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もうお前を離さない274

「何騒いでんだぁ?三成」
「黒田ぁぁぁぁ!!」
「?!な、何じゃ!?小生は何もしていないぞ!いで!」
運悪く、否、彼にとっては今更かもしれないが、ひょっこり顔を覗かせた黒田に、石田は文鎮を投げつけた。
黒田は慌てて避け、自分の鎖に躓いて転んだ。
「ふんっ」
「鼻で笑うな、鼻で!それよりな、あの嬢ちゃんから文が「!?なんだと?!何故だッ!!」
「人の話は最後まで聞けよ!」
怒った黒田はがん、と鉄球を叩いた。そしてぽいと文を石田に投げつける。
「置き手紙だよ!部屋に置いてあった!」
「…。なぜ貴様奴の部屋に入った?!」
「誤解すんなよ?!入りたくて入ったんじゃない!!前田のせいだからな!」
黒田は慌ててそう言うと部屋から出ていき、少しするとお決まりの「何故じゃぁぁぁぁ」という声が聞こえてきた。
「…ふん。くだらん」
石田はそう呟くと文を見た。表には「三成さんへ」と書かれてある。
石田は少しばかり迷った後、その文を開いた。そして拍子抜けした。

『ご飯はちゃんと食べてくださいね』

文にはそれしか書かれていなかった。しばらくそれを凝視した後、石田は小さく息を吐きだした。
「…貴様の心配などいらない。何度言えば貴様は分かる」
石田はそう呟くとその文を撫でた。その口角は僅かに上がっている。
「……この気持ちは何だ………日に日に薄れていく復讐の心を…どうでもいいと思わせるこの気持ちは…。…私はどうなってしまったんだ……?」
石田はそう哀しげに呟くと頭を抱えた。ぽたり、と雫が抱えた頭から机に落ちた。



 翌日。
「えっ?北条が撤退した?」
北条撤退の知らせが宮野にも届いていた。拍子抜けした様子の宮野に伊達は頷く。
「どうやら薬を届けに行っただけだったらしい」
「うわ北条バカじゃね?」
「そう言うな。…アンタ時々辛辣だよな」
宮野ははぁ、とため息をつくと伊達を見上げた。宮野は体の調子が優れないのか、壁を背にだらしなく座っていた。
伊達はそんな宮野に手を差し出した。
「立て」
「…そういえば今日は珍しく戦闘衣ですね」

「アンタを真田に返す事になった」

「……へ?」
伊達の言葉に宮野はぽかんとした表情を浮かべ、ぱちくりと瞬いた。伊達は小さくため息をつく。
「アンタが捕虜になってた所で何の意味もねぇからな。拘束する理由もねぇ」
「………脅せばいいのに」
「そんな卑怯な事するか」
「裏切りは卑怯じゃないと?」
「…………さぁな」
宮野は伊達の手を掴み立ち上がる。伊達はそれを確認するとさっさと歩き始めた。宮野は慌てて後を追う。
伊達が1人で宮野を連れていくらしい。陣営の入り口では徳川が2人を待っていた。
「…、宮野殿」
「いいんですか?返しちゃって」
「………あぁ」
「…。徳川家康。迷ってるまま戦っては駄目ですよ」
「え?」
「貴方は今迷ってる。…何に迷ってるかは知りませんが…その状態で命のやりとりをしたら、絶対後悔する」
「………」
「私はそう、思いますよ」
「…、そうか。肝に銘じておこう」
徳川はそう言って馬に跨った宮野を見上げ、薄く笑った。宮野はそんな徳川をしばらく見つめた後、ぺこりと頭を下げて陣営の外で待っている伊達の所へと馬を駆けさせた。
「…義務感に囚われてる……。…本当に…そうなのだろうか。…、君は不思議な人だよ、宮野殿」
哀しげに笑いながらそう言った徳川の言葉は、宮野には聞こえなかった。
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