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過去のあなたに恋してる?12

「もっと鍛えねぇと駄目だなー」
「まぁ、頑張ってくださいませ」
「お前くらいにはなってやるぜ」
「ふふ、楽しみですな」
政宗と小十郎はそんな会話をしながら、分かれ道で別れた。
小十郎は政宗の姿が見えなくなるまで見送ってから、ほっ、と息をついた。
「……あっぶねぇ……」
思わずその場で屈み込むほど安心した。
あまりに近く、腕の中にいるものだから、思わず抱きしめてしまった。抱き心地はかつての彼と変わらなかった。
ここ最近、どうにも受験とそれに対する親の態度へのストレスか、以前に増して政宗に対して欲情する事が増えてしまっていた。声をかけられなければそのまましばらく抱きしめて続けてしまっていただろうし、最悪それ以上のことをしでかしていても不思議ではない。
小十郎はばくばくと高鳴る鼓動が収まってから立ち上がった。ヒヤヒヤしたおかげで、下半身も特に問題はない。
「…不審に思われちゃいねぇといいんだがな…」
小十郎は小さくため息をつき、立ち上がってふらふらと家路についた。


「…………にしても……」
一方の政宗も、別れたところから少し歩いた所にある公園の前で立ち止まった。
自分の右手を見下ろし、ぐ、と握り締める。
「…小十郎の奴…」
思ったより、などと言っていたが、政宗は別の何かを感じていた。
ここ最近、口にはしていなかったが慶次の言った違和感を、前よりも感じるようになっていた。勿論悪意のようなものを感じるわけではないが、何となく気になっていた。
そこへ今日の出来事である。
「………俺に話さねぇってことは話せねぇ事なんだろうが…なんなんだ?一体…」
政宗は一人つぶやきながら眉間を寄せた。
ふ、とその場で後ろを振り返る。勿論そこに小十郎の姿はない。
「………まさかな」
ふ、と思い浮かんだ事があったが、政宗は小さく笑い、すぐにその考えを打ち消すと深く考えずにまた家路についた。


 その夜。
「…はぁ」
小十郎は部屋で深いため息をついた。自分で決めた進学先であったが、親には反対を受けていた。小十郎のレベルならばまだ上を目指せる、と。
「楽したくて下のレベルにした、なんてしてねぇんだよ…」
ぎり、と歯ぎしりをする。7月に入ってからそんなことが続いていた。そんな状態でやる気が出るはずもなく、小十郎はごろん、とベッドに横になった。
横になったら、昼間のことが思い出された。政宗に不審に思われていたのではないか、と思うとキリキリと胃が痛むが、そんな事よりも政宗の感触の方が勝った。
「…お変わりのないお体だった…野球しかされていないはずなのに…日々の筋トレの賜物か。………って何言ってんだ俺は…!」
自分の変態じみた発言に小十郎はもだもだとベッドの上を転がった。
「…もうじき俺も19…政宗様が天下を目指され進み始めた時と同じ年になるっつーのに……情けねぇもんだよなァ…」
小十郎は布団に顔をうずめながら、はぁ、とまた小さくため息をついた。このところため息をついてばかりである。
ごろり、と寝返りを打ち、天井を見上げる。
「…こんなザマ、政宗様が見たら大層お笑いになるんだろうな…」
小十郎はぼそり、とそう呟いた。

過去のあなたに恋してる?11

「そういやお前、文化祭はどうなんだ?」
その後、政宗と小十郎は共に帰路につき、その途中で政宗はふと思い出したように小十郎に尋ねた。
小十郎も、あぁ、と思い出したように呟く。
「普通にやりますよ。ですから、もう先月辺りから準備が始まってます」
「マジか。まぁそんなもんだよな」
「3年は無くそうという話もあったらしいですが、結局なくなりましたね」
「そんなんあったっけ?お前のクラス何やんの?」
小十郎は、ええと、と呟く。夏が近づき日没が遅くなったとはいえ、日は大分西に傾き、辺りは暗くなってきている。
「お化け屋敷、ですね。俺は脅かす役で」
「マジか!!こわそ」
「………」
「ジョーダンだっての、そう怖い顔すんなよ」
「…貴方が来た時には全力で参るとしましょう」
「怖い!その顔が怖い!悪かった!!」
「ジョーダン、ですよ」
「…!てめ、このやろ!!」
ぽかすかと殴ってくる政宗に小十郎は楽しそうに笑いながら逃げた。

過去の記憶で政宗がこのように絡んでくることは多々あった。だが当時の自分は政宗よりも下の身分であり、諌めるべき立場でもあったから、こんな風に応えたことは一度もなかった。
無論そうした態度は、政宗が恋人としての対応を求めてきた時も同じだった。
今はもったいないことをした、と思う。

「(…とはいえ、実際俺がそうだったら応えてないとは思うけどな…このクソ真面目な性格は昔からか)」
「!うぉっ、」
「!!」
そんなことをぼんやり考えながら政宗のパンチをよけていたら、不意に政宗がバランスを崩してよろけた。怪我は野球をやる人間には大きなハンデになる、小十郎は咄嗟によろけて転びそうになっている政宗に向かって腕を突き出した。
「…っ……と…」
ぼふ、と政宗は小十郎の胸の中に倒れた。体の支えを求める政宗の手が小十郎の肩の辺りを掴み、小十郎も政宗の体を支えるために体を抱えた。
「…っ、わりぃ、」
「っ、大丈夫ですか」
政宗は小十郎より少し小さい。見下ろすとちょうど顔の下に政宗の頭があり、つむじが見える。
政宗はぐ、と体を起こそうとしたが、小十郎は思わず政宗は抱きしめてしまった。
政宗は驚いたように腕の中から小十郎を見上げる。
「こっ小十郎?」
「…あっ、」
政宗の言葉に小十郎は我に帰り、慌てて政宗を離した。政宗はきょとんと小十郎を見上げる。
「…なんだよ急に」
思わず抱きしめてしまった事に内心慌てながら、小十郎はいそいで言い訳を考えた。
「い、いえ…思っていたより細いなと思い」
「!!た、確かにお前に比べりゃほせぇかもしんねぇけど…!」
「も、申し訳ない」
「……そんな細いか?」
「運動部でない人間に比べれば細くありませんが」
政宗はショックを受けたようにそう言った後、じろじろと自分の体を見下ろした。不審に思われなかった事にほっとしつつ、小十郎は政宗の話に合わせた。

過去のあなたに恋してる?10

慶次は困ったように笑いながら政宗を見た。
「忘れなくたっていいじゃん」
「そういう言葉は求めてねぇよ」
「んー…だってさ」
「もういいわ、手間取らせたな」
「わー待って待って!言わないから!!聞かせて!!」
政宗は慶次の言葉に嫌そうに顔を歪めて踵を返したが、慶次が慌てて引き止めたのでしぶしぶ腰を下ろした。
慶次は引き止めた後、うーん、と唸った。
「…一つ疑問なんだけど、片倉先輩とどう関係すんの?」
「いや、小十郎って朴念仁だと思ってたんだが、アイツも普通に恋してるらしくてよ」
「マジか!!」
「なーんかそれ聞いたら、引きずってる訳にはいかねぇなと思ってよ」
「ふーん…まぁある意味、新しい恋するしかないんじゃない?」
慶次の言葉に政宗は目を細め、しばらく黙って空を見上げた後、慶次を見た。
「そんなもんか」
「完全に忘れられるってことはないような気もするなぁ。正確には、乗り越える、っていうか?」
「…乗り越える、か」
「忘れる必要はないよ。ていうか、忘れられねぇって!」
慶次はそう言いながら立ち上がり、ばっ、と両手を広げて政宗を見た。男にしては長過ぎるポニーテールがふわりと揺れる。
「だって、その人を好きになったってことは政宗のタイプというか、政宗の人を好きになるポイントがあったってコトだろ?だったら今後誰を好きになってもその人と被るところがあるんだからさ!忘れちまったら、誰も好きになれねぇって」
「…………ははっ、アンタ時々いいこと言うよな」
政宗は自信満々にそう言った慶次にぱちくりと瞬きした後、くすり、と小さく笑ってそう言った。慶次は政宗の言葉に、へへ、と嬉しそうに笑う。
政宗は腰を上げ、視線を慶次から空へと移した。
「…そいつも、そうだな」
「へへへっ、新しい恋した時は教えてくれよ?」
「やなこった色男」
「えええっ!なんでだよ!!」
政宗はがっかりしたように肩を落とす慶次にケラケラと笑いながら屋上を後にした。



 それからしばらく、政宗と小十郎の間には特に問題もなく、日々が流れていった。小十郎は次第に近づく大学受験に日に日に忙しくなり、野球部の練習を休むことも多くなった。
「小十郎、お前夏休みの練習は?」
「火曜と木曜は来れませぬな」
夏休みが日に日に近づく7月、練習後政宗はふと思い出したように小十郎にそう言った。小十郎はふ、と少し考え込んだ後に、特定の曜日を答えた。
政宗は部室にかかっているカレンダーを見る。
「夏期講習かなんかか?」
「ええ。この学校で開設されている奴ですが」
「あァあれか。塾は?」
「別に行かずともよいかと…」
「ピュー。さすが。この間の模試もA判定だったんだって?」
ユニフォームから制服に着替えながらそう言った小十郎に政宗は口笛を鳴らし、小十郎にスポーツ飲料を投げ渡しながらそう尋ねた。小十郎はそれを受け取りながら困ったように笑った。
「偏差値的には俺には低いところですからね」
「つっても60台だろ?でもなんで低めの選んだんだ?」
「単純にその大学が気に入っただけですよ。就職率的にも」
「やぁーっぱ就職でかいよな、大学」
「一応は気にしますな。俺も裕福な訳ではないので」
政宗はふーん、と小さく呟くと、自分の分のスポーツ飲料を煽るように飲んだ。

過去のあなたに恋してる?9

「…マジか……」
「……なんですかその顔は」
大層驚いたと言わんばかりに呆然と呟く政宗を小十郎はむっ、とした顔で見据える。政宗はそんな小十郎の視線を気に求めず、自らを納得させるかのように何度か頷く。
「いや…いや、まぁお前も恋の一つや二つするよな…」
「…まぁ、未だにそのような女子に出会ったことはありませんが」
「まーそうだろな。ていうかお前、そんな委員長タイプの奴好きなの?あれか、尻にひかれたいタイプか?」
「ッ!!!そ、そんなことはありませぬ!!」
小十郎は政宗の言葉に歩きながら飲もうとしていたお茶に噎せ、ゲホゲホと咳き込みながら慌ててそう言った。政宗は楽しそうに笑い、悪い悪い、と謝る。
小十郎はそんな政宗に小さくため息をつきながらも、小さく笑った。
ーー貴方が笑い、その隣に形は違えど俺がいる。だが、貴方に触れるのは、俺ではねぇ。また貴方の右目になれた……それだけで、俺は
小十郎は胸のうちで静かにそう呟き、楽しそうに別の話題に移った政宗を見ながら笑みを浮かべた。



 翌日。
「おい、慶次」
「!政宗、なんだい?」
昼休みに、政宗は慶次の元を訪れていた。慶次はわずかに驚いたように政宗を見たあと、政宗の表情を見て、政宗を屋上に誘った。
屋上に上がると、政宗は空を見上げた。慶次はフェンスにもたれ掛かるようにして座り、首をかしげながら笑った。
「片倉先輩と何かあった?」
「………あったといえばあったし、なかったといえばなかった」
「つまり核心に迫る話にはならなかったけど、それに近い話はできた、みたいな?」
「ま、そういうこった。話はしたが、結局のところ何も分からなかった」
「で、なんで俺に?」
慶次の最もな言葉に政宗は慶次を振り返り、歩み寄って隣に座った。
そして、はぁ、と小さくため息をついた。
「…正確には小十郎とは関係のない話だ」
「え?じゃあ、恋の悩み?」
「ま、それに近いかもな」
慶次は意外そうに政宗を見、嬉しそうに笑った。
「へぇ!俺に話してくれるなんて嬉しいねぇ。でも、昨日の告白は断ったんだって?」
「……耳が早ぇな」
政宗はチッ、と小さく舌打ちをして頬杖をついた。慶次はまぁね、とニッと笑う。
政宗は持参したパックの牛乳に口をつけた。
「野球部のエースの政宗が彼女つくらないってなァ興味深い話だしね!でもなんで断っちゃったのさ?」
「…typeじゃねぇんだよ」
「いや、その顔は本命がいると見た」
「本命、ね。まァ昔から好きな奴がいるのは確かだ」
「わお!実は一途な感じ?」
「実は、ってなんだテメェ」
政宗はイラついたように慶次を見たあと、小さくため息をついた。
「でも、なんで俺に相談?」
「…いい加減、忘れねぇといけねぇ話だからよ」
「?」
「もうそいつ、死んでんだよ」
慶次は政宗の言葉に目を見開いた。
牛乳パックが空になり、ペコ、と小さく凹んだ。
「…どうやったら忘れられるかと思ってさ」
「…忘れる必要があるのかい?」
「ある」
「……そう、かぁ…」
慶次はその言葉に目を細めた。

過去のあなたに恋してる?8

それから少しして、政宗はグラウンドにやってきた。表情に特別これといった変化は見られない。
小十郎は先程見た光景を気にしながらも、それを表情には出さず、政宗のバッドを彼に渡しに行った。
「遅かったですな」
「ちょっとな。小十郎、お前今日放課後暇か?」
「?…まぁ、少しならば」
「ちょっと話がある、付き合ってくれ」
「?承知」
政宗は小十郎の返答に、にっ、と笑って返すとバットを軽く振りながら練習の輪の中に入っていった。小十郎はなぜ自分に、と思いながらも政宗の後について練習に戻った。


 練習が終わり、打ち合わせも終わって各々ユニフォームから制服に着替えて帰っていく中、小十郎はのそのそと制服に着替えながらロッカー室から他の部員が帰っていなくなるのを待った。政宗もそうしていて、のそのそと着替えている。
「お先っす!」
「おぅ」
最後の一人が出ていったのを確認すると、小十郎は手早く身なりを整えて政宗を振り返った。政宗も着替え終わっていて、携帯電話をいじっていた。
小十郎は帰り支度をしながらも口を開いた。
「して、話とは」
「お前見てただろ」
「えっ、」
政宗は携帯電話から目を離さないままそう言った。気付かれていないだろうと思っていた小十郎は驚いたように政宗を見る。
政宗はしばらくカチカチと携帯電話をいじった後視線をあげた。
「俺が女子に告白されたトコ」
「……やはりその類の事でしたか」
「なんで見てたんだよ?」
「ボールを派手に飛ばした野郎がいて、それを拾いに行ったらたまたま、です。邪魔してはならぬと」
「Hum...」
「お邪魔した方がよかったですか?」
小十郎はわざとらしく笑ってそう言った。
政宗に恋人が出来るというのは何となくもやもやしたものがあるが、今の政宗は今の政宗、過去の政宗は過去の政宗であり、やはり違うのだ。恋人を作るというならば祝福する心積りはあった。
政宗はそんな小十郎の心中など知らぬまま、にやっと笑った。
「まさか。つーか、邪魔されようがされまいが断ってたし」
「!断ってしまったのですか?」
「typeじゃねぇんだもん」
政宗はそう言いながらふぅと小さくため息をつき、座っていた机から降りた。政宗が鞄を担いだので、小十郎も鞄を手に取る。
ロッカー室から出、小十郎は政宗の半歩後ろを歩いた。
「では、どのような女子が?」
「んー…どんな、つーより、昔から好きな奴がいんだよ」
「!!」
小十郎は政宗の言葉に驚いたように目を見開いた。政宗が長いこと恋恋慕していることにも告白できていないことにも驚いたのだ。
政宗は小十郎の表情に気がつくと、ぶぅ、とむくれたように頬をふくらませた。
「んだよそのFaceは!」
「へっ、あ、申し訳ありませぬ、意外で」
「悪かったな!!」
「何故思いを伝えないのです?」
「言えっかよ。それに、向こうは俺の事なんざ覚えちゃいねぇだろうしな」
政宗は拗ねたようにそう言いながら両腕をあげ、頭の後ろで組んだ。子どもっぽい仕草を見せる政宗に小十郎は思わず小さく笑う。
「貴方にも意外と可愛らしいところがありますな」
「!何が可愛いだ、テメェ!そういうおめーはいねぇのかよ、いるわけねーよなぁお前みたいなやつ」
政宗は小十郎の言葉にムッとしたようにそう言った後、ニヤニヤとしながら聞き返した。
その笑顔に少しばかりムッ、としたので、小十郎は僅かに考え込んだ。
「そうですね…カリスマ性があって」
「えっ、いんの?!」
「えぇ。それでいて仲間思いといいますか…自分の為すべきことをきちんと理解し見据えられている人ですね」
政宗は小十郎が答えると思っていなかったらしく驚き慌てたように小十郎を振り返ったが、小十郎はさして気にせず言葉を続けた。
勿論、現実にそんな女子がいるわけではない。あくまで聞かれたのは好きなタイプでしかないので、自分が愛する、過去の政宗をイメージして言っただけだった。
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