凶姫と龍人10

ばん!と政宗は三成の部屋の扉を叩いた。
「何で来ねぇ!!」
「政宗様、紳士的に!」
「そうだそうだ、すぐ怒るのはよくねぇって!短気は損気!!」
怒鳴る政宗を慌てて小十郎と元親が諫める。吉継は離れたところでヒッヒと笑っていた。
「……晩餐に、来て欲しいんだが」
『もう一押し!』
「あ、貴女と晩餐を過ごせたら…とても嬉しいんだが」
「貴様自分が言ったことを忘れたのか。来たくないならば来なくてもいいと言っただろう」
閉じられた扉越しに三成の声がする。ぴき、と政宗の額に青筋がたったとき、小十郎が前に出た。
「すまねぇ姫様!あれは政宗様の照れ隠しなんだ!」
「What are you saying?!」
「…そうではないかと内心思ってはいたが」
「!!Shut up!!」
政宗は真っ赤になって小十郎を掴むと思いきり投げた。小十郎は弧を描いて飛んでいき、官兵衛の上に落ちた。
政宗は扉に向き直る。
「いいから出てこい!」
「どうしてもと言うのなら、半兵衛様を連れ出した時のように連れ出せばいいだろう!だが、そうするつもりならば斬滅してくれる!」
「飯も食わねぇで閉じ籠ってるつもりか?!」
「貴様の情けなどいらん!」
「…!ならずっと閉じ籠ってろ!!」
政宗は捨て台詞のようにそう怒鳴ると背を向けた。
「お、おい王子!」
「奴に飯やるんじゃねぇぞ。俺が許すまでな」
政宗はそう言い残すと去ってしまった。残された元親、吉継、官兵衛と小十郎は顔を見合わせる。
「…どうするよ……折角のチャンスを逃すわけにゃいかねぇぞ!」
「今すぐにはどう考えても無理な話よ。やれ、あれは第五天に任せるとしよ」
「第五…あぁ、お市さんか」
「だがいくらなんでも飯を食わすな、は従える命じゃねぇ。元親、お前はしばらくここを見張ってろ、あの姫様の様子を見ろ」
「おぅ、合点承知よ!」
「では我等は面倒な料理長に晩餐の中止を伝えに参るとしよ」
「俺は政宗様の様子を見てくる」
そう言い合って、四人はそれぞれの目的地に向かい離れた。
 「あの野郎!俺が頼んでるってのに!」
自室に戻った政宗は腹立たしげに壁を叩いた。ばちばちと雷がはぜる。政宗は机の上の鏡を手に取った。
「あいつを見せろ」
政宗がそう言うと鏡は蒼白く光り、鏡面に三成が写った。膝を抱えて座る三成の傍にそっと市が近寄る。
『…独眼竜…いや、政宗さまは悪い人じゃないよ……?』
『奴の人となりなどどうでもいい!晩餐など嫌なのだ!』
政宗は三成の言葉に僅かに目を見開き、鏡を伏せた。悲しげに顔を歪め、力なく鏡と薔薇が乗っている机に体を預けた。
「…ha…当然だよな、こんな姿…愛する人間なんざ、いるわけねぇ…」
政宗はそう言って頭を抱えた。
政宗は知らない。三成の言葉に、続きがあったことを。
「私はすでに朝、食事を取った!これ以上食えるものか!」
「…あなた…それはいくらなんでも少食だし……独眼竜勘違いしてるよ…?」
「えっ」

 「………………」
「い、家康君、麦酒でもどうかね?」
「いらない」
同じ頃、村の酒屋では、家康が不貞腐れていた。なんだかんだ、昨日三成にフラれたのが堪えているらしい。
最上は家康を励まそうとしてはいるが、全て空回りしているようだ。