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貴方も私も人じゃない170

「…まぁ冗談はさておき。貴方が問いたいのは、敗軍の将であるにも関わらず、このような場所で生かされるのはどんな気分か、ということでしょう」
「…Yeah」
「……あまり良いものではありませんが、あの方らしいと思います。無駄なことをと思いますが」
「無駄なことを、ねぇ…アンタだったらどうするんだ?」
「少なくとも、座敷牢などには入れませんね。それに、使えぬと判断したなら生かしてはいません。元より決着した戦、得るべき情報もない。生かす理由がないでしょう」
「……ピュウ」
政宗は淡々と答える鎮流に、そう唇を鳴らした。幸村はおどける政宗を諌めるように彼を見やったが、鎮流はさして気にした様子もなく政宗を見ている。
政宗はそんな鎮流の態度が気に入ったか、どっかと幸村の隣に腰を下ろした。長居しそうな雰囲気の政宗に鎮流は僅かに眉間を寄せる。
「…御二人はお暇なのですか?」
「あぁ、暇だね。結局家康の野郎は真田にも大したお咎めはなし、だしよ」
「……武田が領地は減りまする。まるで生殺しよ」
「Hum?いっそばっさり処刑された方がよかった、ってか?」
「…貴殿との決着を着けずに選んだ道、生き残れたは幸いではござるが、まぁそちらの方が心持ち楽ではござったろう」
「Ha-ha」
政宗は合点がいったとばかりに笑う。幸村もそんな政宗に、僅かばかり固かった表情を柔らかくさせる。
ー彼が真田に恩情をかけたのはこれが理由か
鎮流はそんな風に思って目を細めた。そしてそのまま目を伏せ、ふ、と小さく笑う。
「…成る程、成る程。とことん徳川殿はお優しい御方であられますこと」
「!随分物腰丁寧な嫌味だな」
「まぁ、嫌味だなんて。私は思ったことを口にしたまでですわ」
「し、鎮流殿……。…、捕らわれようと変わりませぬなぁ、安堵いたした」
「それを嫌味だっつってんだよ。いけしゃあしゃあと言いやがる」
政宗は鎮流の口振りに、感心したような呆れたような声をあげる。だが不意にその表情を引き締め、鎮流をじ、と見据えた。
「…まァそんだけ口を叩けるなら遠慮はいらねぇな。家康に聞かれたかもしれねぇが、アンタに聞きたいことがある」
「……ふふっ、どうぞ」
「長曾我部元親って男の話だ。いや、その前に確認しとかねぇとな。四国壊滅、本当のところをアンタは知ってるのか?」
「四国…?一体どういうことでござるか」
「あれは西軍の大谷や毛利が仕組んだことだ。家康がやったんじゃない」
「!…………、……」
「?意外と驚かねぇな、アンタ」
幸村は政宗の言葉に驚いたように目を見開いたが、はっ、としたような表情を浮かべるとどこか納得したように小さく頷いた。政宗はそんな幸村を意外そうに見る。
幸村は言い辛そうに二人を見やる。
「……このところのどたばたで忘れておりもうしたが、毛利殿は西軍を裏切ったのでござる。鎮流殿のご忠告があった故、対応でき申したが」
「!…毛利は」
「討ち果たし申した。鎮流殿はもしそうであった場合は敵と見なせ、そしてもしも討ち果たしたのならばこの戦に決着がつくまで隠し通せ、と。……まぁそのようなことがあり申した故、あり得ぬ話ではないか、と」
「……やはり裏切りましたか。北での動きが遅すぎましたからね」
「…I see.で?四国の事はどうなんだ?」
政宗は幸村の言葉に何度か頷きながらそう言った後、話題を戻した。
鎮流はしばらく黙った後、小さく笑った。
「…まぁあの方にこれ以上荷を負わせるのもなんですしね」
「?」
「ええ、知っていましたよ。知った上で、彼の同盟申請を受け入れました」
「……!」
ぴくり、と政宗の眉が跳ね、眉間が険しくなる。幸村は幸村で、笑みを浮かべた鎮流を不気味に感じたか、幸村は僅かに顔を青ざめさせながら二人を見守った。

貴方も私も人じゃない169

「…つまりお前は、軍師の指示に従った、と?」
「いかにも。されど最終的な判断は任せるとのお言葉であった故、このような決着になりもうした」
家康は政宗との戦いの途中で投降し、政宗とともに赴いた幸村の言葉に目を細めた。政宗は不愉快そうにそっぽを向いている。
政宗は幸村の好敵手だ。幸村が自らとの戦いに決着を着けず、投降したことが気にくわないのであろう。
「…彼女はなんと?」
「…自らの力不足故に西軍は敗走した、と。関ヶ原の地にて何があったかの詳細が記されておりもうした。それをもって、いくつかの案が」
「…それは、どんな?」
「色々と。細かくは覚えておりませぬ」
「……そうか…」
政宗は二人の会話に肩を竦める。
付き合っていられない。
政宗の態度はそう語っていた。幸村はそんな政宗の所作に気を止めることもなく、家康を 真っ直ぐに見据えた。
「……彼の方は?」
「捕らえてある。まだ生きてるよ」
「……え?」
幸村はぽかんとしたように家康を見た。政宗も家康の言葉に驚いたように家康を見る。
家康はそんな二人の反応に驚いたように目を見開いた。
「…生かしてんのか?アイツを」
「…そう、だが……。独眼竜も彼女を知っているのか?」
「……前に真田のところに行って石田に会った時一緒にいた女だろ。俺が石田に斬りかかっても表情一つ変えなかった」
「…まぁ、あのお方は…あの時、政宗殿の怪我を見抜いた上にどこから殺すのがよいかなど佐助に進言した御方、普通の女子ではござらぬ」
「ふぅん?……つまり、お前が俺との決着を着けなかったのはそんな野郎の言葉が気になったから、か?」
「……あの御方の知らせには一切の無駄がござらんかった。冷静さは片倉殿のそれと同様。それ故に、そちらの案を取ったまでにござる」
「…へぇ?そんなにか?」
「ならばお尋ねいたすが政宗殿。貴殿は生半可の女子が西軍の軍師を任されるとお思いか?」
「Ha…そいつぁそうだな」
政宗は幸村の言葉にニッ、と笑った。どうやら幸村の言葉に機嫌を直したようだ。むくりと体を起こすと今度は家康に向き直った。
「…で?なんでお前はそんなあぶねぇLadyを生かしてんだ?」
「………まぁ訳は話せば長くなるんだが……1つは彼女が投降してきたから、だな」
「……興味があるな。会ってみてぇ」
政宗は家康の言葉に目を細め、楽しそうにそう言ってのけた。家康はまた驚いたように政宗を見た。
「某も是非、お会いしとうござる」
「……分かった。構わないさ、ワシが会っても…彼女を怒らせてしまうだけだろうから」
家康は困ったようにため息を着いたが、二人に会うことが刺激になると判断したか、あっさり了承したのだった。


「…!鎮流殿!」
「…!真田幸村殿。何故こちらに」
「へぇー…敵軍の軍師を捕らえておくのが座敷牢とはな」
「伊達政宗…?」
鎮流は自らのもとを訪れた幸村と政宗を訝しげに見つめた。
鎮流は部屋のすみに、行儀よく背筋を伸ばして座っていた。幸村は格子越しに僅かに安堵の息をもらす。
「…お久しゅうございまする、鎮流殿」
「ええ。ご無事な様子、何よりにございます」
「……その、三成殿は……」
「徳川殿との一騎討ちの末に」
「……左様でございまするか…」
「…真田殿はともかく、貴方様は何用でございましょうか、伊達殿」
「別に。アンタっつー人間に興が沸いて見に来ただけだ。気分はどうよ?」
「この座敷牢の環境は牢屋としては申し分ございませんね。体調という話でございましたら、特に問題はございません」
「……………」
政宗は鎮流の言葉に拍子抜けしたように目を見開き、くっ、と小さく笑い声を漏らした。幸村も鎮流の態度には僅かに驚いたらしく、笑いを漏らした政宗と鎮流とを交互に見やった。
「…なるほど?その態度……女だてら軍師をやるだけはあるってもんだぜ」
鎮流は静かに政宗を見上げた。

貴方も私も人じゃない168

「………きみに憎まれたって構わない。でもワシは、この気持ちを捨てられる気がしない」
「…!」

かぁ、と。
恥ずかしさではなく、怒りで鎮流の顔は赤く染め上がった。
「…鎮流ど、」
「触れるな」
格子の隙間から差し伸べられた手が体に触れる前に、鎮流はピシャリとそう言い放った。びくり、と家康の手が止まる。
鎮流は怒りを鎮めようとしながら唇を噛んだ。
「…触れるな、穢らわしい」
「………………」
「私は貴方を許さない。どれだけ時が流れようと、この思いは消えない。…無駄なことです」
「…………………許してもらおうとは、思ってはいないさ」
「…用がないならお帰りください。刃物がなくても、自害する方法はいくらでもありますよ」
「…!………、分かった、出直すよ」
触れるなら私は自殺する。
暗にそう言う鎮流に嘘を感じなかったのだろう、家康は残念そうにそう言って立ち上がった。自殺されるのは嫌なのだろう。
「…真田との戦に決着が着いた。これで、最後の戦は終わりだ」
「…最後かどうかは、貴方次第ですがね」
「…、そうだな」
家康は忌々しげにそう言った鎮流に小さく笑い、その場から立ち去った。


「…っ、あ、あぁっ……!!」
家康の気配が消え、鎮流は小さくそう吠えた。
怒りに熱くなった顔を冷やそうと両手で顔をおおう。
「…ふざけた男…!ふざけた男め………!なんであんなの好きに…!」
苛立ったように鎮流はがしがしと髪をかきみだした。
彼を好きになった自分すらも嫌いになりそうだ。髪がボサボサになったころに、はぁ、と小さくため息を着いた。
どすっ、と壁にもたれ掛かる。
「…気持ち悪」
鎮流は人目がないのをいいことに、腹のコルセットの紐を緩めた。それが見えないように羽織を腹にかける。
腹は少し大きくなっていた。鎮流は自分の腹を見下ろし、軽くそれを撫でる。
「…………」
まだはっきりと腹に子がいると実感できない。そこまで大きくもなっていないし、中が動くということもなかった。
「………どうするのよ、これ」
鎮流は一人、そう呟く。戦が終わり、否応なしにそれを考えなければならなくなってきた。
いつかは産まれる。問題なく進めば産まれる。
「…………」
一瞬、わざと腹をぶつけて流してしまおうかと思ったが、その考えはすぐに打ち消された。
自分はたくさんの人間を死なせてきた。自分が存在する場を得たいが為、無関係の人間を殺してきた。
それを後悔などしない。生きることは他者を踏みつけていくことだ。それが踏みつけられた者が死ぬほどのものなのか、そこまで重いものではないのか、ただそれだけの違いだ。
だから殺したことを後悔しない。彼らの死は必要経費だった。それを責めるならば責めればいいし、断罪するならすればいい。
だがこの子供はどうだ?
この子供を殺すことは、必要経費なのか?
これを殺すことで何を得る?元はといえば拒みきれなかった自分の責任で出来た命だ。
それを殺すことは憚られた。というより、殺さねばならない理由が思い至らなかった。
「……………」
犯罪者の子供だとか、そんなことはどうでもいい。犯罪など結局はその社会を安定し存続させるために設定された、倫理観のボーダーラインに他ならない。人殺しを一方的に悪としない戦国の社会もあれば、同性で愛し合うことを万死に値させる社会もある。
社会が変われば変わるようなボーダーライン。その社会のなかで平穏に生きていくためには守る必要があるのだろうが、いちいちそんな程度のものを気にするほど、鎮流は普通の考えを持ち得ていなかった。
「……ま、ちゃんと父親には告げなきゃダメね。私だけのものではないし…判断は一応意見を聞かないと」
鎮流はそんな風に呟きながら、ぽん、ぽん、と一定間隔で腹を叩いた。

貴方も私も人じゃない167

鎮流は家康に連れられ、そのまま徳川方に捕らわれる形となった。家康のせいなのだろうが、西軍の軍師であったというのに鎮流は座敷牢に通された。
すぐに処罰が下されるでもなく、しばらく鎮流は座敷牢で日々を過ごすことになった。
「…恐らくこうも反応がないのは真田への対応……部隊長に撤退を指示した後、伝令を向かわせはしたけれど、無事かしら」
誰もいない座敷で、一人鎮流はそう呟く。
逃げないと信用されているのか、手枷の類いすらつけられていない。鎮流は部屋の片隅に座り、何をするでもなく、ただその日を待った。


 家康と共に家康の居城に来てから数日後、家康が鎮流の元を訪れた。家康は牢越しに鎮流と向き合うように座った。
「…やぁ」
「……何の、ご用でございましょうか」
「君には聞きたいことが色々ある、って言っただろう?話を聞きに来た」
「…私が話す気になることなら、お答えしましょう」
「…ふふ。手厳しいな、あなたは。まず聞きたいことがある。元親のことだ」
家康は、ふ、と一度小さく笑ったあと、不意に表情を消して鎮流を見据えた。一番に尋ねられた問いに、鎮流は小さく肩を竦めた。
「…存じ上げません。私も探していたのですから」
「…本当に?」
「さぁ?例えどれだけ私が事実だと訴えたところで、信じるか信じないかは貴方次第でしょう?」
「…………貴方に軍のことを聞いたところで、本当かどうかは分からない…口を割りはしない、ということか。じゃあ別の話をしよう」
家康は鎮流の返答に一瞬眉間を寄せたが、すぐに諦めたか表情を緩め、薄く笑った。固くしていた体も柔らかくしたようだ。鎮流は黙ってそんな家康を見据えた。
「…元気だったか?鎮流殿」
「………………」
「あなたは、ワシのことを憎んでるだろう…でもワシは、」
「別に貴方様自身はなんとも思っておりません」
「、え?」
「この期に及んでまだ私を好いているなどとほざく貴方は、憎んでいると言って差し支えありません」
「………」
家康は驚いたように鎮流を見たが、ぎろり、と睨むように自分を見据え、はっきりそう言った鎮流に小さく笑った。
その笑いが鎮流の癇に障る。鎮流はふいと視線を逸らした。直視していては自分が苛立つだけだ。
「…そう怖い顔をしないでくれ。あなたの言うことはもっともだけれど」
「…………………」
「なぁ。あなたは…きみは、三成のことはどう思っていたんだ?」
「…どうもこうもありません、あの方は私と同じだったというだけ。同じだからこそ共に全力で力を尽くした、それだけです」
「……それは、」
「相変わらず貴方は言わねば分からぬのですか?懇切丁寧に申し上げて差し上げましょうか」
「…言わずとも分かるさ、そこまで馬鹿ではないよ」
家康は刺のある鎮流の言葉にそう返し、困ったようにがしがしと頭をかいた。

家康にだって分かっているはずだ。今さら何を言おうと、二人の間に生まれた亀裂を埋めることなどできないと。
そうできるはずのものを、家康は捨ててしまったのだから。その時点で、埋められるものは消え去ってしまったのだ。

ーそれでも前のような会話を望むのか。なんて厚かましい、なんて強欲な人

鎮流は胸のうちでそう呟いた。気を付けなければ、その激情が顔に出てしまう気がした。
悟られたくなかった。知られたくなかった。
もはや家康には、御子柴鎮流という女の、何もかもを分かってもらいたくなかった。
無知でいればよいのだ。そして苦しめばよいのだ。
そう願った。願わずには耐えられなかった。

「…聞きたいのはそれだけですか」
「………………」

帰れ。
帰ってくれ。
何も語ることなどないのだ。語りたいこともないのだ。
それは、離れていた間に消え去った。同じく裏切られた身である三成と共に過ごすうちに彼の憎しみが伝播したのか。
今はただ。
徳川家康という存在を認識したくなかった。

貴方も私も人じゃない166

「……ふぅ」
鎮流はそう息を吐き出すと、何事もなかったかのように立ち上がり、振り返った。
家康や慶次は勿論、孫市すらも鎮流を不気味そうに見ていた。鎮流は至って冷静に、普段と変わらない表情を浮かべているように見えた。
「…お久し振りですね徳川殿」
「っ、え、」
「もう既にお気付きでしょうが、西軍は撤退させました。敗北を認めます」
「…!鎮流殿ッ、」
「大谷様も来がけに死亡を確認しました。役職にあったものは最早私のみ。投降致します」
鎮流はそう言ってその場で膝をついた。膝をつくのに合わせて、ふわり、とスカートが揺れる。それはゆったりと形を整えて鎮流の体に合わせて落ちた。
家康は呆然と鎮流をみおろしている。
「…ま、ってく、れ…。なんで、そんなに」
「なにか」
「なんでそんなに冷静なんだ、撤退させたって、どうして、」
「私は三成様より西軍の全指揮権を頂いておりました。これ以上の戦闘は無意味、そう判断したまでのこと」
「いや、そうじゃなくて…!」
家康は鎮流が自然に自分に話しかけてきたことで動揺しているのか、混乱したようにどもっていた。
鎮流は笑いもしないまま、澄まし顔で家康を見上げた。
「では、なんでしょうか」
「三成が…んだ、ってのに…」
「それがなんだというのですか?死亡は確認しました。そもそも殺したのは貴方でしょうに」
「ッ!!」
さぁっ、と家康の顔が青ざめる。その頃になって、ぽかんとしていた慶次が我に返った。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!役職って、君がかい?!」
「…そう申し上げておりますが。信じがたいと仰るのならば、貴方の後ろにいる、元々西軍にいたお方にお尋ねになってください」
「…………」
慶次はつっけんどんにそう返され、困ったように視線を鎮流と孫市へとさ迷わせていた。
家康は少し黙った後、鎮流に視線を合わせるように腰を落とした。
「………久しいな、鎮流殿。君は、変わらないな」
「………それは貴方の希望的観測かと」
「…そういうところが変わってないって言ったんだ」
「そうですか。…そうかもしれませんね、本性はそうそう変わりません」
「…どうして、一人で投降したんだ」
「そうですね。意地、みたいなものですかね。私は別に戦争が好きなわけでも、人が死ぬのが好きなわけでもありませんから、無用な死はいらぬと判断したまでです」
「……結果君が死ぬことになったとしても、か」
「滑稽なことを仰いますね。死ぬことを恐れていては軍師など務まりません。死は既に覚悟したものです」

数ヶ月ぶりに再会したにしては、穏やかな会話が流れる。だがその中でもはっきり感じ取れる、鎮流の拒絶。
家康は僅かな間目を伏せ、開く頃には当初の動揺は消え去っていた。
家康は立ち上がり、鎮流に手を差し伸べた。
「……あなたには聞きたいことが色々ある。……ついてきてもらう」
「……ご自由に」
鎮流はその手を取らずに立ち上がり、懐の拳銃を家康に手渡したのだった。




ここで、日ノ本を二つに分かつ戦は終わりを迎えた。

鎮流と家康の対決は鎮流の負けに終わった。
その割に、鎮流の顔に落胆や後悔は見られなかった。
「……あれが、敗軍の将の顔かねぇ」
少なくとも、慶次に言わせるくらいには、鎮流の顔に敗けの色はなかった。
負けていないと思っているのか。
はたまた、現実を受け入れ何をも恐れていないのか。
そんなものは、鎮流以外の人間には判断しかねる話であったのだ。
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