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凶姫と龍人9

「やれすまぬな。驚かせてしまったか」
「てぃ、ティーポット…?」
「我は大谷吉継、そこなカップは幸村よ。色々な事が起きて混乱しているであろ?茶でも飲みやれ。幸村、沸騰させたら許さぬゆえなァ…?」
「うっ…わ、分かっておりまする…」
「そう脅しなさんな、刑部」
吉継の前で止まった幸村は冷や汗をだらだらとかきながらそう答えた。沸騰させてもちょうどよく冷めるかもしれない。
吉継が茶を注いでいる間、官兵衛は吉継の隣で尻尾を揺らし鉄球を転がしていた。
「ほれ、進め進め」
「お、お飲みくだされー!」
「…す、すまない」
僅かに湯気をたてる茶に三成は内心ほっとしながらカップに口をつけた。そのときに僅かに温度が上がったような気がしたが、緊張からかそれとも恐怖からか、がたがたと震える幸村が可哀想なので、なにも言わないことにした。
「…美味しい。これはなんという茶なんだ?」
「かもみーるという茶よ。かもみーるには心を鎮める作用があるゆえな。落ち着きやったか?」
「そうか…感謝する」
「先程は格好ようござった!身代わりになられるとは、感動いたしもうした!」
「…ありがとう」
掌でぴょんぴょんと跳び跳ねる幸村に三成は小さくはにかんだ。その笑みに照れたか、幸村はくるくると回る。
官兵衛とその上の吉継はやれやれとため息をついた。
「お前さん、あの男とはどういう関係なんだ?」
「?」
「やれ、暗ァ……主はどうしてそう、遠慮というものを知らぬのよ」
「あっっち!おい刑部!溢れてる溢れてる!」
「いや、気にするな。半兵衛様は私の兄だ。とても頭のよい方で、私などが兄様と呼ぶのはおこがましい。だから半兵衛様とお呼びしている」
「なんと!!ご家族でこざったか!!なれば政宗殿にもまだちゃんあっっっついでござらぁぁ!」
「主まで余計な事を言いやるな!」
「だ、大丈夫か?」
何かを言いかけた幸村に吉継が官兵衛に溢したのと同じものを注ぎ、幸村は熱さのためぴょんぴょん跳び跳ねた。沸騰させる割には注がれるものの熱さには弱いようだ。
「ま、積もる話は晩餐でするとしよ」
「そうね……」
「?!!?!??!!!」
不意に後ろから聞こえた声に三成は再び飛び上がった。どうやら声を発したのはタンスらしい、扉の隙間から二本の黒い腕が出てうようよとしている。
「何着てく…?」
「こ……こはタンスも話すのか」
「ヒヒッまぁなァ。そやつは第……いや、市よ」
「ね…闇色さんはどういうのが好き……?薄紫色なんてどうかしら……?」
市はそう言うなり薄紫色のシンプルなドレスを取り出して三成の前でくるくると回した。三成は困ったようにドレスと市と吉継を見やる。
「…その事なんだが……」

 「……来ねぇ、だと?」
一時間後、政宗は吉継の言葉に吉継を振り返った。幸村と官兵衛はどことなく気まずげだが、吉継に気にした素振りはない。
「そうよ。晩餐には行かぬと」
「なんでだよ?」
「さてな。行かぬと言ったら行かぬとしか言わぬ。来たくないのならば来なくてもいいと言うたのは主であろ」
「それ理由の説明に…ってあぁ!政宗様が落ち込まれている!」
「べ、別に落ち込んじゃいねぇ!あの野郎…何で来ねぇんだ!」
「!お、おい待てよ王子!」
政宗はぎろりと上階を睨むと部屋を飛び出した。
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