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もうお前を離さない285

「大谷殿」
「?」
「…いえ、なんでものうござる」
真田は口を閉ざし、視線を前に戻した。
――大谷さんがついた嘘は、東軍西軍どちらにも関わる大きな問題になる
「…ッ」
一体大谷は石田にどんな嘘を吐いたのか。問いただしたくなる気持ちを押さえ、真田は僅かに唇を噛んだ。
大谷はそんな真田を見て、目を細めていた。



 その頃大阪では。
「………今日はやけに静かだな」
天君の頭を撫でていた石田は、誰ともなしにぽつりと呟いた。その声に、傍にいた黒田と立花、雑賀が石田を振り返った。
「あん?なんだ三成、お前さんか」
「あぁ、そういえば長曾我部殿が朝から出かけられたそうですぞ」
「元親が?」
立花の言葉に雑賀は意外そうにそう聞き返した。石田も視線だけ立花に向ける。
「今思えば…どこか焦っておいででしたな」
「…よく見てるなお前さん」
「…我が君が布教をしていないかと思うと不安で不安で……」
「あー……お前さんも大変だな」
肩を落とす立花の肩を黒田はぽんと叩く。なんだかんだこの2人は仲が良いようだ。
「……、…………」
そんな2人を横目に、雑賀は手を顎に当て考え込む様子を見せた。石田はちらと雑賀を見た後に、視線を天君に戻した。
「…どうした孫市」
「いや、なんでもない。しかしその馬、天君はよくお前に懐いているな」
「ふん……」
雑賀は石田の隣に立って天君の頭を撫でた。天君は不愉快そうに頭を振り手を振り払う。その動作に雑賀は一瞬驚いた後、薄く笑った。
「………貴様も出ていくのか」
「!…気が付いていたのか?」
「私を侮るな、それくらいは分かる。…契約の期限は今日までだ。改めるつもりはない」
「……いいのか、石田。お前、最近おかしいぞ」
雑賀の言葉に石田は天君を撫でながら自嘲気味な笑みを浮かべる。
「私が許さずとも貴様はいくつもりだっただろう?」
「………………………」
「前田に惚れたか」
「…、分からない」
石田は天君から手を離すと雑賀に向き直った。雑賀は石田の目を見る。
「…刑部達は今日、上田を発つそうだ。去るつもりならば今しかないぞ。私も今日以降は許すつもりはない。はっきりしないのは苛々する」
「……、分かった。石田。最後にこれだけは誓おう」
「………。何だ」
「我らは場合によっては最後の戦に馳せ参ずるかもしれない。…だが、その時は徳川の味方はしない」
「好きにしろ。だが私の味方をする事は許さない。前田と同じ、二度と私の前に現れるな。私は貴様を敵として認識し、斬滅する」
「………石田。お前は本当に、不器用な生き方をする奴だな。…、さらばだ」
雑賀は最後にそう言うと石田に背を向け、一時もしない内に雑賀衆を引き連れ大阪から出ていった。
石田は大阪城の天守閣に上り、それを見ていた。ぎり、と握り締めた手摺りがばきりと音を立てて割れる。
「前田はともかく、雑賀まで脱退させてよかったのか?三成」
「!黒田、」
「少し前なら今のお前さんを罵倒しただろうが、今はしないぞ。なんたってお前さんが変になってるからな」
「………………」
いつの間にか後ろに立っていた黒田に、石田は黙ったまま黒田を見た。黒田はふん、と鼻を鳴らす。
「お前さんが嫌ってる裏切りと似たような事だろう、あの2人の行動は」
「…黒田。私には分からない」
「はぁ?!いまさら何言ってんだお前さんは」
黒田は呆れたようにそう言うと鉄球の上に座った。
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