聖なる夜のハプニング81(終)

同じ頃。
「…こいつはすげぇな」
「ねぇ弾正消えたんだけどねぇ真田も消えたんだけど」
「当然だ、これはもう作動している。彼らはすぐ近くにいたからね。他の者もじきに消えるよ」
政宗は目の前にそびえるように佇む巨大な装置に感嘆の声を漏らし、隣に立つ元親は松永が消えてしまったのに驚きがくがくと政宗を揺らした。装置を操作していた久秀は元親の言葉にくすりと笑い、どこか楽しげにそう返した。
元親は胡散臭げに久秀を見る。
「本当に大丈夫なのか?」
「人体実験は済んでいると言っただろう?逆の場合ももちろん試してあるのだ、弾正がこちらの服装にも慣れていたのはその為だ」
「……どれくらいやってんだよ」
政宗の問いに、久秀は装置の様子を見ながら、ふむ、と小さく呟いた。
「さて…弾正が関わり始めてからはまだ1年。全体でならば、もうざっと30年くらいにはなるかね」
「うぇ?!あんた今いくつ、」
「もうじき60になる」
「人生の半分費やしてんじゃねーか!!」
「まぁね。私の人生を捧げていると言っても過言ではない」
「……そんな大切な研究だってのに、おじゃんにしちまっていいのかよ」
久秀の言葉に元親は視線を装置の根元へとやった。そこでは、久秀が話していた部下が、着々と爆破の用意をしていた。
久秀は、ふふふ、と楽しそうに笑い、二人を振り返った。
「言っただろう?軍事に利用されてしまうと分かったのならばもういらないのだよ。十分な検証はもう出来た、満足だよ」
「…だからって爆破なんかしたらアンタ……」
「逮捕されるだろうな。だけど、それで構わないさ。どうせ今回の自衛隊の件で嵌められているだろうしな。裁判に持ち込んでしまえば私の勝ちだ」
「………」
「おや、卿らは被害者なのだよ?もっと堂々としていたまえ。いずれこうなっていたのだ、存在が公になる前にこうなってくれて、感謝すらしている」
「…へっ、アンタがそう言うならそうするぜ!」
政宗は久秀の言葉に最後にはにかっと笑い、元親と共に目の前で静かな作動音をさせて最後の機動をしている装置を見上げた。


 「!」
それから少しして、伊達たちにも異変が起こった。体から僅かに光が放たれ始め、体が薄くなってきたのだ。
薄れ始めた徳川に家康は目を丸くした。徳川も驚いたように自分の体を見ながらも、小さく笑った。
「…これで戻れるんだな、いやぁよかった」
「……怖く、ないのか?」
「ん?んー…そこまで怖くはないな。戻れないまま時が過ぎ去ってしまう方が怖いから…かな」
「…そう……か。…戻ったら、戦か?」
「あぁ。すぐに、最後の戦になると思うよ」
家康はうようよと視線をさ迷わせたあと、ばっ、と徳川に頭を下げた。
「……ワシは秀吉先生が好きだし、三成も好きだからお前にひどいこと言った、すまなかった」
「…!ははっ、それは当然の反応だ、謝ることはない。…それに、そう言われるのは、そこまで嫌じゃないんだ」
「………徳川家康!!!」
「わっ、なんだ?!」
少し黙ったと思ったら不意に声を張り上げた家康に徳川は飛び上がりつつもそう聞き返した。
家康は徳川に向け、ぐ、と拳を突き出した。
「…勝てよ。秀吉公の為にも、凶王さんの為にも!」
「…!!…、あぁ!!」
徳川は驚いたように家康を見たあと、ふにゃ、と嬉しそうに笑い、家康の拳に自分の拳をこつんとぶつけた。
拳が触れ合ったと同時に、徳川の姿は光になって消えた。

「…石田三成」
「……なんだ」
「貴様、今まで自分がどんな風に生きていたかに気が付いただろう」
時を同じくして、徳川同様に薄れ始めた石田に三成がそう話しかけていた。石田はしばらく黙った後、ふん、と鼻を鳴らす。
「…恥ずべき行為だ」
「…ならば汚名を返上する為に徳川に勝て。そして秀吉先生が目指された世を作りあげろ」
「…私、は……」
「無論今の貴様に出来るはずがない。だからこそ、勝て。そして悩んで進め。……貴様は一人ではないのだから」
石田は三成の言葉に彼には珍しく驚いたように顔をあげ、バツが悪そうに顔をそらした。三成は三成で、吉継と話していた大谷を見る。
「…西海の鬼のことも大変だろうが…あいつは許すのか?」
「…今の私には奴が必要だ」
「おやお許しが出たのか。よかったではないか」
「……我ながら腹が立つ男よな、主」
「…貴様には権現も必要に見えるぞ」
「!!貴様、」
思いがけない三成の言葉に石田は勢い良く立ち上がったが、三成が優しく笑いかけるものだから、拍子抜けしたようにぽかんとした表情を浮かべた。
三成は、石田の胸に手を当てた。
「…自分に素直になれ石田三成。吉継を許した時のようにな」
「……………」
「…そして、生きろ」
「……あぁ。…、さらばだ」
石田は静かに、だが確かにそう言うと三成の手に自分の手を重ね、目を閉じた。
それからすぐに、大谷と共に姿を消した。

「…お前さんら、全く面倒な生き方してるよなぁ」
「………ふん」
「あぁそうかい」
官兵衛は黒田や毛利に対して呆れたようにそう言ったあと、隣にいた伊達と長曾我部を見た。
「お前さん、どうするんだ?小生のこと」
「……一先ずはもう一度石田や大谷と話す。多分、西軍は抜けるだろうな。許すかどうかはその話次第だ。いや、毛利!テメェは許さねぇ!!」
「ふん、好きにするがいい。元より我と貴様は敵対関係…今更恨まれたところで何も変わらぬ」
「!テッメ…!」
「……そういや、元就が言ってたんだがな?申し子さんよ」
激昂する長曾我部に対して馬鹿にしたような口ぶりで返した毛利に、官兵衛はふふん、と含み笑いをしながら話しかけた。
「お前さんの姿勢、べた褒めしてたぜ。アイツがあんだけ他人を褒めるのも珍しい」
「はぁ?!」
「…珍妙な女子だな」
「お前さんの生き方が一番大将らしいってよ。だけど、こうも言ってたぜ。自分の逃げ場もちゃんと用意しているならば文句なしの満点だ、ってな」
「……!」
官兵衛の言葉に毛利はわずかに目を見開き、不愉快そうに官兵衛を見た。官兵衛は意味がわからなかったらしい、きょとんとしている長曾我部を横目に、小さく笑った。
「…国のため、どんな策を使うのも結構なこったがな。お前さんがただひとりの人間でいられる場所ってのは不可欠だと思うぞ。…まっ、そういうのもちゃんと持ってるとも、小生は思うがね」
「………なんで俺見んだよ」
「…ふん。………心の隅にでも留めておいてやろう」
「そいつぁーどうも」
毛利はぷい、と顔を背けながらもそう言った。そして、その言葉が終わる頃、長曾我部と毛利が姿を消した。
「おい、おっさん小生!」
「ひどい呼びぐさだな!!」
「…お前さんも、変に諦めと同情すんなよ。それだから四国のも巻き込まれたんじゃ、分かってるんだろ?」
「……分かってるよ」
「お前さん、そういう性格なのと不運なのとじゃ、天下は取れんな!ははは」
「なんだと?!何故じゃああああ……」
黒田はがんっ、とショックを受けたように官兵衛を見たが、何故じゃと叫んでいるうちに消えてしまった。
最後に残った伊達は、くすりと楽しそうに笑う。
「とんだhappeningだったぜ、が……迷いを持ってた野郎の迷いが大方解決しやがった。これで最後の戦も派手に楽しめるってもんだぜ」
「…お前さんも、無理はするんじゃないぞ」
「無理?ハッ…そんなもんはねぇ。俺には右目もいれば、rivalもいるからな」
「……そうかい」
「じゃあな、お前ら。世話になった…感謝するぜ」
伊達はそう最後に言って、小さく笑って消えていった。
その頃には家康も2階から降りてきていて、一同はふう、と息をついて座り込んだ。
「…なんか、迷惑なこととかもあったけど…彼らに会えて、なんか楽しかったな」
「…そうだな、家康」









翌日、政宗たちの世界では、昨日の自衛隊騒動と久秀の研究室爆破で大きな騒ぎが起こったが、そうした騒ぎもすぐに静まり、年が明ける頃には、何事もなかったかのようにまた時がすすみ始めた。

「行こう、独眼竜、元親」
「OK!このド派手なparty、派手に行くぜ!」
「おうよ!四国の因縁は今は後回しだ…家康、お前についてくぜっ!」
「行くぞ刑部!家康との因縁、この戦で決着をつける!」
「相分かった、進め進め。全て義の…否、主の為よ」
「武田が魂、この胸にありィ!…この真田源次郎幸村、武田が未来が為、この命燃やさんん!!」
「…逃げ場など…我でいられる場所など……。……ふん、捨て駒どもよ!参戦のしたくを急げ!!」
「全く、嫌な空模様だ。…が、天下を狙うのは諦めないね。このしぶとさこそ小生じゃ!」
伊達たちの世界では、天下分け目の大戦が始まろうとしていた。各々自らの想いの元に、己が武器を握る。


大きく異なる世界が、重なった時の物語。
それにより変えられた歯車が刻むのは、どのような物語なのだろうか



END