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もうお前を離さない279

「ごめんっ!本当にすまねぇと思ってる!!」
同じ頃、渦中の人前田慶次は石田に向かって頭を下げていた。石田は前田を見すらせず、不愉快そうに外を見ていた。
「でも俺が東軍にいかねぇとまつ姉ちゃんが殺されちまうんだ!だから…!」
「…だからなんだというのだ?」
「なっ!!」
「貴様も家康のように消えればいい。何故わざわざ言いに来た」
「?!……ッ」
だからなんだ、という石田の言葉に一瞬怒りを浮かべた前田だったが、続いた言葉に息を呑み、俯いた。石田はそこで漸く前田を見た。
「…元より私は貴様を認めていない」
「…辛辣っていうか何ていうか……。…、俺は孫市についてきたから、一応は西軍に属した事になるだろう。俺もそのつもりだった。だから、」
「貴様がそんな丁寧な人間だとは思わなかった」
「、いちいち痛い言葉言うねぇ!俺は「さっさと行け」…え?」
ずけずけと突き刺さる言葉を投げつける石田に前田が思わず立ち上がった時、不意に言われた言葉に前田は固まった。
石田はふんと鼻を鳴らし前田に背を向けた。
「………大切、なのだろう」
「あ、あぁ…」
「………ッならば…間に合うのならば…早く行け。みすみす死なすな」
「……!」
「西軍を抜ける事を許可する。だがその代わり、二度と私の前に現われるなッ!!」
石田はそう言い捨てると部屋から出ていった。前田は驚きにしばらくその格好のまま固まっていたが、はっとした様子を見せると踵を返し、部屋を飛び出した。

 「…変わったな、石田」
「?!孫市…どういう意味だ?」
部屋から出た石田を待っていたかのように雑賀が石田に話し掛けた。石田は不愉快そうに雑賀を見る。
「かつてのお前なら、前田の家族になど興味を抱かなかっただろう」
「…………」
「行かせてよかったのか」
「元より奴を味方だなどと認めていない。……、貴様はそんな事を言いに来たのではないだろう、孫市」
「……石田。我らはお前と契約した」
「…ふん。………。…最近……私は自分が分からなくなってきた…」
「…?」
不意に変えられた話題に雑賀は僅かに眉間を寄せた。
「家康への憎しみが…日に日に薄れていく…!だというのに!!それをどうでもいいと思う自分がいる!何故だ?!私はいつからそんなに弱くなったッ」
「…石田。憎しみとはそういうものだ。確かに覚えていたものをだんだん忘れていくように、悲しみも憎しみも、時間が経てば経つほど薄れていく…」
「……………」
じっ、と己を見る雑賀に石田はぐ、と拳を作った。その拳が僅かに震えているのを見て、雑賀は数歩石田に近寄った。
「石田。憎しみが消えていくのはどうしようもない事だ。お前が弱いからではない。憎しみを薄れさせるのは、時というあらがいようのないものだ」
「…なら私はどうすればいい?!このまま忘れるなど私は許さない!!何より、秀吉様に顔向けが出来ない…ッ!!」
石田はそう叫び、悔しげに顔を逸らした。雑賀は顔を逸らしたままの石田の体が僅かに震えているのに気が付き、少しばかり躊躇った後に歩み寄りその体を抱き締めた。
石田の体がぴくりと跳ねたが、払い除けはしない。
「……石田。悩んだ時は一旦考える事を放棄しろ。…胸の内に渦巻いているものを、全て吐き出せ。そうすれば…おのずと答えは見えてくる」
「……私は…どうすればいい…ッ!!私は……ッ!!」
石田はそう呟き、声を出さずに泣いた。
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