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貴方も私も人じゃない171

「……………」
「大谷様が徳川対抗の為に用意した手札です。捨てれば私も捨てられてしまいます」
「…、よく言うぜ」
「ふふっ、そうですね。我ながらよくもまぁこうも女々しい台詞が吐けるものだと思います」
捨てられるかもしれない恐怖から黙っていたわけではないくせに。
そう語る政宗の視線に、鎮流は否定するでもなく口元に手を当て、クスクスと笑う。
「………なら答えろ。アイツはどこに消えた?関与してねぇとは言わせねぇぞ、女」
「……………………」
鎮流はにやにやとした笑みを浮かべたまま、すぐには答えない。政宗は苛立ったように帯刀していた刀の柄に手を置く。
「…そうですねぇ。貴方はどう思いますか?」
「は?」
「ですから、長曾我部元親がどこにいると思っているのかと、聞いているのです」
「…………三代目…雑賀の頭領からも話は聞いてる。考えられるとしたら、黒田の領の坑道の深部。傭兵風情じゃそう中まで入り込めねぇし、あそこは地下だ。早々周りからも見えねぇ」
「いい線行っていますね」
「!…だけどアイツの軍の奴全員を閉じ込めるのはいくら坑道とはいえ…」
「……ふふ。だからいい線を行っていると」
「……?……、まさか」
にこにこと機嫌良さそうに笑いながらそう言う鎮流に政宗はしばし眉間を寄せた後、はっとしたように目を見開いた。その顔は僅かに青ざめている。幸村も、政宗の反応に少し遅れて気が付いたらしい、次いで顔を青ざめさせた。
「……てめぇ」
「もうあの方はこの世にはおりませんよ。私が手ずから命を終わらせましたから」
「…」
「あの方も油断していらっしゃったのでしょうね、私に人は殺せぬと。甘いお方、最初の人殺しなど、豊臣が顕在していた時ですわ」
「……………ッ」
政宗はぎっ、と鎮流を睨むように見た。鎮流は涼しい顔でそれを受ける。
政宗はしばらく鎮流を睨んでいたが、ふっ、と不意にその表情を崩した。
「…いや。仮にも西軍の軍師だ。人も殺せぬような奴がなるわけがないか」
「ご理解がよく何よりでございます」
「…ということは、貴殿は長曾我部殿の軍の方を全て…?!」
「…………」
鎮流はただ、静かに笑ってそれに返した。幸村は一瞬目を見開き、ぐ、と唇を噛んだ。
政宗はしばらく黙り混んだ後、俯いていた顔をあげた。
「…家康には、なんで話さなかったんだ?」
「その気になれなかったからです。正直今思えば、長曾我部殿を殺しまでしたのは、徳川殿憎さというのもありましたので」
「…なんでそんなに憎いんだ?」
「……あの方は私を好いているとおっしゃいました。ですがあの方が求めていたのは女としての私。私自身ではなかったのです」
「…そう、なのか……」
「……私も……好いていたのです。だからこそ……私自身を見てくださらないのは屈辱だった。悲しかった」
「………………」
「初めて得た居場所が軍師という立場でした。初めて心から尊敬できたのが半兵衛様でした。初めて心酔というものを理解できたのが秀吉様でした。…初めて好いたのが、徳川殿でした。…半兵衛様以外の私が初めて得ることができたもの、それを全てあの方は奪った……。憎いという気持ちを飛び越え、もうどうでもよい気持ちが強かった……」
「……」
「……なんて、私は何を語っているのでしょうね。気まぐれが過ぎました」
鎮流は二人の表情にふと我に返り、あきれたようにぽつりそう呟いた。そしてぷい、と二人から顔をそらし目を閉じた。
これ以上話すことはない。話したくない。
そう、語っていた。
「……政宗殿、参りましょう」
「…………悪いが今の話。家康に言うぞ」
「……………ご自由に」
幸村は政宗を誘うようにそう言い、政宗も鎮流にそう言って立ち上がった。
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