スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

日輪の神様へ18

「その代わり、三成君はこの場で返してもらうよ」
「…、いいだろう」
「よ、よいのか?」
「…?嘘は吐いていないぞ。もし仮に嘘になるのなら、問答無用で滅するだけだしな」
「…、…」
「下ろすぞ石田」
そう銀稲荷が言い、石田に右手を差し向けた時だ。
「こ…っこの化け物め!」
「!!!!」
ぱん、という乾いた音の後、銀稲荷の右手から血が吹きだした。銀稲荷の目が見開かれる。
「!君達!勝手な事を…!」
「……確か石田の率いていた小隊にいたな。…くくく、はははははっ!」
「?!」
突然笑いだした銀稲荷に、石田の部下達はびくりと肩を跳ねさせた。
「なんだ?そんなひよこ豆で私に、貴様等の上を倒した者に勝てるとでも?」
「くっ…き、貴様ぁっ!」
「…調子に乗るなよ。私は石田は気に入った、が…貴様等には興味はない!」
「!がっ、、ぁっああああッ!!」
「!!三成様!」
ぎゅ、と銀稲荷の右手が丸められると石田の身体を纏った炎が一斉に石田の身体を締めあげた。顔が仰け反り、苦しげに顔が歪む。
「あっ……く、ぁ…ぁあ……っ!」
「…っ!」
「動くな豊臣秀吉。…貴様まで私に敵意を向けるなら、……本当に絞め殺すぞ」
僅かに、本当に僅かに動いただけだった。だが、銀稲荷はそこに殺意があることに気が付いていた。石田はそんな稲荷を精一杯睨む。
「…か…は…っきっ…さま…っ…秀吉…さまに向かっ…て……!」
「…つくづく貴様は凄いな。結構容赦なく絞めてるぞ」
「ぐっ……はっ…」
「やっ止めろ!三成様を…!」
部下の叫びに銀稲荷は冷めた目で彼らを見る。
「貴様等雑魚は殺してもつまらん。だから貴様等が助けたいらしいこいつを痛め付けてみた」
「なっ、!」
「そもそも非力の分際で私に武器を向けるなど死にたいのか?貴様等。貴様等人間は誰かを守るために戦うという事に憧れを感じ覚悟という言葉に酔いしれる。故に、誰かを庇って死ぬことにやたら魅力を感じる者が多いようだ、が…今の貴様等程度じゃ石田を救うことなんざ出来はしない。身の程をわきまえろ」
「おい、銀稲荷…」
「…厳島まで、なんだその顔は。趣味が悪いか?貴様もよくやるだろうが」
「あやつらは痛みが快楽になる種族だからよいのだ。こやつは人間ぞ」
「やれやれ…。私に殺す気はないと言ってるだろう。…約束を反古するのが悪い。まぁ、勝手な行動のようだったからいいがな」
ぱ、と銀稲荷は右手を開いた。とたんに拘束が緩み、がくりと石田の頭が垂れた。
圧迫され続けたせいで呼吸が出来ず、力が出ないらしい、石田はその体制のまま弱々しく銀稲荷を睨んだ。
「っ、はっ、…ぁっ」
「…そう睨んでくれるな。いくら私でも、掌に穴を開けられて黙っているほどのお人好しではない」
「っ……ッ、知るか…っ」
「…しかし今のままだと立てそうにないな」
「後先考えない奴め」
「うるさい厳島。竹中半兵衛に豊臣秀吉。すまんが持って帰ってくれ」
「…、銀稲荷君。君は随分と感情の切り替えが早いんだね」
険しい表情の竹中はふよふよと浮いてきた石田の無名刀を受け取り、そう言った。同じように石田を受け取った豊臣も、何も言いはしないがその表情は固い。
「仕事柄、仲間に手をあげることもよくあるんでな。過去の事を引きずっていると面倒で仕方がない」
「君はそれでいいのかい?その子達の勝手な行動とはいえ、確かに僕達は約束を反古にした。なのに君は三成君を痛め付けただけだ」
「なんだ。殺してほしかったのか?」
「そういう事じゃない。聞きたまえ銀稲荷君」
こほん、と咳払いをした後、竹中は銀稲荷を見据えた。

日輪の神様へ17

「ッ、三成君!」
真っ先に声を上げたのは、竹中だった。
「!」
豊臣も目を僅かに見開き、ぎゅう、と拳を作った。長曾我部は目の前に浮遊するそれに、驚愕で目を見開いた。
「ひでよし…さま……は……んべ…さま…ッ」
「…よく喋れるな。普通なら人間は気を失う拘束なんだが」
「き…さぁ…まぁぁぁ…!」
「うぉ怖。…大したものだな…そう思わないか、厳島」
「我に振るな」
銀稲荷は自分が拘束した石田を見上げて小さく笑った。
石田は地面から10センチほど浮いたところに、十字架に磔にされたような形で拘束されていた。身体の周りを紫色の炎で囲まれており、それによって拘束されているようだ。
石田は人を射殺せてしまいそうな視線で銀稲荷を睨んだ。銀稲荷は肩をすくめた後、後ろからそんな石田の顎をつかんで前、つまり豊臣と竹中がいる方向へ向かせた。ぎり、と石田の歯が鳴る。
「…、一体どういう事かな。どうやら確かに君達は稲荷神らしい、元親君が狂っていなければね」
「…貴様は頭がいいようだな、現状把握が早い。…、本来なら私達が人間の戦に介入するべきではないし、そもそも私達には人間の行く先など興味はない。栄えるも滅びるも好きにすればいい」
「…へぇ?」
「だが、間が悪かったな。今現在この船は厳島…そこの稲荷の社となっていて、私も仕事で長曾我部元親と厳島に用がある」
「き、さま…ッ半兵衛様に向かってそのような…っ!」
「…石田、その腕を使い物にならなくされたくなかったら黙っていろ」
「ッ、?!…が、ぁ…ッ」
くる、と銀稲荷の右手が回されると同時に、石田の右腕にまとわりついていた炎が石田の右腕を締めあげた。みしり、と音が鳴り小手にもヒビが入り、石田は痛みにか目を細めた。
「三成君…!」
「…ッ、半兵衛様、私などにかまわぐっ?!」
「…だから、黙れ。お前が話しだすと話が長くなる。…次は口の中に貴様の刀突っ込むぞ?」
「くっ……」
話している途中に口の中に指を突っ込まれ、石田は小さく唸った。持つのが面倒だったのか、石田の無名刀は石田と同じように宙にふよふよと浮いていたが、それの切っ先が僅かに石田の方を向いた。
相変わらずの視線を銀稲荷に向けながらも石田は黙った。黙った事に満足したのか、銀稲荷は楽しそうに笑った後、石田の肩に顎を乗せ差し込んでいた指を抜いた。
「…それで、君はどうしたいんだい?…僕らに退けと?」
「…話が早くて助かる。長話は嫌いなんでな」
「その為の人質として三成君を拘束した…というわけのようだね」
石田に負けず劣らずの視線を送ってくる竹中に銀稲荷は肩をすくめた。
「そう怖い顔をしてくれるな。こちらの用事が済むまで待っていてもらいたいだけだ。そんな不利益な話であるわけでもないだろう?」
「…もし僕達がそれを断ったら、三成君を殺しでもするつもりかい?」
「殺す?そんな勿体ないことするか。…ただもし、貴様等がこの申し出を断るのなら、私の全ての力を使ってでも貴様等を滅し、止めるつもりだがな。私は仕事をするだけだからな。他のものがどうなろうと興味はない」
「…」
「あ、ついでに断るのならこいつは貰っていく」
「、な」
「っ、ふざけるな!誰が、物ノ怪なんぞに…っ」
噛み付くような石田の怒鳴り声に銀稲荷は驚いて飛び上がった後、楽しそうに笑った。
「その真っ直ぐな所が気に入った。だから貴様等がいらないと言うのなら貰い受ける。貴様がどれだけ豊臣秀吉の事を想おうと、記憶を消してしまえば何も問題ないしな。…まぁ、さすがにそこまではしないが」
「……仕方ないね…元々元就君攻めに来ただけなんだし、構わないかい、秀吉?」
竹中の言葉に豊臣は頷いた。
「いいだろう、稲荷君。いや、銀稲荷、だったかな?君の仕事とやらが終わるまでは待ってあげよう」

日輪の神様へ16

「それから退いてもらおうか。石田三成」
「―――!」
言葉と同時に身体を囲むように現れた紫色の火。それが己に向かってくるのを見て、石田は跳躍して避けた。
くるり、と空中で回転し着地する。
とん、と軽やかに稲荷の隣に着地したのは銀稲荷だ。再び戦闘衣を纏っている。
「なんだ貴様は…」
「私も稲荷だ。銀稲荷と呼ばれている。石田三成、貴様のような人間、嫌いじゃないぞ」
「は?知るか。…貴様も秀吉様の邪魔をするのか」
「貴様等人間界の事は人間界の者の好きにすればいい。私は天界の者共の不正を暴くだけだ。ただ、それ故にこいつと長曾我部元親に手を出されると困る」
「…なんだと?」
にやり、と銀稲荷は笑って片手で刀を引き抜いた。石田は苛ついたように刀を構える。ぞわり、と石田の殺気が膨れ上がる。
「こちらの都合で申し訳ないがな。だが悪いが豊臣の進行は止めさせてもらう」
「…ふざけるな…。秀吉様の歩みを止めるなどというその暴言を吐いた事、懺悔しろ!」
「ふ、ははは!懺悔しろ、そんな言葉を私に言うとは!愉快で仕方ない、…殺したくないのだがな」
「黙れ!秀吉様、あの者を斬滅する許可を私に!」
石田が床を蹴った。
銀稲荷は薄く笑いながら、目に見えないほどの速さの石田の斬撃を難なくさばいていく。
「速いな。私も見切るので精一杯だ」
「戯れ言を…!」
「戯れてなどおらん。これは正当な評価だ」
「ほざけ!貴様の評価など欲しくはない!!」
石田の言葉に銀稲荷は楽しそうに笑う。
「欲しいのは豊臣秀吉の誉め言葉、か?」
「物ノ怪風情が秀吉様の名前を口にするな!!」
「…。厳島、どうすればいい、この人間欲しくなってきた」
「知らんわ!!貴様の趣味だけは理解出来ぬ!!それより貴様…」
「…。私に嘘を吐いた罪は重いぞ、厳島。さて、石田。悪いが少しばかり、」
石田の突き出した刀を受け流し、その下をくぐり抜ける。
「!」
無防備な背が、銀稲荷の前に曝された。
片手をその背に当てる。
「被拘束担当になってもらう」
当てられた手が、まばゆい光を放った。


 「?」
突如上がった紫色の光に、豊臣の動きも止まった。その光はすぐに消える。
長曾我部はふらふらと立ち上がった。
「っ、はぁっ、はぁー…っそが…」
「やぁ、元親君」
「!」
「半兵衛」
いつの間にか、竹中が富嶽に姿を見せていた。ひゅん、と彼の武器、凛刀が鞭のように空気を切った。長曾我部は舌打ちをし、武器を構えた。
「半兵衛、何故ここにいる」
「三成君に任せた軍勢が突然動きを止めたから何事かと思ってね。三成君の事だから討たれてなんていないとは思うんだけど」
「…?」
竹中は未だによく現状を把握出来ていない長曾我部に、にこりと笑って武器を突き付けた。
「元親君、僕達は中国を攻めに来たのに何故君がいるんだい?元就君を守ろう、とでも?」
「アンタ等には関係ねぇ…ッ」
「君達は敵同士だったんじゃないのかい?」
「…ッ」
「まぁいいさ。君たちの関係など、正直僕らには関係ない」
「…あぁそうだろうよ」
「鬼!」
長曾我部は忌々しげに言い放った時、稲荷が富嶽の大筒から飛び降りてきた。長曾我部はもちろん、竹中や豊臣もわずかに目を見開く。
「稲荷さん!何しに来た!!」
「…稲荷?あれは妖狐かい…?」
「銀稲荷はどこぞ!」
「誰だ銀稲荷て…」
「髪が銀色の稲荷ぞ!」
「はぁ?なんでお「邪魔するぞ」ぐふっ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ稲荷と長曾我部の所へ、正確には長曾我部の上に銀稲荷が落ちてきた。

日輪の神様へ15

「ぃぃいいやぁあぁぁっ!!」
がきん、と長曾我部の碇槍と豊臣の拳がぶつかり、音を立てる。上空からの全体重をかけた攻撃であったのにも関わらず、豊臣はぴくりとも動かない。それどころか、そのまま軽く振り払われてしまう。
「どわっ!」
振り飛ばされた長曾我部は慌てて空中で体勢を整え富嶽に着地したが、着地したところを突かれ、豊臣の拳をもろに食らってしまった。
「アニキ!」
「ぐっ…」
痛む体に鞭を打って起き上がり、跳躍して豊臣と距離をとる。
「我の作る世界に海賊などいらぬ。強さこそが国を富ませ、強き者こそが世界をすべる」
「…ハッ、猿はおつむが簡単過ぎていけねぇ…。この瀬戸海を、日ノ本を、手前の好きにさせてたまるかよ…!」
長曾我部はぎゅ、と碇槍を両手で構えた。はらり、と乱れた髪が前に垂れる。
「世界の前に…見るべきもんが…あるだろうがよぉ!」
だんっ、と勢い良く床を蹴った。碇槍に炎が点る。
「…愚かな!」
豊臣は叩きつけられた碇槍を腕に受け、忌々しげにそう言うと、長曾我部を蹴りあげた。
「がはっ!!」
再び上空に飛ばされた長曾我部を追って跳躍した豊臣に胸部を強打され、長曾我部が富嶽に衝突した。
びしびしと、富嶽にヒビが入る。
「アニキー!!!!」
「が…はっ……」
――元就…!
長曾我部が途切れそうになる意識の中で思い浮べたのは、愛しい男の姿。
「…ッ負けるわけには…いかねぇ…!」
自分が負けたら、その次は。
長曾我部はぎり、と歯を食い縛ると、碇槍を床に突き刺し、ふらふらと立ち上がった。



その頃、富嶽後部では。
「さんざめく降り注げ――狐炎、“紅葉”!」
紅葉という名にはあまり合わない、紅葉の葉の形をした緑色の狐火が豊臣軍に向かって降り注ぐ。この狐火、一度点いたら消えないらしい、あまり時間が経たないうちに辺りは一面緑色に埋め尽くされた。
稲荷は技を放った後、イライラしながら振り返った。
「先の揺れは何ぞ!鬼は何をしておる!!」
「む、無茶言わねぇでくだせぇよお稲荷さん!豊臣が予想以上の化け物で…!」
「チッ…。ここは我一人でよい!鬼の所へ行くがよい!」

「西海の鬼は物ノ怪を飼うのか」

聞こえた言葉に、稲荷の耳がぴくりと立った。振り返れば、水鳥の嘴のように尖った前髪を持つ男が。
「…貴様が、石田三成か…」
「秀吉様の許可の元、貴様を斬滅する!」
こちらの言葉は耳に入っていないらしい、石田は流れるような動きで刀を構えた。
めき、と小さく床が鳴ったと思うと石田が視界から消えた。
「!」
稲荷は咄嗟に妖気を伸ばし刀を作ると、目の前に突如現れた石田の刀を受けた。
石田は防がれたと分かるとすぐさま体を引き、今度は下から逆袈裟懸けに刀を振り上げる。稲荷は後ろに跳躍する事でそれを避けた。
「我は稲荷ぞ」
「稲荷…?この世に、秀吉様を越える者などいるものか。人を超越する存在であると自負する神など、私は認めない!」
「…やれたまげた。まことに凶信者よ」
稲荷は冷や汗が滴れたのを感じながら、再び石田の刀を受けた。
切り返しが速すぎる。戦闘型ではない稲荷には適う相手ではなかった。
「終わりだ!」
「…!」
言葉と共に放たれた強い一閃。しまった、と思う間もなく、稲荷は数多もの斬激をその身に受けた。

「あっ…ぐ…!」
「どうした。神だというのならば、立ち上がりあらがってみせろ!」
がっ、と腹を踏まれる。稲荷が痛みを耐えなんとか目を開いた時、それは視界に入った。

日輪の神様へ14

「………」
その頃、中国では毛利軍の兵士達が毛利の兵法書を元に着々と戦の用意をしていた。とはいえ、どの兵士の表情も曇っている。
そんな毛利軍の中に、何故か四国に行くと言っていた銀稲荷の姿があった。尻尾と耳を消した銀稲荷は目立つその髪を布で巻いて隠して、衣装も稲荷の前に現れた時の格好ではない。
銀稲荷は近くに人影が無くなった頃、たんっ、と軽やかに地面を蹴り城壁を軽々と飛び越え、城の中に入っていった。
「…城内の警備は案外手薄だな」
銀稲荷は辺りをぐるりと見渡した後、すたすたと進んでいった。
「…?!誰だきさ、まっ?!」
「すまないな、失礼する」
見張りの兵士が大声を上げる前に銀稲荷は鞘に収めた刀で首を打ち、気絶させた。そして毛利の部屋に踏み入る。

「…毛利元就。厳島の迷いは貴様にある」

銀稲荷はそう呟き、毛利の枕元に膝をつくと額に触れた。ぽや、と手が光る。
「……。成る程な」
銀稲荷はすぐに手を離すと、足早に部屋を出ていった。


そして、まさにその時、瀬戸内海の富嶽が火を吹いた。
「野郎共!火を切らすんじゃねぇぞ!」
「アニキー!!」
中国に進行している豊臣軍のすぐ傍に、弾が落ちた。
爆風に竹中半兵衛は僅かばかりその端正な顔を歪ませた。
「まさか元親君が動くとはね…少しだけ意外だったよ」
「半兵衛様、」
竹中の後ろに立っていた男が口を開いた。竹中は振り返り、薄く笑う。
「何、大した問題じゃないよ。三成君は最初の策通りに動いてほしい」
「はい!」
石田三成は竹中の言葉に返答すると、その細い体のどこにそれだけの力があるのか、風のような速さで走っていった。
「アニキ!!と、豊臣の野郎が…!」
「…?!」
瀬戸内海に陣取る長曾我部達の度胆を抜いたのは豊臣秀吉だ。豊臣は一人単身で海に入ってくる。
「…ッチィッ!撃てやぁ!」
長曾我部の言葉に大筒が火を吹く。弾は豊臣目がけて飛んでいく。豊臣は―――避けなかった。避けないで、弾を受けた。
「何っ」
巨大な大筒の弾を受けたというのに、豊臣の体はもちろん受けとめた手にも傷一つない。豊臣はぐっ、とこぶしを固めると、勢いよく振りかぶり、海面に叩きつけた。
「!??!伏せろ!」
ぐらり、と富嶽が揺れ、海水が勢いよく飛び散る。
富嶽の揺れが収まった時、長曾我部は慌てて外を見た。
「なっ…海が…!」
長曾我部はその風景に唖然とした。

瀬戸内海が、干上がっていたのだ。

わぁぁ、と上がる声にはっ、と振り返れば干上がった海底を進み、大軍が押し寄せてきた。
「チッ…野郎共ォ!富嶽を動かすぞ!」
「アニキー!!」
「なんと、この船は陸も進めるのか」
「?!い、稲荷さん、アンタ部屋から出るなって…!」
「部屋にいても大して危険度は変わらん。元来、人の戦いに神が乱入することはよしとされておらんが、社を壊されるのは困るのでな」
「…アンタも戦うってか?」
「戦えぬわけではない。…来るぞ!」
稲荷の言葉なはっ、と上を見ると、太陽にいびつな影がさしている。その影はどんどん大きくなってくる。
「ッ!」
稲荷と長曾我部は同時に床を蹴った。そこへ、その影は勢い良く落下した。
「船の後ろは我に任せるがよい」
「あぁ…任せたぜ」
長曾我部は静かに武器を構えた。落下してきた際に発生した煙のなかから現れた、豊臣と戦うために。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2011年03月 >>
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31