葱と牛蒡とツインテール63

「死にゆく呻き華のよう……」
混乱し、騒ぎが広がり窪みのなかに黒い霧のようなものが充満して上からは様子が伺えなくなる。大谷はそれをどこか楽しそうに見下ろしていた。
中央に出来た柱のようなものに、お市が近付く。歌を歌う声色は恍惚としている。その姿は、巫女のようにも、生贄のようにも見える。
「開け根の国根のやしろ…」
お市の声に別の声が被る。柱の上部が、ぴしりと裂けた。

第六天魔王織田信長が、復活したのだ。




 「!」
時を同じくして、外のざわめきに屋敷から外に出てきたしきは、異常に気がつき表情を引き締めた。
空が暗く、西の空は僅かに赤暗かった。
「…始まったのか……」
「!しき、村人を避難させました、私たちも行きますよ」
しきに気がついた生嶋が駆け寄ってきてそう言った。
日食の原理が知られていなかった頃、日食は太陽が黒くなる、として不吉な現象であるとされていた。
「これはただの日食です、避難する必要はありません」
実際は、日本がある地球と太陽の間にある月がちょうど太陽と重なっているだけで、不吉なことでもなんでもない。
そう知っているしきはしれっ、とそう言った。聞きなれぬ言葉を聞いた生嶋は、彼女には珍しく顔をしかめる。
「に、にっしょく??」
「簡単に話しますと、日輪と日ノ本の間に別のものが入り込んで日輪と重なっているだけです。日輪には何の異常も起こっていません」
「??」
「避難する必要はないんですよ。日食は、太陽が上り沈むのと同じ、当たり前に起こることなんです。ただ、起こる確率が低いだけで」
「しき、混乱するのは分かりますが、」
「混乱してません、これはただの知識です。この時代には知られていないだけの」
「は、はぁ?」
しきはあわてふためく周りの人を気にせず、屋敷のなかに戻った。生嶋ははっと我に帰り、しきを追った。
「しき、説明なさい!今の発言はどういうことです」
「…生嶋さん。今、関ヶ原で最後の戦が始まりました」
「?!」
しきは生嶋を振り返ってそう言った。生嶋はしきの言葉に驚いたあと、不可解そうにしきを見た。
「…しき、あなたは……この国の者ではないのですね」
「………、はい」
「…どういうことなのかは理解できませんが、片倉様や政宗様はご存知なのでしょうね?」
「はい」
「ならば、深いことは聞くのは止めましょう。知らずともよいことです」
生嶋は動揺を見せず、さらりとそう言った。しきは僅かに驚いたように生嶋を見たが、知らずともよい、という言葉に納得したように目を細めた。
生嶋はいつもの表情に戻って、しきに顔を向けた。
「しかし、避難をせずに何をする気ですか」
「…頼まれていた仕事です。隣国に送るものの」
「…確かにあれは時期を逃せば問題になります……が、隣国も今はこちらと同じ状況ですよ。昨日のうちに完成しているのは知っています」
「…あぁ、それもそうですね」
しきの言葉に生嶋は、はぁっ、とため息をついた。いつもの彼女の、鋭い眼差しでしきを見据える。