか」
真田は猿飛の言葉を聞き、ぎり、と歯を食い縛った。猿飛もいつもの飄々とした雰囲気は消え失せ、苦い顔で地面を睨んだ。
2人の頭には、真田と猿飛・宮野が別れる前に交わした話が思い出された。


――
―――

『?どうした真田の大将』
『俺を置いていけ…ッ!』
『!!馬鹿野郎!大将置いて逃げる軍がどこにいるんだよッ!!』
『…しかし…ッ!!』
『……捨て奸…』
『…?すてがまり?』
『あ…いえ。…私の世界で、ある武将が大軍から撤退する時に使った手段です、が…』
『…だけど?』
『…二、三人が残りぎりぎりまで足止めするんです。その人達が死んだらまた二人、置いていく…』
『…ッそれは…っ』
『流石に捨て奸は避けたい。…先頭を走ってるのは伊達と徳川…伊達軍は幸村が伊達のライバルだと知ってるから、幸村が相手なら手出ししてこない…』
『…?』
『…佐助さん。佐助さんは他人の姿を変えることは出来ますか?』
『……出来るけど』
『…。幸村。私に残らせて』
『?!何を言いだす、のだ黎凪…ッ!』
『私が幸村に化けて足止めする。幸村ならば伊達も徳川も捨て置く事はしない』
『それなら俺様が!』
『佐助さんは一緒に残ってください。幸村だけなら佐助さんが化けたとばれます』
『そっか…。…アンタは弱くないからな…。…真田の大将、俺は黎凪ちゃんに賛成するぜ』
『無茶を…言うな…ッ』
『このままじゃ追い付かれる!騙し切る自信ならある!!だから、お願い!』
『…しかし……ッ!!』
『黎凪ちゃんは俺様が可能な限り守る!』
『……ッ…すまぬ黎凪…佐助……ッ』


―――
――


「…分かっておる、某の…弱さが……悪い事くらいは……」
「ッ、大将…!」
「……くそっ………」
真田は小さく毒づいて右手で顔を覆うと、ぎりと歯を食い縛った。猿飛は僅かに俯く。
「…取り敢えず真田の大将は怪我治すことに専念してくれよ。俺様は城の周りを見てくる」
「…佐助…」
「なんだい」
「…すまぬ」
「…俺様はアンタに謝られるような事はされてないぜ。謝るのは俺様の方だ」
猿飛はそう小さく返すと姿を消した。真田は視線を上に戻した。見慣れた天井から、ここは上田城である事が分かった。
真田はくしゃ、と自分の前髪を掴む。ぼんやりと視界がふやけた。
―黎凪貴方が大好きだから、やりたいようにさせてると…きっと貴方の為に犠牲になる。
谷沢の言葉が頭に木精する。
「…その通りに…なってしまったではないか…ッ!!」
つぅ、と涙が頬を伝う。真田はばっ、と拳で目元を覆った。ぎりり、と歯を食い縛る。
「う…ぅ……くそ……!」
強く拳を握りすぎて掌からぽたりと血が顔に落ちた。目元に落ちたそれは涙に混じり頬を伝う。
「……黎凪…死ぬでないぞ…ッ!」
真田はそう呟き、更に零れ出そうになる涙を耐えるために強く唇を噛んだ。

もうお前を離さない208


「ざまぁ見ろ、だクソ親父ども…」

宮野は最後にそう呟いて、がくんと頭を垂れた。闇の手が宮野を放し、体はどさりと力なく地面に落ちた。
伊達は血が滴れる目元をぐいと拭い、宮野に歩み寄った。市は何かを察したのか、そそくさと宮野から離れ、家康の隣にぺたんと座った。
「………………家康」
「…なんだ、独眼竜」
「…こいつどうする」

他人の振りをし、使い慣れている訳ではないであろう武器を振るった女子に、二対一で、負けた。
2人の心中にはそんな言葉が渦巻いていた。
確かに戸惑い普段通りに戦えた訳ではない。
宮野も正攻法ではなく卑怯な手を使ったのも確かだ。
傷を負っているのを見て、攻撃の手が鈍らなかったなどという事もない。
こんな所で、こんな様で、殺したくないと思ったのも事実だ。

それでも2人は負けたのだ。

「…彼女と話をしたい。捕虜として…連れて帰ろう」
「…、OK」
徳川の言葉に、伊達は宮野の傍らに膝をつくと宮野の体を軽々と抱えあげ肩に担いだ。からんからんと音をさせて、上着の裾にしまわれていた兜割りが、地面に落ちた。



 「…ッ!!」
「…?どうした」
一方、石田と擬似刀を使って手合わせしていた村越は突然肩を跳ね上げ、勢い良く東の方を振り返った。石田はその様子を訝しみ、構えを解いた。
「…どうしたのだと聞いている」
「!す、すいません!わざわざ手合わせして頂いている時に…!」
「別に構わない。どうした」
石田の言葉に勢い良く振り返り慌てて頭を下げた村越に、石田は特に怒りもせずに先を促す。
村越は小さく頷いてから、再び東の空を見た。そこには三日月が輝いている。
「…今…凄い悪寒がして…」
「悪寒…だと?」
「黎凪に何かあったんじゃないかって…」
村越はそう言って擬似刀を胸で抱き締めるように握り締めた。その手は僅かにかたかたと震えている。
「…村越。私は明日、鬼島津と話をつけにいく」
「鬼…島津…さん?」
「それが済めばこの九州の遠征の終わる」
「…?はい」
村越は何故石田が今その話をするのか分からず首をかしげた。
石田はちら、と村越を見てふいと顔を逸らす。
「…終わったら大阪に帰り、最後の戦に備える。その時に真田も大阪に呼ぶ事になってはあるが、まだ使者は出していない」
「…!」
「…、大阪に帰ったら、貴様が信州まで行き、その旨伝えてこい」
「…!!はい!」
村越は石田の意図が分かり、そして嬉しそうな笑みを浮かべて強く返事を返した。石田はふんと鼻を鳴らした。村越は石田を見上げる。
「…、やっぱり、三成さんは…優しいですね」
「…何の話だ?」
「…ふふ…」
「ッ何がおかし、い…」
笑われた事にむっとし腹立ちながら石田が振り返ると、あまりに優しく笑う村越に毒気が抜かれてしまった。
石田は小さくため息をつく。
「…手合わせはもう終わりだ。明日の朝は時間がある。稽古ならつけてやるが」
「!はい、お願いします!!ありがとうございました!!」
「…ふん。ならばさっさと眠れ」
頭を下げた村越に石田はそう素っ気なく言うと背をむけすたすたと歩いていった。
村越はきゅ、と擬似刀を抱いて東の空を見上げる。
「…大丈夫だよね、黎凪」
村越はそう小さく呟くと、傍らに置いてあった刀を持ち、自分に割り当てられた寝所へと走っていった。
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