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葱と牛蒡とツインテール46

「小十郎」
「小十郎さま」
「何をしておいでです、まだ動くのは、」
小十郎の言葉を政宗は手で制した。
「悪いなちょっと待て。答えろ。違いねぇんだろ」
「…どうでしょう」
「?」
話を聞いていなくて分からない小十郎は不可解そうに二人を見やる。しきは体の前で手を組んだ。
「…もしどうしてもきっかけが自分にあるというならば、それは寧ろ、政宗様が豊臣秀吉を殺したこと、そちらだと思います」
「…んだと?」
「…、今回の事は…政宗様の言葉というよりかは、三成の不幸に乗じて起こされたということです」
「………石田の不幸が、どうしてこうなる」
しきは言葉を探し、視線を下へ向けた。慎重に、言葉を選ぶ。
「…三成は、主を奪った政宗様を、そして主を忘却していくこの世を憎んでいます。…三成がこの世の全てを憎んでいるように……この世界そのものを憎んでいる人間は少なくないってことです」
「Shit…回りくどい言い方しやがって」
「口裂けるの痛いんで勘弁してください」
「…政宗様」
二人の言葉に内容を大体察したらしい小十郎は政宗の方を見た。政宗は地面に突き刺していた鞘を引き抜き、刀を納める。
「石田を倒しに行く」
「!」
「…」
「…オレはあの時、奴を口先で煙に巻いた。この独眼竜が、敵の前から尻尾を巻いて逃げたんだ…!」
小十郎は政宗の言葉に目を細める。しきはなにも言わずに、二人のやり取りを見守る。
「…世の中は広いということです」
「アァ?」
「復讐に駆られた刺客と、無駄に斬り合うことなく退かれたご判断とご対処、奥州を背負う者としての本分に、至極適っておりまする」
「…」
「お陰様でこの地は蹂躙を免れ、兵も民も、変わらぬ日々を営んでおりまする」
小十郎は一旦言葉を区切って、視線を城下町に向けた。
「武勇をきわめし者のみが天下人たりえるなどと、ゆめゆめ思われまするな。石田の後の所業にあなた様が責めを覚える謂れは、微塵もござりませぬ」
「…だがなんであろうと、野郎をけしかけたのはこのオレだ。そのカタはつけなきゃならねぇ」
政宗は、だが、小十郎の言葉にそう答え、城に向かって歩きだした。
小十郎とすれ違った時、小十郎は政宗を振り返らないまま、口を開いた。
「…ならば、ひとつだけ」
「…」
「…次は初めから、お一人では往かせませぬ」
政宗はしばし立ち止まったあと、振り返ることなくそのまま歩いていった。小十郎は政宗を振り返り、その背中を見送った。
背中が見えなくなった頃、小十郎はしきを見た。
「…しき」
「はい」
「……石田の所業…そんな大層なことなのか」
「…三成の、意思ではないですがね」
「何…?」
しきは政宗が去った方向へ目をやり、細める。きゅ、と組んだ手に力を込めた。
「…三成にとっての太陽は、太陽ではなかったんです」
「…」
「太陽を亡くした三成には…政宗様以外のものは、全て夜闇の中なんですよ。……己も」
「…掬い上げてやる奴はいなかったのか」
「太陽の代わりになり得るものは、彼の世界には、ない。…太陽ほどの暖かさ、大きさ、輝きを与えられる存在は、ない…少なくとも、今は」
「……哀れな奴だ。いや…そうしたのは俺達、か」
小十郎の言葉にしきは小十郎に視線を向ける。小十郎はしきの視線に、しきを見る。
しきはふるふる、と首をふった。
「それこそ、責めを覚える事じゃないですよ。……三成のような人間はもっと一杯いるんです。三成のように行動に起こせる力を持つ人が、少ないだけで」
しきと言葉に、小十郎は目を細めた。
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