2010-12-28 17:00
「…宮野殿を連れていくには、貴殿の犠牲が必要なのでござるか?」
「そうなりますね。まぁ、どの程度の血が必要なのか分かりませんが」
「…ッ」
「ま、待ってください明智さん!私、誰かを犠牲にしてまで…ッ!!」
宮野の言葉を、明智は手を出す事で止めた。その顔は僅かに笑っている。
「真田は貴女無しには知ることが出来ないことを持っている。それは仕方ないことなのですよ」
「で、でも…!」
「それが明智が血の運命」
「…ッ!!私は運命なんかで貴方に犠牲になってほしくないっ!」
宮野の言葉に明智は意外そうに目を見開いた。幸村は宮野を止めようとはしなかった。
宮野の目にかすかに涙が浮かんでいる事に気が付いても、止めるべきでないと思ったからだ。
「長年の…幾年の契りなんかで今を生きてはいけないだなんて…ッ、そんなの私は嫌です!血なんて関係ない、貴方は貴方だ!」
「…はぁ……いくとせ、など古い言葉を使いますね…」
「星の声だとか血だとかどうでもいいですから、そんなものに縛られない判断をしてください!」
「…。あっさり言ってくれますね…」
明智はしばし呆然とした後はぁとため息をついた。ポリポリと頬も掻いている。
「……。心遣いは無用でござる、明智殿」
「!」
「貴殿の思うようにしてくだされ」
「…私ねぇ…自己犠牲主義は嫌いなんですよ……」
「狽ハぉっ!」
どんよりとした空気が目に見えるほど、明智は大きなため息を吐いた。
「…やりにくい人達ですね。私にその気が無いなら最初から話しませんよ」
「「!」」
「私がやりたくないことをやるわけないでしょう」
明智は長い髪をいじりながら再びため息をつく。宮野と幸村は確かにと思ってしまったので何も言えず、ただ俯くしかない。
明智はしばらくそうやって髪をいじっていたが、その手を止めるとぽむぽむと二人の頭を叩いた。
「気持ちだけ有り難くいただいておきますよ。憎まれっ子世にはばかるといいます、そう簡単には死にませんよ」
「…明智さん…憎まれっ子って自分で言いますか……」
「真田さんも、次こんなこと言ったら宮野さん貰っちゃいますからね」
「狽なっ!」
「さて、話を戻しますよ。ですから、宮野さん。別れを告げたい人がいるなら今のうちに」
「…ッ、はい」
「それから真田さん。…星の声が言うには、今貴方の軍は戦の真っ只中だそうです」
「…!」
「相手は私には分かりませんが…どうやら貴方に化けている者がいるようで、貴方がいなくなった事を敵方は知らない模様」
「…佐助か……」
幸村は僅かに顔を歪めた。敵方が気が付いていないのは幸いだが、あと1週間発覚されずにいられるか…。不安は消えない。
「…政宗殿が、来なければいいのでござるが…」
そう小さく呟くと、明智は少し不思議そうに首を傾げた後こほんと咳払いした。
「…まぁ、そういう事ですから帰った時は人目にお気をつけて。それと、ウォーミングアップはしておいた方がいいですよ」
「うぉおみんぐあっぷ?」
「戻ってすぐに戦闘はやや厳しいでしょう?」
「…まぁ確かに…この道場でも対応に疲れはしまするが稽古のみでは物足りなさすぎるほどではござる…」
「師範だからかかり稽古も受けるばっかだしね」
「星の声は戻す場所まで完璧には出来ません。もしかしたら敵武将の頭の上に落ちるかもしれない」
「迫獅ソるのでござるか?!」
「臨機応変に対応出来るよう、体は万全の状況に。では」
明智はそれだけ言って、二人が止めるまもなく部屋から出ていった。