葱と牛蒡とツインテール48

翌朝。
珍しくしきは小十郎より早く目覚めた。正確には、小十郎が起きる時間よりも早く目覚めた。
「……あつい」
その理由は、いつの間にか抱き締められていて暑くなったから、であるようだ。
しきは少し戸惑いながらも、腕の中から小十郎の顔を見上げた。すーすー、と小さく寝息をたてて寝ている。
「…小十郎の、寝顔。………可愛い」
しきは思わずかっ、と目を見開いて凝視してしまった。普段先に起きられてしまうから、寝顔を見るのは初めてだった。しきは、ふふ、と笑うと、小十郎を起こさないようにそっと腕を上にあげた。
指先で、頬の傷をなぞる。
「…あ、意外と深い傷だこれ……」
「ん……?」
「あ、」
ふにふに、と傷を触っていたら、くすぐったかったらしい、小十郎が眉間を寄せ、目を開いた。
小十郎は寝たときよりも近くにあるしきの顔に、きょとんとした顔をした。
しきは思わず、ぶっ、と吹き出し顔をそらした。
「ダメだ可愛すぎるこの人……!」
「?…あ、悪いな。息苦しかったか?」
しきの言葉の意味は分からなかったらしい。
小十郎は自分がしきを抱き締めていたことに気が付くと、慌てて腕を解こうとした。
逆にしきは小十郎に抱きつく。小十郎は驚いたように動きを止め、しきを見下ろした。しきは、すり、と小十郎の胸元に頬を寄せる。
「…おはようございます、小十郎さま」
「…、おう、おはよう…」
小十郎は僅かに顔を赤らめ、そう返した。
「…な、なんだ、しき」
「もうじき戦でしょう?だから今のうちに充電してるんです」
「じゅう…?……よく分からねぇが、ようは今のうちに、ってことか」
小十郎は苦笑いのような笑みを浮かべると、しきをきゅ、と抱き締め頭を撫でた。
しきは抱きついたまま小十郎を見上げる。
「…貯めとくだけです。いつかは切れます」
「?」
「…だから、絶対帰ってきてくださいね、小十郎さま」
「………、あぁ」
小十郎はふ、と目をほそめ、抱き締める腕に力を込めた。
 それから少しして、二人は起き上がり、畑に向かった。
「小十郎さまーこれもういいですか?」
「あぁ」
朝の畑の作業をしきも手伝っているのだ。日はまだあまり昇っていない。
いくつか収穫した野菜を、朝餉につかうのだ。
「ごはん作るの手伝ってもいいですか?」
「あ?別に構わねぇが…」
「実は昨日の内に生嶋さんには許可もらってます、えへへ」
「変なやつだな」
小十郎はふ、と笑うと収穫したものをいれたかごを背負った。
 炊事場にはちらほらと他の物の姿もあった。
「…そういえば、ここの料理は煮るか焼くか蒸すかですよね……」
「?他に何かあるか?」
「うーん…炒める、とか、揚げる、とか」
「いためる…あげる?」
小十郎の目が点になる。聞いたことがないのだから、当然だろう。
「炒めるは、油を鍋に薄く引いて野菜とかもろもろ焼くんです。直火焼きじゃないですよ。揚げるは、大量の油に衣をつけてやるんです」
「…色々あんだな。うちには食すのに向いてる油はねぇぞ」
「ふーん…菜種油とかかなぁ…どっかで手に入れられたらつくってみせますよ!」
「ふ、楽しみにしとくぞ」
小十郎はくすり、と笑うと鍋の蓋を取った。