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葱と牛蒡とツインテール35

作業は月が西の空へ大きく傾いた頃まで続き、二人は今までの騒動の疲れもあってか、二人して文机に突っ伏して寝てしまい、朝を迎えた。
「…ん……。……っは、やべぇっ」
先に目を覚ました小十郎は、がばっ、と起き上がり、急いで障子を開いた。幸い、たいして寝ていなかったらしく、城の中はまだ静かで、空もしらみ始めたばかりだった。
「…寝ちまったのか…俺も年だな」
まだ齢30近くの台詞とは思えないことをぼやき、小十郎はふぅ、と息をついた。
ふ、と小十郎が振り返ると、自分の寝ていたところにくしゃっ、と陣羽織が落ちていることに気がついた。
小十郎は僅かに驚いてそれを持ち上げる。
「…………」
自分で羽織った覚えはないから、恐らくしきが掛けたのだろう。よくよく見れば、途中で寝たにしては文机の周りが片付いていた。途中で放置したはずの筆も固まっていない。
「…ふっ」
小十郎はそう僅かに笑むと部屋の中に戻り、適当に布団を敷いてその上にしきを寝かせた。ぽふぽふ、と頭を撫でる。
「…ありがとな、しき」
そして、小さい声でそう言うと、畑を見るために部屋を出ていった。

 それから少しして、城の中が朝を迎えた。
しきは小十郎専属の女中として紹介され、昼間は一通りの女中の仕事を仕込まれ、夜は小十郎の仕事の補佐をする、という形になった。
しきに仕事を教えてくれることになったのは、田舎の旅館の仲居でもやっていそうな雰囲気の老婆だった。
「貴女が片倉様付きになられた、しきですね?」
「はい!よろしくお願いいたします」
「よろしい。では、早に。お食事は片倉様自ら作られますので必要ありません。まずはお掃除を覚えていただきます」
「分かりました」
しきは、く、と拳を握りしめた。
その髪型では動きにくかろう、と、しきは普段はツインテールにしている長い髪を一本に結び、半分ほどをうなじの所でお団子のように纏め、垂れた部分は布をかけて散らないようにしていた。
「掃除は高いところから始めます。仕えるのは初めてだとか?」
「あ、はい。今までずっと学問に勤しんでいたので…」
「…その髪の毛といい、中々変わったお家のようで」
「髪の毛は生まれつきです、それに私は一人娘だったので…兄弟もいませんし」
「……なるほど。では、始めますよ」
「はいっ!」

「…Hey小十郎」
「なんでございましょう?」
同じ頃、小十郎は政宗の傍らで共に政務を行っていた。頬杖をついて小十郎が手渡した書類を見ていた政宗は、ふと小十郎に尋ねる。
小十郎は進めていた筆を休め、体を政宗に向ける。政宗は手にしたそれをひらひらと振る。
「この手、誰の手だ。お前のじゃねぇだろ」
「…?しきにございますが」
「Ah?あいつこれ分かんのか?」
政宗は意外そうに小十郎を見た。小十郎は大した話ではないと判断した小十郎は体をもとに戻す。
「こちらに来る前は、外交関係の経理を学んでいたとか」
「Hum…結構有能じゃねぇか、女の割には」
「そうですな」
「…道理でお前が仕事回してくるのが速いわけだ…チッ」
「政宗様?」
「なんでもねぇ」
舌打ちした政宗をじろり、と見据えれば、政宗はさっと顔をそらした。
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