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聖なる夜のハプニング81(終)

同じ頃。
「…こいつはすげぇな」
「ねぇ弾正消えたんだけどねぇ真田も消えたんだけど」
「当然だ、これはもう作動している。彼らはすぐ近くにいたからね。他の者もじきに消えるよ」
政宗は目の前にそびえるように佇む巨大な装置に感嘆の声を漏らし、隣に立つ元親は松永が消えてしまったのに驚きがくがくと政宗を揺らした。装置を操作していた久秀は元親の言葉にくすりと笑い、どこか楽しげにそう返した。
元親は胡散臭げに久秀を見る。
「本当に大丈夫なのか?」
「人体実験は済んでいると言っただろう?逆の場合ももちろん試してあるのだ、弾正がこちらの服装にも慣れていたのはその為だ」
「……どれくらいやってんだよ」
政宗の問いに、久秀は装置の様子を見ながら、ふむ、と小さく呟いた。
「さて…弾正が関わり始めてからはまだ1年。全体でならば、もうざっと30年くらいにはなるかね」
「うぇ?!あんた今いくつ、」
「もうじき60になる」
「人生の半分費やしてんじゃねーか!!」
「まぁね。私の人生を捧げていると言っても過言ではない」
「……そんな大切な研究だってのに、おじゃんにしちまっていいのかよ」
久秀の言葉に元親は視線を装置の根元へとやった。そこでは、久秀が話していた部下が、着々と爆破の用意をしていた。
久秀は、ふふふ、と楽しそうに笑い、二人を振り返った。
「言っただろう?軍事に利用されてしまうと分かったのならばもういらないのだよ。十分な検証はもう出来た、満足だよ」
「…だからって爆破なんかしたらアンタ……」
「逮捕されるだろうな。だけど、それで構わないさ。どうせ今回の自衛隊の件で嵌められているだろうしな。裁判に持ち込んでしまえば私の勝ちだ」
「………」
「おや、卿らは被害者なのだよ?もっと堂々としていたまえ。いずれこうなっていたのだ、存在が公になる前にこうなってくれて、感謝すらしている」
「…へっ、アンタがそう言うならそうするぜ!」
政宗は久秀の言葉に最後にはにかっと笑い、元親と共に目の前で静かな作動音をさせて最後の機動をしている装置を見上げた。


 「!」
それから少しして、伊達たちにも異変が起こった。体から僅かに光が放たれ始め、体が薄くなってきたのだ。
薄れ始めた徳川に家康は目を丸くした。徳川も驚いたように自分の体を見ながらも、小さく笑った。
「…これで戻れるんだな、いやぁよかった」
「……怖く、ないのか?」
「ん?んー…そこまで怖くはないな。戻れないまま時が過ぎ去ってしまう方が怖いから…かな」
「…そう……か。…戻ったら、戦か?」
「あぁ。すぐに、最後の戦になると思うよ」
家康はうようよと視線をさ迷わせたあと、ばっ、と徳川に頭を下げた。
「……ワシは秀吉先生が好きだし、三成も好きだからお前にひどいこと言った、すまなかった」
「…!ははっ、それは当然の反応だ、謝ることはない。…それに、そう言われるのは、そこまで嫌じゃないんだ」
「………徳川家康!!!」
「わっ、なんだ?!」
少し黙ったと思ったら不意に声を張り上げた家康に徳川は飛び上がりつつもそう聞き返した。
家康は徳川に向け、ぐ、と拳を突き出した。
「…勝てよ。秀吉公の為にも、凶王さんの為にも!」
「…!!…、あぁ!!」
徳川は驚いたように家康を見たあと、ふにゃ、と嬉しそうに笑い、家康の拳に自分の拳をこつんとぶつけた。
拳が触れ合ったと同時に、徳川の姿は光になって消えた。

「…石田三成」
「……なんだ」
「貴様、今まで自分がどんな風に生きていたかに気が付いただろう」
時を同じくして、徳川同様に薄れ始めた石田に三成がそう話しかけていた。石田はしばらく黙った後、ふん、と鼻を鳴らす。
「…恥ずべき行為だ」
「…ならば汚名を返上する為に徳川に勝て。そして秀吉先生が目指された世を作りあげろ」
「…私、は……」
「無論今の貴様に出来るはずがない。だからこそ、勝て。そして悩んで進め。……貴様は一人ではないのだから」
石田は三成の言葉に彼には珍しく驚いたように顔をあげ、バツが悪そうに顔をそらした。三成は三成で、吉継と話していた大谷を見る。
「…西海の鬼のことも大変だろうが…あいつは許すのか?」
「…今の私には奴が必要だ」
「おやお許しが出たのか。よかったではないか」
「……我ながら腹が立つ男よな、主」
「…貴様には権現も必要に見えるぞ」
「!!貴様、」
思いがけない三成の言葉に石田は勢い良く立ち上がったが、三成が優しく笑いかけるものだから、拍子抜けしたようにぽかんとした表情を浮かべた。
三成は、石田の胸に手を当てた。
「…自分に素直になれ石田三成。吉継を許した時のようにな」
「……………」
「…そして、生きろ」
「……あぁ。…、さらばだ」
石田は静かに、だが確かにそう言うと三成の手に自分の手を重ね、目を閉じた。
それからすぐに、大谷と共に姿を消した。

「…お前さんら、全く面倒な生き方してるよなぁ」
「………ふん」
「あぁそうかい」
官兵衛は黒田や毛利に対して呆れたようにそう言ったあと、隣にいた伊達と長曾我部を見た。
「お前さん、どうするんだ?小生のこと」
「……一先ずはもう一度石田や大谷と話す。多分、西軍は抜けるだろうな。許すかどうかはその話次第だ。いや、毛利!テメェは許さねぇ!!」
「ふん、好きにするがいい。元より我と貴様は敵対関係…今更恨まれたところで何も変わらぬ」
「!テッメ…!」
「……そういや、元就が言ってたんだがな?申し子さんよ」
激昂する長曾我部に対して馬鹿にしたような口ぶりで返した毛利に、官兵衛はふふん、と含み笑いをしながら話しかけた。
「お前さんの姿勢、べた褒めしてたぜ。アイツがあんだけ他人を褒めるのも珍しい」
「はぁ?!」
「…珍妙な女子だな」
「お前さんの生き方が一番大将らしいってよ。だけど、こうも言ってたぜ。自分の逃げ場もちゃんと用意しているならば文句なしの満点だ、ってな」
「……!」
官兵衛の言葉に毛利はわずかに目を見開き、不愉快そうに官兵衛を見た。官兵衛は意味がわからなかったらしい、きょとんとしている長曾我部を横目に、小さく笑った。
「…国のため、どんな策を使うのも結構なこったがな。お前さんがただひとりの人間でいられる場所ってのは不可欠だと思うぞ。…まっ、そういうのもちゃんと持ってるとも、小生は思うがね」
「………なんで俺見んだよ」
「…ふん。………心の隅にでも留めておいてやろう」
「そいつぁーどうも」
毛利はぷい、と顔を背けながらもそう言った。そして、その言葉が終わる頃、長曾我部と毛利が姿を消した。
「おい、おっさん小生!」
「ひどい呼びぐさだな!!」
「…お前さんも、変に諦めと同情すんなよ。それだから四国のも巻き込まれたんじゃ、分かってるんだろ?」
「……分かってるよ」
「お前さん、そういう性格なのと不運なのとじゃ、天下は取れんな!ははは」
「なんだと?!何故じゃああああ……」
黒田はがんっ、とショックを受けたように官兵衛を見たが、何故じゃと叫んでいるうちに消えてしまった。
最後に残った伊達は、くすりと楽しそうに笑う。
「とんだhappeningだったぜ、が……迷いを持ってた野郎の迷いが大方解決しやがった。これで最後の戦も派手に楽しめるってもんだぜ」
「…お前さんも、無理はするんじゃないぞ」
「無理?ハッ…そんなもんはねぇ。俺には右目もいれば、rivalもいるからな」
「……そうかい」
「じゃあな、お前ら。世話になった…感謝するぜ」
伊達はそう最後に言って、小さく笑って消えていった。
その頃には家康も2階から降りてきていて、一同はふう、と息をついて座り込んだ。
「…なんか、迷惑なこととかもあったけど…彼らに会えて、なんか楽しかったな」
「…そうだな、家康」









翌日、政宗たちの世界では、昨日の自衛隊騒動と久秀の研究室爆破で大きな騒ぎが起こったが、そうした騒ぎもすぐに静まり、年が明ける頃には、何事もなかったかのようにまた時がすすみ始めた。

「行こう、独眼竜、元親」
「OK!このド派手なparty、派手に行くぜ!」
「おうよ!四国の因縁は今は後回しだ…家康、お前についてくぜっ!」
「行くぞ刑部!家康との因縁、この戦で決着をつける!」
「相分かった、進め進め。全て義の…否、主の為よ」
「武田が魂、この胸にありィ!…この真田源次郎幸村、武田が未来が為、この命燃やさんん!!」
「…逃げ場など…我でいられる場所など……。……ふん、捨て駒どもよ!参戦のしたくを急げ!!」
「全く、嫌な空模様だ。…が、天下を狙うのは諦めないね。このしぶとさこそ小生じゃ!」
伊達たちの世界では、天下分け目の大戦が始まろうとしていた。各々自らの想いの元に、己が武器を握る。


大きく異なる世界が、重なった時の物語。
それにより変えられた歯車が刻むのは、どのような物語なのだろうか



END
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聖なる夜のハプニング80

「…あの人はよく似ている。だから、秀吉公もそうだったのだろうか、と、ちょっと思ってしまってな」
「…?」 
家康は言わんとしていることがよく分からず、首をこてんと傾げた。
徳川は自分の手を胸元に当てた。防具がぶつかりあって、かつん、と音を立てる。
「半兵衛殿は…隠しておられたが、病を患っていた。……今思えば、秀吉公や半兵衛殿が強引に進み始めたのは、半兵衛殿の先が長くないことが分かっていたからなんだろう…」
「…!………」
「…ま、今更ワシにとやかく言う資格はないな、」
「いいや言ってくれ」
苦笑しながら話を終わらせようとした徳川に、家康は静かにそう言った。徳川は驚愕の眼差しで家康を見る。
家康はしばらく視線をさ迷わせたあと、顔をあげて徳川の目を見た。
「…秀吉先生はああ言ったが、ワシはお前の世界の人間じゃない。だから、お前が何を話そうと関係ない。…お二人の今後のためにも…今お前が何を思ったのか聞きたい」
「…………。……は、ははっ」
「!なんで笑うんだ、」
「いや…。……、秀吉公は独りで生きているのだと思ってたんだよ、ワシは」
徳川はそう言いながら、階段を上がりきったところにある窓の方へ歩き出した。家康は首をかしげながらも、それについていく。
徳川は窓から空を見上げた。日が暮れ、空には月が登っている。
「半兵衛殿は、そんな秀吉公の補佐でしかないんだと思ってたんだ。三成が左腕であるのと同じ、ただの右腕だと。事実、半兵衛殿が亡くなっても秀吉公は止まらなかった。…でも……秀吉公も、あなたの師である秀吉公と、同じだったんじゃないか?と。……愛する人間を自ら殺すぐらいはしただろう、って言葉を思っても…」
「…つまり?」
「……覇王としての姿は秀吉公の理想で……秀吉公は、半兵衛殿がいなければ覇王ではいられなかったんじゃないか…本当の秀吉公は、実際は…もっと………」
「……!」
徳川と同じように空を見ていた家康は僅かに驚いたように徳川を見た。徳川は、ぐ、と唇を噛んだ。
「………………」
家康が徳川の表情の変化に目を落とせば、握りしめられた徳川の拳がふるふると震えていた。
家康はそれを見て、くるり、と徳川に背を向けた。
「……いいじゃないか、それでも。たとえそちらの先生がそれで孤独の中に居たのだとしても…お前が誤解していたのだとしても」
「…なんでだ?」
そう聞き返す徳川の声は、わずかに震えていた。家康は、ふふ、と小さく声をあげて笑う。
「分からないのか?意外と貴方は単純に物を見るんだな?」
「………」
「そう思われることが、彼が望んだことだからだ!」
「…!」
言い切った家康を、ばっ、と徳川が振り返ったのを、家康は背中で感じた。家康は振り返らないまま、ふふ、とまた笑う。
「自分を殺してでも、そう思われることを願ったんだ。そうした理想の自分でいることを願ったんだ。貴方がそんな顔をするのは、反旗を翻したのだとしても、彼を尊敬していた所もあったからなんだろう?だったら、ずっと誤解したままでいるんだ。そうすることで、秀吉さんは、貴方の中で自分の夢の…覇王としての存在でいられるんだから」
「………ッ……あぁ……そうかもしれないな……!」
そう言った徳川を、家康は振り返った。窓から差し込む月明かりに立つ徳川の表情は逆光になってよくは分からなかったが、確かに笑っていることは、家康に分かった。
家康はそんな徳川に、にっ、と満面の笑みをしてみせた。
それでいいのだと言うかのように。

聖なる夜のハプニング79

「…それが、貴様がそちらの我に反旗を翻した理由か」
「……はい」
「………お前、」
家康が小さく漏らした声に、徳川はどこか困ったような挑戦的であるような笑みを浮かべた。
「無論ワシが信じるもので本当に全ての者たちを変えられるかは分からない、だが…その力で、あなたは三成を変えた」
「………つまり、親しい間柄の情……君が好みそうな言葉で言うなら、絆、ってところかな?」
「…!流石だな…」
半兵衛の言葉に徳川は驚いたような感心したような声をあげた。半兵衛は徳川の反応にふぅん、と呟いた後、こてりと首をかしげ、面白そうに笑った。
「絆の力、ねえ……ふふっ、なんか漫画の主人公みたいなこというね」
「ふっ、主人公ならば最後には勝つのだからよいではないか」
「メタ発言はやめようよ」
「……、情けない話というか、本来ならばワシがこう言うことは許されないことなんだろうが…」
「…うむ、言うな」
「!」
口ごもりながらも言葉にしようとした徳川を、秀吉は笑いながら止めた。止められたことに徳川はびっくりしたようで、きょとんと秀吉を見た。
秀吉はいつの間にか前のめりになっていた体勢を戻し、起こしていたベットに寄りかかっていた。その体勢のまま、優しく笑う。
「…貴様の言いたいことは分かる。だから、言わずとも良い。決めたのならば、それは口にしてはならぬ」
「……では、あなたの言葉に甘えるとしよう」
徳川は続いた秀吉の言葉に薄く笑い、前傾になっていた姿勢を元に戻した。
半兵衛も秀吉の言わんとすることを理解したのか、ふふ、と小さく笑った。
「…まぁ、そっちの三成君よりかはしっかりしているし、家康君には悪いけど彼の方が勝ちそうだね?」
「え、えぇっ?!」
「ちょ、ま、マネージャー…!凶王さんには言わないでくださいよ…!」
「アハハ、でも間違ってないでしょ?」
「……うー………」
家康は竹中の言葉に慌てたように声をあげたが、反論できず小さく唸るしか出来なかった。徳川は呆気にとられたように三人を見ていたが、少しして小さく吹き出した。
吹き出した徳川に家康は戸惑ったように徳川を振り返った。徳川はしばらくくすくすと笑った後、どこか嬉しそうに笑いながら目を細めた。
「……そのお言葉、ありがたくいただくとしよう、秀吉公。でも、貴方が三成を変えてくれたから、さらに厳しくなってしまった」
「ふふ、そうか。まぁそちらの三成もああ見えて一筋縄で倒せる男ではないぞ。あれはあれで、しぶとい男よ」
「確かに、彼一人になっても戦い続けるだろうね。いくら君に生きろと言われても」
「ふ…。…いくら我一人を倒したとて、そうそう進めると思うてくれるな」
「あぁ!」
そう答える徳川は、状況が厳しくなったのにも関わらず今までよりも明るく嬉しそうで、家康は僅かに不思議に思いながら徳川を見つめていた。


 「失礼しました」
それから二三言葉を交わして、二人は秀吉のいる部屋を出た。部屋を出て少し離れたところに、石田が腕を組み、壁に持たれるようにして立っていた。
徳川と家康はぎょっとしたように石田を見た。石田の位置だったら、部屋の中での会話が聞こえていても不思議ではない。
石田は静かに腕を解き、じ、と徳川を見据えた。
「…三成」
「………私は貴様には屈しない。最後の一人となろうとも…立ち止まることなどしない……ッ」
怒りを込めて、だが静かに石田はそう言った。ぎろ、と徳川を睨むと、石田は踵を返し下に降りていってしまった。
家康は、ふぅ、と息を吐き出した。
「…なぁ、一つ聞いていいか、権現」
「…なんだ?」
「あの時、一瞬目を伏せたのはなんでだ?」
「…?…、……!気付いたのか」
「まぁ、たまたま…」
徳川は家康の言葉に小さく笑った。

聖なる夜のハプニング78

半兵衛は徳川の言葉に眉間を寄せ、不愉快そうに徳川を見た。
「そこまで言う義理はないよね」
「それは、そうなんだが…」
「構わぬ」
「!秀吉、」
「我は構わぬ、が……貴様は平気か?」
秀吉の言葉に徳川は驚いたように目を見開き、秀吉を見た。そう言った秀吉は僅かに笑っていて、そしてとても挑戦的であった。すぐには答えられなかった徳川を、秀吉はじ、とみつめる。
女性のそれとは思えない目の力の強さに、かつて見ていた豊臣のそれとよく似た目に、いつしか徳川も口元に笑みを浮かべていた。 
「…こちらに来て、同じ姿の者同士似ていると思うことは多々あったが…貴方は誰よりも似ている、秀吉公」
「ほう?」
「あなたの内にある強さは、ワシが対峙した太閤豊臣秀吉…そのものだ」
秀吉は徳川の言葉に意外そうに目を見開いた後、どこが嬉しそうな笑みを一瞬みせた。
だが。
「…ふざけたこと言わないでよ、君」
「……え?」
隣に座る半兵衛は正反対の、非常に不愉快げな表情を浮かべた。
それには秀吉も僅かに驚いたように半兵衛を見た。
「…何を怒っている?」
「秀吉、そもそも僕はね!君がキックボクシングを続ける事には反対なんだ!」
「何故よ」
静かに返す秀吉に、半兵衛はふぅ、と長く息を吐き出して昂った感情を鎮めようとしていた。
一息ついてから、秀吉に向かい直る。
「どうして君が強さを求める必要がある。失ったのは君のせいじゃないだろう!」
「我はそう思っておらぬ。それに、弱きに甘んずるのは許せぬ」
「確かに君はそういう人間だ、だけどだからと言って、人殺しを是とする人間と同じ目だなんて言われるのは僕は屈辱だ!!」
「待ってくれ、そういう意味じゃない!」
「じゃあどういう意味なんだい?秀吉の強さは殺しの強さじゃない!」
「やめぬか半兵衛!!」
今まで静かに返していた秀吉だったが、半兵衛の感情の矛先が徳川に向くと、一変して怒鳴り声をあげた。
その声の大きさに半兵衛と家康はびくりと肩をはねさせる。家康は入り込むこともできず、あわあわと徳川と半兵衛とを見やった。
半兵衛は不愉快げに秀吉を振り返る。秀吉はわずかに眉間を寄せ、半兵衛を睨むように見た。
「……貴様らしくないぞ半兵衛。何をそう苛立っている?」
「…僕は落ち着いているさ。君にとっては褒め言葉なのかもしれないが、僕は君がそういった目で見られるのは嫌なんだ」
「今更何をいう、」
「僕はね、秀吉。君には君のままでいて欲しいんだ。最初は君の願いのために、君が君を捨てることを止めはしなかったし捨てた後の君を君として見て支えてきた。……でも、君が死ぬまでそうするつもりは僕には最初からない!」
「…!」
「……」
秀吉は半兵衛の言葉に、また意外そうに目を見開いた。徳川も半兵衛の言葉にわずかに目を見開き、それから不意に伏せた。
視線を落としたのに気がついたのは、家康だけだった。
「…秀吉。いくら君が強くなっても、人の中から弱さは消えないんだ。君が心の底で憎んでいる弱い人間はいなくならないんだよ」
「………」
「もう、いいじゃないか秀吉。どれだけ君が苦しんでも、変えたいと願っても、愚か者は変わりはしないんだ」
秀吉は半兵衛の言葉に僅かに視線を落とした。半兵衛はそこまで言って、はっ、と我に返り、視線をさ迷わせ、小さく、ごめん、と謝った。
徳川は二人のやりとりに、ぐ、と拳を握った。
「…秀吉公、あなたは……変えられると信じているのかもしれないが……」
「…………」
徳川はそういいながら、握った拳を持ち上げた。
「…拳の力だけでは、変えられないものがある。言葉だけでは、変えられないものがある。人を変えるのは、強さでは変えられないさ」
「………ほぅ?」
「……君黙ってたと思ったら急に面白いことを言い出すね」
秀吉と半兵衛は徳川の言葉に徳川を見た。

聖なる夜のハプニング77

「…?うわっ!?」
からり、と戸が開く音に半兵衛が振り返り、半兵衛は徳川の姿を見るなりそう声をあげて驚いたように立ち上がった。
半兵衛があげた声に家康も思わず飛び上がる。
「わっ!な、なんだよ竹中マネージャー…」
「あ、あぁごめん、なんかゲ「半兵衛、それより先は言うな。お前混乱しているだろう」
「そりゃするさ!君はどうしてそんなに冷静でいられるんだい!」
あまりよろしくないことを口走ってしまいそうになった半兵衛を制しながら、秀吉はくすりと小さく笑った。
徳川は僅かに驚いたように秀吉を見ている。
「……じょ、女性なのか?」
「えっ?あ、話していなかったか?というより、そちらでは男なのか!!」
「こちらへ来い、家康。その男が、お前のところへ現れた者か」
「あ、はい」
秀吉は徳川と家康の会話に小さく笑みを浮かべたまま、二人を手招きした。
簡素な高さの低い、折り畳めるベッドの脇に二人は正座して座る。秀吉は徳川をじ、と見つめ、目を細めた。
「…お初にお目にかかる」
「貴様の世界でのことは聞き及んでいる。貴様自ら我に会いに来るとは思わなかったぞ」
「…お言葉ごもっともだ、秀吉公」
徳川の話しぶりに、秀吉の傍らに座り直した半兵衛は、ふぅん、と小さく声を上げる。
その声に不思議そうに徳川がそちらを見れば、半兵衛は秀吉のベッドに肘を乗せ、頬杖をつきながら徳川を見つめていた。
「…半兵衛殿」
「君、僕は苦手なタイプだ」
「えっ?!あ、はぁ…」
「でも秀吉の言葉は確かに最もだ、何しにきたの?」
「半兵衛…」
ずけっ、とそう言う半兵衛に秀吉は難色を示すが、半兵衛はそんな秀吉をむっとしたように見、びし、と秀吉に指を突きつけた。
「だって彼、君の元に属しておきながら考えが合わないからって裏切ったんでしょ?普通に軍抜ければいい話なのに。そんなもの、僕がただで見過ごすと思う?」
半兵衛の言葉に徳川は僅かに眉間を寄せて視線を落としたが、そんな徳川には気がつかなかったか、家康ははぁと盛大にため息をついた。
「竹中マネージャー、あなたがそう過保護だから秀吉先生独り身なんですよ…」
「うっわぁ!ひっどい!ひどいよ家康君!君いつからそんな毒舌系になったの!」
「いや、ワシ昔からこんなんですし前もこのくだりあった気がします」
「いいもん貰い手ないなら僕がもらうもの」
「心にもないことを言うのはやめてくれないか半兵衛」
「半分くらいは真面目だけど」
「尚やめてくれないか」
「秀吉までヒドイっっ」
「…あ、あの……?」
突如目の前で繰り広げられるさながらコントのような会話に徳川はただただポカンとするしかない。その時になってようやく徳川の様子に気がついた家康は、不思議そうに首をかしげた。
「どうした?ワシらいつもこんなんだぞ」
「まさかの!!」
「えっ、そんな殺伐としてるの君のとこ」
驚く徳川に逆に半兵衛が驚き、半兵衛と秀吉は思わず顔を見合わせた。
驚きのあまりまたポカンとしている徳川に、秀吉は小さく笑って肩をすくめた。
「そちらは戦国時代だ。こう呑気にもしておれぬだろう」
「………秀吉公、あなたは……」
「どうせ我の事だ、そちらでは愛する人間を自ら排除するくらいのことはやってのけているだろう」
「…え?」
苦笑しながら秀吉が漏らした言葉に、徳川は大きく目を見開いた。
半兵衛は秀吉の言葉に眉間を寄せる。
「…君は自分を許すべきだ。自分を追い詰めたところで…」
「ふ、お前が言うか半兵衛。承知の上で我を支えていたのだろう?」
「それはそうだけど」
「…ちょっと待って欲しい、それは、どういう意味だ…?」
思いもしなかった二人の言葉に、徳川は座り直しながらそう尋ねた。
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