聖なる夜のハプニング79

「…それが、貴様がそちらの我に反旗を翻した理由か」
「……はい」
「………お前、」
家康が小さく漏らした声に、徳川はどこか困ったような挑戦的であるような笑みを浮かべた。
「無論ワシが信じるもので本当に全ての者たちを変えられるかは分からない、だが…その力で、あなたは三成を変えた」
「………つまり、親しい間柄の情……君が好みそうな言葉で言うなら、絆、ってところかな?」
「…!流石だな…」
半兵衛の言葉に徳川は驚いたような感心したような声をあげた。半兵衛は徳川の反応にふぅん、と呟いた後、こてりと首をかしげ、面白そうに笑った。
「絆の力、ねえ……ふふっ、なんか漫画の主人公みたいなこというね」
「ふっ、主人公ならば最後には勝つのだからよいではないか」
「メタ発言はやめようよ」
「……、情けない話というか、本来ならばワシがこう言うことは許されないことなんだろうが…」
「…うむ、言うな」
「!」
口ごもりながらも言葉にしようとした徳川を、秀吉は笑いながら止めた。止められたことに徳川はびっくりしたようで、きょとんと秀吉を見た。
秀吉はいつの間にか前のめりになっていた体勢を戻し、起こしていたベットに寄りかかっていた。その体勢のまま、優しく笑う。
「…貴様の言いたいことは分かる。だから、言わずとも良い。決めたのならば、それは口にしてはならぬ」
「……では、あなたの言葉に甘えるとしよう」
徳川は続いた秀吉の言葉に薄く笑い、前傾になっていた姿勢を元に戻した。
半兵衛も秀吉の言わんとすることを理解したのか、ふふ、と小さく笑った。
「…まぁ、そっちの三成君よりかはしっかりしているし、家康君には悪いけど彼の方が勝ちそうだね?」
「え、えぇっ?!」
「ちょ、ま、マネージャー…!凶王さんには言わないでくださいよ…!」
「アハハ、でも間違ってないでしょ?」
「……うー………」
家康は竹中の言葉に慌てたように声をあげたが、反論できず小さく唸るしか出来なかった。徳川は呆気にとられたように三人を見ていたが、少しして小さく吹き出した。
吹き出した徳川に家康は戸惑ったように徳川を振り返った。徳川はしばらくくすくすと笑った後、どこか嬉しそうに笑いながら目を細めた。
「……そのお言葉、ありがたくいただくとしよう、秀吉公。でも、貴方が三成を変えてくれたから、さらに厳しくなってしまった」
「ふふ、そうか。まぁそちらの三成もああ見えて一筋縄で倒せる男ではないぞ。あれはあれで、しぶとい男よ」
「確かに、彼一人になっても戦い続けるだろうね。いくら君に生きろと言われても」
「ふ…。…いくら我一人を倒したとて、そうそう進めると思うてくれるな」
「あぁ!」
そう答える徳川は、状況が厳しくなったのにも関わらず今までよりも明るく嬉しそうで、家康は僅かに不思議に思いながら徳川を見つめていた。


 「失礼しました」
それから二三言葉を交わして、二人は秀吉のいる部屋を出た。部屋を出て少し離れたところに、石田が腕を組み、壁に持たれるようにして立っていた。
徳川と家康はぎょっとしたように石田を見た。石田の位置だったら、部屋の中での会話が聞こえていても不思議ではない。
石田は静かに腕を解き、じ、と徳川を見据えた。
「…三成」
「………私は貴様には屈しない。最後の一人となろうとも…立ち止まることなどしない……ッ」
怒りを込めて、だが静かに石田はそう言った。ぎろ、と徳川を睨むと、石田は踵を返し下に降りていってしまった。
家康は、ふぅ、と息を吐き出した。
「…なぁ、一つ聞いていいか、権現」
「…なんだ?」
「あの時、一瞬目を伏せたのはなんでだ?」
「…?…、……!気付いたのか」
「まぁ、たまたま…」
徳川は家康の言葉に小さく笑った。