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葱と牛蒡とツインテール43


「……出ていけ」

小十郎は尚、だが小さな声で、そう告げた。しきは僅かに目を伏せると、それ以上言い募ることはなく、頭を下げて部屋を出ていった。
「…その程度の存在、か」
しきが出ていき、静かになった部屋で、小十郎はぽつりと呟く。布を額に当てる。
「……俺は………」
小十郎は、ぐ、と拳を握りしめ、目を伏せた。

 「………はぁ…ああああああもおおおおおおあああ」
「?!」
女中達の部屋に戻ってくるなりそう長いため息のような声を漏らしたしきに、女中達はぎょっとしたようにしきを見た。
しきはへた、と机に倒れ込むように座る。
「あぁもうやっちゃった素が出ちゃった死ぬ……」
「し、しき様っ?!」
「どうしたのです」
指南役の女中に声をかけられ、しきは半分涙目で彼女を見上げる。
「小十郎様に素が出ちゃったんです…」
「…よく分かりませんが、口調が悪くなったり身勝手なことを言った、ということですか」
「だって小十郎様自分のことは無関心なんですもん……」
「…。なるほど。御身を顧みない所がございますからね、片倉様は」
「!」
思わぬ賛同を得られ、しきは驚いたように彼女を見上げる。老婆はやれやれ、とため息をついた。
「皆が思っていることです、気にしなくてよいですよ」
「ええっ」
「そして、その様子だと片倉様は食事をなさらないでしょうから、作って持っていって差し上げてください」
「えええ!!!」
仲直りするにしてはハードル高い!と思いながらもお婆ちゃん先生のような彼女に逆らうこともできるはずなく、しきはがくぶるとしながらも食事を用意しに共に炊事場に向かった。


 「…片倉様、メシ……」
「…後でとる、先に食っとけ」
「…は、はい……」
それから数刻が経って、夕飯時になった。小十郎は部下の言葉を断り、相変わらず政宗のそばに控えていたが、すっ、と静かに、だがすばやく襖が開けられた。
小十郎は僅かに眉間を寄せてそちらを見た。
「…人払いしたはずだが、生嶋」
生嶋と呼ばれたのは、しきを指南していた老婆だった。生嶋は小十郎の視線を気にすることなく頭を下げた。
「お隣の部屋にお食事をご用意いたしました」
「あ?」
「この際言わせていただきますが、今日しきに言われたこと、ゆめゆめお忘れになられませぬよう」
「な…」
思わぬ言葉に小十郎は僅かに目を見開く。ふん、と生嶋は鼻を鳴らした。
「皆が思っていることでございますれば」
「はっ?!」
「片倉様が食事をとられている間は、僭越ながらこの生嶋と良直殿が政宗様のお側にお付きいたします故、さぁさ早に」
「おい待て、」
「早に」
「おいっ」
生嶋はすくっ、と立ち上がると小十郎が止める間もなく部屋に入り、少しばかり混乱している小十郎を器用に追い出し、ぴしゃりと襖を閉めた。
締め出された小十郎はしばらくポカンとしていた後、はぁ、とため息をついた。
「……皆が思っている、だと?……はぁ」
小十郎は半ば呆れ、半ば驚いていた。
「…俺は、そんな風に見えていた、か……」
小十郎はぐ、と拳を握りしめ、目を伏せた。
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