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もうお前を離さない151

「そもそもの話、なんで貴方は三成さんが憎いの?」
「なんで…だと?」
宮野は伊達をじ、と見つめる。
「三成さんは貴方の軍の兵士を、それこそ斬滅した…でも、貴方が普段、戦場で敵将にしている事と何が違う?」
「…?!」
「戦での死は仇としないのが戦場の掟…私はそう聞いたことがあるし、その通りだと思ってる。人を殺すと決めた以上、殺される事も覚悟するのが道理なんじゃないのか!」
ぴくり、と伊達の指が跳ね――勢い良く床を蹴った。刹那に迫った伊達に宮野は咄嗟に両の脇差で伊達の刀を受ける。
びりびりとした痛みが宮野の腕を走った。
「うっ…」
「!れい…ッ」
「さてはアンタ、戦に出た事ないな?だからそんな綺麗事が抜かせる…!」
「出た事はない…だがその分私は見てきた!しょうもないプライド張り合って死んでいった人間の歴史を!」
宮野は伊達の刀を跳ね返し、右の脇差を顔目がけて突き出した。伊達はそれを首を傾げて流し、その腕を掴む。
宮野は勢い良く体を回し、右腕を掴んでいた為に流れた伊達の体目がけて今度は左の脇差を横振りに振った。伊達は手を離し後ろに跳んだ。
「アンタは三成さんを討ってそれでどうする?!仇打ちをするという事は、アンタがまた誰かの仇になるって事だ。殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当に戦が終わって泰平の世が作れるのかよっ!!」
「…ッ」
宮野は怒鳴る。否、叫ぶ。伊達は不愉快そうに目を細める。
「…っはぁ。何熱くなってんだろ私…」
「!」
「アンタがどう生きようと、それがアンタの人生なんだからアンタ自身が決めなきゃ意味がない。…さっき怒鳴った事は忘れてください、餓鬼の下らない自己満足でしかない」
「…テメェ…何者だ?」
伊達は構えていた刀を少し下げ、やはり不愉快そうに宮野を見た。宮野は薄く笑う。
「私の名前は、宮野黎凪」
「宮野黎凪…ねぇ……」
「…ッ黎凪っ」
真田がふらふらと立ち上がり、宮野の前に立ちふさがった。
「下がっておれ、黎凪」
「…ッでも幸村」
「腕がまだ痺れておるぞ」
「…っ」
真田の指摘に宮野は自分の腕に触れる。確かに宮野の腕は僅かに痙攣していた。だが本当に僅かだ。
「…政宗殿、貴殿の相手はこの幸村でござる」
「……はぁ。止めだ、止め」
「?!」
伊達は興醒めしたように一つため息をつくと刀を収めた。
真田はぱちぱちと瞬いている。
「…俺は石田を追う」
「…ッ」
「行くぞ小十郎」
「……はっ」
いつの間にか姿を見せていた片倉小十郎を引きつれ、伊達は真田の隣を通り過ぎた。真田ははっとしたように顔をあげ、だが振り返らず声を上げた。
「政宗殿っ某も…徳川殿を目指しておりまする。その先に、貴殿との戦いがあると…信じて」
「…そうだな」
伊達はそう言い残し―――去っていった。


「―――――っはぁっ」
「!黎凪」
馬のいななきが聞こえ始めた頃、宮野が突然膝をついた。真田は慌てて宮野に近寄る。
宮野は片手を頭を当て、小さくため息を吐いた。
「あーもー何やってんだろ私…どうでもいい事べらべらとあーもー!」
「お、落ち着け?大丈夫か?」
「思ったより怯えてたんだなー…いらん事まで口走ってた…」
「…」
「私が一番嫌いなパターンを伊達にぶつけてた…大人気ない」
宮野はそう言ってうなだれた。

もうお前を離さない150

「このままじゃ竜のPrideもあったもんじゃねぇ!」
「政宗殿…ッ貴殿はっ」
耳障りな金属音が、連続して響き渡る。槍と刀が交差し、鍔迫り合いに両方がキリキリと悲鳴をあげる。血走った伊達の目を、真田はひたと見据えた。
「小田原で数多の命が散った事は聞き及んでおりまする…ッされど、今の貴殿は、復讐に囚われているのみ!」
「…テメェに何が分かる…ッ」
「某…某も国を背負う身となり…分かった事がありもうすっ!」
ガキィ、と一際派手な音がして2人は離れた。真田はぐ、と槍を握る手を見下ろす。
「国の民を、兵を、全てを一身に背負い、そこに己の意志などない…全てを犠牲にし、抱え、立つのみ。そして、貴殿は今!それらを顧みず、己の復讐が為だけに動いている!」
伊達と真田は同時に床を蹴った。下から振り上げられた三振りの刀を逆手に持った槍で防ぎ、突き出された三振りは槍に引っ掛け、槍ごと投げ飛ばす。
「…っのにわか大将が!」
「ぐはぁっ?!」
弾き飛ばした刀を持っていた手が拳となり、勢い良く真田の頬を打った。衝撃に軽く真田の体が飛ぶ。
「俺は生まれた時から国を背負って立ってきた!…奪われたアイツ等以上に…ッ大切なモノなんざ、俺には、ねぇ…!」
「…ッ」
伊達の言葉に幸村は詰まる。何か言おうと口を開いても、ぱくぱくするだけで言葉にならない。
「…だから…復讐すると申されるか…!」
絞りだせたのは、その程度の言葉。言い返したくとも伊達の気持ちに打たれ、下手な事が言えない。
「奪ったアイツも、守れなかった自分も許せやしねぇ…。…行かせてもらう」
伊達が静かに刀を構えた。真田は動けない。
「Hell dragon!」
「…ッ!!」
飛んできた雷玉を避けられず咄嗟に槍で防ぐが、雷が勝り真田は飛ばされ門に叩きつけられた。
「が…っは…」
真田はがくん、とその場に崩れ落ちる。それを見た伊達は一歩踏み出し――――途端に後ろに飛びずさった。
「?!」
次いでぱんっ、と音がして、伊達が立っていた床が破ぜた。
「…やっぱりばれたか。んー、なかなか」
「!!黎凪!」
すたっ、と軽やかに真田の前に着地したのは宮野だった。どうやら門の上で撃ったらしい、片手の火縄銃からは煙が上がっている。
「Ha…女に救われるたぁ、アンタも落ちたな」
「わ!女性差別ー。女が男守っちゃ悪い?それを言うなら、雑賀衆と手を組んだ徳川家康は女の手も借りなきゃならない程自信がないんですねーははっ」
「…テメェ」
「黎凪…なぜここに…ッ」
「音があまりに凄かったから、心配になって」
宮野は真田と伊達の間に立ちふさがる。伊達は不愉快そうに宮野を見ている。
「初めまして伊達政宗殿。…、用がないなら帰ってくれません?三成さんを目指すなら、さっさと追って消えてください」
「れ、黎凪っ」
「なんだテメェは…」
「今、貴方の目には三成さんしか見えてない。…幸村を見ていない。そんな野郎が幸村と戦うな」
「「!」」
宮野は乱暴にそう言うと、両脇の脇差を抜き、逆手に構えた。
「テメェはなんだって聞いてんだ」
「答えたくもない。復讐に燃えようが三成さんだけ見ようがそれが貴方の人生だ、好きにすればいい。でもね、貴方のわがままに、幸村を巻き込まないでくんない?貴方の言う通り、幸村はにわか大将で、貴方が感じる事のない重責を背負って、余裕ないんだから」
宮野はそう言って口角を釣り上げた。

もうお前を離さない149

「!黎凪!」
「あ、幸村!」
本陣から少し離れた陣で、宮野と真田がたまたま出くわした。真田は乱れる息を整えながら宮野に駆け寄る。
「っは…っ政宗殿が参られた。村越殿は?!」
「敵襲の合図は聞こえたから、もう芽夷は行かせた。それより幸村、後の陣は私が見てくるから、幸村は本陣に戻って!」
「な、何故だ?!」
強く言われ、流石に戸惑う真田。宮野はキョロキョロと辺りを忙しなく見ている。
「こっちくる時、派手な破壊音がした。聞こえなかった?」
「た、確かに聞こえたが…」
「多分伊達が門ぶっ壊した音だと思う。ここ、話通りだと伊達が三成さん見つけて、でも三成さんに忘れられてて怒って三成さんに斬り掛かる所だから、」
「な、なんと?!…では任せたぞ!」
「気を付けてね!」
居城にて盟友を傷つけるなど、許せる事ではない。真田は間に合うよう僅かに願いながら、本陣に向かって走りだした。


「誰だ貴様は」
「な…っんだ、って…?!」
ちょうどその時、石田が伊達に向かいそう言い放っていた。ふらふら、と伊達の体がゆれる。石田は忌々しげに自分に斬り掛かってきた伊達を睨んだ。
自分に向けられる生温い憎悪。感じはしたが彼には興味はない。
石田はふいと背をむけ、真田に言われた通りに外へ向かおうと足を動かした。
「テメェ…俺のことを…ッ」
石田からしてみれば往生際の悪い言葉が、石田の鼓膜を震わす。
「何度も言わせるな。貴様など記憶にない」
「小田原の…ことを……ッ」
「小田原…」
発せられた単語にぴくりと石田の体が揺れる。
「…苦しくも懐かしい…秀吉様の為にこの力を振るった…。その時私に負けた男がいたが、顔など覚えているものか。目障りだ、失せろ」
そう言い、足を進めれば膨れ上がる殺気。だが石田は振り返らなかった。

真田の気配も、感じたからだ。

―――ガキィン!!
「く…う…っ!」
「ッ!真田…ッ」
石田はそのまま歩いていった。真田は間に合った事に僅かに安堵し、胸にたまった息を吐きだし伊達の刀を弾いた。
「どけ真田!」
「退かぬ!!上田城にて我が盟友を傷つける事…この幸村っ決して許さぬ!」
「……そうかい。なら…アンタから先に落とし前つけさせてもらうぜ…ッ」
伊達は忌々しげにそう言い刀を構えた。
真田は今まで見たことのない伊達の姿に少し戸惑った。飛び込む前に聞こえた会話から、今の伊達に変えたのは小田原の惨状である事は伺えた。伊達はその復讐に囚われている。
「…真田源二郎幸村、いざ、参るっ!」
真田はそう吠え、槍を構えた。


「大丈夫ですか!」
「…?!宮野様!何故こちらに?!」
「様はやめてくださいってば!鉄砲と脇差の余りありますか!」
宮野は本陣の北側に位置する陣に来ていた。伊達勢と真田勢が激しく戦っている。僅かに真田勢が有利な様だ。
「…?!種子島と脇差…?」
「兜割りをこのどさくさでどっかに落としてしまったんです。脇差なら長さが似たような形だから代用できるかと思って」
宮野は戸惑いながらも差し出された脇差を腰紐に挟んだ。この陣が既に騒がしいにも関わらず、本陣からの音は酷く響いていた。
「して、種子島は?」
「本当に余っているなら、でいいんですが…幸村が気になるのでこの後本陣に行くつもりなんです。伊達相手になると勝てる気しないんで」
「…そうでござりまするか…。幸村様を、お願いしまするっ」
「分かりました。あなた方も、無理はなさらないでください!」
「承知いたし申した!」
宮野は渡された火縄銃を脇に抱え、本陣に向かって走りだした。

もうお前を離さない148

「…芽夷と最初に会った時、服が血塗れだったそうですね」
「!」
「…父親が母親を殺したらしいな」
「その事件に、…私が絡んでいたそうです」
「な…っ?!」
「…だから奴は貴様に贖罪の意を抱えているのか?」
石田の問いに、宮野はすまなそうな笑みを浮かべる。
「詳しい事は言えませんが、全体的に見たら芽夷は悪くないんですよ。だから芽夷が私にすまないと思う必要なんてない。でも、そう思わずにはいられないみたいで。…落ち着くまで、私はいない方がいいかなと思って」
「…」
「かといって、芽夷にはこの世界に帰る場所がないので…。…貴方にしか、頼めないんです」
「……………」
「…如何にする三成」
「……。好きにしろ」
「…!ありがとうございます!」

石田は断る気でいたが、口を出たのは了承の言葉。その理由も石田には分からない。ただ、確かに分かったのは、自分があの面妖な出で立ちでいた村越に興味を持ったということだけだった。



 「それでは、よく休んでくだされ」
「石田さんもちゃんと布団で寝てくださいね!」
夜も遅くなり、真田と宮野の2人はそう言い残して石田達にあてがった部屋から退散した。
雨は僅かに勢いを収め、静かに降り注いでいる。
「…っはぁーよかった…断られたらどうしようかと」
部屋を出て少しした所で、宮野はそういい、安堵のため息をついた。
真田はそんな宮野の様子に笑みを浮かべる。
「…村越殿に何があったかは聞かぬが…お前は大丈夫か?」
「…正直、ね。びっくりした、抱いた感情はそれだけ。それを伝えても、芽夷の気は軽くならなかったみたいで、…自分にも芽夷にも、少し腹がたった」
「…そうか」
「…芽夷は被害者なのにさ。………それはさておき、幸村。腕は大丈夫?」
「あぁ、打撲という奴か?大丈夫だ!何も問題はない!」
「そっか。よかった。いつ伊達が来てもおかしく無いからね」
真田の自室に向かいながら、2人は和気あいあいと話している。宮野の部屋は真田の隣の部屋をあてがわれていた。
部屋の前に到着する。
「…村越殿の事はもう尋ねぬ。だから、黎凪。…お前も気に病むな」
「…。…、うん。おやすみ、幸村」
「うむ」
真田は宮野の頭を撫でて小さく笑むと、部屋の中に入った。宮野も真田が部屋に入ったのを確認した後、自室となった部屋に入った。


 翌日。石田が上田城を出る直前に、敵襲の合図が響き渡った。紋所は竹に雀――伊達軍だった。
「三成殿っ、三成殿は本陣の後ろより外へ!某は他の陣を見てくる故、これにて失礼いたしまする」
「…真田」
「は…なんでござろう?」
駆け出そうとした真田を石田は呼び止める。石田は鋭い目付きで真田を見た。
しばらくじっ、と真田を見た後、だが不意に視線を逸らした。
「…。いや、なんでもない」
「…そうでござるか。では三成殿、…お気をつけて」
「言われるまでもない」
石田はそう言うと、さっさと歩きだした。それを確認した真田も、地面を強く蹴り駆け出した。

「…そうなの?」
「事後承諾でごめんね」
「…ううん。…気を遣わせちゃってごめん」
「そんな事ないよ。それで、落ち着いて、ゆっくり考えてね。芽夷は悪くないし、私も怒ってないから。…じゃあ大谷さん、後はお願いします」
大谷は無言で頷き、ふよふよと進みだした。村越は少しばかり迷いを見せたが、宮野に、ばいばい、と言うと大谷の後を追っていった。

もうお前を離さない147

「はーい熱いから気を付けてくださいねー」
夕餉の時刻となり、宮野と村越はひょいひょいと人々の間を練り歩きながら味噌汁の入った椀を渡していく。真田と石田、そして大谷は別室で3人で食事を取っていた。
だが3人、いや正確にはその内2人は食事そっちのけでぎゃあぎゃあと騒いでいた。
「好き嫌いはなりませぬぞ三成殿!」
「好き嫌いではない!腹が減っていないだけだ!!」
「…。三成よ、主はそう言って朝も昼も食っていないであろ…」
「なっ…なんとぉぉぉぉっ?!なりませぬっ、なりませぬぞ三成殿!腹が減っては戦は出来申さぬ!今減っておらずとも、食わねばいつかは減りまする!!それが戦場であったら如何するのでござるか!」
「貴様には関係ないだろう!」
「か…ッ関係ないなど…っ」
「失礼しますよっと何喧嘩してんですか」
端から聞いていると非常にくだらない言い争いをしている所へ、宮野が入ってきた。
騒いでいる2人は気が付かない。
「食わねば死にまするぞっ」
「お二人さーん味噌汁ですよー」
「食わずとも死にはしないっ」
「石田さんそれは違いますそして話を聞けコノヤロウ」
「「だっ!」」
「ヒッヒヒヒ…だ、大事ないか三成…ヒヒヒヒヒッ」
宮野が話しながら投げつけた回収した椀が2人の頭にヒットする。大谷は石田の身を案じながらも、愉快そうに笑っていた。
「痛いでござる!」
「え、痛かった?常に信玄公と殴り合ってるからその辺大丈夫だと…ごめんね」
「私が違うだと?!」
「わ、聞こえてたんですね。三成さん、人間の三大欲求って知ってますか」
宮野は半泣き状態の真田の頭を撫でながら、顔だけ石田に向けそう尋ねた。石田は椀が当たった所を擦りながら首を横に振る。
「睡眠欲、食欲、性欲だと言われています」
「せ…破廉恥なぁぁっ!」
「み、耳元で叫ばないで…!何が言いたい、って言うのは、食事は人間に必要不可欠って事です。それに、食事を取らないと生きるために必要な栄養を体に補充出来ないから、栄養失調で死にます」
「…!」
「…言い返せぬなぁ三成…ヒヒヒッ」
「まぁ、精神的に負荷を抱えている時に食欲は減りますが…食べない、のではなく、食べられない、のですか?」
宮野の言葉に石田は目を伏せる。恐らくどちらかであるかは分かっているのであろうが、口にしたくないのだろう。
宮野はそんな石田の様子に小さく笑みを浮かべた。
「言いたくないなら言わなくても良いですよ。…ちょっとなら食べられるようなら、流し込める物作りましょうか?」
「…。…いらん」
「そうですか。じゃあ食べられそうになったら私か芽夷に言ってください、すぐ作りますから」
「…まて、なぜそこであの女が入る」
「そういえば、村越殿は何があったのだ?」
「…あー…ごめん、2人の秘密って約束なんだ」
「む…そうか」
「そういえば、アレは結局主絡みであったのか?」
「あ、はい。私絡みでした」
「何の話だ!」
「あ、そうだ三成さん、お願いがあるんですが」
1人置いていかれた石田が刀に手を掛けた時、宮野が石田の方を振り返った。
「すいません、あの子、しばらく預かって貰えませんか」
「…………………は?」
「あつかましい願い出であることは百も承知です、が、今私はあの子の傍にいない方がいいと思うんです」
「…………なんだと?」
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