もうお前を離さない300

「…、弱い所がない人はいない、そう思ってるんだ」
「……今はな」
「愛されてんね黎凪」
「?!なっ!?」
「うん、自分でもそう思う。いいだろう」
「リア充爆発しろー」
「だが断る」
「破廉恥ぃぃっ!!」
「「今?!」」
宮野と村越は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いた真田にくすくすと笑った。
だが不意に宮野は口元に笑みを浮かべたまま小さくため息をつき、村越を見た。
「…芽夷。三成さんの所に行ってあげてくれないかな」
「?いいけど…なんで?」
「さっき、私さりげなく三成さんを否定したからさ」
「…えっ?」
「気付かなかった?でも、多分三成さんは分かってる」
「わ…分かった」
村越は首をかしげながらもちゃちゃっと袴を履き、左足を庇いながら走っていった。
真田は先ほどまでの真っ赤な顔はどこに行ったのか、神妙な顔つきで村越を見送った。
「……今、そういう世界を生きている、か…」
「…私は長曾我部に仇討ちを諦めろと言った。でもその言い分は、三成さんに対しても、当て嵌まる。徳川の裏切りも、言ってしまえばただの戦略だから…」
「…………後悔しておるか?」
「してない。私は、同軍だからといって、優しくするつもりはないから」
「…平等なのが、お前の強さだな」
「嫌われやすいけどね、そういうの」
宮野はそう言って苦笑すると真田を見上げた。真田は宮野の額に己の額を押しあてると、俺は好きだぞ、と言って宮野を抱き締めた。

 「待ちやれ」
「、大谷さん…」
一方の村越は、石田を探している時に大谷に呼び止められた。村越は僅かに大谷から視線を逸らす。
「…大谷さん。もう二度と…こんな事しないでくださいよ」
「…。主は何故我を庇った?下手をすれば長曾我部に殺されておったぞ」
「…大谷さんが死んだら、本当に三成さんは全てを失うと思ったし…。…なんか、腹立たしかったんです、長曾我部さんが。自分勝手に行動してる長曾我部が…ッ」
「自分勝手、なァ…。それを言うなら三成も十分自分勝手よ」
「そうかもしれませんけど!!…、三成さんと長曾我部のは何か違う…。長曾我部は短絡的で…三成さんと違って、覚悟をしてないように感じたから。人を殺すことに何も思ってないような気がしたから…!」
「……………」
村越はぎゅう、と袴を握り締めた。大谷は黙って村越の言葉を聞いている。
「三成さんを殺すことはただ単に人を殺すこととは意味が違う!…それを、何も考えていなかったら。この国の行く末が、掛かってるっていうのに…あの人は、自分の事しか考えてなかったから!」
「分かった分かった。…、主はまこと、変わった女子よな」
「は、はい?!」
「…、三成一筋のように思えて、存外考えはしておるのだな」
大谷の言葉に村越は視線を一瞬逸らした後、大谷を見た。
「…優しくする事だけが、優しさじゃないと、思うから」
「………ヒヒヒ、なるほどなァ。…我はちと黒田と話がある」
「!…、……」
「三成は主に任せてもよいか?……許されたとはいえ…な」
「…分かりました。黎凪にも頼まれた所なんです」
「ヒヒ、確かにな。あれは長曾我部を批判したが、三成も批判しておった故な。あれは遠回りに仇討ちなど止めよと三成に言うておったのか、さてさて……」
「…?…!諦めろ……って…そうか……」
「…ではな」
大谷はそう言うと村越に背を向け、村越は石田を探しに地面を蹴った。