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もうお前を離さない297


「…言ったであろ。我には主しかおらぬと…」

ぼそり。大谷がそう呟いた。石田ははっとして顔を上げる。
「……ヒヒ、女々しい事よな」
「刑、部……」
「……大谷さん…」
「…それは肯定してるんですか」
「ヒ、ヒ。…………。…そう……よな」
大谷は肩を竦めとそう言うと己の肩を掴む石田の手を離した。
「…我に触れやるな三成。主まで墜ちてくる事はないわ」
「!…刑部………ッ」
「…認めるしかあるまい。ヒヒヒ…」
大谷はそう自嘲気味に笑い、くしゃ、と石田の顔は歪んだ。
「…長曾我部。アンタはまだ大谷さんに対して怒りを感じてるとは思う。大谷さんにどんな想いがあったとしても、アンタにしてみれば部下を奪われた事に違いはない。だけど、正直私にその感情はよく分からない」
宮野は2人の様子を見届けると長曾我部を振り返った。長曾我部は隻眼を細め、目を伏せている。
「この世界は弱肉強食だ。人を殺したら誉められるような異様な世界だ」
「!…」
「どんな卑怯な手を使っても勝者は正義になる。今はそういう時代じゃないのか。徳川がいい例だ。味方を裏切り壊滅状態に陥れたのに、奪われた豊臣勢以外誰もそれを卑怯だとは叫ばない」
「!!」
「っ、それは物は言いようだろうが!」
「あぁそうさ、物は言いようだよ。大谷さんがした事だって、言いようによってはただの戦略だって事だ」
「くっ…!」
「…許せないのは分かる。でも、アンタは今そういう世界を生きるしかないんだ。諦めな」
「!宮野殿、」
「どうしても2人が許せないなら東軍につくなりなんなりすればいい。だが、今この場で2人を殺すというなら私は邪魔するぞ。大将を私怨で殺させる訳にはいかないからな」
宮野はそう言うと兜割りを抜き構えた。長曾我部は唇を噛み、眉間を寄せた。
「…アンタは俺と同じ立場でもそうするのか…?」
「卑怯な手を使ってやられたと思うのなら、私はそれ以下になるつもりはない。それを卑怯だと思うのなら、正面から潰す。それを邪魔するなら全て潰す!」
「……行かせてくれねぇって事か」
「何度も言わせるなよ。2人はこの軍の大将達だ、部下が大将を守るのは当然の事だろう?」
「……申し訳ござらんが、某も同じ思いにござれば」
真田は真っ直ぐ長曾我部を睨む宮野に、ふ、と挑戦的な笑みを浮かべると、その隣で槍を構えた。
「長曾我部殿は、この真田幸村がお相手いたそう!!勇んで参られよ!」
「…、宮野殿。君は、刑部がした事を卑怯だとは思わないのか?」
「…私はこの世界に来て、あまりに皆が清い考えだから驚いた。大谷さんは卑怯かもしれない、だがそういう状況に追い込んだのは決して大谷さん自身じゃなく、周りの状況、人間だ。私だって、大切な人を生かす為には他の者を犠牲にする。卑怯な真似なんて、勝つためならばいくらでもするものじゃないのか?私の中で大谷さんがした事を卑怯と位置付けるのならば、私は貴方も卑怯と位置付けるよ」
「…そうか。どうする元親。三成達の前にまず、この2人を倒すしかなくなったが。2人も殺されてはくれんぞ」
「…ちっ。いいじゃねぇか。大谷の気持ちは分かったが許せはしねぇ!!なら俺は大谷の野郎を戦場で潰してやるよ!」
長曾我部はそう言い捨てると踵を返した。徳川はフードを被り、宮野を見る。
「…君は本当にそうなんだろうな、宮野殿」
「……。長曾我部元親!最後に1つだけ、アンタに教えてやる!」
宮野はずんずんと去る長曾我部の背に向かってそう叫んだ。
「四国を実際に壊滅させたのは、黒田官兵衛だ!」
「!」
「なんと?!」
宮野の言葉に思わず長曾我部は振り返った。宮野はその目を真っ直ぐ睨む。
「だが黒田はそうせざるを得なかった!四国を壊滅させなければ自分の部下に危険が及ぶからだ!黒田はその事を後悔しているし、アンタにすまない事をしたとも思ってる!だが手を下した事に違いはない!!それにアンタが大谷さんの気持ちを知ってなお許せないのなら、黒田はどうする!?アンタは許すか!」
「…ッ」
「いいか?!戦は常に理不尽だ!それに怒するくらいなら戦なんかするな!!アンタにはそれを理解した上で許すか許さないか決めてほしい!!」
「…ッ。分かってる、俺が悪い事ぐらい…ッ!!」
長曾我部は忌々しげにそう吐き捨てると、今度こそ振り返らずに去っていった。
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