聖なる夜のハプニング78

半兵衛は徳川の言葉に眉間を寄せ、不愉快そうに徳川を見た。
「そこまで言う義理はないよね」
「それは、そうなんだが…」
「構わぬ」
「!秀吉、」
「我は構わぬ、が……貴様は平気か?」
秀吉の言葉に徳川は驚いたように目を見開き、秀吉を見た。そう言った秀吉は僅かに笑っていて、そしてとても挑戦的であった。すぐには答えられなかった徳川を、秀吉はじ、とみつめる。
女性のそれとは思えない目の力の強さに、かつて見ていた豊臣のそれとよく似た目に、いつしか徳川も口元に笑みを浮かべていた。 
「…こちらに来て、同じ姿の者同士似ていると思うことは多々あったが…貴方は誰よりも似ている、秀吉公」
「ほう?」
「あなたの内にある強さは、ワシが対峙した太閤豊臣秀吉…そのものだ」
秀吉は徳川の言葉に意外そうに目を見開いた後、どこが嬉しそうな笑みを一瞬みせた。
だが。
「…ふざけたこと言わないでよ、君」
「……え?」
隣に座る半兵衛は正反対の、非常に不愉快げな表情を浮かべた。
それには秀吉も僅かに驚いたように半兵衛を見た。
「…何を怒っている?」
「秀吉、そもそも僕はね!君がキックボクシングを続ける事には反対なんだ!」
「何故よ」
静かに返す秀吉に、半兵衛はふぅ、と長く息を吐き出して昂った感情を鎮めようとしていた。
一息ついてから、秀吉に向かい直る。
「どうして君が強さを求める必要がある。失ったのは君のせいじゃないだろう!」
「我はそう思っておらぬ。それに、弱きに甘んずるのは許せぬ」
「確かに君はそういう人間だ、だけどだからと言って、人殺しを是とする人間と同じ目だなんて言われるのは僕は屈辱だ!!」
「待ってくれ、そういう意味じゃない!」
「じゃあどういう意味なんだい?秀吉の強さは殺しの強さじゃない!」
「やめぬか半兵衛!!」
今まで静かに返していた秀吉だったが、半兵衛の感情の矛先が徳川に向くと、一変して怒鳴り声をあげた。
その声の大きさに半兵衛と家康はびくりと肩をはねさせる。家康は入り込むこともできず、あわあわと徳川と半兵衛とを見やった。
半兵衛は不愉快げに秀吉を振り返る。秀吉はわずかに眉間を寄せ、半兵衛を睨むように見た。
「……貴様らしくないぞ半兵衛。何をそう苛立っている?」
「…僕は落ち着いているさ。君にとっては褒め言葉なのかもしれないが、僕は君がそういった目で見られるのは嫌なんだ」
「今更何をいう、」
「僕はね、秀吉。君には君のままでいて欲しいんだ。最初は君の願いのために、君が君を捨てることを止めはしなかったし捨てた後の君を君として見て支えてきた。……でも、君が死ぬまでそうするつもりは僕には最初からない!」
「…!」
「……」
秀吉は半兵衛の言葉に、また意外そうに目を見開いた。徳川も半兵衛の言葉にわずかに目を見開き、それから不意に伏せた。
視線を落としたのに気がついたのは、家康だけだった。
「…秀吉。いくら君が強くなっても、人の中から弱さは消えないんだ。君が心の底で憎んでいる弱い人間はいなくならないんだよ」
「………」
「もう、いいじゃないか秀吉。どれだけ君が苦しんでも、変えたいと願っても、愚か者は変わりはしないんだ」
秀吉は半兵衛の言葉に僅かに視線を落とした。半兵衛はそこまで言って、はっ、と我に返り、視線をさ迷わせ、小さく、ごめん、と謝った。
徳川は二人のやりとりに、ぐ、と拳を握った。
「…秀吉公、あなたは……変えられると信じているのかもしれないが……」
「…………」
徳川はそういいながら、握った拳を持ち上げた。
「…拳の力だけでは、変えられないものがある。言葉だけでは、変えられないものがある。人を変えるのは、強さでは変えられないさ」
「………ほぅ?」
「……君黙ってたと思ったら急に面白いことを言い出すね」
秀吉と半兵衛は徳川の言葉に徳川を見た。