スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

葱と牛蒡とツインテール38



「……ふっ」
小十郎は、小さく声を上げて笑った。しきは笑われたことに、憮然とした表情で小十郎を見上げる。
「なんで笑うんです!!こちとら真面目に…!」
「とっくの昔にこっちのもん食ってんだから戻れる訳ねぇだろ」
「へっ?!」
驚くしきに、小十郎はぽんぽんと頭をたたいた。その口元は優しく笑んでいる。
「要するにお前は、こっちが居心地よすぎて元に戻るのが怖い、ってことだろ?それもまた変な話だけどな」
「……う〜…………」
「お前はもうここの食いもん食ってんだから戻れねぇよ、安心しとけ」
「千と千尋じゃあるまいし…てかあれ帰れてるし……」
「なんか言ったか?」
「別に…」
しきはぷう、とほほを膨らませ、ぷいとそっぽを向いた。そんなしきに小十郎はくすくすと笑う。
珍しい小十郎の笑い声に、思わずしきは小十郎を振り返った。
小十郎は笑んだまま、しきを見つめる。
「どこで生きようと、お前の心が自由なら、それは自由に生きていることにはならねぇのか?」
「え?」
「誰もがてめえのやりたいことやって生きていける訳ねぇんだ。俺もな。だが俺には生きる目的となる方が存在する。だからやりたくねぇこともやろうと思える。…要は、何をして生きるかではなく、どう生きるかなんじゃねぇのか」
「……哲学者みたいな事言いますね…」
小十郎はしきの言葉に肩を竦めた。
「お前が幸せそうに見える奴等は生きる目的が明確なだけだ。見たところお前には、そういうもんはねぇように見えたしな」
「……そうですね…確かにないです」
しきは小十郎の言葉に目を僅かに伏せた。小十郎は視線を空に向ける。
「…お前が前にいた世界を生きられなかったのは、生き方が曖昧だったからだ。そうで無ければ、どこにいようと、生きられるはずだ」
「…目的……かぁ…」
「些細なことでもいい。ここが生きやすく感じたのは、ただ単にのんびりしていたからだろうよ。…ここの生活も、甘くはねぇ。今日、薄々感じはしたんじゃねぇのか」
「…はい」
「別に目的がねぇことは恥じゃねぇ。だが、強く生きてぇ、そう思うなら、それなりの対価ってもんが必要なもんだ」
「…そうですね」
しきは小十郎の言葉に視線を上げた。小十郎は膝に肘をおいて、頬杖をつく。
風が二人の髪を揺らした。しきは、ふ、と何かを思い出したように、目を細めた。
「…目的があれば、生きられる……か…」
「?」
「…でも、こうして普通に生きられるだけ…私は恵まれた方、ですよね」
「…まぁ、そうかもな」
「………、目標って、簡単にはないですけど…確かに、受験生の時は、辛い勉強も自分でも不気味な位できた、それは夢があったから…私、探してみます!」
「……あぁ、それでいいんじゃねぇのか?」
小十郎は真っ直ぐな瞳でそう言ったしきに、ふ、と笑い、わしゃわしゃと頭を撫でた。
「そろそろ戻るぞ。あんまり長居するとばれちまうしな」
「はいっ!」
しきは元気よく返事すると、立ち上がった小十郎に続いて立ち上がり、共に城へと向かった。

生きにくいのは世界のせいだけではなく、自分のせい。
どんな世界でも、そこに光があれば、人は生きられる。光を見つけていない、見つけようとしていないだけで、必ず世界に光はある。夜が来ても、いつかは夜が明け、太陽が地球を照らしくれているように。

しきはぎゅ、と前を歩く小十郎の手をつかんだ。小十郎はびくっと肩を跳ねさせた後、耳まで真っ赤にさせて、手を握り返した。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2013年05月 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31