葱と牛蒡とツインテール50

「なぁ。なんであんたが秀吉との事まで知ってんだい」
「け、慶次さん!奥方様も!」
「…そんな事はどうでもいいわ。あなたはいい人だよ、だけど、あなたは沢山の命の上に立つ人間の心を理解できてない」
「分かりたくないねぇ、手前の目的のために戦を起こす奴の気持ちなんか!」
「馬鹿を言うな!!」
不意にしきが出した大声に、慶次は一瞬怯んだように顔を引いた。しきの体はぷるぷると震えている。
ー後悔なんかしちゃいねぇさ
そう言った時の、小十郎の表情が過る。その時の、揺るぎない瞳を。
「相手のことを分かろうともしない人間に!何を変えられるってんです!!」
「!」
「何も知らないで、綺麗なことばかり口にして!あなたの言ってることは綺麗事だけど確かに正しいわ!だから政宗様も耳を傾ける…だけど!尚のこと私はあなたが憎いわ!」
「お、奥方様!」
四人は慌てたようにしきと慶次をみやっている。
しきは止まらない。しきは確かに慶次が嫌いではなかった。どちらかというと好きな方だった。
だが、実際に、ゲームでは分からない世界を見てしまうと、簡単な気持ちで、彼のように自分の意見を言うことなどできなかった。

そう言えるほど、しきは、自分を強く持つことなど、出来ていなかった。

「小十郎さまや政宗様や、秀吉や半兵衛がどれだけの覚悟を背負っているのか、背負っていたのか、少しは考えてから物言いなさいよ!!」
「ならあんた、自分の力のために自分が好いてた人間を殺すのは正しいって言うのかよ!」
「絶対的な正義なんて存在しないわ!誰もが秀吉を悪とみなしても、三成にとっては秀吉を討った政宗様が悪であるように!…そして、秀吉にとってそれは必要な犠牲だったのよ」
「必要だったら殺してもいいのかよ?!」
「いいか悪いか、どうしてあなたに決められるの?!そもそもあなたはねねが好きだったからそこまで怒ってるだけでしょ!」
「ッ!そんなことは、」
慶次の顔がわずかに歪む。
触れていいことじゃない。そうは分かっていた。それこそしきは、よく知らないのだから。
それでも、止まれなかった。自制できなかった。
「そうじゃないと言うなら、あなたにとっては政宗様も元親も家康も前田夫婦も全員悪よ!みんな目的のために戦で人を殺してる!泰平のために必要だから!!」
「!!」
「何かを悪とみなすのはそういうことでしょ!?皆殺したなりの枷は背負ってるのよ、あなたに見えていないだけで!」
「ならあんたには見えんのかい!」
「私にも見えないわ…でも背負っていること程度なら分かる!…私は小十郎さまが好きですから」
「……ッ、あぁもう、困ったねぇ」
慶次はふるふると頭をふると、額に手をあて空をあおいだ。しきはぐ、と唇を噛む。
四人ははらはらと二人を見ている。
「…俺はさ。誰にも後悔してほしくないんだよ」
「……今のところ誰も後悔してないと思いますけど?」
「なぁ。あんたは平気なのかい?竜の右目が死んでも、戦を恨まねぇのか」
慶次の問いに、しきはわずかに目を細めた。今のしきに、絶対に恨まないかと言われたら、断言はできない。
それでも、しきも決めている覚悟があった。
「…殺されたくないなら、何をしてでも戦にいかせなければいいんです。それをしなかった私に、戦を恨む権利なんてないですよ」
「権利って、」
「よく、罪なき民とか、言いますけど…。戦を止めようと行動しなかった、それも十分罪だとは思いませんか」
「………」
慶次は黙ったまま、しきの言葉を待った。