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凶姫と龍人2

「家康様ぁ〜!」
「はは、おはよう!」
「キャー家康様ぁ〜!」
村の中のある広場で、黄色い悲鳴が上がる。それに答えているのはオールバックに髪を上げている男一人。にっこりと女なら一発で落ちそうな笑みを浮かべ、彼女達に手を振っていた。
「…貴公はいつも人気者だね、家康君」
傍にいたちょび髭の男がにやにやとしながらそう言う。
そう、この男が三成の探している徳川家康なのである。
家康は困ったように笑う。
「はは…最上殿、今更なことを言わないでくれ」
「ん?ははは、そうだったね安藤君!」
「そんな事より、三成はまだだろうか…」
家康は名前を間違えられた事も気にせず、僅かに頬を赤らめてそう呟いた。最上は首をかしげる。
「…ん?あの学者の娘かい?」
「…娘じゃなくて妹だぞ?ワシはあの子と結婚するんだ!」
「?!」
「この村一番の美女だ。…なんだその顔は。ワシには無理だと言いたいのか?」
「い、いやいやいや!そんなことはないよ!」
「イィエェヤァスゥゥゥゥウ!!」
と、ちょうどいいタイミングで三成の声が響き渡った。家康は嬉々として立ち上がる。
「やぁ三成!おはよう!」
「家康ぅぅ!今朝家の前に鴨の死骸を置いていったのは貴様かぁぁぁ!!」
家康の清々しい挨拶を清々しいまでに無視し、三成は刀を抜いて家康に突きつけた。最上がそんな三成に飛び上がるが、家康はただにこにこと笑っている。
「死骸なんて言うなよ、ちゃんと朝のうちに捕った鴨だぞ?」
「死骸には違いはない!!貴様のせいで朝から半兵衛様が不快な思いをされたではないか!!」
「ん?この本、また秀吉公に借りたのか?」
「人の話を聞け、家康ぅぅ!」
話を聞かない家康に三成は刀を振り下ろす。家康はからからと笑いながらそれを軽々と避けた。
ぱらぱらと三成が持っていた本を捲る。
「よくこんな挿し絵もない難しい本を読めるなぁ」
「その本は挿し絵などなくとも十分面白い!!」
「こんな本ばっかり読んでないで、もっと有意義なことを考えたらどうだ?半兵衛殿もきっと喜ぶ」
「…有意義なこととは、なんだ」
生真面目な三成は家康から半兵衛という自分の兄の名前を出され、刀を振り回す手を止める。
家康はにっ、と今までで一番眩しい笑みを浮かべた。
「ワシと絆を結ぶことだ!」
「貴様との絆などいるかイィエェヤァスゥゥゥゥウ!!返せ!」
「あっ」
三成は怒りに顔を赤くさせ、家康から本を奪い返すと走り去っていった。家康は、またな〜、と走り去る三成に手を振る。
「顔を真っ赤にさせて、可愛いなぁ」
「…貴公は恐ろしく前向き思考だね、家康君」
「?」

 「半兵衛様!ただいま戻りました!」
「あぁ、おかえり。鴨には驚いたけど、ありがたく使わせてもらうことにしたよ。家康君に言ってきてくれたかい?」
三成の声に台所にいた男、竹中半兵衛は笑って振り返り、そう言った。三成はぱたぱたと半兵衛に駆け寄る。
「はい、一応は」
「…と、言うところを見るとまた聞かなかったんだね、全く。おや、その本また借りたのかい?」
「いえ、秀吉様が下さったのです!また本を仕入れるため旅立たれるそうです」
「そう、ちょっと寂しくなるね」
半兵衛はそう言いながら鍋を火から下ろした。
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