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聖なる夜のハプニング76

「さて、長居している暇があるわけではない、そろそろ退散させていただこうか」
「あの胡散臭い男と二人で大丈夫か?」
「かつてなく私の扱いが酷いな」
久秀に合わせて、そう言いながらも松永も腰をあげた。吉継はふむ、小さく呟くと伊達たちを振り返った。
「誰ぞついていきやれ」
「Ah?なんで」
「なんでって、主らが戻れるかがかかっておるのだぞ?ちとは協力しやれ。……ふむ、真田、主行きやれ」
「なっなんとぉ?!」
指名された真田は仰天したように飛び上がる。吉継は座卓に頬杖をつき、ケッ、と顔を歪める。
「主の格好が一番コートで隠しやすいであろ。出るなと言うたのに勝手に出た罰よ、行きやれ」
「む、むぅ…!」
「……吉継、私も行く」
「へぇっ?!」
真田はぐぬぬ、と呻きながらも大人しく従い、立ち上がった。そこで、不意に三成がそう言い立ち上がったのだから、吉継は思わず素っ頓狂な声をあげた。
吉継の素っ頓狂な声に何人か吹き出したが、三成は至って真面目に吉継を見下ろした。
「万が一ということもある。こちら側の人間もいた方がいい」
「待てよ、だったら機械に強い私が行くぜ」
「だが、」
三成の言葉に立ち上がった元親は、にっ、と笑った。
「誰がいっても危ないもんはあぶねぇ。心配すんなって」
「……と、言ってるが」
「俺を見んなよ。…あぁんもう、俺も行く!」
「いやそう大勢で来られてもな」
「ノープロブレム、代わりに三成、お前は残れ」
「なんだと!?」
「いいから!秀吉さんだって狙われてたんだろ?また来ねぇとも限らねぇじゃねぇか、守っててやれよ」
びしっ、と指を突きつけられそう言われ、三成はうっ、と詰まったあと、しぶしぶといったように座った。
政宗はのそっと立ち上がると久秀の方を見た。
「乗ってけよ、車出すぜ」
「……すまないね」
「謝罪は全部終わったあとな。さっさと行こうぜ!」
「気をつけやれ」
「行ってきまする、またいずれ!」
「オゥ」

そうして、政宗、元親、真田は久秀たちと共に家を出ていった。
家康は、ふぅ、と疲れたように息を吐き出した。
「…先生のところ行ってくる」
「!な、なぁ」
伊達や長曾我部はぐだっと横になり、居間にようやく穏やかな空気が流れ始めた頃、立ち上がった家康に徳川ははっと気がついたように家康の方へ駆け寄った。
家康は驚いたように徳川を見る。
「…ワシが会っては、ダメだろうか?」
「え?いや、駄目とは言わないが……何を話すんだ?」
「…話すことはないだろうが…三成の様子の変化が、な」
「……ふふ、いいぞ。こっちだ」
家康は徳川の言わんとしていることを察し、小さく笑って徳川を手招いた。

聖なる夜のハプニング75

「…ちょっと待った、弾正がまだいるってことは、もしかして返し方分からねぇの?!」
「いや、彼には協力してもらっていただけだ、多分戻せる」
「多分かよ!!」
「単に確実に同じ場所に戻せるという確証はないだけだ。肉体は問題ないよ」
「不安だなオイ……」
長曾我部は曖昧そうな久秀にげんなりしたように呟く。吉継は、はぁ、と小さくため息をついた。
「…主に賭けるしかあるまい。して、何が必要なのよ。何か必要ゆえにわざわざここに来たのであろ?」
「ふむ、これは少し難しいのだがね。元の世界にある関わりのあるものと関わりのあるものだ」
「な、何だって?」
久秀が口にした言葉に徳川はぱちくりと瞬きしながら聞き返した。他の面子も分かりにくかったらしく、目を点にしている者が多い。
だが、ぽん、と元親は納得したように手を叩いた。
「やっぱ積分ぽいな」
「あぁ、そういえば」
「せ、せきぶん…?」
「おや、理系だったか。理論としては確かに近いものがある」
再び目を点にしている伊達たちに、元親が噛み砕いて説明する。だが毛利や大谷、黒田以外はいまいち分かっていないようであった。
「…要はむこうにあるものに関係するものって事、だな…?」
「むう…難しゅうござるな…」
うーん、と一斉に難しい顔になった伊達たちに、いやいや、と久秀は返す。
「元の世界にいる他の誰かが触れたことがあるものならば問題ない。まぁそれらはこちらに残ることになるが…今は死んでいる人間でもおそらく大丈夫だ」
「この眼帯でもか?」
「そうだな、そういうものでいい」
「髪紐ならば佐助が触っておりまする」
「俺も碇槍は野郎どもが触ってるな…鎖なら問題ねぇぜ」
「小さいもので構わないよ」
「ワシは…手の包帯かな」
「…問題はなさそうだな。預からせていただいて構わないかな」
一通り他人が触れたことがある、というものが全員あったので、久秀は僅かにほっとしたようにしながらそれらの一部を受け取った。
ふむ、と納得いかなさげに元親が呟く。
「…よく分かんねぇなァ。どうしてそれで戻れるんだ?」
「こちらに来るときには同じ人間である立場の血を使った。要は二つの世界の間に道を作らねばならないのだよ。あちらは今、彼らの分だけ質量が足りない状態になっているから、体組織がなくとも戻れるという塩梅だ」
「…動物実験はしたのか」
「無論、してある。その上で、私で実験している」
「………そこまでして、何の意味があるんだ?」
政宗の最もな問に、久秀は楽しそうに笑った。くすくすと笑う久秀に、政宗はむ、と顔をしかめる。
久秀はぴんと指を立てた。
「結局のところは好奇心から始まるのだよ。意味を求めての研究ではないのだ。新しい事実を知りたいという好奇心から、な。………ま、最終的に軍事に利用されるのがよくある話だがね。今回こう利用されたことを考えると、これ以上の研究は出来ないな」
「……そう、か」
政宗は久秀の言葉に目を細めた。

聖なる夜のハプニング74

「あの四バカは置いておいて、……全く何故このようなところでまで脱線させやるのだ」
「へーへースンマセーン」
「今は信頼のおける部下に研究室を封鎖させて誰も入れないようにさせてある」
「殺されねぇ?」
ことん、と首をかしげながら尋ねる政宗に、久秀は小さく笑う。
「ふふ、あれを殺せるのはこの世界にはそうそういないよ。それに、あれに万が一のことがあれば研究室を爆破するようにしてある」
「おいおい怖いなアンタ」
「私は自分勝手な人間でね。だが自分のモノを勝手に使われるのは嫌いなのだよ」
「…よくそれでそこまでの地位に行けたよなァ。キャリア?」
「まぁね」
「でたーーー」
「……それで?」
吉継はしっしと政宗を追いやると、久秀に先を促した。久秀は小さく頷く。
「今回研究室から離れた場所に出現したことを考えると特に彼らに研究室までご足労願う必要は無さそうだ、が、彼らが来たということはなんらかの媒体が提供されていることになる。何もないところから召喚するのは流石に無理だ。私の場合は、私の血と、同量の人体組織に含まれるもの」
「うわ、人体錬成かよ…手パァンの錬金術師じゃねえんだから」
「質量保存の法則と似たようなものだ。その錬金術師とやらは知らないが」
「…奴らの目的として考えられるのは三成と家康だが」
「………すまないが私は世情に疎くてね」
うーん、と久秀は僅かに考え込む様子を見せた後、すまなそうにそう言った。吉継は僅かに意外そうに久秀を見たあと、小さくため息をついた。
「三成はこの前の剣道の世界大会で個人6位、家康はキックボクシングのチャンプよ」
「ほぅ!それは凄いな」
「こちら側に出ていることを突き止めながら知らなかったのか貴様」
「…なるほど。そうなると、病院での採血経験はありそうだな」
「!」
久秀の言葉に三成と家康は目を見開き、思わず互いの顔を見やった。政宗と元親は顔を露骨にしかめる。
「…つまりワシと三成の検査の採血の血を勝手に?…き、気持ち悪…」
「…管理も糞もねぇな、おい」
「おそらくそうだろう、それくらいの権力はある」
「あーやだやだ、権力ってやぁーだ」
「だが、それならば何故伊達や吉継まで出てきた。それに、貴様の件で全く似ていないものが召喚されたのは証明されたはずだ」
四人のなかで一人冷静な三成の言葉に、久秀は降参と言わんばかりに両手を挙げた。
「さぁな。だが調べさせたら別庁内職員の不審死が何人か見つかった、他の者の召喚には彼らが関わっているとみて間違いないだろう」
「oh......」
「そして弾正の似ていなさは確かに証明になったが、弾正は実に危険人物だ」
「おやおや、これは随分な言い分だ」
「事実であろ、自覚がないなら持ちやれ」
「…………」
ずけっと吉継にそう言われ不愉快そうに顔をそらした松永に伊達や長曾我部は小さく吹き出し、顔をそらした。久秀は気にせず指を立てる。
「そうした人間を欲していたと考えれば、体術的な実力を持つ二人のそれを欲しがると考えられなくはない」
「……反吐が出る」
三成はチッ、と舌打ちしてそう言い捨てるように呟いた。

聖なる夜のハプニング73

「随分遅かったの」
「おうおう悪かったなァ」
僅かに呆れたような驚いたような声でそう言う吉継に、伊達は嫌味たっぷりにそう返した。徳川は、あ、と思い出したように呟いた。
「逃げる途中で道を少し壊してしまったのだが、大丈夫だろうか?」
「えっ」
「道って…コンクリの?」
「あの公園のすぐ近くだ」
「じゃあコンクリジャン!壊したって、どう」
「こう、どんっ、とやったらぼこっ、と……」
「こぅえっ!!アンタの拳こぅえっ!!こっち来んな!」
「えぇっ?!ひ、ひどいな…」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら徳川から大袈裟に離れる政宗と元親に、徳川は苦笑しつつも僅かに落ち込んだように肩を落とした。
久秀はそんな政宗たちの様子におもしろそうにクスクスと笑い、それから真顔に戻った。
「…どうにも、彼らのような人間こそ政治家になるべきだと思うよ」
「…今は失望しておる暇はなし、よ。元よりこちらは期待しておらぬ」
「おや」
「いっそのこと一度滅べばよいのよ。結局、己の命が関わらねば馬鹿は危機を知れぬもの…」
「……卿は実に優秀なようだ。さて、話を戻そうか」
「そうさな」
久秀はそう言うと体を元の向きに戻し、吉継に向き直った。
窓辺に座ってその様子を見ていた松永は小さく笑う。向かいに壁に寄りかかるようにして座っていた官兵衛は、そんな松永を見てわずかに眉間を寄せた。
「…何か言いたいことが?」
「あん?そうだな…お前さんとは関わり合いを持ちたくないと思っただけだ」
「おやおや、これは随分な事を言ってくれる」
「お前さんはここにいる中ではそっちの奴らの誰よりも危険だ。あいつらだって十分頭がおかしい、そんなんと関わったら命が持たん」
官兵衛は薄く睨むように松永を見ながらそう言った。ほう、と松永は驚いたように声を上げる。
「…女性の割には聡明なようだ」
「そいつはどうも。…ま、でも、腕力さえありゃ馬鹿でも生きてけるそっちの世界は、ちっとばかし楽そうだとは思うがな」
「………重くはないかね。下ろしてしまえばどうだ」
「!」
官兵衛は僅かに肩をはねさせ、驚いたように松永を見た。松永は変わらず、薄気味の悪い笑みを浮かべている。
「…何のことじゃ」
「卿が望んでいる言葉だ、違うかね」
「そこな椎茸」
「はっ?!」
ぼそぼそと吉継達の会話を邪魔しない程度の音量で話していた二人だったが、不意に吉継が振り返らないままそう言い、松永は僅かに驚いたように吉継を見た。
吉継は首を軽く回し、顔だけ松永を振り返る。
「…椎茸とは私のことかね」
「モノトーンでも梟でも何でも良いが、そやつにちょっかいを出す気なら叩き出すゆえなァ。ちと黙っていやれ」
「……」
松永は意外そうに吉継を見たあと、ふ、と小さく笑って肩をすくめると大人しく口を閉じた。
その様子を見ていた政宗たちは、おお、と小さく呟く。
「デレた」
「デレたな」
「デレだな」
「ふふふふ」
「…三成までも何を言いやる……!」
「「「「あいだだだ」」」」
吉継はそうからかう四人に小さくため息をつくと、手元にあった数珠をばらしてごんごんと投げつけたのだった。

聖なる夜のハプニング72

「…!貴様」
今に入った石田は家康の姿を見つけて意外そうに呟いた。同じく石田に気がついた家康も、ほっとしたように立ち上がる。
「!凶王さん、よかった無事で、」
「事態を知った半兵衛が急に退院させての。今太閤もこの家に来ているのよ」
「秀吉さんのバトルネームというか、それの太閤って面白いよなー」
「さて、こやつらも戻り始めた事、話を始めるとしよ。そちらへどうぞ、官房室長官どの」
吉継は部屋の上座に当たる方向に座ると、久秀に向かいに座るよう促した。彼は普段通り着流しを着ていて、官房室長官という立場の久秀に物怖じしない意思が見られた。
久秀も決して見下した態度は取らず、素直にそれに従い下座に座った。
「我は大谷吉継、この家の家主でそちらが狙っておった石田三成の後見人をしておる。此度の事件で現れた者たちのほとんどはここに匿っておった」
「丁寧に痛み入る、松永久秀だ。文部科学省の官房室長官を勤めている。今回の一件の責任者だ」
「政宗から概ねのことは聞いておる。話の前に、この件の前提をお聞かせ願いたい」
「承知した。私も彼らから少し話は聞いているが、大体は一致している」
久秀はそう前置きし、話を始めた。


 それから20分ほどして、伊達ら三人が帰ってきた。ずっと走ってきたからか、玄関に入るなり三人はばたばたと倒れた。
「つ……つかれた…」
「ぜぇ………へ………」
「忠勝が………いないと……厳しいな………」
「!おう、お疲れさん」
倒れた音に政宗が気がつき、ぱたぱたと玄関にやってきた。
伊達は汗が滴る額を篭手を外した手でぬぐい、はぁ、と息をついた。
「ったく疲れたぜ。で、展開って?」
「相手側のボスが現れたんだよ」
「boss?!」
「大将が?」
「なんで分かんだよ家康…」
政宗は三人がヘロヘロなのを見て一旦台所に引っ込むと、ポカリスエットを三本持ってきてそれぞれに放り投げた。
「今居間で吉継さんと話してる」
「マジか」
「きみはいなくていいのか?」
「ん?まぁ今ひと段落したとこだから。で、やっぱりこれ、異世界の研究での不慮の事故で起きたみたいだぜ」
政宗の言葉に伊達は僅かにはっとしたように目を見開き、渡されたポカリスエットを軽くあおり飲んで息をついた。
「それで?」
「最初に向こうのボス…松永久秀のところに現れた」
「松永ァ!?」
「それが1ヶ月くらい前のこと。で、それで不調は直したはずだったんだと」
「…だけど、それを利用した奴がいた?」
徳川の言葉に、ピッ、と政宗は指を立てた。
「ザッツライト!あの自衛隊も、家康たちを襲ったのもそいつらだ、とアイツは言ってる」
「信用できんのかァ?」
「吉継さんは嘘をついてねぇって。官兵衛さんもそう言ってるし」
「ふぅん……それで、今は?」
「今後についてこれから話すとこ。吉継さーん!帰ってきたぜー!」
政宗は大体のことを説明すると、居間に向かって声を張り上げ、そちらへまた戻っていった。
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