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凶姫と龍人4

 「…おかしいな。道に迷ったかな」
日が沈む頃、半兵衛は誰ともなしにそう呟いた。跨がる白馬の天君が不安げに嘶く。
半兵衛は天君の首元を優しく撫でて回りを見回した。
「…学会はまだ間に合うけれど、日が沈み切る前に抜けたい…。天君、駆けよう」
半兵衛はそう言うと天君の横腹を蹴った。ひひん、と嘶き、天君は勢いよく駆け出す。
「……?嫌な気配がする。なんだ?」
半兵衛は不意に感じた気配に視線を巡らせた。木々の間からちらりと見える、黒い影。
「…!狼か!!」
半兵衛がその影の正体に気付いたと同時に狼が飛び出してきた。天君が道を塞がれた事で前足をあげる。
「うわっ!」
思わず半兵衛は手綱を放してしまい、天君から転がり落ちた。天君はそのまま駆けていき、狼が天君に連れられて去ったために半兵衛は助かったが、森の中に残されてしまった。
「…しまったな、どうしたものか…。……ん?」
ふ、と顔をあげた時、半兵衛の目に尖り帽子状の屋根のような物が写った。半兵衛は一か八か、そこへ行ってみることにした。
 近づいてみると、それは巨大な城の一角だった。黒く薄暗い城を前に、半兵衛は眉間を寄せた。
「…こんな所に城があったなんて。まだ誰か住んでいるのか?」
門の側を見渡しても門番はおらず、閑散としている。歩き始めてから降りだした雪のために冷え始めた体を軽く抱き締め、ふうとため息をついた。
「仕方ない、住んでいたら、無礼は承知だが進ませてもらおう」
半兵衛はそう言い門を押した。抵抗もなく軽く開く。門から正面玄関まで進み、玄関で念のためノックした。反応はない。
「お邪魔します」
正面玄関も鍵はかかっておらず、簡単に開いた。半兵衛は素早く中を見渡した。埃が積もっていない。
誰か住んでいる。
「どなたかいらっしゃいませんか。旅の者です。一晩雪を凌ぐため、泊めていただきたいのですが」
半兵衛はそう声を張り上げた。夕食時を少し過ぎた頃、まだ寝るには早い。そう判断しての大声だったのだが、返事はやはり返ってこない。
「…どういう事なんだ」
そう呟いて半兵衛が歩みを進めた時だ。
「それ以上入るんじゃねぇ!」
不意にそんな声が玄関ホールに響いた。半兵衛は大人しく歩みを止めた。
「僕の願いは聞き入れてもらえないだろうか?」
半兵衛は注意深く辺りを探りながらそう尋ねた。その時。
「おいおい小十郎さんよ!黙ってろって言ったのアンタじゃねぇか!」
「不法侵入を黙って見ていられるか!」
「……君達かい?」
再び響いた声にそちらを見たら、そこにはあるのは置時計と燭台。だがそれにはよく見ると顔があり、口元が動いていた。
だから、半兵衛は半ばぽかんとしながらそれを見つめ、再び尋ねた。置時計と燭台がぎょっとしたように半兵衛を見た。
「バレちまったじゃねぇかよ!」
「う、うるさい!」
「……これは驚いたな、話す燭台や置時計があるなんて。それに、こんな精巧な時計は見たことがない」
半兵衛はそう言って置時計を持ち上げ、くるくると回して観察した。
「テメェ!何しやがる!」
「あぁ、すまない。ところで君達は?」
半兵衛は置時計を元に戻し、再び尋ねた。
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