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葱と牛蒡とツインテール37

二人は炊事場から握り飯をいくつか失敬し、小十郎の畑がある丘へと上った。海の見える方向に座ってそれを頬張る。
「…やっぱお米おいしーい……」
「そうなのか?」
「こっち米所じゃないですか」
「まぁ、それはそうだが…」
嬉しそうに握り飯を頬張るしきに、小十郎はくすりと笑い、指についた米粒を舐めとった。
ざあぁ、と波が静かに波打っている。しきはふぅ、と息をついた。
「…私が前にいた所の話……少しして、いいですか?」
「ん?…あぁ、俺もいずれ聞きてぇとは思ってた」
小十郎の答えに、しきは視線を空に向けた。空は広く、青い。
「私がいた所、未来みたいな所だ、って言ったじゃないですか。色んな物が発展して、便利で、大きい戦争もなくて。…でもその代わり…ここよりも色々なことが難しくて、ややこしくて…窮屈で…」
「………」
「ややこしいから、人間関係もややこしくて、少しでも社会から外れれば生きていけない…。情報も広がるのが恐ろしく早いから、そう簡単に逃げられもしない…。ずっと先の事まで考えなきゃ、生きられない…大きくなってから、考えていたら遅すぎて、なにもできなくなる。そして…うまく生きられなかったら、死ぬしかなくなる……」
小十郎はしきの言葉を黙って聞いていた。しきは視線を海に落とした。
「便利なんですよ?色んな娯楽もあって。でも…それだけ窮屈な世界だから、すぐに相手を疑ってしまう。家に鍵を掛けないで出掛けるなんて事も出来ないし、夜寝るときに窓を開けっぱなしにしておく事も出来なかった。……泥棒がいるっていうのが、前提なんですよ」
「…確かにそれは、窮屈な世界だな。いくら戦がなくても、正直願い下げだ」
「私が国際経営学部に行くことを決めたのも、そこに入れる年になる三年前…その学部に入ってすぐに、就職を考えました。何年も前から用意して…正直、つまらなかったです。子ども子どもと言われながらも、就職の為に子どもの時から勉強してた…そんな感じがして」
「…だが、それを言うなら、ここでも子どもの将来なんて、生まれで決まるようなもんだぞ」
小十郎はしきの言葉に僅かに眉間を寄せ、そう口にする。
しきはふふ、と小さく、困ったように笑った。
「確かに私の世界は自由でした。でも、選択肢を吟味する余裕なんて中々ないから、上手く立ち回らないと自分が子どもから知る世界からしか、選べない…上手く立ち回る子は、色んな選択肢を得られる。私は、前者でしたから……結局選べられないのなら、最初から決まっている方が諦めもつくっていうか…結局は逃げですけど」
「上手く立ち回れなかったのを、妬んでる、ってことか?」
「どうしてもそう思ってしまう節があるんですよ、弱虫ですから…」
苦笑いを浮かべるしきに、小十郎はむ、とした表情を浮かべた。そして、がし、と肩をつかんでしきを自分の方へ向かせた。
「…回りくどいこと言ってんじゃねぇ、何が言いてぇんだお前は」
「!…、………」
しきは驚いたように小十郎を見た後、ふ、と泣きそうな顔で笑った。
「…私……ずっと嫌いだったんです…」
「嫌い?」
「どこの高校へいく、どこの大学へいく、どこの企業にいく、どうにかそこへ行っても次から次へ、その次の事を考えろ、それの繰り返しの人生で…。通ってた大学も本当に私がやりたいことだったのか分からなくなって…自分より友達の方が幸せそうに見えて、後悔ばっかり…親に相談しても、その時そう言えばよかっただろう、もっと考えて行動しろ、それだけで…ここに来る前…就活帰りの電車で…私の人生はこのまま、後悔して終わるのかな、って……私、何のために生きているんだろう、って……」
「……………」
しきは僅かに顔を伏せた。小十郎は黙ったまま、しきの肩をつかんでいる。
「…ここに来て…時間がゆっくり流れて……小十郎様に惚れたって言ってもらえて…。でも、それが…怖いんです、いつか私は元の世界に戻ってしまうんじゃないか、戻ってしまったら、…もう生きられないんじゃないか、って……!」
しきはきゅ、と小十郎の服を握った。
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